
体外受精を繰り返しても着床しないという場合、「卵管水腫(ハイドロサルピンクス)」が原因の一つとして見つかることがあります。卵管水腫は卵管内に液体がたまった状態で、液体が子宮内に逆流することで着床を妨げるとされています。この記事では、卵管水腫が着床障害に与える影響と、卵管切除を含む治療選択の判断基準を解説します。
この記事でわかること
- 卵管水腫(ハイドロサルピンクス)とは何か
- 卵管水腫が着床障害を引き起こすメカニズム
- 診断方法と検査
- 治療の選択肢(卵管切除・卵管遮断・ドレナージ等)
- 卵管切除を行うかどうかの判断基準
卵管水腫(ハイドロサルピンクス)とは
卵管水腫とは、卵管の末端(卵管采)が閉塞し、卵管内に漿液がたまって膨らんだ状態を指します。原因としては、クラミジア感染・骨盤内炎症(PID)・子宮内膜症・過去の手術による癒着などが挙げられます。
- 片側性:片方の卵管にのみ生じる
- 両側性:両側の卵管に生じる場合は不妊への影響がより大きい
- 自覚症状:多くの場合は無症状。骨盤痛・不正出血がある場合もある
卵管水腫が着床障害を引き起こすメカニズム
卵管水腫が体外受精の成功率を下げる原因として、以下の2つのメカニズムが主に挙げられています。
- 子宮内への液体逆流:たまった卵管液が子宮内膜に流れ込み、胚の着床を物理的に妨げる。卵管液には炎症性サイトカインや毒素が含まれることがある
- 子宮内膜への毒性作用:卵管液中の炎症物質が子宮内膜の受容能を低下させると考えられている。インテグリン等の着床関連マーカーの発現が抑制されるという研究報告がある
メタアナリシスでは、卵管水腫がある場合の体外受精の妊娠率は、ない場合と比較して約50%低下するという報告があります。
診断方法
卵管水腫の診断には複数の検査が使われます。
検査方法 | 特徴 |
|---|---|
経腟超音波検査 | 卵管が拡張していることを確認できる。最も簡便な方法 |
子宮卵管造影(HSG) | 卵管の閉塞・拡張・形状を詳細に評価できる |
腹腔鏡検査 | 確定診断が可能。同時に治療(卵管切除・遮断)も行える |
MRI | 超音波で判別困難な場合に追加で使用されることがある |
治療の選択肢
卵管水腫の治療方法は複数あり、着床障害への対応として以下が検討されます。
- 卵管切除術(サルピンジェクトミー):最もエビデンスが確立している方法。腹腔鏡下で患側または両側の卵管を切除する。卵管への血流が遮断されることから卵巣機能への影響が懸念されることがあるが、適切な術式で実施された場合の影響は限定的とされている
- 卵管遮断術(卵管結紮・クリッピング):卵管を卵管角部で遮断して子宮内への逆流を防ぐ方法。卵管を温存したい場合に選択されることがある
- 超音波ガイド下ドレナージ:卵管水腫内の液体を針で吸引する処置。低侵襲だが再発率が高い。一時的な対処として移植前に実施されることがある
- 経過観察:軽度の卵管水腫で自然妊娠が十分期待できる場合に選択されることがあるが、体外受精の成功率改善を目的とする場合は積極的な治療が推奨されることが多い
卵管切除の判断基準
卵管切除を行うかどうかは、以下の要素を総合的に判断して決定します。
- 卵管水腫の大きさ:超音波で明確に見えるサイズ(一般的に3cm以上)の卵管水腫は、着床への影響が大きいとされる
- 反復着床不全の有無:良質な胚を2〜3回以上移植しても着床しない場合は、卵管水腫の影響が疑われる
- 両側性かどうか:両側性の場合は自然妊娠の可能性がなく、体外受精に専念する方針で切除が選択されやすい
- 卵巣機能への影響の評価:術前にAMH・AFC(胞状卵胞数)を確認し、術後の卵巣予備能への影響を最小化できる術式を選ぶ
欧州生殖医学会(ESHRE)・日本生殖医学会のガイドラインでも、体外受精前の卵管水腫に対する卵管切除または遮断が推奨されています。
よくある質問(FAQ)
卵管水腫があっても自然妊娠できますか?
片側性・軽度の卵管水腫であれば、反対側の卵管が正常であれば自然妊娠の可能性があります。ただし卵管水腫の側では排卵・受精・卵管内移送が困難なため、妊孕性は低下します。
卵管を切除したら卵巣機能(卵子の数)が減りますか?
卵管と卵巣は別の器官ですが、卵管への血流を遮断することで卵巣機能に影響が出る可能性が懸念されます。ただし、適切な術式(卵管采からできるだけ遠位での切除)で実施された場合、卵巣機能への影響は最小限とされています。術前後のAMH測定で変化を確認することがあります。
卵管水腫のドレナージは移植の直前に行いますか?
超音波ガイド下ドレナージは移植直前(採卵周期中)に行われることがあります。再発率が高いため、根本的な解決策にはなりにくいですが、手術が困難な場合の一時的な選択肢です。
卵管水腫の手術(腹腔鏡)後、いつから体外受精を再開できますか?
一般的には術後1〜2周期後から体外受精の再開が可能とされています。回復状態や担当医の判断によりますので、術後の診察で確認してください。
卵管水腫は再発しますか?
卵管切除を行えば卵管水腫の再発はありません。遮断術やドレナージの場合は再発のリスクがあります。
まとめ
卵管水腫は体外受精の着床率を大きく低下させる原因の一つです。
- 卵管液の子宮内逆流が胚の着床を妨げる
- 体外受精前の卵管切除または遮断が国際的なガイドラインで推奨されている
- 卵管切除による卵巣機能への影響は適切な術式では最小限とされる
- 判断は卵管水腫の大きさ・反復着床不全の有無・卵巣機能を踏まえて行う
「卵管水腫があります」と告げられた場合、切除が必要かどうかを担当医とよく相談してください。手術の適応・術式・タイミングについて、十分な説明を受けたうえで意思決定することが大切です。
次のステップ・受診のご案内
卵管水腫の診断を受けた方や着床障害でお悩みの方は、専門クリニックへの相談をおすすめします。
免責事項
この記事は医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針の決定を行うものではありません。具体的な症状や治療については、必ず担当医師にご相談ください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、医学的知見の更新により変更になる場合があります。
この記事を書いた人
EggLink編集部
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