
「子宮腺筋症があると妊娠しにくいですか?」という質問をよく受けます。子宮腺筋症は子宮内膜組織が筋層内に入り込んで子宮が肥大する疾患で、着床障害や流産リスクと関連することがあります。ただし、子宮腺筋症があっても妊娠・出産している方は多く、治療選択によって妊娠の可能性を高めることができます。この記事では、子宮腺筋症が着床に与える影響と治療の考え方を解説します。
この記事でわかること
- 子宮腺筋症とは何か・どのような疾患か
- 着床障害・妊娠率低下のメカニズム
- 不妊治療における子宮腺筋症の評価方法
- 治療選択肢(薬物療法・手術・補助的治療)
- 妊娠を目指す場合の具体的な方針
子宮腺筋症とは
子宮腺筋症(adenomyosis)とは、本来は子宮内膜の表面にあるはずの内膜腺組織が、子宮の筋層(筋肉の部分)の中に入り込んで増殖する疾患です。子宮内膜症とは別の疾患ですが、合併することも多いです。
- 主な症状:月経痛の悪化・経血量の増加・月経周期の変化・慢性骨盤痛
- 診断方法:経腟超音波・MRI(筋層の不均質性・子宮の肥大を確認)
- 有病率:生殖年齢女性の約10〜20%に存在するとされる(不妊女性ではより高率)
子宮腺筋症が着床を妨げるメカニズム
子宮腺筋症がなぜ着床を妨げるのかについては、複数のメカニズムが研究されています。
- 子宮収縮の異常増加:腺筋症のある子宮は非妊娠時にも収縮が増加しており、移植後の胚の保持を妨げる可能性がある
- 着床関連遺伝子の発現低下:LIF(白血病阻害因子)・HOXA10などの着床に必要な遺伝子の発現が抑制されるという報告がある
- 子宮内膜の形態的変化:腺筋症病巣が内膜直下まで及ぶと、内膜の受容能が物理的に影響を受ける可能性がある
- 血流の変化:子宮内膜への血流供給が変化し、内膜の栄養環境が悪化する可能性がある
メタアナリシスでは、子宮腺筋症がある場合の体外受精の妊娠率は、ない場合と比較して約25〜30%低下するという報告があります。ただし、軽度の腺筋症では影響が小さい場合もあります。
不妊治療における腺筋症の評価
不妊治療において子宮腺筋症の有無と程度を評価することは重要です。
評価方法 | 確認できること |
|---|---|
経腟超音波 | 子宮の大きさ・筋層の不均質性・病巣の分布を確認 |
MRI | 腺筋症の範囲・深達度・内膜との位置関係を詳細に評価 |
子宮鏡検査 | 内膜ポリープ・粘膜下筋腫・内膜の状態を直接確認 |
治療の選択肢
子宮腺筋症に対する治療は、症状の程度・挙児希望の有無・年齢・腺筋症の範囲によって選択が変わります。
- GnRHアゴニスト(ブセレリン・リュープリン等):卵巣機能を一時的に抑制し、腺筋症病巣を縮小させる。体外受精の前処置として3〜6ヶ月使用することで着床率の改善を目指す方法。使用中は閉経様症状(ほてり・骨密度低下)が生じる
- ジエノゲスト(ビザンヌ®):プロゲスチン製剤で腺筋症の症状改善に使用されるが、使用中は妊娠できない。挙児希望がある場合は中止後に治療を再開する
- 子宮腺筋症核出術(腺筋症病巣切除):病巣を外科的に切除する手術。再発の可能性があること・術後の子宮壁の強度低下(妊娠中の子宮破裂リスク)を考慮して慎重に適応を判断する
- ERA検査(着床の窓検査)の活用:腺筋症では着床の窓がずれている可能性があるため、ERA検査で最適な移植タイミングを確認することが有用な場合がある
GnRHアゴニスト前処置の有効性
体外受精の前処置としてGnRHアゴニストを使用することで、子宮腺筋症患者の妊娠率が改善したという報告が複数あります。
- 一般的に3〜6ヶ月の前処置後に採卵・移植を行う
- 腺筋症の重症度・年齢・卵巣予備能を考慮して適応を判断する
- 前処置中は卵巣機能が抑制されるため、閉経様症状への対処が必要
- 全ての患者で効果が見られるわけではなく、治療延長になる分、高齢の患者では卵巣機能の低下が懸念される
よくある質問(FAQ)
子宮腺筋症があっても自然妊娠できますか?
軽度〜中等度の腺筋症であれば自然妊娠している方は多くいます。腺筋症の程度・年齢・卵管の状態等を総合的に評価して治療方針を決めます。重症の腺筋症や体外受精を繰り返しても着床しない場合は、前処置の検討が必要です。
腺筋症の手術(核出術)を受けると妊娠しやすくなりますか?
一部の報告では着床率の改善が見られていますが、術後の子宮壁の強度低下(妊娠中の子宮破裂リスク)と再発の問題があります。特に病巣が広範囲にわたる場合は手術よりもGnRHアゴニスト前処置が優先されることが多いです。
腺筋症があると流産しやすくなりますか?
研究では腺筋症のある患者で流産率がやや高い傾向が報告されていますが、すべての患者に当てはまるわけではありません。
腺筋症と子宮内膜症は同じですか?
別の疾患です。子宮内膜症は内膜組織が子宮の外(卵巣・腹膜等)に存在する疾患。子宮腺筋症は子宮筋層の内部に存在する疾患です。合併することも多く、両方に対する治療が必要な場合があります。
腺筋症の治療はどのくらいの期間が必要ですか?
GnRHアゴニスト前処置の場合、3〜6ヶ月の前処置期間が必要です。その後、採卵・移植のスケジュールに入るため、治療開始から妊娠判定まで半年〜1年程度かかることがあります。年齢や卵巣予備能を考慮して、前処置の適応を慎重に判断する必要があります。
まとめ
子宮腺筋症は着床障害や妊娠率低下と関連する疾患ですが、適切な治療で妊娠の可能性を高めることができます。
- 腺筋症が着床を妨げるメカニズムは複数ある(子宮収縮・着床遺伝子・血流)
- GnRHアゴニスト前処置で妊娠率の改善が報告されている
- 手術(核出術)は再発・子宮破裂リスクを考慮した慎重な適応判断が必要
- ERA検査で着床の窓を確認することも有用な場合がある
子宮腺筋症と不妊の関係については、個々の状況に応じた対応が必要です。「腺筋症がある」と診断された場合は、その程度と現在の治療方針についてを担当医に確認してください。
次のステップ・受診のご案内
子宮腺筋症と着床障害でお悩みの方は、不妊専門クリニックへの相談をおすすめします。
免責事項
この記事は医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針の決定を行うものではありません。具体的な症状や治療については、必ず担当医師にご相談ください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、医学的知見の更新により変更になる場合があります。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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