
流産手術後の子宮内癒着(Asherman症候群)は、手術で子宮内膜が傷つくことで引き起こされる合併症です。適切な知識を持ち、早期に対処することで妊娠機能の回復が期待できます。この記事では、リスク因子・診断・治療・妊孕性への影響を医学的根拠に基づいて解説します。
この記事のポイント
- 子宮内癒着(Asherman症候群)の発症頻度は流産手術後の約2〜22%と報告されており、手術回数が増えるほどリスクが上昇します
- 主な症状は月経量の減少・無月経・不妊で、子宮鏡検査で確定診断します
- 治療は子宮鏡下癒着剥離術が標準で、軽度〜中等度であれば妊娠成功率は約70〜80%と報告されています
Asherman症候群(子宮内癒着)とは何か
Asherman症候群とは、子宮腔内に瘢痕組織(癒着)が形成され、子宮腔が部分的または完全に閉塞した状態です。1948年にイスラエルの産婦人科医Joseph Ashermanが最初に体系的に報告しました。
流産手術(掻爬術・吸引法)後に最も多く発症し、手術による子宮内膜基底層の損傷が主な原因です。子宮内膜が正常に再生できず、線維性の癒着組織が形成されます。
- 発症頻度:流産手術後の2〜22%(手術回数・術式により差がある)
- リスクが高い手術:掻爬術(キュレット使用)、感染を伴う手術後
- 発症しやすい時期:手術後1〜3ヶ月以内に症状が現れることが多い
子宮内癒着のリスク因子と発症メカニズム
癒着形成の主な原因は「子宮内膜基底層の損傷」と「術後感染」の2つです。基底層が傷つくと正常な内膜再生が阻害され、線維芽細胞が増殖して癒着組織を形成します。
リスクを高める因子
- 手術回数:1回目より2回目、3回目と繰り返すほど発症率が上昇(3回以上で約30%との報告)
- 術式:電動吸引法より掻爬術のほうが内膜損傷リスクが高い
- 術後感染:子宮内膜炎・骨盤腹膜炎が続発すると癒着形成を促進
- 手術時期:妊娠後期(12〜16週)の流産処置は早期より損傷しやすい
- 稽留流産:胎盤遺残のある稽留流産後の掻爬はリスクが特に高い
感染との関係
クラミジア感染・子宮内膜炎が流産手術前後に存在すると、術後癒着の確率が有意に上昇します(オッズ比1.5〜3.0)。術前の性感染症スクリーニングと術後の予防的抗菌薬投与が推奨されています。
気づくべき症状と受診のタイミング
Asherman症候群の症状は癒着の程度によって異なります。軽度では月経量の減少程度ですが、高度では無月経・反復流産・不妊が起こります。手術後に以下のような変化を感じたら、3ヶ月以上待たずに婦人科を受診してください。
症状 | 頻度 | 緊急度 |
|---|---|---|
月経量の著明な減少(過去の1/3以下) | 最多 | 早めに受診 |
無月経(術後3ヶ月以上月経がない) | 高度癒着に多い | 早急に受診 |
周期的な下腹部痛(月経血が排出できない) | 子宮頸管癒着で出現 | すぐに受診 |
不妊・反復流産 | 中等度〜高度癒着 | 専門医受診 |
着床障害(体外受精の繰り返し失敗) | 軽度でも起こりうる | 検査を検討 |
診断方法:子宮鏡検査が標準
子宮内癒着の確定診断には子宮鏡検査(ヒステロスコピー)が必要です。超音波検査やMRIでは癒着の程度を正確に評価できないため、子宮鏡による直接観察が不可欠です。
診断の流れ
- 超音波検査:子宮腔内エコーで内膜の菲薄化・腔の狭小化を確認(スクリーニング)
- 子宮卵管造影(HSG):造影剤で子宮腔形態を評価(感度約75%)
- 子宮鏡検査:直接観察で癒着部位・範囲・性状を確認(確定診断・ゴールドスタンダード)
重症度分類(AFS分類)
- 軽度(Grade I):薄い膜状の癒着、子宮腔の1/4未満
- 中等度(Grade II):厚い癒着、子宮腔の1/4〜3/4
- 高度(Grade III):子宮腔の3/4以上が閉塞、内膜の消失
治療:子宮鏡下癒着剥離術と再発予防
治療の基本は子宮鏡下癒着剥離術(ヒステロスコピック・アドヒジオライシス)です。手術で癒着を剥離した後、エストロゲン補充療法で子宮内膜の再生を促します。
手術の流れ
- 全身麻酔または脊椎麻酔下で子宮鏡を挿入
- 電気メス・レーザー・鋏状鉗子で癒着を切除・剥離
- 術後に子宮内に風船カテーテルを留置(再癒着防止、1〜2週間)
- エストロゲン製剤を2〜3ヶ月投与し内膜再生を促す
術後の妊娠成功率
- 軽度癒着:術後の妊娠成功率 約80%
- 中等度癒着:術後の妊娠成功率 約50〜70%
- 高度癒着:術後の妊娠成功率 約20〜40%(複数回手術が必要なことも)
術後の再発率は20〜30%とされているため、妊娠を希望する場合は定期的な子宮鏡フォローが重要です。
流産手術前後にできる予防策
完全な予防は困難ですが、以下の対策でリスクを最小限に抑えることができます。
- 術式の選択:可能であれば掻爬術より電動吸引法(MVA)を選択
- 術前感染症スクリーニング:クラミジア・淋菌検査を術前に実施
- 予防的抗菌薬:術後ドキシサイクリンなどを短期投与
- 超音波ガイド下手術:盲目的掻爬を避け、残存組織の確認を徹底
- 不必要な手術の回避:自然流産を待てる場合は待機療法も選択肢
精神的なサポートと将来の妊娠への不安
流産後にAsherman症候群と診断された方は、「また妊娠できるのか」という不安を抱えることが多くあります。しかし、軽度〜中等度の場合は適切な治療により多くの方が妊娠・出産を達成しています。一人で抱え込まず、主治医や不育症専門外来に相談してください。
- 日本では不育症専門外来が全国60施設以上あります(厚生労働省・不育症研究班)
- 「不育症ホットライン」(NPO法人運営)で電話相談も可能
- パートナーと一緒に診察を受けることで心理的負担が軽減されるケースが多い
よくある質問(FAQ)
Q1. 流産手術後、何ヶ月で癒着の有無がわかりますか?
術後1〜3ヶ月以内に月経量の変化や無月経が生じた場合に疑います。症状がある場合は術後1〜2周期後に婦人科を受診し、超音波検査→必要に応じて子宮鏡検査を受けましょう。
Q2. 自然流産後でも子宮内癒着は起きますか?
自然流産後の胎盤遺残で掻爬術を行った場合や感染を合併した場合に発症することがあります。待機療法(自然排出を待つ)や薬物療法(ミソプロストール)では発症リスクが低いとされています。
Q3. Asherman症候群は保険適用で治療できますか?
子宮鏡下癒着剥離術は保険適用(K863-3)です。術後のエストロゲン補充療法も保険適用となる場合があります。ただし施設によって異なるため、受診先に確認してください。
Q4. 癒着剥離後、次の妊娠はいつから試みられますか?
術後のエストロゲン補充療法(2〜3ヶ月)終了後、子宮鏡で内膜回復を確認してから妊活を再開するのが一般的です。目安として術後4〜6ヶ月が多いですが、主治医の指示に従ってください。
Q5. 軽度の癒着でも不妊になりますか?
軽度の癒着でも着床部位にあれば着床障害の原因になります。体外受精で繰り返し着床しない場合、軽度癒着が見落とされていることもあるため、子宮鏡検査を検討することが推奨されます。
Q6. 子宮内癒着は再発しますか?
術後の再発率は約20〜30%と報告されています。高度癒着ほど再発しやすく、複数回の手術が必要な場合もあります。術後のカテーテル留置とエストロゲン補充が再発防止に有効です。
まとめ
子宮内癒着(Asherman症候群)は流産手術後に発症しうる合併症ですが、早期発見・適切な治療により妊娠機能の回復が期待できます。術後に月経量の変化・無月経・不妊が生じた場合は、速やかに婦人科(できれば不育症専門外来)を受診してください。
- 術後3ヶ月以内に月経の異常を感じたら受診
- 子宮鏡検査で早期診断し、軽度のうちに治療を開始することが妊孕性回復の鍵
- 次の妊娠を希望する場合は不育症専門外来や生殖医療専門医に相談を
次のステップへ
流産手術後の経過が気になる方、月経の変化・不妊でお悩みの方は、お近くの産婦人科または不育症専門外来にご相談ください。早期の相談・検査が将来の妊娠につながります。
婦人科受診の目安:術後3ヶ月以内に月経量が半減・無月経・周期的な下腹部痛がある場合は早急に受診してください。
【免責事項】本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療を行うものではありません。症状や治療方針については必ず担当医にご相談ください。掲載情報は2025年5月時点のものです。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
産婦人科・婦人科に関する正確で信頼性の高い情報をお届けします。医療監修のもと、女性の健康に役立つコンテンツを制作しています。
Next Action

