
生理以外の出血や、経血量が極端に多い・少ないといった「異常子宮出血(AUB: Abnormal Uterine Bleeding)」は、婦人科領域で最も多い主訴のひとつです。国際産婦人科連合(FIGO)は2011年にAUBの原因を体系的に分類する「PALM-COEINシステム」を発表し、現在では世界標準の分類法として臨床で広く使用されています。この記事では、PALM-COEINの各カテゴリーと、原因に応じた検査・治療の方向性を解説します。
この記事のポイント
- PALM-COEINは異常子宮出血を構造的原因(PALM)と非構造的原因(COEIN)の9カテゴリーに分類する
- PALMはポリープ・腺筋症・筋腫・悪性腫瘍の4つで、画像検査や病理検査で診断する
- COEINは凝固異常・排卵障害・内膜異常・医原性・未分類の5つで、血液検査やホルモン検査で評価する
PALM-COEINシステムとは|異常子宮出血の世界標準分類
PALM-COEINシステムとは、FIGOが定めた異常子宮出血の原因分類で、構造的原因(PALM:画像検査で確認できる病変)と非構造的原因(COEIN:機能的な異常)の合計9カテゴリーに分けるものです。複数の原因が重複することも多く、包括的な評価が可能になります。
9つのカテゴリー一覧
分類 | 略号 | 原因 | 特徴 |
|---|---|---|---|
PALM(構造的) | P | ポリープ(Polyp) | 子宮内膜に発生する良性腫瘍 |
A | 腺筋症(Adenomyosis) | 子宮内膜組織が筋層内に侵入 | |
L | 筋腫(Leiomyoma) | 子宮筋層の良性腫瘍 | |
M | 悪性腫瘍・内膜増殖症(Malignancy) | 子宮体がん、異型内膜増殖症 | |
COEIN(非構造的) | C | 凝固異常(Coagulopathy) | 血液の凝固機能の問題 |
O | 排卵障害(Ovulatory dysfunction) | 無排卵や黄体機能不全 | |
E | 子宮内膜異常(Endometrial) | 内膜自体の修復・止血機構の異常 | |
I | 医原性(Iatrogenic) | ピル・IUD・抗凝固薬などの影響 | |
N | 未分類(Not yet classified) | 上記に該当しない原因 |
PALM(構造的原因)の詳細|画像で確認できる4つの病変
PALM群の4つの原因は、経膣超音波検査やMRI、子宮鏡検査などの画像検査で物理的に確認できる病変です。日本では生殖年齢女性の約30%が何らかの構造的原因を持つとされています。
P(ポリープ)
子宮内膜ポリープは内膜から突出する良性腫瘍で、不正出血や過多月経の原因になります。超音波検査でポリープ様病変が疑われた場合、子宮鏡検査で確認・切除するのが標準的な対応です。サイズや数、年齢によっては経過観察が選択されることもあります。
A(腺筋症)
子宮腺筋症は、子宮内膜に似た組織が子宮筋層に入り込む疾患です。子宮が全体的に腫大し、月経痛と過多月経を引き起こします。MRIで筋層内の不均一な信号が特徴的な所見です。
L(筋腫)
子宮筋腫は30〜40代女性の20〜50%に見られる良性腫瘍です。FIGO分類ではさらに0〜8型に細分され、粘膜下筋腫(0〜2型)が最も出血に関与しやすいとされています。
M(悪性腫瘍・内膜増殖症)
子宮体がんや異型子宮内膜増殖症は、特に閉経後の不正出血で鑑別が必要です。子宮内膜組織診(内膜生検)が確定診断に用いられます。
COEIN(非構造的原因)の詳細|機能的異常の5カテゴリー
COEIN群は画像検査では見えない機能的な異常であり、血液検査やホルモン検査、問診を通じて診断します。特に排卵障害(O)と医原性(I)は臨床上の頻度が高いカテゴリーです。
C(凝固異常)
フォン・ヴィレブランド病や血小板機能異常などの凝固障害が原因で過多月経を呈する場合があります。初経時から過多月経がある若年女性では、凝固異常のスクリーニングが推奨されています。全AUB患者の約13%に凝固異常が関与するとの報告もあります。
O(排卵障害)
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)、甲状腺機能異常、高プロラクチン血症、ストレスなどによる無排卵・希発排卵は、不規則な出血パターンの主要な原因です。排卵の有無は基礎体温表や黄体期のプロゲステロン値で評価できます。
E(子宮内膜異常)
子宮内膜自体の局所的な止血機構の異常(プロスタグランジンバランスの乱れなど)が原因とされるカテゴリーです。他のすべてのカテゴリーが除外された場合に診断されることが多く、研究段階の要素が残っています。
I(医原性)
低用量ピルの不正出血、ミレーナ(IUS)装着後の点状出血、抗凝固薬(ワーファリンなど)の影響がこのカテゴリーに該当します。薬剤歴の問診が鍵になります。
N(未分類)
動静脈奇形、子宮筋の肥厚など、上記カテゴリーに明確に該当しない原因はここに分類されます。
PALM-COEINに基づく検査の進め方
異常子宮出血の原因を同定するには、PALM-COEINの各カテゴリーを順に評価するアプローチが効率的です。まず経膣超音波でPALM群をスクリーニングし、次に血液検査でCOEIN群を評価する流れが一般的です。
標準的な検査フロー
- 問診:出血パターン、月経歴、薬剤歴、家族歴(凝固異常)
- 経膣超音波検査:ポリープ・筋腫・腺筋症のスクリーニング
- 血液検査:CBC、凝固能、甲状腺機能、プロラクチン
- ホルモン検査:FSH、LH、エストラジオール、プロゲステロン
- 子宮内膜組織診:40歳以上の不正出血、リスク因子がある場合
- 必要に応じて追加検査:MRI、子宮鏡検査、ソノヒステログラフィー
原因別の治療アプローチ
PALM-COEIN分類の最大の利点は、原因に応じた的確な治療選択を可能にする点です。構造的原因には外科的治療が、非構造的原因には薬物療法が中心となりますが、複合的なアプローチが必要なケースも少なくありません。
主な治療法の対応表
カテゴリー | 第一選択の治療 | 補足 |
|---|---|---|
P(ポリープ) | 子宮鏡下ポリープ切除術 | 小さなポリープは経過観察も選択肢 |
A(腺筋症) | ジエノゲスト、ミレーナ | 根治には子宮全摘が必要な場合も |
L(筋腫) | 位置と大きさにより手術or薬物 | GnRHアゴニスト、UAE等 |
M(悪性) | 手術+化学療法or放射線 | ステージにより治療方針が異なる |
C(凝固異常) | トラネキサム酸、ホルモン療法 | 血液内科との連携が重要 |
O(排卵障害) | 低用量ピル、プロゲスチン | 原疾患(PCOS等)の治療も並行 |
E(内膜異常) | NSAIDs、トラネキサム酸 | 対症療法が中心 |
I(医原性) | 原因薬剤の変更・中止 | 代替薬への切り替えを検討 |
複数の原因が重なるケース|重複診断の重要性
臨床ではPALM-COEINの複数カテゴリーが同時に存在するケースが珍しくなく、たとえば「筋腫+排卵障害」や「ポリープ+凝固異常」といった重複が30%以上の症例で認められるとする報告があります。
一つの原因だけを治療しても出血が改善しない場合、他のカテゴリーの原因が隠れている可能性を常に考慮する必要があります。PALM-COEINシステムは9つの可能性を網羅的にチェックするフレームワークとして、見落としを防ぐ役割を果たしています。
よくある質問(FAQ)
Q. 異常子宮出血と不正出血は同じですか?
A. 不正出血は異常子宮出血の一つのパターンです。AUBには過多月経、過長月経、頻発月経、不正出血、閉経後出血など、正常から逸脱するすべての子宮出血パターンが含まれます。
Q. PALM-COEIN分類はどの年齢にも適用できますか?
A. はい。思春期から閉経後まで適用可能です。ただし年齢によって頻度の高いカテゴリーが異なります。若年者では排卵障害(O)や凝固異常(C)が多く、閉経後は悪性腫瘍(M)の除外が優先されます。
Q. 自分がどのカテゴリーに当てはまるか知るにはどうすればいいですか?
A. 婦人科で経膣超音波検査と血液検査を受けることで、多くの場合は原因カテゴリーの特定が可能です。まずは出血パターンを記録して受診してください。
Q. 生理の量が多いだけでも受診すべきですか?
A. ナプキンを1時間ごとに交換する必要がある、レバー状の血の塊が頻繁に出る、貧血の症状がある場合は受診を推奨します。過多月経はAUBの一類型であり、治療可能な原因が隠れていることがあります。
Q. PALM-COEINと従来の器質性・機能性の分類の違いは何ですか?
A. 従来は「器質的か機能的か」の二分法でしたが、PALM-COEINは9カテゴリーに細分化し、複合的な原因にも対応できるようになりました。国際的に共通の用語で議論できる点も大きなメリットです。
まとめ
PALM-COEINシステムは、異常子宮出血の原因を構造的(PALM)と非構造的(COEIN)の9カテゴリーに分類する国際標準の枠組みです。複数の原因が重なることも多いため、網羅的な検査と複合的な治療アプローチが重要になります。生理の量や出血パターンに異常を感じたら、早めに婦人科を受診してPALM-COEINに基づく系統的な評価を受けましょう。
Women's Doctorでは、異常子宮出血の原因を的確に診断し、PALM-COEINシステムに基づいた治療方針をご提案いたします。出血パターンに不安がある方はお気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
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