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化学流産は流産回数に数える?

2026/4/19

化学流産は流産回数に数える?

「化学流産が続いているけれど、流産回数として認めてもらえるのだろうか」——そんな疑問を抱える方は少なくありません。実は、化学流産を流産回数に数えるかどうかは、参照する学会ガイドラインやクリニックの方針によって異なります。日本産科婦人科学会・米国生殖医学会(ASRM)・欧州生殖医学会(ESHRE)の3つの主要学会でも、それぞれ定義が微妙に異なるのが現状です。

この記事では、各学会の定義を比較したうえで、不育症検査の適応基準と保険適用の条件、そして「数えるべきケース」と「数えなくてよいケース」を年齢・回数・治療歴ごとに整理します。担当医との相談をより建設的にするための情報として、ご活用ください。

この記事のポイント

  • 化学流産は「流産」の定義から外れることが多く、学会によっては回数にカウントしない
  • 日本の不育症診断基準は「3回以上の流産」が原則だが、化学流産の扱いは施設間で差がある
  • 35歳以上・2回連続の化学流産などでは、早期の専門受診が推奨される場合がある

化学流産とは何か——定義と「流産」との違い

化学流産とは、受精卵が着床してhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の産生が始まり、市販の妊娠検査薬では陽性反応が出るものの、超音波検査で胎嚢(赤ちゃんの袋)が確認される前に妊娠が終了する状態を指します。臨床的妊娠(胎嚢確認)に至らないため、「妊娠」として医療記録に残らないケースが多いのが特徴です。

発生頻度は着床後妊娠の50〜60%程度と推計されており、妊娠反応陽性例全体の30〜40%が化学流産として終わるとする報告もあります(Wilcox AJ et al., NEJM, 1988)。ただしこれは自然受精周期での数字であり、体外受精など高度生殖医療の周期では判定時期・方法が異なるため、単純比較はできません。

「臨床的流産」との境界線

流産には大きく「臨床的流産」と「臨床的妊娠前の妊娠消失(化学流産)」の2種類があります。

  • 臨床的流産:超音波検査で胎嚢が確認された後に妊娠が終了するもの。妊娠週数・経緯にかかわらず「流産」として医療記録に記載される
  • 化学流産:胎嚢確認前に妊娠が終了。「生化学的妊娠」「biochemical pregnancy loss」とも呼ばれる

この区別が、学会定義の分かれ目となっています。

3学会の定義比較——化学流産の「カウント」は学会によって異なる

日本産科婦人科学会・ASRM・ESHREの3つの主要学会は、習慣流産・反復流産の定義においてそれぞれ異なる立場をとっており、化学流産の扱いも一致していません

学会

定義の名称

基準回数

化学流産のカウント

備考

日本産科婦人科学会(JSOG)

習慣流産

3回以上の自然流産

原則カウントしない(臨床的流産のみ)

2022年版不育症ガイドラインでも臨床的流産を基準とする

米国生殖医学会(ASRM)

Recurrent Pregnancy Loss (RPL)

2回以上の臨床的妊娠消失

原則カウントしない(臨床的妊娠の消失が対象)

2020年改訂。ただし反復する化学流産例では評価を検討するよう付言

欧州生殖医学会(ESHRE)

Recurrent Pregnancy Loss (RPL)

2回以上の妊娠消失

化学流産も含む場合がある

2022年改訂ガイドラインでは「2回以上の妊娠消失(化学流産を含む)」を評価対象に含め得ると言及

注目すべきはESHREの2022年改訂版です。同ガイドラインでは、化学流産を反復している患者も評価の対象とし得ると記載されており、従来の「胎嚢確認後のみをカウント」という枠組みから一歩踏み出しています。ただし「化学流産2回=不育症」と直接定義しているわけではなく、個々の臨床状況に応じた判断が求められます。

日本の診療現場での実態

日本では、公式には「3回以上の臨床的流産」が不育症(習慣流産)の診断基準とされています。しかし実際の診療現場では、患者の年齢・既往歴・不安度を考慮して、以下のような柔軟な対応をとる施設も増えています。

  • 「2回以上の臨床的流産」で不育症検査を開始する施設(ASRMに準拠)
  • 「化学流産2回以上」を患者希望があれば検査の契機とする施設
  • 「化学流産は回数に含めない」と明示している施設

担当するクリニックや医師の方針によって対応が変わるため、受診前または受診時に「化学流産は回数に含まれますか」と直接確認することが重要です。

不育症検査の適応基準と保険適用——化学流産のカウントが変わる場面

化学流産を流産回数に数えるかどうかが、実質的に問題になるのは「不育症検査を受けられるか」「検査費用が保険適用になるか」という場面です。2022年4月からの不育症検査の保険適用には、一定の適応基準があります

2022年4月保険適用の概要

2022年4月の診療報酬改定により、「反復する流産・死産に対する検査」が一部保険適用となりました。主な対象検査と条件は以下のとおりです。

  • 抗リン脂質抗体症候群関連検査(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体等):2回以上の流産・死産で適用
  • 不育症に関する検査パネル(染色体検査・凝固系検査等):施設基準を満たすクリニックで施行可能

ここで重要なのは、保険算定上の「流産」の定義です。現行の保険診療では臨床的流産(胎嚢確認後の流産)が基本となっており、化学流産は原則として算定回数に含まれません。化学流産のみを繰り返している場合は、自費診療での検査となることが多い現状です。

施設間の差異:「2回」vs「3回」

不育症検査を開始するタイミングについて、施設によって基準が異なります。

施設方針

流産回数の基準

化学流産の扱い

根拠となる基準

標準的方針(多くの施設)

臨床的流産3回以上

カウントしない

日本産科婦人科学会ガイドライン

早期検査方針(一部施設)

臨床的流産2回以上

カウントしない

ASRM 2020ガイドライン準拠

化学流産考慮方針(一部施設)

化学流産含む2回以上

カウントする場合あり

ESHRE 2022ガイドライン参照

なお、抗リン脂質抗体症候群は化学流産との関連が示唆されているため、反復する化学流産例では抗リン脂質抗体の自費検査を勧めるクリニックも存在します。

化学流産を「数えるべきケース」と「数えなくてよいケース」

化学流産が流産回数として診療上の意味をもつかどうかは、患者の年齢・総回数・既往の治療歴によって大きく異なります。以下の判断基準は参考情報であり、最終的な判断は担当医との相談が必要です。

積極的に受診・相談を検討すべきケース

  • 35歳以上で化学流産を2回以上経験:卵子の染色体異常率が上昇する年齢帯のため、早期の検査が有益な場合がある
  • 化学流産と臨床的流産が合計2回以上:合算して不育症検査を検討する施設もある(ESHRE準拠)
  • 体外受精・顕微授精の移植後に連続して化学流産:胚の質・子宮内膜環境・血液凝固系の評価が有益な場合がある
  • 抗リン脂質抗体症候群のリスク因子がある(自己免疫疾患の既往・血栓症の家族歴等):化学流産でも早期検査が推奨される場合がある

経過観察でよい可能性が高いケース

  • 34歳以下で化学流産が1回のみ:単発の化学流産は自然妊娠・体外受精ともに珍しくなく、次周期に向けた準備を優先することが多い
  • 前後に臨床的妊娠の成功歴がある:妊娠能力自体に大きな問題がない可能性が高い
  • 化学流産が初めてで、その後に正常妊娠が継続中:追加の検査が急がれることは少ない

判断に迷うケース——担当医への確認事項

「化学流産1回+臨床的流産1回」「40歳以上で化学流産1回」など、境界的なケースは判断が分かれます。受診時には以下の点を確認するとよいでしょう。

  1. 「当院では化学流産を流産回数に含めますか」
  2. 「不育症検査を受けるための条件を教えてください」
  3. 「自費での検査が可能な場合、費用の目安はどれくらいですか」

化学流産が繰り返す原因——考えられる背景因子

化学流産の反復には、臨床的流産と共通する原因因子が関与することが示唆されています。ただし化学流産を専門的に調べた大規模研究は限られており、現時点では推定の域を出ない部分もあります

主な原因因子

  • 胚の染色体異常:反復流産全体の原因の50〜60%を占めるとされ、化学流産でも主要因と考えられる。加齢とともに頻度が上昇
  • 子宮形態異常(中隔子宮・粘膜下筋腫など):着床後の血流供給に影響し、着床継続が困難になる場合がある
  • 血液凝固系の異常(抗リン脂質抗体症候群・第XII因子欠乏など):着床時の微小血管血栓と関連する可能性が示唆されている
  • 内分泌異常(甲状腺機能異常・高プロラクチン血症・黄体機能不全):着床後の環境維持に影響
  • 子宮内膜の着床環境異常(慢性子宮内膜炎・子宮内フローラの乱れ):近年、反復着床不全との関連で注目されている分野

加齢と染色体異常の関係

35歳以上の女性では、卵子の染色体異常率が顕著に上昇します。38歳では移植胚の染色体正常率が約50%、40歳以上では40%以下になるとする報告があります(胚盤胞期の解析データに基づく推計)。このため、反復する化学流産の一部は染色体異常胚の自然淘汰と解釈される場合があります。

一方で、体外受精でPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)によって染色体正常胚を移植した後も化学流産が続く場合には、子宮側・血液凝固系の問題が疑われ、さらなる精査が有益な場合があります。

化学流産後の妊活——次の周期に向けてできること

化学流産後、次の妊娠に向けてどのような準備が有益かについては、担当医の指示が最優先です。ここでは一般的に推奨されることが多い事項を整理します。

身体的な準備

  • 次の月経後に妊活を再開可能とする施設が多い:化学流産では子宮内膜の大きなダメージが少ないとされ、1〜2周期の安静が指示されることは少ない
  • 葉酸サプリメントの継続:神経管閉鎖障害の予防として妊娠前〜妊娠初期にかけて0.4〜0.8mg/日の摂取が推奨されている(日本産科婦人科学会)
  • 基礎体温の記録:排卵日の把握と黄体機能の評価に役立つ

精神的なサポート

「妊娠検査薬が陽性になったのに」という喪失感は、臨床的流産と変わらない辛さを伴います。化学流産は「流産にカウントされない」という事実が、かえって悲しみを孤立させかねません。パートナーや信頼できる医療者に気持ちを打ち明けること、必要であれば不妊カウンセラーへの相談も有力な選択肢です。

まとめ

化学流産を流産回数に数えるかどうかは、参照する学会ガイドラインやクリニックの方針で変わります。日本産科婦人科学会・ASRMは原則として臨床的流産(胎嚢確認後)のみを対象とし、ESHREの2022年改訂版では化学流産を含め得るとしています。

不育症検査の保険適用は現時点で臨床的流産が基準です。ただし35歳以上・化学流産と臨床的流産の合算2回以上・高度生殖医療後の連続化学流産などのケースでは、自費での早期検査が選択肢になり得ます。

担当医に「化学流産は回数に含まれますか」と直接確認し、納得のいく形で次のステップを選ぶことが、精神的・身体的な負担を軽減する第一歩となります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 化学流産は不育症の診断に含まれますか?

日本産科婦人科学会の基準では、不育症(習慣流産)は「3回以上の臨床的流産」とされており、化学流産は原則として含まれません。ただしESHREの2022年ガイドラインでは化学流産も評価対象に含み得るとされており、クリニックによって対応が異なります。担当医に確認することをお勧めします。

Q2. 化学流産が2回続いた場合、検査は受けられますか?

保険診療での検査適用は、現状では臨床的流産が基準となるため、化学流産のみでは適用外となるケースが多いです。ただし自費での抗リン脂質抗体検査・甲状腺機能検査などを勧めるクリニックもあります。年齢や既往歴によって判断が変わるため、受診して相談することが先決です。

Q3. 化学流産のみ3回以上繰り返している場合はどうですか?

3回以上の化学流産を繰り返す場合には、ESHRE基準や各施設の独自判断で不育症検査を勧めるクリニックが増えています。着床前の問題(血液凝固系・子宮内膜環境・染色体的要因)を評価する意義があります。複数のクリニックに相談してセカンドオピニオンを得ることも選択肢のひとつです。

Q4. 体外受精の胚移植後の化学流産も同じ扱いですか?

体外受精の移植後に繰り返す化学流産(着床不全とも重なる概念)は、自然妊娠の化学流産とは原因や対応が異なることがあります。移植周期数・胚の染色体検査(PGT-A)の結果・子宮内膜の評価などを踏まえ、担当医と個別に相談することが重要です。

Q5. 化学流産後、次の周期はいつから妊活を再開できますか?

多くの施設では、化学流産後は次の月経後から妊活を再開可能としています。化学流産では子宮内膜への大きなダメージが少ないとされるため、長期の安静が指示されることは少ない傾向があります。ただし身体的・精神的な回復状況は個人差があるため、担当医の指示に従ってください。

Q6. 化学流産は着床には成功しているのですか?

化学流産は「着床は起きたが、その後の妊娠継続ができなかった」状態と解釈されます。hCGの産生が確認される時点で着床は生じていたと考えられますが、胎嚢形成には至らなかったということです。着床能力そのものは保たれている可能性があります。

Q7. 化学流産を経験しているとエコーで分かりますか?

化学流産は超音波検査では確認できません。hCG値の上昇と、その後の自然消退によって診断されます。月経遅延・妊娠反応陽性後の出血という経過として現れることが多く、超音波では異常所見が映らないのが一般的です。

Q8. 化学流産を何度も経験すると次の妊娠に影響しますか?

化学流産自体が子宮や卵巣に直接ダメージを与えるとは現在のところ考えられていません。ただし繰り返す化学流産の背景に基礎的な問題がある場合は、その原因への対処が妊娠継続率の改善につながる可能性があります。繰り返す場合は早めに専門医に相談することが推奨されます。


次のステップ:化学流産を繰り返している場合や、流産回数の扱いについて疑問がある場合には、産婦人科・生殖医療専門クリニックへの受診をご検討ください。「化学流産は何回経験したか」「体外受精での移植経験があるか」「年齢・既往歴」をまとめておくと、初診での相談がよりスムーズになります。


【免責事項】本記事は医療情報の提供を目的とした参考情報であり、個々の診断・治療の指示ではありません。症状や治療については必ず担当医にご相談ください。

【参考文献】Wilcox AJ et al. Incidence of early loss of pregnancy. N Engl J Med. 1988;319(4):189-194 / 日本産科婦人科学会 不育症ガイドライン 2022年版 / ASRM Practice Committee. Evaluation and treatment of recurrent pregnancy loss. Fertil Steril. 2020 / ESHRE Guideline: Recurrent Pregnancy Loss 2022

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この記事を書いた人

EggLink編集部

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公開:2026/4/19更新:2026/4/28