低用量ピルの服用と血栓症のリスクについて、正しく理解しておくことは極めて重要です。血栓症はピルの副作用の中で最も深刻なものですが、発生率は年間1万人あたり3〜9人と低く、早期に気づいて適切な治療を受ければ重症化を防ぐことができます。この記事では、ピル服用中に注意すべき血栓症の初期症状を具体的に解説し、「こんな症状が出たらすぐ受診」という判断基準を明確にお伝えします。
この記事のポイント
- 血栓症の初期症状は「ACHES」(腹痛・胸痛・頭痛・眼の異常・ふくらはぎの腫れ)で覚える
- 発生率は年間1万人あたり3〜9人。飲み始め3〜12か月が最もリスクが高い
- 症状に気づいたら自己判断せず、すぐに医療機関(できれば救急)を受診する
血栓症とは何か
血栓症とは、血管の中で血液が固まって血栓(血の塊)ができ、血流が妨げられる病態です。ピルに含まれるエストロゲンには血液の凝固を促進する作用があり、これが血栓症リスクのわずかな上昇につながります。
ピル服用者の血栓症リスク
対象 | 年間発生率(1万人あたり) |
|---|---|
ピル非服用の女性 | 1〜5人 |
低用量ピル服用中の女性 | 3〜9人 |
妊娠中の女性 | 5〜20人 |
産後12週間以内の女性 | 40〜65人 |
上記のとおり、ピル服用によるリスク上昇は妊娠中よりも低い水準です。ただし、喫煙・肥満・加齢などのリスク因子が重なるとリスクは上昇します。
血栓症の初期症状「ACHES」を覚える
血栓症の初期症状は英語の頭文字をとって「ACHES」(エイクス)と覚えると便利です。以下のいずれかの症状が突然現れた場合は、血栓症の可能性を疑ってください。
A:Abdominal pain(激しい腹痛)
腸間膜静脈に血栓ができると激しい腹痛が起こります。通常の腹痛と異なり、鎮痛剤が効かない激痛が特徴です。
C:Chest pain(胸の痛み・息切れ)
肺塞栓症の症状です。突然の胸の痛み、呼吸困難、動悸が起こります。深呼吸で痛みが増す場合は要注意です。
H:Headache(激しい頭痛)
脳静脈洞血栓症の症状です。今までに経験したことのないような激しい頭痛、視野の変化、しびれ、ろれつが回らないなどの症状を伴う場合は緊急性が高いです。
E:Eye problems(視覚の異常)
突然の視力低下、視野の一部が欠ける、チカチカする光が見えるなどの症状が出た場合、網膜の血管に血栓が生じている可能性があります。
S:Severe leg pain(ふくらはぎの激しい痛み・腫れ)
深部静脈血栓症(DVT)の最も典型的な症状です。片側のふくらはぎが赤く腫れる、触ると痛い、歩行時に痛みが増すなどが特徴です。
症状が出たときの対処法
ACHES のいずれかの症状が突然現れた場合は、自己判断で様子を見ずに速やかに医療機関を受診してください。特に胸痛・呼吸困難・激しい頭痛は救急対応が必要です。
受診時に伝えるべきこと
- 低用量ピルを服用中であること(銘柄名と服用期間)
- 症状が始まった時刻と経過
- 痛みの部位と性質
すぐに救急車を呼ぶべき症状
- 突然の激しい胸痛と呼吸困難
- 意識がもうろうとする
- 片側の手足のしびれ・麻痺とろれつが回らない(脳梗塞の可能性)
血栓症リスクが高い人の特徴
以下のリスク因子を複数持っている方は、ピル服用前に必ず医師と相談し、リスクとベネフィットを慎重に評価する必要があります。
リスク因子一覧
- 35歳以上で1日15本以上喫煙する方(ピル処方不可)
- BMI 30以上の方
- 血栓症の家族歴がある方(特に親・兄弟姉妹)
- 前兆のある片頭痛がある方(ピル処方不可)
- 長時間の不動状態(長距離フライト、手術後など)
- 脱水状態
血栓症を予防するための生活習慣
ピル服用中の血栓症リスクを下げるには、日常生活での血行促進と水分補給が重要です。特に長時間の座位や脱水は血栓形成のリスクを高めるため注意が必要です。
予防のための5つの習慣
- 1日1.5〜2リットルの水分を摂取する
- 長時間のデスクワーク中は1時間に1回は立ち上がって歩く
- 飛行機の長距離フライトでは弾性ストッキングの着用を検討する
- 禁煙する(喫煙は血栓リスクを大幅に上げる)
- 適度な運動習慣を維持する
飲み始めが最もリスクが高い時期
血栓症のリスクはピルの飲み始めから3〜12か月の間が最も高く、その後は低下していきます。服用を継続している限り、年々リスクは下がる傾向にあります。一度中断して再開した場合は、再びリスクが一時的に上昇します。
中断後の再開時の注意
数か月以上ピルを中断した後に再開する場合は、飲み始めと同様のリスク上昇が起こります。再開後3〜12か月間は特にACHESの症状に注意してください。
よくある質問
Q. ピルを飲んでいて足がだるいのは血栓症の前兆ですか?
A. 足のだるさだけで血栓症を疑う必要はありませんが、片側のふくらはぎに腫れ・赤み・触ると痛いなどの症状が加わった場合は受診してください。
Q. 血栓症は血液検査でわかりますか?
A. D-ダイマーという血液検査で血栓の有無をスクリーニングできます。ただし確定診断には超音波検査やCT検査が必要です。
Q. ピルの種類によって血栓症リスクは異なりますか?
A. 第3世代(デソゲストレル含有)や第4世代(ドロスピレノン含有)は、第2世代(レボノルゲストレル含有)と比較してわずかにリスクが高いとする報告があります。ただし差は小さく、いずれも妊娠中のリスクより低い水準です。
Q. 頭痛持ちですがピルは飲めますか?
A. 前兆のない片頭痛であれば低用量ピルの服用は可能とされています。前兆のある片頭痛(チカチカする光が見えるなど)の場合は脳血管の血栓リスクが高まるため、原則として処方されません。
Q. 飛行機に乗る予定がありますが、ピルを一時的にやめるべきですか?
A. 短距離フライト(4時間未満)であれば特別な対処は不要です。8時間以上の長距離フライトの場合は、十分な水分補給、弾性ストッキングの着用、定期的な歩行を心がけてください。ピルの中断は医師と相談のうえ判断してください。
まとめ
ピル服用中の血栓症は発生率は低いものの、見逃すと重篤な結果を招くおそれがある副作用です。初期症状「ACHES」(腹痛・胸痛・頭痛・眼の異常・ふくらはぎの腫れ)を覚えておき、いずれかが突然現れた場合はすぐに医療機関を受診してください。日常的な予防策として水分補給と適度な運動を心がけ、喫煙者は禁煙することが最も効果的なリスク低減策です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。血栓症が疑われる症状がある場合は直ちに医療機関を受診してください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
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