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反復着床不全(RIF)とは?|定義と原因

2026/4/19

反復着床不全(RIF)とは?|定義と原因

反復着床不全(RIF)とは?定義の国際基準と日本基準を比較する

反復着床不全(RIF:Recurrent Implantation Failure)とは、良好な胚(受精卵)を繰り返し子宮に移植しても妊娠が成立しない状態を指す概念です。ただし「何回失敗すればRIFか」の基準は、学会によって異なります。

体外受精・胚移植を繰り返しているにもかかわらず妊娠の兆候が見られない場合、患者さんは強い不安と疲弊を感じます。RIFを正しく理解することは、適切な検査・治療へと進む第一歩です。

【この記事のポイント】

  • RIFの国際定義(ESHRE)と日本生殖医学会の定義は異なり、どちらの基準を使うかで診断タイミングが変わる
  • 原因は「胚側」「子宮側」「免疫・血液凝固系」の3カテゴリに分類でき、それぞれ検査法と対応策がある
  • ERA検査・PRP療法・子宮内フローラ検査などの最新対策はエビデンスレベルに差があり、費用感も事前確認が必要

RIFの定義:ESHREと日本生殖医学会の比較

RIFに関する定義は世界統一ではなく、欧州のESHREガイドライン(2023年版)と日本生殖医学会の見解には明確な差があります。どちらの基準で診断・治療を進めるかによって、精査開始のタイミングが1〜2回分変わります。

項目

ESHRE(欧州生殖医学会)2023

日本生殖医学会

定義の核心

良好胚を3回以上移植しても臨床的妊娠(胎嚢確認)に至らない状態

良好胚を4個以上移植(または3回以上の胚移植周期)で妊娠が成立しない状態

「良好胚」の定義

移植グレードの均一化は困難として、各施設基準を使用

形態良好胚または胚盤胞(各施設のグレード基準を使用)

年齢要件

年齢は直接的定義に含まれない(加齢は胚因子として別途評価)

35歳未満は3回、35歳以上は個別評価とする傾向あり

PGT-A(着床前診断)済み胚

正倍数体胚を2回移植失敗でRIFと見なす補足基準あり

正倍数体胚の移植失敗は精査の強いトリガーと位置づけ

精査開始の推奨タイミング

3回移植失敗後に系統的評価を推奨

4個移植前後から精査を推奨(施設差あり)

両基準に共通しているのは「移植可能な胚質が確認されている」という前提です。胚質の評価が不十分なまま「RIF」と診断されるケースも臨床では散見されるため、まず胚のグレード評価が適切に行われているかを確認することが重要です。

RIFの発生頻度と社会的背景

体外受精を行うカップルのうち、RIFに相当する状態に陥る割合は約10〜15%と推定されています(Coughlan et al., Human Reproduction Update, 2014)。高齢での治療開始や、凍結融解胚移植の普及に伴い、この問題に直面するケースは増加傾向にあります。

日本産科婦人科学会の報告(2022年)によると、国内での体外受精・胚移植の総治療周期数は年間約49万周期に達します。1回の胚移植あたりの妊娠率は30〜40%程度とされており、複数回の移植を経ても妊娠しないケースは少なくありません。

RIFの原因:3カテゴリ分類と各因子の検査法・対応策

RIFの原因は単一ではなく、「胚側因子(40〜50%)」「子宮側因子(30〜40%)」「免疫・血液凝固系因子(10〜20%)」に大別されます。ただし複数因子が重なるケースも多く、原因の特定には系統的な精査が必要です。

胚側因子(40〜50%)

着床不全の最大の原因は胚の染色体異常です。良好な形態の胚(受精卵)でも、50歳以下の女性では約50〜60%、40歳以上では70〜80%の胚に染色体異数性があるとされます(Fragouli et al., PLOS Genetics, 2011)。

検査・対応

内容

備考

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)

胚の染色体数を移植前に確認し、正倍数体胚を選択

保険適用外(自費)。1胚あたり約5〜10万円。反復不成功例への保険適用範囲は限定的

精子DNA断片化検査

精子のDNA損傷率を測定(TUNEL法・SCD法等)

DFI(断片化指数)15%以上は妊娠率に影響するとの報告あり

胚培養条件の見直し

培養液・酸素濃度・インキュベーター環境の最適化

施設間で差があるため、転院・施設変更も選択肢

子宮側因子(30〜40%)

子宮腔内の構造的・機能的異常が着床を妨げます。解剖学的異常(子宮中隔・筋腫・ポリープ)は超音波や子宮鏡で診断でき、外科的処置が可能なものもあります。一方、子宮内膜の「受容能」の問題は形態検査だけでは捉えきれません。

原因

主な検査

対応策

子宮内膜ポリープ・粘膜下筋腫

経腟超音波、子宮鏡検査

子宮鏡下切除術

子宮中隔(先天性子宮形態異常)

3次元超音波、MRI、子宮鏡

子宮鏡下中隔切除術

子宮腔癒着(アッシャーマン症候群)

子宮鏡検査

子宮鏡下癒着剥離術

慢性子宮内膜炎

子宮内膜生検(CD138陽性形質細胞の確認)、EMMA検査

抗生物質療法(ドキシサイクリン等)。治療後の再検査で確認

着床の窓のズレ(ERA陽性)

ERA検査(子宮内膜受容能検査)

黄体補充の投与タイミングを個別調整(pET:個別化移植)

慢性子宮内膜炎については、RIF患者の約30〜60%に認められるとの報告があります(Kitaya et al., Fertility and Sterility, 2017)。症状が乏しく通常の検査では見落とされやすいため、RIF精査における子宮内膜生検は重要な選択肢です。

免疫・血液凝固系因子(10〜20%)

母体の免疫系が胚を「異物」として攻撃する場合や、血液凝固異常により胎盤形成が妨げられる場合があります。これらは不育症(反復流産)とも重なる因子です。

原因

主な検査

対応策

抗リン脂質抗体症候群(APS)

抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント

低用量アスピリン+ヘパリン療法

血液凝固異常(第XII因子欠乏等)

凝固系検査(APTT、Protein S/C、第XII因子)

ヘパリン療法、低用量アスピリン

Th1/Th2バランス異常

末梢血Th1/Th2比測定

タクロリムス(プログラフ)投与。保険適用外、施設限定

NK細胞活性亢進

末梢血NK細胞活性検査

免疫療法(ビタミンDサプリメント、タクロリムス等)。エビデンス確立途上

同種免疫異常(HLA一致等)

パートナーとのHLA検査

リンパ球療法(日本では実施施設が限られる)

最新のRIF対策:ERA・PRP・子宮内フローラ検査のエビデンスと費用

近年、RIF対策として注目される検査・治療法が複数登場しています。ただし、これらのエビデンスレベルには大きな差があります。導入を検討する際は、担当医と費用対効果を十分に話し合うことが大切です。

ERA検査(着床の窓の個別特定)

ERA(Endometrial Receptivity Analysis)検査は、子宮内膜の遺伝子発現プロファイルを解析し、個人の「着床の窓(WOI:Window of Implantation)」のタイミングを特定する検査です。スペイン・IVI研究所が開発し、国際的に普及しています。

  • エビデンスレベル:RIF患者のうち約20〜30%でWOIのズレが検出されると報告されています(Ruiz-Alonso et al., Fertility and Sterility, 2013)。ただし、一般的な反復不成功例での臨床的妊娠率改善効果については、大規模RCT(REIA試験・2021年)で有意差が示されず、適応症例の絞り込みが課題です。学会間でも評価が分かれており、現時点での推奨は「RIF症例への選択的適応」にとどまります
  • 費用感:検査費用(検体採取+解析)として約8〜15万円程度が一般的。施設により差があります
  • 注意点:ERA陽性(WOIズレあり)と判定された場合は黄体補充の投与時間を調整するpET(personalized Embryo Transfer)を実施します

PRP療法(多血小板血漿の子宮内注入)

PRP(Platelet-Rich Plasma)療法は、患者自身の血液から血小板を濃縮した血漿を作製し、子宮内膜に注入する治療法です。薄い子宮内膜(8mm未満)や、内膜が十分に厚くならない症例に対して用いられます。

  • エビデンスレベル:複数の小規模RCTおよびメタアナリシスで子宮内膜厚の改善と妊娠率向上が報告されていますが(Chang et al., PLOS ONE, 2019など)、症例数が少なく標準治療としての位置づけはまだ確立されていません。ESHREガイドラインでは「有望だが推奨レベルに達していない」との評価です
  • 費用感:1回あたり約3〜8万円。複数回施行する施設もあります
  • 対象症例:内膜が薄く他の内膜肥厚療法(エストロゲン増量・シルデナフィル・G-CSF)が効果不十分だった症例が主な適応です

子宮内フローラ検査(EMMA/ALICE)

子宮内フローラ検査は、子宮内膜の細菌叢(マイクロバイオーム)を次世代シーケンサーで解析する検査です。EMMA(Endometrial Microbiome Metagenomic Analysis)は乳酸菌(Lactobacillus)の占有率を評価し、ALICE(Analysis of Infectious Chronic Endometritis)は慢性子宮内膜炎の病原菌を特定します。

  • エビデンスレベル:健常な子宮内膜では乳酸菌が90%以上を占めることが示されており(Moreno et al., AJOG, 2016)、乳酸菌比率の低下とRIF・流産の関連が報告されています。ただし、フローラ改善介入(乳酸菌製剤投与など)による妊娠率改善のRCTはまだ少なく、エビデンスは蓄積途上です
  • 費用感:EMMA単独で約4〜8万円、ALICE/ERA/EMMAのセット検査で15〜25万円程度の施設が多いです
  • 慢性子宮内膜炎との違い:CD138免疫染色による慢性子宮内膜炎の診断(形態学的評価)と、ALICEによる菌種の遺伝子解析は補完的な関係にあります

各対策のエビデンスレベルまとめ

対策

エビデンスレベル(目安)

費用感(目安)

推奨される主な対象

ERA検査+pET

中程度(RIF症例での有用性に議論あり)

8〜15万円

RIF症例、凍結融解胚移植を繰り返す方

PRP療法

低〜中(小規模RCTで有望だが大規模試験は不足)

3〜8万円/回

内膜薄い症例(8mm未満)、他治療が無効な方

EMMA/ALICE検査

中程度(マイクロバイオームとRIFの相関は支持されつつある)

4〜25万円(組み合わせ次第)

慢性子宮内膜炎の疑い、繰り返す着床不全

PGT-A

高(胚染色体評価の精度向上は確立)

5〜10万円/胚

高齢女性、反復不成功例、不育症合併例

慢性子宮内膜炎の抗生物質治療

高(CD138陽性の場合の治療効果は複数報告で支持)

薬剤費のみ(1,000〜3,000円程度)

CD138陽性の慢性子宮内膜炎と診断された方

RIFの精査フローと受診の目安

RIFの精査は段階的に行うのが一般的です。全ての検査を一度に行う必要はなく、胚の質の評価から始め、子宮側・免疫系と段階的に精査を進めます。

  1. Step 1(基本精査):胚グレードの再評価、子宮鏡検査、経腟超音波(子宮形態・内膜厚)、血液凝固系スクリーニング
  2. Step 2(中級精査):子宮内膜生検(CD138染色による慢性子宮内膜炎評価)、Th1/Th2比、抗リン脂質抗体
  3. Step 3(高度精査):ERA検査、EMMA/ALICE、PGT-A、精子DNA断片化検査

ESHRE(2023)は、Step 1〜2の標準的な精査を3回移植失敗後に推奨しています。一方で、年齢・胚質・既往歴によっては、より早期の精査が臨床的に妥当な場合もあります。「もう一度だけ移植してみよう」と繰り返す前に、主治医と精査の計画を相談することを勧めます。

よくある質問(FAQ)

Q. 良好胚を3回移植しましたが、まだRIFと言われていません。いつから精査を始めるべきですか?

ESHREの基準では3回移植失敗後が精査の推奨タイミングですが、年齢(特に38歳以上)や治療歴・胚質によっては2回目の失敗後から精査を検討することも合理的です。担当医に「RIFの精査を始めるタイミング」を具体的に確認してみてください。

Q. ERA検査で「着床の窓がずれている」と言われました。これで必ず妊娠できますか?

ERA陽性(WOIのズレ)が判明し、pET(個別化移植)を行った場合でも妊娠を保証するものではありません。WOIのズレは複数ある原因の一つです。他の因子の精査と並行して進めることが重要です。なお、ERA検査の結果は「あなたの窓のタイミングを特定する」ものであり、妊娠率を直接保証する検査ではありません。

Q. 慢性子宮内膜炎の治療後、どのくらいで妊娠が期待できますか?

抗生物質による治療後、CD138陰性化(炎症の消退確認)ができた症例では着床率の改善が報告されています。ただし、消退確認には治療後の再生検が必要です。一般的に治療終了から次周期以降の胚移植を計画する施設が多いですが、施設の方針によって異なります。

Q. RIFと不育症(習慣流産)は違うのですか?

RIFは「着床しない」、不育症は「着床後に流産を繰り返す」という点で区別されます。ただし抗リン脂質抗体症候群や凝固異常など、両者に共通する原因もあります。RIFと不育症を合併している場合、検査・治療の方針が重なることがあります。

Q. PRP療法は子宮内膜が薄くなければ意味がないですか?

現状では、PRP療法の主な適応は内膜が薄い症例(目安として8mm未満)とされています。内膜の厚さが十分な場合の効果については、現時点でのエビデンスが限られています。適応かどうかは超音波検査の結果をもとに担当医と判断してください。

Q. RIFの精査・治療は全て自費ですか?

精査の一部(子宮鏡、血液検査など)は保険適用になる場合があります。ERA検査・PRP療法・PGT-A・子宮内フローラ検査などは基本的に自費診療です。2022年の保険適用拡大以降、体外受精自体は条件付きで保険適用となりましたが、付帯する先進医療の扱いは施設・治療内容によって異なります。受診する施設に費用の詳細を確認してください。

まとめ:RIFは「原因の系統的な精査」から始める

反復着床不全(RIF)は、良好胚を繰り返し移植しても妊娠しない状態を指し、原因は胚・子宮・免疫系の3カテゴリに分類できます。国際基準(ESHRE)では3回の良好胚移植失敗後が精査の推奨タイミングですが、年齢や胚質によって個別判断が必要です。

ERA検査・PRP療法・子宮内フローラ検査などの最新対策はいずれも有望な選択肢ですが、エビデンスレベルと費用に差があります。「流行っているから試す」ではなく、「自分の原因に合った精査と治療を選ぶ」という姿勢が、RIFを乗り越えるための鍵です。

もし3回以上の胚移植を経ても妊娠が成立していない場合は、主治医にRIF精査の計画について相談することを勧めます。精査の結果によっては、治療方針が大きく変わることもあります。

本記事の内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、個々の診断・治療方針の決定は必ず担当医とご相談ください。

次のステップ

反復着床不全(RIF)について詳しく相談したい方は、不妊専門クリニックへの受診をご検討ください。特に「何回移植したらRIFの精査を受けられるか」「自分の場合に必要な検査は何か」を具体的に聞いてみることが、次の治療ステップを明確にする第一歩となります。


参考文献: ESHRE Guideline on Recurrent Implantation Failure (2023) / Coughlan C et al., Recurrent implantation failure: definition and management, Reproductive BioMedicine Online, 2014 / Kitaya K et al., Chronic endometritis: potential cause of infertility and obstetric and neonatal complications, Am J Reprod Immunol, 2017 / Ruiz-Alonso M et al., The endometrial receptivity array for diagnosis and personalized embryo transfer as a treatment for patients with repeated implantation failure, Fertil Steril, 2013 / Moreno I et al., Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure, AJOG, 2016 / 日本産科婦人科学会 ARTデータブック2022年版

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この記事を書いた人

EggLink編集部

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公開:2026/4/19更新:2026/4/28