EggLink
さがす

子宮内膜と着床障害|厚さ・パターン・炎症

2026/4/19

子宮内膜と着床障害|厚さ・パターン・炎症

「胚の質は問題ないと言われたのに、移植を繰り返しても妊娠しない」——着床障害の相談で最も多いのが、このパターンです。原因の多くは子宮内膜にあり、厚さ・パターン・炎症の3軸で評価することが、現在の生殖医療の標準的な考え方になっています。

本記事では、3つの評価軸を総合的に整理したうえで、ERA検査や段階的な改善アプローチなど、検索上位記事にない情報を含めて解説します。治療の選択肢を比較検討したい方、次のステップを考えている方に向けた判断支援型の記事です。

要約

評価軸

基準値

着床への影響

厚さ

7mm以上(理想8〜12mm)

7mm未満で着床率が低下する傾向

パターン

TypeA(三層構造)

TypeBよりTypeAで妊娠率が高い

炎症(慢性子宮内膜炎)

CD138陽性細胞5個未満/視野

陽性の場合、着床率が大幅に低下

3条件すべて満たす場合と1条件でも欠ける場合では、着床率に顕著な差が出るとされています(詳細は本文のマトリクス表を参照)。

子宮内膜とは何か——着床のための「受け皿」の構造

子宮内膜は子宮の内側を覆う粘膜組織で、月経周期に合わせて増殖・分泌・剥離を繰り返します。受精卵が着床するためには、内膜が適切な厚さに達し、超音波で確認できる三層構造(トリプルライン)を形成し、かつ慢性的な炎症がない状態である必要があります。

着床のタイミングを「着床の窓(Window of Implantation: WOI)」と呼び、排卵後または黄体ホルモン投与開始後の限られた期間にのみ胚の受け入れが可能になります。このWOIは個人差があり、標準的なプロトコルでは着床の窓がずれていて着床に失敗している場合があることがわかっています。

3つの評価軸と着床率の関係——マトリクスで見る

厚さ・パターン・炎症の3軸が揃っているかどうかで、着床率は大きく変わります。以下のマトリクスは各条件の充足状況と妊娠率の目安を整理したものです(文献データをもとにした参考値)。

厚さ(7mm以上)

パターン(TypeA)

炎症なし(CD138陰性)

推定着床率(参考値)

30〜45%程度(胚盤胞移植時)

×(7mm未満)

15〜20%程度

×(TypeB/C)

15〜25%程度

×(炎症あり)

10〜20%程度

×

×

×(3条件欠如)

5〜10%程度

上記の数値はあくまで参考値であり、胚の質・年齢・基礎疾患によって個人差があります。ただし、3条件が揃っている場合と3条件すべて欠けている場合では着床率に約4〜9倍の開きがあるとも報告されており、内膜評価を軽視できない理由がここにあります。

軸1:厚さ——7mmはなぜ基準になるのか

子宮内膜の厚さは超音波検査(経腟エコー)で計測します。排卵直前または移植前日に8〜12mmが理想とされ、7mm未満では着床率が有意に低下するとされています(Dix & Check, 2010; Kasius et al., 2014)。一方で7mm未満でも妊娠例は存在するため、「7mm未満=移植不可」とは必ずしもなりません。担当医との相談が必要です。

薄い内膜の原因としては、エストロゲン不足、子宮腔内操作(流産手術・掻爬など)による癒着、慢性炎症による内膜障害などが挙げられます。詳細な原因分析と改善アプローチは後述します。

軸2:パターン——超音波で見る「三層構造」の意味

超音波画像での内膜エコーパターンは3型に分類されます。TypeA(三層構造、高エコー輝線あり)は最も着床に適した状態を示し、TypeBは均質な中等度エコー、TypeCは均質な高エコーで着床率は低下傾向にあります。

TypeAが形成されるには、エストロゲンによる内膜増殖と、それに伴う腺構造の発達が必要です。TypeBやTypeCが続く場合は、エストロゲン分泌不足・内膜受容能の問題・慢性炎症の関与を検討します。内膜パターンの詳細なメカニズムと評価方法については、子宮内膜パターン詳細解説をあわせてご覧ください。

軸3:炎症——慢性子宮内膜炎は「見えない着床障害」

慢性子宮内膜炎(CE: Chronic Endometritis)は、自覚症状がほとんどなく超音波でも検出しにくいため、「見えない着床障害」とも呼ばれます。確定診断には子宮内膜の組織生検が必要で、形質細胞マーカーであるCD138陽性細胞が1視野に5個以上あれば陽性と判断されます。

反復着床不全(RIF: Repeated Implantation Failure)患者を対象とした研究では、30〜60%にCEが認められたとする報告があります(Kitaya et al., 2017)。抗生剤治療によってCEを除菌した後、着床率が改善したデータも報告されており、着床不全の原因検索として重要な検査です。慢性子宮内膜炎の検査・治療の詳細については慢性子宮内膜炎の専門解説記事をご参照ください。

ERA検査——着床の窓のズレを個人ごとに特定する

ERA(Endometrial Receptivity Analysis)検査は、子宮内膜受容能を遺伝子発現レベルで評価する検査です。内膜組織に発現する約250個の遺伝子の発現パターンを解析し、その患者の「最適な着床の窓」を特定します。

ERA検査の仕組み

ホルモン補充周期または自然周期で内膜を準備し、標準的な着床の窓の時期(P+5、プロゲステロン投与5日目相当)に子宮内膜を採取します。採取した組織をスペインのIVIGENOMICS社が開発したアルゴリズムで解析し、「Receptive(受容期)」「Pre-receptive(受容前期)」「Post-receptive(受容後期)」のいずれかに判定します。

Pre-receptiveまたはPost-receptiveと判定された場合、次回移植時の黄体ホルモン投与期間を調整(ERA誘導移植)することで、着床率の改善が期待されます。ただし、ERA検査の有効性については現時点でRCT(ランダム化比較試験)で一貫した結果は得られておらず、2019年のBritish Medical Journal誌掲載の大規模RCTでは標準移植群との差が認められなかったとする報告もあります(Mahajan et al., 2019)。施設・症例を選んで活用する必要があります。

ERA検査の推奨対象

  • 良好胚盤胞を2〜3回以上移植しても着床しない反復着床不全(RIF)の患者
  • 胚の質・内膜の厚さ・炎症状態に明らかな問題がないのに着床しない患者
  • 着床の窓のズレが疑われる患者

ERA検査の費用と結果パターン

項目

内容

費用(自費)

12万〜15万円程度(施設により異なる)

保険適用

2024年時点では保険適用外(先進医療非対象)

採取から結果まで

約3〜4週間

Receptive(受容期)判定

標準タイミングで移植を継続

Pre-receptive判定

プロゲステロン投与期間を延長(+12〜24時間など)して再移植

Post-receptive判定

プロゲステロン投与期間を短縮して再移植

ERA検査は胚移植の別周期に採取が必要なため、実施するとその周期は移植できません。事前に担当医と計画を立てることが重要です。

内膜改善の段階的アプローチ——優先順位と判断基準

着床障害において内膜を改善する方針は、複数の選択肢があります。ただし「何でも同時に試す」のではなく、ボトルネックを特定して段階的に対処することが、時間・費用・身体的負担の最適化につながります。以下に標準的な優先順位フローを示します。

ステップ1:ホルモン補充(第一選択)

内膜が薄い・パターンが不良な場合の第一選択はエストロゲン補充です。経口エストラジオール(プレマリン、ジュリナなど)の増量、貼付剤・ジェルへの変更、または膣剤の追加が行われます。エストロゲン補充で8mm以上に達する患者は多く、まず試みる価値があります。

ステップ2:血流改善(第二選択)

ホルモン補充を最大化しても内膜が薄い場合、子宮への血流不足が疑われます。この段階で検討されるのが以下の対策です。

  • 低用量アスピリン(75〜100mg/日):子宮動脈の血流改善を目的として使用。ただし効果の個人差が大きく、すべての施設で採用されているわけではありません
  • ビタミンE:抗酸化作用と血管拡張作用が期待され、内膜改善目的で補助的に使用される場合があります
  • 運動・生活習慣の見直し:骨盤内血流を促す適度な運動(ウォーキング・ヨガなど)は、間接的に内膜環境の改善に寄与する可能性があります

ステップ3:ERA検査(着床の窓の特定)

胚の質・内膜の厚さ・パターンに問題がなく、かつ慢性炎症も否定されているにもかかわらず反復着床不全が続く場合、ERA検査で着床の窓のズレを確認します。費用は12万〜15万円で、結果に基づいたプロトコル調整(ERA誘導移植)を行います。

ステップ4:EMMA/ALICE検査(子宮内フローラ評価)

ERA検査と同一サンプルで実施可能な検査として、EMMA(子宮内膜マイクロバイオーム評価)とALICE(感染性慢性子宮内膜炎評価)があります。EMMaはラクトバチルス菌の割合を評価し、フローラが乱れている場合は乳酸菌サプリメントや膣剤での改善を試みます。ALICEは慢性子宮内膜炎の起因菌を遺伝子レベルで特定するもので、CD138組織生検と組み合わせて使用されます。

検査

目的

費用目安(自費)

ERA単独

着床の窓の特定

12万〜15万円

ERA+EMMA+ALICE(3セット)

着床の窓+フローラ+炎症の総合評価

18万〜25万円

ステップ5:外科的介入(最終選択肢)

子宮腔内の形態異常(ポリープ・粘膜下筋腫・子宮腔内癒着)が内膜を機械的に障害している場合は、子宮鏡手術による切除・剥離が選択されます。子宮内膜に瘢痕組織が広範に形成されているアッシャーマン症候群では、外科的剥離後に内膜再生を促す処置が必要になることもあります。外科的介入は侵襲性が高いため、前ステップで改善が得られなかった場合の選択肢として位置づけられます。

G-CSF・PRP療法——難治性薄い子宮内膜への先進的アプローチ

ホルモン補充や血流改善を尽くしても内膜が6mm未満にとどまる難治性の薄い内膜に対して、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の子宮内注入やPRP(多血小板血漿)療法が試みられています。

G-CSFは白血球産生を促す生体物質で、子宮内膜の再生を促す可能性があります。PRP療法は患者自身の血液から血小板を濃縮したものを子宮内に注入し、成長因子の放出によって内膜組織の修復を促すとされます。いずれも2024年時点では保険適用外・先進医療非対象で、十分なエビデンスの蓄積はこれからの段階です。費用は施設によりG-CSFが3万〜8万円、PRPが5万〜15万円程度が目安です。

これらは「試してもよい」というよりも、「他の選択肢をすべて尽くした後に専門施設で検討する」位置づけの治療です。

着床障害のある方が受けるべき検査の全体像

反復着床不全(RIF)が疑われる場合、内膜評価以外にも確認すべき検査があります。着床に関わる要因は多岐にわたるため、総合的なアプローチが必要です。

検査カテゴリ

主な検査項目

目的

子宮内膜評価

経腟超音波(厚さ・パターン)、CD138組織生検

内膜の状態と炎症の有無を確認

子宮形態評価

子宮鏡、子宮卵管造影(HSG)

ポリープ・癒着・奇形の除外

免疫・血栓系

抗リン脂質抗体、NK細胞活性、血液凝固検査

着床を妨げる免疫異常・血栓傾向の確認

ERA/EMMA/ALICE

遺伝子発現解析

着床の窓・フローラ・炎症の精密評価

胚評価

PGT-A(着床前染色体異数性検査)

胚の染色体正常性の確認

すべての検査を一度に行う必要はなく、病歴・既往検査の結果を踏まえて担当医が優先順位を判断します。「検査を全部やりたい」という気持ちは理解できますが、不必要な検査は費用と身体的負担を増やすだけであることも念頭に置いてください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 子宮内膜が薄いと自然妊娠も難しいですか?

自然妊娠の場合も内膜の薄さは影響します。ただし、自然周期では排卵後に黄体ホルモンが内膜を変化させるため、体外受精の移植周期とは内膜の状態が異なる場合があります。薄い内膜で自然妊娠する方もいますが、繰り返す流産や化学流産がある場合は原因の一つとして内膜評価を検討する価値があります。

Q2. ERA検査は全員が受けるべきですか?

ERA検査は全員に推奨されるものではありません。良好胚盤胞移植を2〜3回以上繰り返しても着床しない反復着床不全(RIF)の方で、胚の質・内膜の状態・慢性炎症などに明らかな問題がない場合に検討するのが現在の主流な考え方です。費用は12万〜15万円かかるため、適応を慎重に判断することが重要です。

Q3. 慢性子宮内膜炎は自覚症状がないのに、なぜ着床に影響するのですか?

慢性子宮内膜炎は急性炎症と異なり、痛みや発熱などの強い症状を伴いません。しかし内膜に持続的な免疫反応が起きており、これが胚の着床に必要な免疫寛容(胚を異物として排除しないメカニズム)を妨げると考えられています。症状がなくても、反復着床不全がある場合はCD138生検による確認を検討することが推奨されます。

Q4. 内膜が7mm未満でも移植を勧めるクリニックがあるのはなぜですか?

7mmは「望ましい閾値」であり、「それ以下では移植してはいけない」という絶対基準ではありません。良好胚盤胞で患者の希望が強い場合、6〜7mmでも移植を選択する施設もあります。一方、6mm未満では多くの施設がキャンセルを勧めます。方針は施設ごとに異なるため、理由を医師に直接確認することをお勧めします。

Q5. ERA検査を受けて「Receptive」と判定されたのに着床しませんでした。なぜですか?

ERA検査で「Receptive」と判定されても、着床を保証するものではありません。着床には内膜の受容能以外にも、胚の質・免疫因子・血栓傾向・子宮形態など多くの要因が関わっています。ERA検査は「着床の窓のズレ」という一つの要因を評価するものであり、「Receptive=次は必ず着床する」という意味ではないことを理解したうえで受検することが大切です。

Q6. 慢性子宮内膜炎の治療後、どれくらいで移植できますか?

一般的に、抗生剤治療(ドキシサイクリンなど14〜21日間)終了後、1〜2周期おいて再度CD138生検で陰性を確認してから移植を行うのが標準的な流れです。治療後の確認生検に追加費用(数万円)がかかる場合があります。治療反応が不良な場合は抗生剤の変更・延長が必要になることもあります。

Q7. 子宮内膜を厚くするために食事で気をつけることはありますか?

内膜の厚さに直接影響する食品の特定は現時点では困難です。ただし、子宮への血流を促す観点から、鉄分・ビタミンE・葉酸・オメガ3脂肪酸を含む食事(大豆・青魚・緑黄色野菜など)を意識的に摂ることは、内膜環境を整える補助的な取り組みとして多くの専門家が勧めています。冷えを避ける生活習慣も骨盤内血流に寄与する可能性があります。

Q8. 着床障害の検査はどのクリニックでも受けられますか?

CD138生検・ERA/EMMA/ALICE検査・G-CSF・PRPなどの高度な検査・治療は、生殖専門クリニックや大学病院の不妊外来でないと対応していない場合があります。かかりつけクリニックで対応が難しい場合は、反復着床不全を専門とする施設へのセカンドオピニオンを検討することも選択肢の一つです。

まとめ——内膜評価の3軸を揃えることが着床への近道

着床障害における子宮内膜の問題は、厚さ・パターン・炎症の3軸で整理できます。3条件が揃うほど着床率は高まる一方で、1条件でも欠けると着床率に影響が出ます。

改善アプローチは「ホルモン補充→血流改善→ERA検査→EMMA/ALICE→外科的介入」の順に段階的に検討するのが、現在の生殖医療の標準的な考え方です。ERA検査は費用(12万〜15万円)と1周期のキャンセルを伴うため、適応を慎重に判断することが重要です。

着床障害の原因は複数が重なっていることも多く、一つの検査・治療で解決しないケースもあります。担当医と現状の評価軸を確認し、次のステップを明確にして進むことが、限られた時間と体力の有効活用につながります。

免責事項

本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療の代替となるものではありません。個々の状況については必ず担当医にご相談ください。

参考文献

  • Dix E, Check JH. Successful pregnancies following embryo transfer despite very thin late proliferative endometrium. Clin Exp Obstet Gynecol. 2010.
  • Kasius A, et al. Endometrial thickness and pregnancy rates after IVF: a systematic review and meta-analysis. Hum Reprod Update. 2014.
  • Kitaya K, et al. Chronic endometritis: potential cause of infertility and obstetric and neonatal complications. Am J Reprod Immunol. 2017.
  • Mahajan N, et al. Endometrial receptivity array versus standard timing of embryo transfer. BMJ. 2019.
  • Pinto V, et al. Endometrial receptivity: from mechanisms to clinical utility. Curr Opin Obstet Gynecol. 2021.
  • 日本生殖医学会. 生殖医療の必修知識2023.

関連記事

関連記事

E

この記事を書いた人

EggLink編集部

医療・婦人科専門メディア

産婦人科・婦人科に関する正確で信頼性の高い情報をお届けします。医療監修のもと、女性の健康に役立つコンテンツを制作しています。

公開:2026/4/19更新:2026/4/28