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慢性子宮内膜炎と着床障害

2026/4/19

慢性子宮内膜炎と着床障害

慢性子宮内膜炎(CE)とは何か――着床障害との関係を正しく理解する

慢性子宮内膜炎(Chronic Endometritis:CE)は、子宮内腔の内膜に持続的な炎症が起きている状態です。急性の感染症と異なり、発熱・激しい腹痛などの自覚症状が乏しいため長期間見逃されやすいとされています。近年の研究では、反復着床失敗(RIF)や反復流産(RPL)の患者においてCEの合併率が30〜60%に達するとの報告があり、不妊治療の領域で注目度が高まっています。

慢性子宮内膜炎の症状:なぜ「隠れた炎症」と呼ばれるのか

慢性子宮内膜炎の多くは、明確な症状を示さない「無症候性」のケースが全体の約50〜80%を占めるとされています。そのため自覚症状だけで受診の判断をすることが難しい疾患です。

現れることがある症状としては、以下が報告されています。

  • 不正出血(月経以外のスポッティングや少量出血)
  • 月経不順・月経量の変化
  • 骨盤内の鈍痛・違和感
  • 性交時の不快感
  • おりものの増加・においの変化

これらの症状は子宮筋腫や子宮内膜症など他の婦人科疾患でも出現するため、CEに特異的な指標とはなりません。「症状がないから問題ない」とは判断できないという点が、この疾患の難しさです。

なぜ慢性子宮内膜炎が着床を妨げるのか――原因メカニズム

子宮内膜の炎症が持続すると、受精卵が着床するために必要な子宮内環境が根本的に乱れます。主なメカニズムとして3つの経路が研究されています。

1. 免疫環境の異常

子宮内膜には、着床を許容するための特殊な免疫細胞(子宮NK細胞・制御性T細胞など)が存在します。CEによる慢性炎症はこれらの細胞バランスを崩し、受精卵を「異物」として排除する方向に免疫応答が傾くとされています。

2. 子宮内膜の受容能(レセプティビティ)の低下

着床には、子宮内膜が受精卵を受け入れる「着床の窓(WOI: Window of Implantation)」が正確に開くことが必要です。CEでは内膜の遺伝子発現パターンが変化し、WOIのタイミングや持続時間に影響が出ることが報告されています。ERA検査(子宮内膜受容能検査)でWOIがずれている患者にCEの合併が多い、という知見も蓄積されています。

3. 子宮内マイクロバイオームの乱れ

健康な子宮内は乳酸菌(Lactobacillus属)が優位な環境とされています。CEの原因となる病原菌が増殖すると、子宮内マイクロバイオームが崩れ、内膜の炎症・免疫異常が悪化する悪循環が生じます。EMMA(子宮内マイクロバイオーム分析)検査により、このバランスを定量的に評価することが可能になっています。

慢性子宮内膜炎の主な原因菌

CEは単一の感染症ではなく、複数の菌種が関与する多因子疾患です。代表的な原因菌として以下が報告されています。

  • 腸球菌(Enterococcus属):CEにおいて最も検出頻度が高い菌種のひとつ。通常の膣内フローラには少なく、子宮内での検出は異常を示唆します。
  • マイコプラズマ・ウレアプラズマ:細胞壁を持たないため通常の培養では検出困難。PCR法が推奨されます。
  • 連鎖球菌(Streptococcus属):特にGBS(B群溶連菌)が検出されることがあります。
  • ブドウ球菌(Staphylococcus属)
  • 大腸菌(E. coli)
  • クラミジア・トラコマチス:急性期を過ぎた後もCEに移行するケースがあります。

原因菌の種類によって適切な抗生物質が異なるため、ALICE検査(子宮内感染菌評価)などで菌種を特定してから治療を行うことが重要とされています。

セルフチェック:こんな方は慢性子宮内膜炎の検査を検討してください

CEは症状が乏しいため、リスク因子や治療歴から検査の必要性を判断することが現実的です。以下に該当する場合は、担当医師に相談することが推奨されます。

  • 体外受精(IVF)を2回以上行ったが着床しなかった(反復着床失敗:RIF)
  • 原因不明の流産を2回以上経験した(反復流産:RPL)
  • 過去にクラミジア感染・骨盤内炎症性疾患(PID)の既往がある
  • 子宮内操作(流産手術・子宮内膜掻爬術)の既往がある
  • 子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫を指摘されたことがある
  • 不正出血やおりものの異常が続いている
  • IUD(子宮内避妊器具)の長期装着歴がある

なお、上記に一切該当しなくてもCEが存在するケースはあり、また該当していても必ずCEであるとは限りません。あくまで検査のきっかけとして活用してください。

3つの診断法の比較:CD138免疫染色・子宮鏡・EMMA/ALICE検査

CEの診断には複数の方法があり、それぞれ感度・特異度・費用・保険適用の面で特性が異なります。以下の比較表を参考に、担当医師と最適な検査方針を相談してください。

検査法

感度

特異度

費用目安(自費)

保険適用

特徴・注意点

CD138免疫染色(組織生検)

約80〜90%

約80〜90%

1〜3万円程度

一部適用あり(組織検査として)

形質細胞(CD138陽性細胞)を直接確認。現在の標準的診断法。月経周期の影響を受けにくい。

子宮鏡検査(Hysteroscopy)

約56〜75%

約79〜93%

1〜5万円程度(実施施設により異なる)

適用あり

内膜のマイクロポリープ・充血・浮腫を視覚的に確認。単独ではCEの確定診断には不十分とされる。生検と組み合わせることが推奨される。

EMMA/ALICE検査(次世代シーケンシング)

ALICE:約94%(病原菌検出)

ALICE:約97%

EMMA+ALICE:7〜12万円程度

なし(全額自費)

次世代シーケンシング(NGS)で子宮内の全菌種を網羅的に解析。菌種特定・治療薬選択に有用。ERPeak(WOI評価)との同時検体採取も可能。

現時点では、CD138免疫染色が最も標準的なCEの確定診断法とされています。子宮鏡は内膜の形態評価に有用ですが、CEの確定には組織生検の組み合わせが推奨されます。EMMA/ALICE検査は原因菌の同定と治療方針の最適化に強みがあります。

治療法:原因菌別の抗生物質プロトコルと治療後の着床率データ

CEの主な治療は抗生物質による薬物療法です。検出された菌種に応じて薬剤を選択することが重要とされています。下表は代表的な治療プロトコルをまとめたものです(実際の処方は担当医師の判断によります)。

対象菌種

第一選択薬

標準投与期間

代替薬・補足

腸球菌(Enterococcus属)

アモキシシリン(Amoxicillin)500mg 1日3回

14日間

β-ラクタム系アレルギーの場合はフォスフォマイシン等を検討

マイコプラズマ・ウレアプラズマ

アジスロマイシン(Azithromycin)1g 単回投与、またはドキシサイクリン 100mg 1日2回

アジスロマイシン:単回〜3日、ドキシサイクリン:14日間

再発例にはクラリスロマイシン 200mg 1日2回(14日)も使用される

クラミジア・トラコマチス

ドキシサイクリン(Doxycycline)100mg 1日2回

14日間

アジスロマイシン 1g 単回投与が代替として用いられる場合あり

嫌気性菌・複合感染

メトロニダゾール(Metronidazole)500mg 1日2〜3回

14日間

有酸素菌との混合感染ではドキシサイクリンとの併用も選択肢となる

GBS(B群溶連菌)・連鎖球菌

アモキシシリン 500mg 1日3回

14日間

ペニシリンアレルギーがある場合はクリンダマイシン等を検討

菌種不明(経験的治療)

ドキシサイクリン 100mg 1日2回 ± メトロニダゾール 500mg 1日2回

14日間

治療後に再検査で評価することが推奨される

治療後は再度子宮内膜の評価を行い、CEの消失を確認することが推奨されます。1回の治療で消失しない場合(約20〜30%)には、異なる薬剤への変更や追加療法が検討されます。

治療後の着床率改善データ

CE治療の効果に関するエビデンスが蓄積されつつあります。主要な報告を以下に示します。

  • Cicinelli et al.(2015年)の研究では、CE治療後のIVF患者において、臨床妊娠率が未治療群の約13%に対し治療後群では約45%と、約3倍の改善が報告されています。
  • Yang et al.(2021年)のメタアナリシスでは、RIF患者へのCE治療後に妊娠率が有意に改善し、相対リスクは約2〜3倍であったとされています。
  • Liu et al.(2019年)の報告では、反復流産患者においてCE治療後の生児出生率が有意に上昇したとされています。

ただし、これらの研究は対象集団・診断基準・治療法が異なり、すべての患者に同様の効果が期待できるとは限りません。CE治療によって着床率が改善するケースがある一方で、着床失敗の原因はCE以外にも多数あります。個々の状況に応じた総合的な評価が重要とされています。

受診目安:いつ・どの診療科へ行くべきか

以下に該当する場合は、婦人科・生殖医療専門施設への受診を検討してください。検査や治療の方針は施設によって異なるため、事前に「慢性子宮内膜炎の検査を希望している」と伝えることで、スムーズに対応してもらいやすくなります。

  • 体外受精(IVF)を2〜3回以上行っても着床しない
  • 原因不明の流産が2回以上続いている
  • 不正出血・おりもの異常が3か月以上改善しない
  • 過去のクラミジア感染・PIDが適切に治療されたか不明
  • 子宮内操作の既往があり、その後から妊娠しにくくなった

CEの検査・治療は不妊専門クリニックや大学病院の生殖医療部門で行われることが多いです。かかりつけ婦人科で相談し、必要に応じて紹介状を作成してもらう方法も有効です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 慢性子宮内膜炎は自然に治りますか?

自然消退するケースもゼロではありませんが、多くの場合は持続的な炎症が続くとされています。とくに不妊治療を並行している場合は、早期に診断・治療を行うことが推奨されます。「症状がないから大丈夫」と放置するのは得策ではありません。

Q2. CEの検査は痛いですか?

子宮内膜の生検(細胞採取)を伴う検査では、月経痛に似た一時的な痛みや不快感が生じることがあります。子宮鏡検査では、内視鏡を子宮内に挿入するため個人差はありますが不快感を感じる場合があります。施設によっては局所麻酔・静脈麻酔下で実施することも可能です。事前に担当医師に確認してください。

Q3. 抗生物質を飲めば必ず治りますか?

抗生物質による初回治療でCEが消失する割合は、報告により異なりますが約70〜80%程度とされています。残り20〜30%は1回目の治療では消失せず、菌種に合わせた薬剤変更や追加治療が必要になるケースがあります。治療後に再検査でCE消失を確認することが重要です。

Q4. CEを治療すれば必ず妊娠できますか?

CE治療によって着床環境が改善されるケースがあることは報告されていますが、「治療すれば必ず妊娠できる」とはいえません。着床失敗・流産の原因は、卵子の質・精子の問題・染色体異常・子宮形態異常・その他の免疫異常など多岐にわたります。CEはそのひとつの因子にすぎません。

Q5. EMMA/ALICE検査はすべての患者に必要ですか?

全員に必須ではなく、反復着床失敗や反復流産の患者など、より詳しい原因菌の情報が必要なケースで有用性が高いとされています。費用が高額(7〜12万円程度)かつ全額自費のため、担当医師と相談のうえ必要性を判断することが推奨されます。

Q6. CEは再発しますか?

治療後に再発するケースが報告されています。再発リスクを下げるためには、パートナーの感染源の確認・STI(性感染症)の定期検査・子宮内環境(マイクロバイオーム)の改善なども考慮される場合があります。担当医師の指示に従って経過観察を続けることが重要です。

Q7. 慢性子宮内膜炎の治療中は妊活を続けてもよいですか?

抗生物質治療中の性交渉・妊活については、使用する薬剤・治療期間・個人の状況によって担当医師の判断が異なります。特にドキシサイクリンは妊娠中への使用が禁忌とされているため、治療期間中の避妊が指示されるケースがあります。担当医師に必ず確認してください。

Q8. 男性パートナーも検査・治療が必要ですか?

クラミジア・マイコプラズマ・ウレアプラズマなどは性感染症として双方向の感染が起こりうるため、これらの菌が検出された場合はパートナーの検査と同時治療が推奨されます。一方で、腸球菌など常在菌由来の場合はパートナー治療の必要性は必ずしも高くないとされています。担当医師に相談してください。

まとめ

慢性子宮内膜炎(CE)は、自覚症状が乏しいため見逃されやすい一方で、着床失敗や反復流産に深く関与している可能性が報告されている疾患です。反復着床失敗(RIF)患者の30〜60%にCEが合併しているとされており、不妊治療において見落とせない評価項目のひとつとなっています。

診断にはCD138免疫染色(組織生検)が標準的で、子宮鏡検査やEMMA/ALICE検査を組み合わせることで原因菌の特定と治療方針の精度を高めることができます。治療は原因菌に応じた抗生物質療法が基本で、治療後に着床率・妊娠率が2〜3倍改善したというエビデンスが複数報告されています。

ただし、CEの治療が妊娠を保証するものではなく、着床失敗・流産の原因はCE以外にも多数あります。「自分にCEがあるかもしれない」と感じた場合は、まず婦人科・生殖医療専門施設に相談することをお勧めします。

当院での慢性子宮内膜炎の検査・治療について

当院では、反復着床失敗や反復流産でお悩みの方に対して、慢性子宮内膜炎を含む子宮内環境の精密評価を行っています。CD138免疫染色・子宮鏡検査・EMMA/ALICE検査など、患者さまの状況に応じた検査プランをご提案し、検出された菌種に合わせた治療を実施しています。

まずはお気軽にご相談ください。初診のご予約はWebまたはお電話から承っています。

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※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。症状や治療については、必ず担当医にご相談ください。

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この記事を書いた人

EggLink編集部

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公開:2026/4/19更新:2026/4/28