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胚の質と着床失敗の関係

2026/4/19

胚の質と着床失敗の関係

体外受精で良好な胚を移植したのに着床しない――この経験をした方にとって、「胚の質」という言葉は気になりながらもよくわからない概念のひとつではないでしょうか。着床障害の原因は子宮側だけではなく、胚の質そのものが大きく関与していることが生殖医療の研究で明らかになっています。

この記事では、胚盤胞のグレード分類と妊娠率の関係、胚の質を左右する3つの因子の構造、そしてクリニックで実施できる具体的な改善アプローチを、エビデンスに基づいて解説します。

この記事のポイント

  • 胚の質はガードナー分類(AA〜CC)で評価され、グレードにより妊娠率に大きな差が生じるとされています
  • 胚の質は「卵子の質」「精子の質」「培養環境」の3因子が複合的に影響し、それぞれに改善アプローチが存在します
  • 着床障害を疑う場合は子宮側の検査(ERA・子宮鏡等)と並行して胚の質の再評価が重要とされています

着床障害における「胚の質」の位置づけ

着床障害とは、良質な胚を複数回移植しても妊娠に至らない状態を指し、反復着床失敗(RIF: Recurrent Implantation Failure)と呼ばれます。一般的には良好胚を3回以上移植しても臨床妊娠が成立しない場合にこの定義が適用されることが多く、原因は大きく「子宮側の問題」と「胚の質の問題」に分けられます。

子宮内膜の着床能(ERAによるWOI評価)や形態的異常が注目されやすい一方、体外受精周期で観察される胚のうち染色体正常胚は年齢によって大きく異なります。35歳では約50〜60%、40歳では約20〜30%、42歳以上では10%を下回るとも報告されており、着床失敗の一因として胚の染色体異常が関与しているケースは少なくないと考えられています。

ガードナー分類で理解する胚盤胞グレードと妊娠率

胚盤胞の形態評価には「ガードナー分類」が広く用いられており、胚の発育段階(1〜6)、内細胞塊(ICM)のグレード(A・B・C)、栄養外胚葉(TE)のグレード(A・B・C)の3要素で評価されます。臨床的に最も使われるのは発育段階4〜6(拡張〜孵化後)の胚です。

ガードナー分類による胚盤胞グレードと推定妊娠率(単一胚移植・新鮮周期の目安)

グレード

ICM

TE

形態的特徴

推定臨床妊娠率の目安

AA

A(細胞数が多く密)

A(細胞数が多く上皮様)

最良好。細胞が均一で境界明瞭

50〜65%程度

AB

A

B(細胞数がやや少ない)

ICMは良好、TEはやや低調

45〜58%程度

BA

B(細胞数がやや少なく疎)

A

TEは良好、ICMはやや低調

40〜55%程度

BB

B

B

両者ともやや低調。移植可能な良好胚

35〜50%程度

BC

B

C(細胞数が少なく扁平)

TEの質が低い。着床率が下がるとされる

20〜35%程度

CB

C

B

ICMの質が低い。胎盤形成には影響しにくいが着床率は低め

20〜30%程度

CC

C

C

最低グレード。移植を見送ることも多い

10〜20%程度

※上記の妊娠率は複数の論文や施設データを参考にした目安であり、患者の年齢・子宮環境・凍結融解の有無によって大きく変動します。個別の数値については担当医にご確認ください。

また、形態評価だけでは染色体異常の有無は判断できないことに注意が必要です。AA胚であっても染色体異常を持つ場合があり、逆にBBグレードでも正常染色体の場合は十分な着床能を示すことがあります。PGT-A(着床前遺伝子検査)はこのギャップを埋める手段として注目されていますが、適応や費用の問題もあるため、医師との十分な相談が求められます。

胚の質を決める3つの因子の構造

胚の質は単一の要素では決まりません。「卵子の質」「精子の質」「体外培養環境」の3つが複合的に作用しており、それぞれに改善の余地があると考えられています。

卵子の質に関わる要因

卵子の質は胚の質を左右する最大の因子とされており、特に加齢の影響を強く受けます。

  • 年齢:卵子の染色体分配エラー(異数性)は35歳以降に急増し、42歳では産生卵子の大半に染色体異常が含まれるとも報告されています
  • 卵巣予備能(AMH値):AMHが低い場合は得られる卵子数が減少し、良好胚が得られにくくなる傾向があります。ただしAMHは卵子の「数」の指標であり、「質」の直接的な指標ではありません
  • 卵巣刺激法の選択:アンタゴニスト法・ロング法・PPOS法など刺激プロトコルの違いが採卵数・成熟卵子率に影響するとされ、POSEIDONグループ(低予備能)ではDuostimやランダムスタート法が検討されることもあります
  • ミトコンドリア機能:成熟卵子のエネルギー産生を担うミトコンドリアの機能低下が老化卵子の質低下に関与するとされており、CoQ10補充との関連が研究されています

精子の質に関わる要因

受精後の初期胚発育には精子由来のゲノムも関与するため、精子の質も胚の質に影響するとされています。

  • 精子DNA断片化率(DFI):DFIが高い(目安として15〜25%以上を高率とする施設が多い)と、受精率の低下や初期胚発育不全、流産率の上昇との関連が報告されています。通常の精液検査では評価できないため、SCSA法やTUNEL法などの専用検査が必要です
  • 精子の形態(クルーガー厳格基準):正常形態率4%未満の乏精子症(奇形精子症)は体外受精でのICSI適応となります
  • 活性酸素(ROS)の影響:過度の酸化ストレスは精子DNA損傷を引き起こす可能性があり、禁煙・抗酸化サプリメント等との関連が研究されています

体外培養環境の要因

卵子・精子の質だけでなく、受精後の体外培養環境も胚の発育に影響するとされています。

  • タイムラプスシステム:胚を培養器から取り出さずに連続撮影できるシステムで、最適な移植胚の選択精度が向上するとされています
  • 培養液の組成:施設ごとに使用する培養液が異なり、胚の発育に影響する可能性があります
  • 培養器の酸素濃度:体内環境に近い低酸素濃度(約5%)での培養(三ガス培養)が胚質に有利と考える施設もあります
  • 胚培養士(エンブリオロジスト)の技術:ICSI手技・凍結融解技術の習熟度が胚のダメージ量に関わります

胚の質を改善するための具体的アプローチ一覧

胚の質そのものを劇的に向上させる確立された方法はなく、個人差も大きいため、以下はあくまで検討の参考として担当医と相談してください。

胚の質改善に向けた主なアプローチと根拠レベル

アプローチ

対象

内容・期待される効果

エビデンスレベルの目安

卵巣刺激法の変更

卵子の質

低予備能例でのDuostim・PPOS法・アンタゴニスト法への変更。採卵数・成熟卵子率の改善が期待される

中(施設・症例依存)

DHEA補充

卵子の質(低予備能)

副腎由来のアンドロゲン前駆体。AMH低値・低予備能例での卵子数増加・胚盤胞到達率改善の報告あり。12週以上の先行投与が必要とされる

中(低予備能限定)

CoQ10(コエンザイムQ10)

卵子の質(ミトコンドリア)

ミトコンドリアのエネルギー産生補助。特に高齢女性での胚の質改善に関与する可能性が報告されているが、RCTでの一貫した結果は得られていない

低〜中

成長ホルモン(GH)補充

卵子の質(低予備能)

IGF-1を介した卵胞発育促進。低予備能・高齢例での卵子数・胚盤胞率改善の報告あり。保険外・高額なため適応の見極めが重要

中(低予備能・高齢限定)

精子DNA断片化検査と対策

精子の質

DFI高値例では禁煙・抗酸化剤(ビタミンC・E・CoQ10)・生活習慣改善・精巣精子採取(TESA)によるDNA断片化率の低い精子選択を検討

IMSI(高倍率精子選別)

精子の質

通常の約6,600倍の倍率で精子形態を評価・選別するICSI法。精子形態不良例での胚質改善効果が一部で報告されているが、全例への適応は不明

低〜中

タイムラプス培養

培養環境

胚の撹乱なく連続観察・選別精度向上。胚発育評価の客観化に有用とされ、多くの施設で標準化が進む

PGT-A(着床前遺伝子検査)

胚の染色体正常性

移植前に染色体数的異常を検出し、正常胚のみを移植する。RIF(反復着床失敗)例での流産率低減・妊娠率改善の報告あり。適応・費用・倫理的問題について医師との十分な相談が必要

中〜高(RIF限定)

「胚の質が悪い」と言われたときのセルフチェックポイント

担当医から「胚の質が良くない」と説明された場合、以下の観点を整理して次の相談に臨むと、より具体的な改善策を検討しやすくなります。

卵子の質に関するチェック

  • 採卵時の年齢と採卵数・成熟卵子率はどうだったか
  • AMH値はどれくらいで、前回と比べて変化したか
  • 刺激法や採卵プロトコルの変更を試みたことがあるか
  • DHEA・CoQ10等のサプリメントについて担当医に相談したことがあるか

精子の質に関するチェック

  • 直近の精液検査の結果(精子濃度・運動率・形態)はどうだったか
  • 精子DNA断片化検査(SCSA・TUNEL法)を受けたことがあるか
  • 喫煙・多量飲酒・長時間の坐業・高温環境への暴露など精子質低下の要因がないか

培養環境に関するチェック

  • タイムラプス培養を実施しているか
  • 三ガス(低酸素)培養に対応しているか
  • 胚盤胞まで育てた場合の到達率はどれくらいか

着床障害が疑われる場合の受診目安

以下に該当する場合は、着床障害の原因を包括的に評価する専門的な検査(ERA・EMMA・ALICE・子宮鏡・免疫検査等)と並行して、胚の質の再評価を担当医に相談することが勧められます。

  • 良好胚(BB以上)を3回以上移植しても妊娠に至らない
  • 受精率・胚盤胞到達率が連続して低い(受精率50%未満、胚盤胞到達率30%未満など)
  • 移植できる胚盤胞が毎回得られない
  • 精液検査で異常が指摘されているが精子DNA断片化を調べていない
  • AMH低値(0.5 ng/mL以下)・38歳以上で複数回採卵しても良好胚が得られない

どのタイミングで追加検査や治療法変更を検討するかは、施設の方針や患者ごとの状況によって異なります。「なぜ移植が続いているのか」「次のステップは何か」を担当医に明確に確認することが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q1. グレードが低い胚でも妊娠できますか?

BCやCB程度のグレードでも妊娠・出産に至った例は報告されています。ただし、グレードが下がるほど着床率が低くなる傾向があるとされており、複数回移植を重ねることが必要になる場合が多いとされています。担当医と移植するかどうかの判断を丁寧に行うことが重要です。

Q2. 胚の質と流産率の関係はありますか?

胚の染色体異常が流産の主な原因のひとつとされています。形態的には良好に見えるAAグレードの胚でも染色体異常が含まれることがあり、特に高齢女性ではその割合が高まるとされています。PGT-Aはこの問題へのアプローチのひとつですが、日本では実施できる施設や適応に制限があります。

Q3. DHEA・CoQ10は誰にでも効果がありますか?

DHEA・CoQ10ともに全ての方に効果があるわけではありません。DHEAは主に低卵巣予備能(低AMH・低AFC)の方に有益とする研究が多く、正常予備能の方への効果はまだ明確ではありません。CoQ10についても同様に、高齢・低予備能例での研究が中心です。いずれも自己判断での開始ではなく、担当医に相談してから使用することをお勧めします。

Q4. タイムラプス培養を選ぶと妊娠率は上がりますか?

タイムラプス培養は胚を観察する際のストレスを減らし、より詳細な胚発育の評価が可能になるとされています。一方で、タイムラプス培養を用いること自体が妊娠率を大きく改善するかについては、研究によって結果が異なります。主な利点は「より情報量の多い胚選択が可能になること」と考えるのが現時点では妥当です。

Q5. 精子DNA断片化率が高い場合、どんな検査や治療がありますか?

精子DNA断片化率が高い(目安として15〜25%以上)と判断された場合、まず生活習慣の改善(禁煙・アルコール控え・抗酸化サプリ・陰嚢の過熱回避)が検討されます。それでも改善しない場合は、射出精液よりDNA断片化率が低いとされる精巣精子を用いたTESA-ICSI(精巣内精子回収法)が選択肢になることがあります。泌尿器科・男性不妊専門医への相談が有効です。

Q6. PGT-Aは全員に勧められる検査ですか?

PGT-Aは反復着床失敗(良好胚を3回以上移植しても妊娠しない)や習慣流産などに対して実施される検査で、全患者に推奨される標準検査ではありません。日本では2022年以降、日本産科婦人科学会の指針のもとで実施施設が広がっていますが、費用・適応・倫理的問題について担当医との十分な話し合いが必要です。

Q7. 着床障害の検査と胚の質の評価はどちらを先にすべきですか?

どちらか一方を先行させるより、並行して評価を進めることが効率的とされています。ERA(子宮内膜着床能検査)・子宮鏡・免疫検査などの子宮側の評価と、精子DNA断片化・卵子予備能の再評価・刺激法の見直しを同時に担当医に相談することをお勧めします。

まとめ

胚の質と着床障害の関係を理解する上でのポイントを整理します。

  • 胚盤胞の形態評価(ガードナー分類AA〜CC)はグレードにより妊娠率に差があるとされますが、形態評価だけでは染色体正常性は判断できません
  • 胚の質は「卵子の質(年齢・AMH・刺激法)」「精子の質(DNA断片化率・形態)」「培養環境(タイムラプス・培養液・酸素濃度)」の3因子が影響します
  • 改善アプローチ(DHEA・CoQ10・成長ホルモン・精子DNA対策・PGT-A等)は症例によって有効性が異なるため、担当医との相談のもとで検討することが重要です
  • 良好胚を複数回移植しても妊娠に至らない場合は、子宮側の着床能検査と並行して胚の質の再評価を積極的に依頼しましょう

次のステップへ

胚の質に関する疑問や不安は、1回の外来では解決しにくいテーマです。「なぜ着床しないのか」「次の採卵・移植でできることは何か」を担当医に具体的に確認することが第一歩です。

セカンドオピニオンを検討することも選択肢のひとつです。特に反復着床失敗を経験されている方は、生殖医療専門施設(日本生殖医学会認定施設)での再評価を受けることで、新たな選択肢が見つかることがあります。

妊活・不妊治療に関するクリニック選びや検査の流れについては、関連記事もあわせてご参照ください。


【免責事項】本記事は医療情報の提供を目的としており、特定の診断・治療を推奨するものではありません。記載の数値・エビデンスは執筆時点(2026年4月)のものであり、医学の進歩により変化する可能性があります。個別の治療方針については必ず担当医にご相談ください。

【参考文献】Gardner DK et al. "Blastocyst score affects implantation and pregnancy outcome." Hum Reprod. 2000. / Harton GL et al. "Diminished effect of maternal age on implantation after preimplantation genetic diagnosis." Fertil Steril. 2013. / Lewin A et al. "DHEA supplementation in older women: a positive effect on reproductive outcome." J Assist Reprod Genet. 2012. / Zini A et al. "Sperm DNA damage is associated with an increased risk of pregnancy loss." Hum Reprod. 2008. / 日本生殖医学会「生殖医療ガイドライン」2023年版.

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この記事を書いた人

EggLink編集部

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公開:2026/4/19更新:2026/4/28