
死産後、出産と同じように母乳が分泌されることがあります。赤ちゃんに授乳する機会がないにもかかわらず乳房が張り、痛みを伴うこの状態は、身体的にも精神的にも大きな負担です。この記事では、死産後の母乳分泌への対処法として、乳房ケアの具体的な方法と止乳(母乳分泌を止める処置)の選択肢を解説します。
この記事のポイント
- 死産後に母乳が出る理由と身体のメカニズム
- 自宅でできる乳房ケアの具体的な方法
- 止乳薬の種類・効果・使用上の注意点
死産後に母乳が出る理由|ホルモンの仕組み
母乳の分泌は、妊娠中に増加したプロラクチン(乳汁分泌ホルモン)によって引き起こされます。妊娠中はエストロゲンとプロゲステロンが母乳分泌を抑制していますが、胎盤の娩出(分娩)によりこれらのホルモンが急激に低下し、プロラクチンの作用が優位になって母乳が産生され始めます。
ホルモン変化のタイムライン
時期 | ホルモンの変化 | 乳房の状態 |
|---|---|---|
分娩直後 | エストロゲン・プロゲステロン急低下 | 初乳の少量分泌が始まる |
分娩後2〜3日 | プロラクチンが優位に | 乳房が張り始める(乳房緊満) |
分娩後3〜5日 | 母乳分泌のピーク | 最も張りと痛みが強い時期 |
分娩後1〜2週間 | 授乳しなければプロラクチン低下 | 徐々に分泌が減少 |
この変化は、妊娠週数が20週以降であれば死産・生産にかかわらず起こりうるものです。妊娠週数が早いほど分泌量は少ない傾向にありますが、個人差が大きいことを知っておいてください。
乳房ケアの基本|痛みと張りへの対処法
母乳分泌を止めるためには「乳房を刺激しない」ことが最も重要な原則です。授乳や搾乳による乳頭刺激はプロラクチンの分泌を促し、かえって母乳の産生を持続させてしまいます。
自宅でできるケアの方法
方法 | 具体的なやり方 | 注意点 |
|---|---|---|
冷やす | 保冷剤をタオルで包み、乳房にあてる(1回15〜20分) | 直接皮膚にあてると凍傷のリスク |
サポートブラの着用 | 乳房を適度に圧迫するスポーツブラやサラシで固定 | 締め付けすぎると血行不良に |
痛み止めの使用 | アセトアミノフェンやイブプロフェン(市販薬でも可) | 用法・用量を守り、持続する場合は受診 |
圧抜き(最小限の搾乳) | 乳房が硬くなり痛みが強い場合のみ、張りが楽になる程度に少量搾る | 搾りすぎると分泌が促進される |
やってはいけないこと
- 乳房マッサージ:刺激により母乳分泌が促進されるため逆効果
- 温めること:温湿布やシャワーの直当ては乳汁分泌を促す。張りがつらい時は冷やすのが基本
- 完全に搾り切ること:搾乳は「乳房が必要とされている」というシグナルとなり、分泌が持続する
止乳薬(母乳分泌抑制薬)の選択肢
乳房ケアだけでは張りや痛みが強い場合、医師の処方により止乳薬を使用することができます。止乳薬はプロラクチンの分泌を抑制することで、母乳の産生を速やかに止める効果があります。
主な止乳薬
薬剤名 | 投与方法 | 効果発現 | 主な副作用 |
|---|---|---|---|
カベルゴリン(カバサール) | 内服(通常1回投与) | 24〜48時間で効果が現れ始める | めまい、頭痛、吐き気 |
ブロモクリプチン(パーロデル) | 内服(数日〜2週間) | 2〜3日で効果 | 吐き気、起立性低血圧、頭痛 |
カベルゴリンとブロモクリプチンの比較
カベルゴリンは1回の内服で効果が期待できるため、服薬の負担が少ない点が利点です。一方、ブロモクリプチンは複数日の服用が必要ですが、長い使用実績があります。どちらを選択するかは、担当医の判断と患者さんの状態によって決まります。
止乳薬を使用する際の注意点
- 自己判断で使用しない:必ず医師の処方のもとで使用する
- 高血圧の方:ブロモクリプチンは血圧に影響する場合があるため、高血圧既往のある方は医師に伝える
- 運転への影響:めまいが起こることがあるため、服用当日は車の運転を控える
- 効果が不十分な場合:1回の投与で完全に止まらないこともあり、追加投与や乳房ケアの継続が必要な場合がある
乳房トラブルへの対応|乳腺炎のリスクと対処
母乳を出さずに分泌を止める過程で、乳汁がうっ滞し乳腺炎を起こすリスクがあります。乳腺炎の兆候を早期に認識し、適切に対応することが重要です。
乳腺炎のサイン
- 乳房の一部が赤く腫れ、熱を持つ
- 触ると強い痛みがある
- 38°C以上の発熱
- 全身の倦怠感やインフルエンザ様の症状
乳腺炎が疑われる場合の対応
- 受診する:産婦人科または乳腺外来を当日中に受診
- 抗生剤の内服:細菌性乳腺炎と診断された場合は抗生剤が処方される
- 患部を冷やす:炎症を抑えるために冷罨法を継続
- 適度な排乳:乳腺炎の場合は、うっ滞を解消するためにある程度の搾乳が必要になることがある
心のケア|身体の変化と向き合うために
死産後の母乳分泌は、悲しみの中にある方にとって非常につらい経験です。「赤ちゃんがいないのに母乳が出る」という状況は、喪失感を一層強めることがあります。この感情は自然なものであり、つらいと感じることに罪悪感を持つ必要はありません。
心のケアのためにできること
- 一人で抱え込まない:パートナーや家族に身体の状態を伝え、サポートを求める
- 医療者への相談:担当の産婦人科医や助産師に、母乳ケアの方針と心理面の両方について相談する
- グリーフケアの利用:周産期喪失を経験した方を対象としたカウンセリングや自助グループ
- 身体の回復に時間をかける:乳房の張りは通常1〜2週間で落ち着くが、完全に分泌が止まるまで数週間かかることもある
相談先一覧
相談先 | 内容 |
|---|---|
担当産婦人科・助産師 | 乳房ケアの方法、止乳薬の処方 |
周産期グリーフケア外来 | 死産後の心理的サポート |
天使ママの会等の自助グループ | 同じ経験をした方との交流 |
精神保健福祉センター | メンタルヘルス全般の相談 |
死産後の母乳ケアに関するよくある質問
Q. 母乳はいつ止まりますか?
A. 乳房を刺激しなければ、通常1〜2週間で張りと分泌は大幅に減少します。完全に止まるまでには個人差がありますが、2〜4週間程度が一般的です。止乳薬を使用した場合はより早く収まることがあります。
Q. 止乳薬は必ず使う必要がありますか?
A. 必須ではありません。乳房ケア(冷却、サポートブラ、鎮痛剤)だけでも自然に分泌は止まります。止乳薬は張りや痛みが強い場合や、速やかに止めたい場合の選択肢です。担当医と相談して決めてください。
Q. 母乳を搾って保管し、寄付することはできますか?
A. 母乳バンクへの寄付は、一定の条件を満たせば可能な場合があります。日本ではまだ母乳バンクの数が限られていますが、一般社団法人日本母乳バンク協会が窓口となっています。寄付を希望する場合は同協会に問い合わせてみてください。
Q. 妊娠週数が早くても母乳は出ますか?
A. 妊娠16〜20週以降の死産・流産では母乳分泌が起こる可能性があります。妊娠週数が早いほど量は少ない傾向にありますが、個人差があります。
Q. 乳房の張りがとても痛いです。何か良い方法はありますか?
A. 保冷剤で冷やすこと、鎮痛剤(アセトアミノフェンまたはイブプロフェン)の使用、サポートブラの着用が基本です。それでも痛みが強い場合は、ごく少量の圧抜き搾乳を行うか、止乳薬の処方について担当医に相談してください。
Q. 止乳薬を飲んだ後も少し母乳が出ます。異常ですか?
A. 異常ではありません。止乳薬は分泌を「急速に減少」させますが、即座に完全停止するわけではありません。少量の分泌が数日〜1週間程度続くことは珍しくありません。量が増える場合は担当医に相談してください。
まとめ
死産後の母乳分泌は、ホルモンの自然な変化により起こるものです。乳房ケアの基本は「刺激しない・冷やす・適度に圧迫する」の3点であり、痛みが強い場合は止乳薬の使用も検討できます。乳腺炎のサイン(発赤、熱感、発熱)が現れた場合は速やかに受診してください。
身体のケアだけでなく、心のケアも同じくらい大切です。つらいと感じたら一人で抱え込まず、担当医、助産師、グリーフケア専門家に相談してください。
※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としています。止乳薬の使用や乳房トラブルへの対応については、必ず担当の産婦人科医または助産師にご相談ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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