
子宮頸管縫縮術とは、妊娠中に子宮の出口(頸管)が早期に開いてしまう「子宮頸管無力症」に対して、頸管を糸で縛って閉じる手術です。切迫流産・切迫早産を防ぐ目的で行われ、妊娠12〜14週頃に実施されるのが一般的です。手術にはシロッカー法とマクドナルド法の2種類があり、それぞれ縫合の位置や深さが異なります。成功率は80〜90%程度とされ、多くの方が正期産まで妊娠を継続できています。本記事では、手術の仕組み・流れ・術後の注意点までを、わかりやすく解説します。
子宮頸管縫縮術とは何か
子宮頸管縫縮術は、妊娠中に子宮の出口が開くのを防ぐために、頸管を糸で物理的に縛る手術です。
手術が必要になる背景
子宮頸管は通常、出産が近づくまでしっかり閉じています。しかし「子宮頸管無力症」と呼ばれる状態では、痛みや自覚症状がほとんどないまま、妊娠中期に頸管が短くなったり開いたりしてしまいます。
たとえるなら、巾着袋の紐がゆるんで中身がこぼれそうになっている状態です。子宮頸管縫縮術は、この紐をきゅっと結び直す手術にあたります。
対象となる方
- 過去に妊娠中期の流産・早産を経験した方
- 超音波検査で頸管長の短縮(25mm未満)が確認された方
- 子宮頸管無力症と診断された方
- 円錐切除術など子宮頸部の手術歴がある方
なお、破水が起きている場合や、絨毛膜羊膜炎(子宮内の感染症)を合併している場合には、原則として手術は行われません。
シロッカー法とマクドナルド法の違い
子宮頸管縫縮術には主に2つの術式があり、頸管のどの位置を縛るかで使い分けられます。
比較項目 | シロッカー法 | マクドナルド法 |
|---|---|---|
縫合の位置 | 頸管の内側(内子宮口に近い位置) | 頸管の外側(外子宮口に近い位置) |
縫合の深さ | 粘膜を切開して深く縫合 | 粘膜表面を巾着状に縫合 |
麻酔 | 腰椎麻酔または全身麻酔 | 腰椎麻酔が多い |
手術時間 | 約30〜60分 | 約15〜30分 |
固定力 | 強い(より内側で支えるため) | やや弱い |
抜糸 | 妊娠36〜37週頃(帝王切開の場合は抜糸しないこともある) | 妊娠36〜37週頃 |
主な適応 | 頸管無力症の既往が明確な方、予防的に行う場合 | 頸管短縮が進行中で緊急性がある場合 |
入院期間 | 約5〜7日 | 約3〜5日 |
シロッカー法は頸管のより奥を縛るため固定力が強く、予防目的で計画的に行われることが多い術式です。一方、マクドナルド法は手技が比較的簡便で、頸管が開きかけている緊急時にも対応しやすい特徴があります。どちらの術式を選ぶかは、頸管の状態や過去の妊娠歴をもとに担当医が判断します。
手術のタイミング
子宮頸管縫縮術は、妊娠12〜14週が最も一般的な実施時期とされています。
なぜこの時期なのか
妊娠12週を過ぎると初期流産のリスクが低下し、胎盤が安定し始めます。一方、妊娠16週を超えると子宮が大きくなり手術の難易度が上がるため、12〜14週が「手術に最も適した時期」とされています。
予防的手術と緊急手術
- 予防的縫縮術(待機的):過去の流産・早産歴から頸管無力症が予測される場合、妊娠12〜14週に計画的に実施します。
- 緊急縫縮術:妊娠中の定期検診で頸管の短縮や開大が見つかった場合、妊娠24週頃までなら実施可能です。ただし、週数が進むほど手術のリスクは高まります。
予防的に行ったほうが成功率は高い傾向にあるため、過去に頸管無力症の経験がある方は、妊娠初期の段階で担当医に相談することが重要です。
手術の流れ
手術自体は比較的短時間で終わりますが、術前の準備から術後の安静期間まで含めた全体像を把握しておくと安心です。
術前の準備
- 血液検査・尿検査・超音波検査で母体と胎児の状態を確認
- 感染症がないか膣内の細菌検査を実施
- 手術前日に入院し、絶飲食の指示を受ける
手術当日
- 麻酔:腰椎麻酔(下半身麻酔)が一般的。シロッカー法では全身麻酔が選択されることもある
- 縫合:膣から器具を入れ、子宮頸管を糸で縛る。手術時間はマクドナルド法で約15〜30分、シロッカー法で約30〜60分
- 術後の確認:超音波検査で胎児の心拍を確認し、出血や子宮収縮の有無をチェック
術後から退院まで
- 手術当日〜翌日はベッド上安静
- 子宮収縮抑制剤(張り止め)の点滴・内服を開始
- 経過が順調であれば3〜7日程度で退院
- 退院後は自宅安静を続け、定期的に外来で頸管の状態を確認
抜糸のタイミング
妊娠36〜37週頃に抜糸を行います。抜糸は外来で可能な場合が多く、数分で終了します。抜糸後は自然に陣痛が始まるのを待ちますが、すぐに分娩が始まるとは限りません。帝王切開が予定されている場合は、抜糸せずにそのまま手術に臨むこともあります。
成功率とリスク
子宮頸管縫縮術の成功率(正期産到達率)は80〜90%程度と報告されており、多くの方が妊娠を継続できています。
成功率に影響する要因
- 手術のタイミング:予防的に行う場合のほうが成功率は高い。緊急手術では60〜70%程度に低下するとの報告がある
- 頸管の開大度:手術時点で頸管が大きく開いているほど、成功率は下がる傾向にある
- 感染の有無:膣内や子宮内に感染がある場合、術後の合併症リスクが上昇する
- 双胎妊娠:双子の場合は子宮への負担が大きく、単胎に比べ早産のリスクが高くなる
手術に伴うリスク・デメリット
- 破水:手術操作により卵膜が損傷し、前期破水を起こす可能性がある
- 感染:縫合部位から細菌感染が起きることがある。発熱や異常なおりものに注意が必要
- 子宮収縮の誘発:手術の刺激で子宮が収縮し、切迫早産につながる場合がある
- 頸管裂傷:陣痛が始まった状態で抜糸が間に合わないと、頸管が裂ける危険がある
- 出血:術中・術後に少量の出血が見られることがある(多くは自然に止まる)
リスクはゼロではありませんが、頸管無力症を放置した場合の流産・早産リスクと比較して、手術による利益が上回ると判断された場合に実施されます。
術後の生活と注意点
手術後は「いかに子宮への負担を減らして妊娠を維持するか」が最も大切です。
安静度の目安
- 退院後1〜2週間:自宅で安静に過ごす。家事は最小限にとどめる
- その後:担当医の許可が出れば、軽い日常動作は可能。ただし、重いものを持つ・長時間立ち続けるといった行為は避ける
- 就労:職場復帰のタイミングは主治医と相談。デスクワークであっても、通勤の負担を考慮する必要がある
張り止め(子宮収縮抑制剤)の服用
術後はリトドリンやウテメリンなどの子宮収縮抑制剤が処方されることが一般的です。動悸や手の震えなどの副作用が出る場合がありますが、自己判断で中止せず、つらい場合は担当医に相談してください。
受診が必要なサイン
- 規則的なお腹の張りや痛みが続く
- 出血量が増える、または鮮血が出る
- 水っぽいおりものが大量に出る(破水の可能性)
- 38度以上の発熱
- 悪臭のあるおりもの
これらの症状が見られた場合は、時間帯を問わずかかりつけの産婦人科に連絡してください。
専門家・学会の見解
日本産科婦人科学会のガイドラインでは、子宮頸管縫縮術は頸管無力症に対する標準的な治療法として位置づけられています。
日本産科婦人科学会の見解
「産婦人科診療ガイドライン―産科編」では、頸管無力症の既往がある妊婦に対して、妊娠初期からの経腟超音波による頸管長測定と、必要に応じた予防的頸管縫縮術の実施が推奨されています。特に、前回妊娠で頸管無力症による流産・早産歴がある場合は、予防的手術の検討が強く勧められています。
海外のガイドライン
米国産婦人科学会(ACOG)も、頸管無力症の既往がある単胎妊婦に対する予防的縫縮術を推奨しています。また、英国のNICE(国立医療技術評価機構)のガイドラインでは、頸管長が25mm未満に短縮した場合の治療選択肢として、縫縮術と腟内プロゲステロン投与の両方が検討対象とされています。
最新の知見
近年の研究では、頸管縫縮術と腟内プロゲステロン製剤の併用が、単独治療よりも早産予防に有効である可能性が報告されています。ただし、エビデンスはまだ十分とはいえず、個々の患者の状態に応じた判断が必要です。
よくある質問
Q. 子宮頸管縫縮術は痛いですか?
手術は麻酔下で行うため、術中の痛みはありません。術後に軽い下腹部痛や違和感を覚える方がいますが、鎮痛剤でコントロール可能な範囲です。通常、数日で痛みは落ち着きます。
Q. 手術後は絶対安静が必要ですか?
退院直後は安静が推奨されますが、「ベッドから一切動けない」という意味ではありません。トイレや食事、シャワーなどの日常動作は可能です。ただし、経過によっては入院安静が長引く場合もあるため、担当医の指示に従ってください。
Q. 次の妊娠でも手術が必要ですか?
頸管無力症は体質的な要因が大きいため、次の妊娠でも再発する可能性があります。過去に縫縮術を受けた方は、次の妊娠時に早い段階で担当医に伝え、予防的手術の必要性を相談することが大切です。
Q. 手術をしても早産になることはありますか?
はい、あり得ます。成功率は80〜90%程度であり、すべての早産を防げるわけではありません。感染症の合併や多胎妊娠など、頸管無力症以外の要因で早産になるケースもあります。手術後も定期的な検診を欠かさないことが重要です。
Q. 抜糸は痛いですか?
マクドナルド法の抜糸は外来で行えることが多く、所要時間も数分程度です。痛みは個人差がありますが、多くの方は「チクッとした程度」と感じています。シロッカー法の場合は、縫合が深い分やや痛みを感じることがあり、麻酔を使用して抜糸するケースもあります。
Q. 費用はどのくらいかかりますか?
子宮頸管縫縮術は健康保険が適用されます。3割負担の場合、手術費用は約3〜5万円が目安です。ただし、入院費・麻酔費・薬剤費などを含めた総額は10〜20万円程度になることがあります。高額療養費制度の対象にもなるため、事前に限度額適用認定証を取得しておくと窓口負担を抑えられます。
Q. 縫縮術と腟内プロゲステロン、どちらが良いですか?
両者は異なるアプローチであり、優劣は一概にいえません。頸管無力症の既往が明確な場合は縫縮術が第一選択とされることが多く、頸管短縮のみが見られる場合は腟内プロゲステロンが選択されることもあります。担当医と状況に応じた判断が必要です。
Q. 手術後に性行為はできますか?
術後の性行為は原則として控えるよう指導されます。感染リスクの増加や子宮収縮の誘発につながる可能性があるためです。再開の時期については担当医に確認してください。
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※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。症状や治療については、必ず担当医にご相談ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
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