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流産の孤独感|理解されない悲しみ

2026/4/19

流産の孤独感|理解されない悲しみ

流産後に感じる孤独感は、あなたの心が弱いからではありません。「誰にもわかってもらえない」「悲しんでいいのかすらわからない」——そう感じている人は、実はとても多い。流産の悲しみが社会的に認められにくい構造的な理由があり、その孤独は必然的に生まれるものです。この記事では、孤独感が強まる具体的な場面ごとの対処法と、同じ経験をした人たちとつながる方法を紹介します。

流産の孤独感はなぜ生まれるのか——「公認されない悲嘆」という概念

流産後の孤独感の多くは、社会的に悲しみを認めてもらえないことから生まれます。「公認されない悲嘆(disenfranchised grief)」と呼ばれる心理学的な概念であり、当然感じてよい悲しみが、周囲の無理解によって封じ込められる状態を指します。

「公認されない悲嘆」とは何か

1989年にケネス・ドカ(Kenneth Doka)が提唱した概念です。喪失体験を持つ人が、社会的な儀式や承認を得られないために、悲しみを表現する場所を持てなくなる状態を指します。

流産は、この典型的な例のひとつ。亡くなった赤ちゃんには葬儀も戒名もなく、職場への連絡さえしていない場合は忌引き休暇も取れません。「まだ赤ちゃんとは言えなかったから」「早くて良かったじゃない」という言葉は、善意であっても悲しみを否定する機能を持っています。

なぜ流産の悲しみは認められにくいのか

  • 妊娠を公表していないケースが多い:12週前の流産が多く、妊娠を知っている人が限られる
  • 目に見える喪失がない:お腹の外に存在しない命は、他者からは「実感」されにくい
  • 「また妊娠できる」という言葉の構造:未来を示す励ましが、今の悲しみを無効化してしまう
  • 流産の医学的「ありふれさ」:妊娠全体の15〜20%が流産で終わるという統計が、個別の喪失を矮小化する

これらは社会の「悪意」ではなく、流産に関するリテラシーが社会全体で低いことが原因です。孤独を感じるのは、あなたが弱いからでも、悲しみすぎているからでもありません。構造的な問題です。

孤独感が強まる場面ランキングと、その対処法

流産経験者へのサポートグループでの聞き取りや国内外の研究から、孤独感が特に強まる場面には共通のパターンがあります。自分が「なぜこの瞬間につらくなるのか」を知るだけで、少し楽になることもあります。

第1位:職場への復帰直後

「何事もなかったように」仕事に戻ることを求められる感覚が、孤独感を一気に強めます。周囲は事情を知らないまま普通に接してくれているのに、自分だけが喪失を抱えている——このギャップが深刻な孤立感を生みます。

対処のヒント:信頼できる上司または同僚1人だけに伝える選択肢があります。「全員に話す」か「誰にも話さない」の二択ではなく、「1人だけ理解者を作る」という中間の選択肢が有効です。その1人がいるだけで、職場での孤立感は大きく違ってくるでしょう。

第2位:家族やパートナーの「切り替えの早さ」

パートナーや家族が「前向きに考えよう」「次があるよ」と比較的早く立ち直るように見える場面で、孤独感は深まりやすい。悲しみのペースは人それぞれで、パートナーが先に立ち直ったとしても、あなたの悲しみが「おかしい」わけではありません。

対処のヒント:「あなたはもう大丈夫なの?」と比べるのではなく、「私はまだ悲しい、一緒にいてほしい」と具体的に伝えてみましょう。相手が気持ちを察せないのは愛情の欠如ではなく、悲しみの表現方法の違いです。

第3位:SNSの妊娠・出産報告

エコー写真、マタニティフォト、出産報告——スクロールするたびに目に入るこれらの投稿が、流産後の傷口に触れます。「おめでとう」とコメントしなければいけない状況が、自分の感情を裏切るように感じられることもあるでしょう。

対処のヒント:SNSのミュート・非表示機能を積極的に使うことは、決して逃げではありません。特定のキーワード(「妊娠」「出産」「マタニティ」など)をミュートする設定も活用できます。自分の心を守ることは、回復の第一歩です。

第4位:命日・予定日・記念日

流産した日、本来の出産予定日、妊娠検査薬で陽性が出た日——これらの「記念日反応(anniversary reaction)」は、時間が経っても繰り返し訪れます。周囲がすっかり忘れた頃に、自分だけがその日を重く感じることの孤独さは、想像以上に深いものがあります。

対処のヒント:その日をひとりで過ごさなくていい方法を、あらかじめ決めておくことが助けになります。信頼できる人との予定を入れる、好きなことをする日と決める、あるいはオンラインのピアサポートグループで話すなど、自分なりの「その日の過ごし方」を持っておきましょう。

「誰かと話したい」——ピアサポートグループという選択肢

同じ経験をした人たちと話すことで、孤独感は大きく和らぎます。専門家の治療とは異なる、「経験者だからこそ分かる共感」がそこにはあります。日本にも複数のピアサポートグループが存在し、今すぐ参加できる場所も。

天使の保護者「ルカの会」

流産・死産・新生児死を経験した家族を対象とした自助グループです。オンラインでの分かち合いの会を定期的に開催しており、初めて参加する方向けのガイダンスも丁寧に行われています。

  • 参加形式:オンライン(Zoom)での分かち合いの会
  • 対象:流産・死産・新生児死を経験した方とそのご家族
  • 特徴:話すだけでなく、「聴く」ことを大切にした場づくり

SIDS家族の会・ポコズママの会

「ポコズママの会」は、流産・死産を経験したお母さんたちが集まるコミュニティ。全国各地での対面グループと、オンライングループの両方が存在します。ひとりで悩んでいた時間を、同じ経験者と分かち合える場所と言えます。

  • 活動:月1回の定例分かち合い会、SNSコミュニティ
  • 参加方法:ウェブサイトから事前申込み(匿名可)
  • 費用:無料(任意の寄付制)

産院・不妊クリニックのサポートグループ

大学病院や不妊専門クリニックの一部では、心理士が同席するグリーフサポートグループを開催しています。かかりつけ医に「流産後のサポートグループはありますか?」と尋ねてみることが最初の一歩です。

パートナーや家族への伝え方——孤独感を減らすコミュニケーション

「わかってもらえない」と感じる前に、どう伝えれば伝わりやすいかを知っておくと、関係性への絶望を少し手放しやすくなります。

「何をしてほしいか」を具体的に伝える

「わかってほしい」という訴えは、相手にとって何をすれば良いのかが見えにくい。「一緒にいてほしい」「話を聞いてほしいだけで、アドバイスはいらない」「あの日だけは普通の話をしたい」など、行動レベルで伝えると伝わりやすくなります。

パートナーも別の形で傷ついている可能性

2020年のBMJ Open誌に掲載された研究では、流産後のパートナーも約30%にPTSD症状、約22%に不安症状が見られたと報告されています。「あなたは大丈夫そうに見えるから羨ましい」ではなく、「あなたはどう感じているの?」と聞いてみると、互いの孤独が少し解ける場合があります。

「何も言わない日」があっていい

毎日、気持ちを言語化する必要はありません。「今日は話せない」と伝えるだけで、それが立派なコミュニケーションです。無理に言葉にしないことも、心を守る方法のひとつです。

専門家に頼るタイミング——セルフケアの限界を知る

孤独感や悲しみが強く、日常生活に影響が出ている場合は、専門家のサポートを受けることを検討しましょう。「もっと頑張れば自分で乗り越えられる」と思い込む必要はありません。

専門家への相談が勧められるサイン

  • 流産から3カ月以上経過しても、悲しみの強度が変わらない
  • 食欲不振・不眠・集中力低下が続いている
  • 「もう妊娠したくない」「自分が悪かった」という考えが頭から離れない
  • パートナーや家族との関係が著しく悪化している

相談できる窓口

窓口

内容

費用

産婦人科・不妊クリニックの心理士

流産後のグリーフカウンセリング

保険適用外(3,000〜1万円/回)

よりそいホットライン(0120-279-338)

24時間・無料・匿名で話せる

無料

民間カウンセラー(公認心理師)

継続的な心理サポート

5,000〜1万5,000円/回

「また妊娠を考えるとき」の孤独感との付き合い方

次の妊娠を考え始めたとき、新たな形の孤独が生まれることがあります。「喜んでいいのかわからない」「怖くて誰にも言えない」——これは流産後妊娠の方に非常によく見られる感覚で、「虹色妊娠(rainbow pregnancy)」と呼ばれることもあります。

喜びと不安が同時に存在してもよい

流産後の妊娠で「素直に喜べない」自分を責めないでください。喜びと不安は、どちらかが正解というものではありません。両方の感情が同時に存在することは、医学的にも心理学的にも正常な反応として認識されています。

「また話さないでおこう」という選択の孤独

再び妊娠しても、前回の経験から誰にも話さずにいる方は少なくありません。しかしその「ひとりで抱える」孤独が、次の妊娠期間をつらくします。信頼できる人、またはピアサポートグループとつながっておくことが、この時期には特に助けになります。


よくある質問(FAQ)

Q. 流産してから何カ月も経つのに、まだ悲しい。おかしいですか?

おかしくありません。流産後の悲嘆に「終わるべき期間」はありません。英国王立産婦人科学会(RCOG)のガイドラインでも、流産後の悲嘆は「予期せぬタイミングで再び強くなることがある」と明記されています。ただし、悲しみが日常生活を長期間にわたって妨げている場合は、専門家への相談を検討しましょう。

Q. 周りの人に「もう大丈夫でしょ」と言われる。どう返せばいい?

「そうだといいんだけど、まだ時間がかかりそう」と、無理に元気を装わずに答えて構いません。相手を傷つけたくない気持ちはわかりますが、自分の感情を偽り続けることのほうが、長期的には孤独感を深めます。

Q. パートナーが「前向きに考えよう」とばかり言って、全然わかってくれません。

多くのパートナーは「問題を解決しよう」という思考が働くため、悲しみを共有するより早く「解決策」を出そうとします。「解決策じゃなくて、ただ話を聞いてほしい」と明示的に伝えることが効果的です。必要なら、カップルカウンセリングも選択肢のひとつでしょう。

Q. SNSが辛い。でも友人の近況が気になってやめられません。

完全にやめる必要はありません。特定のキーワードや特定の人をミュートする設定を活用しながら、「自分を守る使い方」に切り替えましょう。SNS上での義理(いいねやコメント)は、今は後回しにしても大丈夫です。

Q. 流産後のグリーフカウンセリングを受けたいが、お金が心配です。

よりそいホットライン(0120-279-338)は24時間無料で利用可能です。また、自治体によっては、保健師や助産師への無料相談窓口を持つところもあります。かかりつけの産婦人科や不妊クリニックに「無料または低コストで相談できる場所を教えてほしい」と尋ねることから始めると、地域の情報を得やすいでしょう。

Q. 流産経験者のコミュニティに入るのは、また辛い話を聞いて余計つらくなりませんか?

心配になる気持ちは自然です。多くのピアサポートグループでは、「話したくない日は聞くだけでよい」「つらくなったらその場を離れてよい」というルールが設けられています。参加前に運営者に不安を伝えておくと、より安心して場に入れるでしょう。

Q. 流産を誰にも話していない。職場にも理由を偽って休んだ。後ろめたい気持ちがあります。

後ろめたく感じる必要はありません。流産をどこまで話すかは、完全にあなた自身が決めてよいことです。話さない選択をしたことは、自分を守るための判断であり、誰かを傷つけてはいません。その選択を責めないでください。

Q. 流産後、夫婦関係が少しぎくしゃくしています。これは珍しいことですか?

珍しくありません。前述のBMJ Open誌の研究では、流産後カップルの一定割合で、お互いの悲しみのタイミングのずれがコミュニケーションの難しさにつながると報告されています。流産後に夫婦関係が揺らぐことは、愛情の問題ではなく、悲しみの表れ方の違いによることがほとんどです。


まとめ

流産の孤独感は、あなたが弱いから感じるのではありません。「公認されない悲嘆」という概念が示すように、社会的な構造がその孤独を生み出しています。職場・家族・SNS・記念日という具体的な場面ごとに、孤独感への対処法も存在する。同じ経験をした人とつながるピアサポートグループは、専門的な治療とは異なる「共感の場」。ひとりで抱え込まなくていい選択肢が、確かにあります。

次のステップ

もし今、誰かに話を聞いてもらいたいと感じているなら、まずよりそいホットライン(0120-279-338、24時間・無料)に電話することから始められます。また、流産後のメンタルケアや次の妊娠に向けたサポートについて、産婦人科でじっくり相談してみることもひとつの選択肢です。あなたのペースで、少しずつ。


参考文献

  1. Doka KJ. Disenfranchised Grief: Recognizing Hidden Sorrow. Lexington Books, 1989.
  2. Regan L, et al. "The management of early pregnancy loss." RCOG Green-top Guideline No.25. Royal College of Obstetricians and Gynaecologists, 2006.
  3. Farren J, et al. "Post-traumatic stress, anxiety and depression following miscarriage or ectopic pregnancy: a prospective cohort study." BMJ Open. 2016;6(11):e011864.
  4. Farren J, et al. "The impact of miscarriage on the psychosexual wellbeing of men and their partners: a multi-centre prospective observational study." BMJ Open. 2020;10(10):e039528.
  5. 日本産科婦人科学会. 「流産・早産」. 2023年版ガイドライン.

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※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。症状や治療については、必ず担当医にご相談ください。

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この記事を書いた人

EggLink編集部

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公開:2026/4/19更新:2026/4/28