
流産後に「仕事の休みはどうなるの?」「健康保険の給付はもらえるの?」と疑問を持っても、法律や制度は複雑で調べにくいものです。流産に関わる法律・制度は、妊娠週数によって適用範囲が大きく異なります。この記事では、流産・死産と法律上の定義の違い、産休・育休・母性健康管理措置の適用条件、健康保険や雇用保険の給付金制度を産婦人科の視点から整理します。制度を正しく理解することで、身体と心を休めるための選択肢を広げてください。
この記事のポイント
- 流産・死産の法律上の定義は妊娠12週・22週が境界線となり、適用される制度が変わる
- 産前産後休業は妊娠22週未満の流産には原則適用されないが、医師の診断があれば傷病手当金・母性健康管理措置の対象になりうる
- 健康保険の出産育児一時金・出産手当金・傷病手当金、雇用保険の育児休業給付金は、それぞれ適用条件が異なる。自分の状況に当てはまる制度を確認することが重要
流産・死産の法律上の定義と妊娠12週・22週の境界
流産と死産は日常語ではほぼ同義に使われますが、法律上・医療上の定義は異なります。適用される届出義務・制度が変わるため、まず境界線を理解しておくことが重要です。
妊娠22週未満の場合(流産)
医学的には妊娠22週未満での妊娠終了を「流産(自然流産・人工流産)」と呼びます。日本産科婦人科学会の定義では、妊娠22週未満に妊娠が終了した場合が流産とされています。この時期は胎児が母体外で生存することがきわめて困難と判断されるためです。
法的には「死産届」の提出義務は発生しません。ただし、妊娠12週以降(12週0日〜21週6日)の流産については「死産証書」または「死胎検案書」の交付を受け、死産届を市区町村に提出する必要があります(死産の届出に関する規程第1条)。
妊娠22週以降の場合(死産)
妊娠22週以降に胎児が死亡した状態で生まれた場合を「死産」と呼びます。死産届の提出は法律上の義務です(戸籍法第86条)。また、妊娠22週以降は産前産後休業(産休)の対象となるため、労働基準法第65条の保護を受けることができます。
妊娠週数別・法律区分と制度の早見表
週数 | 法律上の区分 | 死産届 | 産前産後休業 | 出産育児一時金 |
|---|---|---|---|---|
〜11週6日 | 流産 | 不要 | 対象外 | 対象外 |
12週0日〜21週6日 | 流産(死産届あり) | 必要 | 対象外 | 対象外 |
22週0日〜 | 死産 | 必要 | 対象 | 対象(85万円) |
産前産後休業(産休)の適用範囲と流産の扱い
産前産後休業は労働基準法第65条に定められた制度で、出産予定日の6週前から産後8週間まで休業できる権利です。流産の場合、妊娠22週未満では産休の対象外となります。ただし、妊娠22週以降の死産では産後8週間の産後休業を取得できます。
産前産後休業の基本内容
- 産前休業:出産予定日の6週前(多胎妊娠は14週前)から取得可能。本人の請求が必要
- 産後休業:出産(死産含む、妊娠22週以降)の翌日から8週間。産後6週間は本人の請求があっても就業させることが禁止される強制休業期間
- 死産の場合:妊娠22週以降であれば死産も「出産」に含まれるため、産後休業の対象になる
妊娠22週未満の流産後に休む方法
産休の対象外となる妊娠22週未満の流産後も、休養は身体的・精神的回復のために重要です。以下の方法で休業を確保できる場合があります。
- 有給休暇:取得可能な日数があれば、流産後の療養に使える
- 傷病手当金:流産後に医師から療養を要すると診断されれば、健康保険の傷病手当金の対象となりうる(後述)
- 欠勤・特別休暇:会社の就業規則に流産時の特別休暇規定がある場合もあるため、人事・総務に確認する
育児休業(育休)は流産後に取得できるか
育児休業は、子どもを養育するために取得する制度です。流産・死産の場合は「養育する子」が存在しないため、原則として育児休業の対象外となります。ただし、妊娠22週以降の死産で産後休業を取得した場合も、その後の育児休業は取得できません。
母性健康管理措置(流産後も対象)
男女雇用機会均等法第13条に基づく「母性健康管理措置」は、妊娠・出産に関して医師等から指導を受けた場合に事業主が講じなければならない措置です。流産後も対象となる点が重要です。
医師から「流産後の療養が必要」「職場での業務を制限すべき」といった指導を受けた場合、事業主は以下の措置を取る義務があります。
- 勤務時間の短縮、深夜業・時間外労働の禁止
- 業務の軽減・転換
- 休業(有給・無給を問わず)
医師・助産師の指導内容を会社に伝えるための様式として、厚生労働省が「母性健康管理指導事項連絡カード」を定めています。産婦人科受診時に記入を依頼できます。
健康保険からの給付金:傷病手当金・出産育児一時金の条件
健康保険から受け取れる主な給付金として、傷病手当金と出産育児一時金があります。それぞれ適用条件が異なります。
傷病手当金(流産後の休業に幅広く対応)
傷病手当金は、病気やけがで働けなくなった場合に、健康保険(被保険者本人)から支給される給付金です。流産後に医師から「労務不能」と判断された場合に受給できます。
項目 | 内容 |
|---|---|
支給対象 | 健康保険の被保険者本人(会社員・公務員等) |
支給条件 | ①療養のため休業している ②連続3日間の待機期間がある ③休業中に給与が支払われていない |
支給額 | 標準報酬日額の3分の2に相当する額 |
支給期間 | 最長1年6ヶ月(待機期間3日を除く) |
申請先 | 勤務先を通じて協会けんぽ または各健康保険組合 |
流産後は医師に「流産後の療養が必要」と診断書または傷病手当金支給申請書の医師記載欄に記入してもらうことで、妊娠12週未満の流産でも受給できる可能性があります。
出産育児一時金(妊娠22週以降の死産が対象)
出産育児一時金は、健康保険の被保険者またはその被扶養者が出産した場合に、1児につき原則50万円(産科医療補償制度加入医療機関では50万円、非加入では48.8万円)が支給される給付金です。
「出産」の定義は妊娠85日(12週)以降の生産・死産・人工妊娠中絶を含みます(健康保険法施行規則第96条)。ただし、全額支給は妊娠22週以降に限られ、妊娠12週以降22週未満の死産(流産)については金額が異なる場合があります。加入している健康保険組合に直接確認することをおすすめします。
出産手当金(産前産後休業中の収入補填)
出産手当金は、産前42日間・産後56日間の休業中に給与が支払われない場合に支給される給付金です。妊娠22週以降の死産で産後休業を取得した場合に対象となります。支給額は傷病手当金と同様、標準報酬日額の3分の2です。
雇用保険の育児休業給付金は流産後に受け取れるか
雇用保険の育児休業給付金は、育児休業を取得している期間中に支給されます。前述のとおり、流産・死産(妊娠22週未満)の場合は育児休業を取得できないため、育児休業給付金の対象外となります。妊娠22週以降の死産で産後休業を取得した場合も、育児休業(産後休業後の継続)は取得できないため、給付金は受け取れません。
一方、流産後に失業した場合(退職した場合)は、雇用保険の基本手当(失業給付)を受け取れる可能性があります。流産や死産を理由とした退職は「特定理由離職者」として認定される場合があり、給付制限なしで基本手当を受給できることがあります。ハローワークに相談することをおすすめします。
労働関係法規による流産後の保護
労働基準法・男女雇用機会均等法は、流産後の女性労働者を保護する規定を設けています。
流産・死産を理由とした解雇の制限
労働基準法第19条は、産前産後の女性を解雇することを禁止しています。また、男女雇用機会均等法第9条は、妊娠・出産・産前産後休業を理由とした不利益取扱いを法律上の違反として明示しており、流産・死産後の休業取得を理由とした解雇・降格・減給・契約不更新等は違法となりえます。不当な扱いを受けた場合は、勤務地を管轄する労働基準監督署または都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に相談できます。
業務の制限・軽減を求める権利
流産後の療養中に医師から「重労働を避けるよう」「安静を要する」との指示があった場合、母性健康管理措置として事業主に業務軽減を求めることができます。具体的な指示内容を「母性健康管理指導事項連絡カード」に記載してもらい、会社に提出します。
流産後の職場への報告と手続きの流れ
流産後の職場への報告と手続きは、タイミングと伝え方に迷う方が多い部分です。以下の流れを参考にしてください。
手続きの流れ
- 産婦人科で診断書・母性健康管理指導事項連絡カードを取得:必要に応じて傷病手当金申請書の医師記載欄も依頼する
- 直属の上司または人事・総務に連絡:流産の事実と休業の必要性を伝える(詳細は伝えなくてよい)
- 休業期間の調整:有給休暇・特別休暇・傷病手当金対象期間を組み合わせる
- 傷病手当金の申請:会社経由で協会けんぽ・健康保険組合に提出
- 出産育児一時金の申請(妊娠12週以降の場合):加入している健康保険組合に必要書類を確認して申請
相談・申請窓口の一覧
制度・相談内容 | 窓口 |
|---|---|
傷病手当金の申請 | 全国健康保険協会(協会けんぽ)各都道府県支部 または 勤務先の健康保険組合 |
出産育児一時金の申請 | 加入している健康保険(協会けんぽ・組合健保・共済組合) |
死産届の提出 | 市区町村の窓口(死産から7日以内) |
母性健康管理措置の相談 | 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) |
不当解雇・不利益取扱いの相談 | 労働基準監督署 または 都道府県労働局 |
失業給付・特定理由離職者の認定 | ハローワーク(公共職業安定所) |
グリーフカウンセリング・心理的支援 | よりそいホットライン(0120-279-338、24時間)、地域の保健センター |
よくある質問(FAQ)
Q. 妊娠8週で流産しました。会社を休む場合、傷病手当金はもらえますか?
妊娠8週(12週未満)の流産でも、担当医師が「療養のために就労できない状態」と判断した場合は、傷病手当金の対象となります。連続3日間の待機期間を満たし、休業中に給与が支払われていないことが条件です。産婦人科で傷病手当金支給申請書の医師記入欄を記入してもらい、勤務先の人事担当者に相談してください。
Q. 妊娠15週で流産しました。産休は取得できますか?
産前産後休業(産休)は妊娠22週以降の出産が対象のため、妊娠15週の流産では原則として適用されません。ただし、有給休暇・会社の特別休暇・母性健康管理措置による休業・傷病手当金を組み合わせて休養することは可能です。医師に「母性健康管理指導事項連絡カード」の記入を依頼し、会社の人事部門に相談してください。
Q. 死産(妊娠24週)後に育休は取得できますか?
妊娠22週以降の死産で産後休業(産後8週間)を取得することは可能です。しかし、育児休業は養育する子どもがいることを前提とした制度であるため、死産後の育児休業は取得できません。産後休業後の就労再開について、職場と十分相談することをおすすめします。
Q. 出産育児一時金は何週からもらえますか?
出産育児一時金は、妊娠85日(12週0日)以降の出産(生産・死産・人工妊娠中絶を含む)が支給対象です。ただし、支給額は妊娠22週以降の場合は原則50万円ですが、12週以降22週未満の場合は一部の健康保険組合で金額が異なる場合があります。加入している健康保険組合に必要書類とともに問い合わせてください。
Q. 流産後に退職する場合、失業給付はすぐに受け取れますか?
流産・死産を直接の理由とした退職は「特定理由離職者」として認定される可能性があります。特定理由離職者に認定されると、通常の自己都合退職(給付制限2ヶ月)と異なり、給付制限なしで雇用保険の基本手当を受給できる場合があります。ハローワークで離職理由を正直に申告し、医師の診断書等を提出することをおすすめします。
Q. 流産後に解雇されました。これは合法ですか?
流産・死産後の休業取得、または妊娠・出産そのものを理由とした解雇・不利益取扱いは、男女雇用機会均等法第9条により禁止されています。産後休業期間中の解雇は労働基準法第19条でも禁止されています。不当な取扱いを受けたと思われる場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)または労働基準監督署に相談してください。無料で対応してもらえます。
Q. 死産後の死産届はどこに、いつまでに提出しますか?
死産届は、死産(妊娠12週以降の胎児の死亡)から7日以内に、死産した場所または届出人の所在地の市区町村窓口に提出する必要があります。病院から「死産証書」または「死胎検案書」を受け取り、届出を行います。7日以内に届け出られない正当な理由がある場合は、市区町村に事前に相談してください。
Q. パートや派遣社員でも傷病手当金や出産育児一時金は受け取れますか?
傷病手当金・出産育児一時金は、いずれも「健康保険の被保険者本人」が対象です。パートや派遣社員であっても、勤務時間・日数が一定基準を超えて健康保険に加入している場合は受給資格があります。夫(またはパートナー)の扶養に入っている場合(被扶養者)は、傷病手当金は対象外ですが、出産育児一時金は被扶養者出産育児一時金として受け取れる場合があります。加入状況は勤務先の人事担当者に確認してください。
まとめ:流産後の制度利用で自分を守る
流産後に活用できる主な制度を週数別に整理しました。妊娠22週が産休の対象かどうかの境界線となり、傷病手当金は妊娠週数にかかわらず医師が労務不能と判断すれば利用できます。まず産婦人科で診断書・母性健康管理指導事項連絡カードを取得し、職場の人事部門と相談することが出発点です。制度を正しく活用することが、身体的・精神的回復のための時間を確保することにつながります。
- 妊娠22週以降の死産 → 産後休業(産後8週)・出産育児一時金(50万円)の対象
- 妊娠12週以降の流産・死産 → 出産育児一時金(健保組合により異なる)・死産届の提出義務
- 妊娠週数を問わず → 医師が労務不能と判断すれば傷病手当金の対象・母性健康管理措置の対象
次のステップ
流産後の休業や給付金申請に不安がある場合は、まず産婦人科の担当医に相談し、必要な書類(診断書・傷病手当金申請書の医師記入欄・母性健康管理指導事項連絡カード)の記入を依頼してください。会社の人事担当者への相談と並行して、協会けんぽや健康保険組合のウェブサイトで最新の申請手続きを確認することをおすすめします。
流産後のこころのケアについては、よりそいホットライン(0120-279-338、24時間対応)や地域の保健センターに相談窓口があります。一人で抱え込まず、周囲のサポートを活用してください。
免責事項
この記事は医療情報および法律・制度の概要を提供することを目的としており、個別の医療アドバイスや法律上の見解を提供するものではありません。制度の詳細や申請手続きは、加入している健康保険組合・勤務先・各行政窓口に直接ご確認ください。症状に関する判断は担当の医師にご相談ください。
参考文献
- 日本産科婦人科学会「流産・死産の定義と届出に関する解説」
- 厚生労働省「死産の届出に関する規程」(昭和21年厚生省令第42号)
- 厚生労働省「働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について」
- 厚生労働省「傷病手当金について」(全国健康保険協会)
- 厚生労働省「出産育児一時金について」(全国健康保険協会)
- 労働基準法 第19条(解雇制限)・第65条(産前産後)
- 男女雇用機会均等法 第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)・第13条(母性健康管理措置)
- 雇用保険法(育児休業給付・基本手当)
最終更新日:2026年04月28日|医師監修
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