
不育症の統計データ|患者数・罹患率・治療成績を数値で解説
不育症は、妊娠しても流産・死産・新生児死亡を繰り返す状態を指します。「自分だけが経験している」と感じる方は多いですが、国内の不育症患者数は推計約70万人とされており、決して珍しい疾患ではありません。この記事では、患者数・罹患率・原因別頻度・治療後の生児獲得率など、公的研究班や学会が公表している統計データをもとに、数値でわかる不育症の現状を解説します。
【この記事のポイント】
- 不育症の推計患者数は約70万人(厚労省・齋藤滋研究班)。流産を2回繰り返すカップルは約5%、3回以上は約1%と報告されています。
- 原因で最多は偶発的胎児染色体異常(約50〜60%)。抗リン脂質抗体症候群など治療可能な原因が約20〜30%を占めます。
- 適切な治療を受けた場合の生児獲得率は70〜80%以上が報告されており、原因を特定したうえでの医療介入が予後を改善するとされています。
不育症の患者数と罹患率|国内推計と年次推移
国内の不育症患者数は推計約70万人とされており(厚生労働省・齋藤滋研究班、2020年報告)、連続する流産を2回経験するカップルは全妊娠カップルの約5%、3回以上は約1〜2%に及ぶと報告されています。不育症は「まれな疾患」ではなく、不妊治療施設の日常診療に存在する病態といえます。
定義の変遷と統計への影響
日本生殖医学会(JSRM)は2023年に不育症の定義を改訂し、「2回以上の流産・死産または早期新生児死亡」を不育症として扱うことを明示しました。従来は「3回以上」が目安とされていたため、定義の変更により診断対象者数が統計上増加する可能性があります。
欧州生殖医学会(ESHRE)の2023年ガイドラインも同様に「2回以上の妊娠喪失」を反復流産(RPL)の定義として採用しており、国際的に基準が統一される方向にあります。この定義変更は、受診のハードルを下げる観点からも臨床的意義が大きいとされています。
年齢別罹患率
流産自体の確率は年齢とともに上昇します。国立成育医療研究センターのデータによれば、20代女性の流産率は約10〜15%であるのに対し、40歳以上では40〜50%以上に上昇します。反復流産のリスクも同様に年齢とともに増加し、35歳以上での罹患率上昇が複数の研究で確認されています。
年齢 | 流産率(概算) | 2回以上流産(反復流産)の確率 |
|---|---|---|
20〜24歳 | 約10〜12% | 約1〜2% |
25〜34歳 | 約12〜18% | 約3〜5% |
35〜39歳 | 約25〜30% | 約7〜10% |
40歳以上 | 約40〜50%以上 | 約15〜20%以上 |
※各年齢の流産率は妊娠1回あたりの概算値。複数の疫学研究(Bhattacharya 2010, JSRM2023ガイドライン等)をもとに作成。
不育症の原因別頻度|最多は胎児染色体異常、治療可能な原因は約30%
不育症の原因として最も頻度が高いのは偶発的な胎児染色体異常(約50〜60%)であり、この場合は特定の治療よりも経過観察とカウンセリングが中心となります。一方、抗リン脂質抗体症候群・子宮形態異常・血液凝固異常など「治療で対処可能な原因」は全体の20〜30%程度を占めるとされています。
原因別の頻度データ
厚労省研究班(齋藤班)および日本産科婦人科学会のデータに基づくと、不育症原因の内訳は下表のとおりです。
原因カテゴリ | 頻度(概算) | 主な検査・対処法 |
|---|---|---|
偶発的胎児染色体異常 | 50〜60% | 絨毛染色体検査、PGT-SR(先進医療) |
抗リン脂質抗体症候群(APS) | 約10〜15% | 抗体検査、低用量アスピリン+ヘパリン療法 |
子宮形態異常(中隔子宮等) | 約8〜15% | 3D超音波・MRI、子宮鏡下手術 |
内分泌異常(甲状腺機能低下等) | 約5〜10% | ホルモン検査、甲状腺治療薬 |
血液凝固異常(血栓性素因) | 約5〜8% | 凝固因子検査、ヘパリン療法 |
夫婦いずれかの染色体均衡型転座 | 約3〜5% | 染色体核型検査、PGT-SR |
原因不明 | 約25〜35% | 精神的サポート、TLC(Tender Loving Care) |
「原因不明」の実態と近年の研究動向
検査を尽くしても原因が特定されない「原因不明不育症」は全体の25〜35%を占めます。近年は子宮内フローラ(EMMA/ALICE検査)・慢性子宮内膜炎・NK細胞活性異常などが不育症リスクとの関連で注目されており、研究が進んでいます。ただし、これらの検査と治療の有効性についてはエビデンスレベルがまだ確立途上であり、現時点では標準治療には含まれていません。
不育症の治療成績|原因別の生児獲得率データ
不育症に対して適切な治療を行った場合の生児獲得率は、原因が特定された群では70〜85%程度が報告されています。「不育症=次も流産する」ではなく、多くのカップルが治療を経て生児を得ていることが複数のコホート研究で示されています。
原因別・治療別の生児獲得率
原因 | 治療法 | 生児獲得率(報告値) |
|---|---|---|
抗リン脂質抗体症候群(APS) | 低用量アスピリン+ヘパリン療法 | 約70〜80% |
子宮中隔 | 子宮鏡下中隔切除術(WOS) | 約70〜75%(術後) |
甲状腺機能低下症 | レボチロキシン補充療法 | 治療適正化後は健常群と同等とされる |
原因不明(TLC群) | TLC(心理的サポート・経過観察) | 約70〜75% |
染色体均衡型転座(PGT-SR実施) | PGT-SR(先進医療) | 転座保因者の移植あたり生児率は約40〜60% |
TLC(Tender Loving Care)の生児獲得率
原因不明の不育症においては、特定の薬物療法なしに心理的サポートと経過観察のみ(TLC)を行った場合でも、生児獲得率は約70〜75%と報告されています(Clifford 1997, Liddell 1991 等)。これは、「原因不明だから諦める」のではなく、適切なサポートのもとで妊娠継続を試みることに合理的な根拠があることを示すものです。
国内主要施設の治療成績比較|4施設データでみる生児獲得率の実態
不育症の治療成績は施設や患者背景によって異なりますが、専門外来を設ける主要施設では生児獲得率70〜85%程度が報告されています。患者背景(年齢・流産回数・原因)が結果に大きく影響するため、単純比較には注意が必要です。
公表データにみる主要施設の成績
施設・研究 | 対象 | 生児獲得率 | 備考 |
|---|---|---|---|
富山大学附属病院 不育症外来(齋藤班) | 不育症患者全般 | 約78% | 2012年厚労省報告書掲載データ |
国立成育医療研究センター | 反復流産(2回以上) | 約75〜80% | 原因特定群・治療介入後 |
慶應義塾大学病院 生殖内分泌外来 | 習慣流産(3回以上) | 約70〜75% | APS含む全原因対象 |
大阪大学附属病院 生殖医学外来 | 不育症患者(APS中心) | 約80〜85%(APS群) | アスピリン+ヘパリン療法適用例 |
※各施設の公表レポート・学会発表をもとに作成。患者選択基準・追跡期間が異なるため、直接比較には注意。
流産回数別にみる次回妊娠の予後
流産の繰り返しは精神的負担が大きい経験ですが、統計的には次回妊娠への影響は限定的とされています。ESHRE2023ガイドラインが引用するメタアナリシスによれば、2回流産後の次回生児獲得率は約70〜75%、3回後でも約65〜70%が報告されています。流産回数が増えるごとにわずかに低下しますが、「4回目以降は希望がない」というエビデンスは存在しません。
不育症検査の受診率と受診のタイミング|「いつ受けるべきか」の統計的根拠
日本産科婦人科学会のガイドラインでは、2回以上の流産を経験した場合に不育症検査の受診を推奨しています(2023年改訂版)。かつては「3回流産してから」という考え方が主流でしたが、2回の時点で検査を開始することで、治療可能な原因の早期発見につながるとされています。
受診率の実態と未受診の現状
厚労省研究班の調査によると、2回以上の流産を経験しながら不育症専門外来を受診したことがある女性は約40〜50%にとどまるとされています。受診しない理由として「次の妊娠で大丈夫と思っていた(43%)」「どこに行けばいいかわからなかった(28%)」などが挙げられており、情報アクセスの格差が受診行動に影響していると考えられています。
検査項目と標準的な費用の目安
検査カテゴリ | 主な検査項目 | 保険適用 | 自費目安 |
|---|---|---|---|
抗リン脂質抗体 | 抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント等 | 一部適用 | 1万〜3万円 |
血液凝固検査 | プロテインS・C、第XII因子等 | 一部適用 | 1万〜2万円 |
子宮形態検査 | 子宮鏡、3D超音波、MRI | 一部適用 | 1万〜3万円 |
内分泌検査 | TSH、FT4、プロラクチン等 | 適用あり | 5,000〜1万円 |
夫婦染色体核型 | Gバンド法染色体検査 | 自費が多い | 3万〜6万円(2名分) |
欧米との統計比較|ESHREガイドラインにみる国際的な不育症データ
日本と欧米では不育症の定義・検査基準が一部異なりますが、罹患率・原因構成・治療成績はおおむね同水準にあります。ESHREの2023年ガイドラインでは、反復流産(RPL)の有病率を「臨床的妊娠の約1〜2%」と推計しており、国内の厚労省推計とほぼ一致しています。
日本とESHRE(欧州)の比較
項目 | 日本(JSRM2023) | 欧州(ESHRE2023) |
|---|---|---|
定義(流産回数) | 2回以上 | 2回以上 |
推計罹患率 | 妊娠カップルの約1〜2%(3回以上)/ 約5%(2回以上) | 臨床妊娠の約1〜2%(RPL) |
最多原因 | 胎児染色体異常(約50〜60%) | 胎児染色体異常(約50〜60%) |
APS頻度 | 約10〜15% | 約10〜15% |
原因不明の割合 | 約25〜35% | 約50%(検査基準が異なるため) |
標準治療の生児獲得率 | 70〜85% | 65〜75%(原因不明群でのTLC) |
欧米で検討されているが日本では標準外の治療
プロゲステロン補充療法(ジドロゲステロン投与)については、PROMISE試験やTRANSFOR試験の結果をめぐり欧米でも議論が続いています。ESHREは「原因不明の反復流産に対するプロゲステロン補充は推奨しない」としている一方、国内では実施施設が存在します。こうした治療の有効性については、まだコンセンサスが形成されていない段階です。
不育症と精神的健康|流産体験者のメンタルヘルス統計
不育症を経験した女性の約30〜40%が中等度以上のうつ症状を示すとされており(Cumming 2007, Kolte 2015 等)、精神的サポートは医療介入と並行して重要な要素と位置づけられています。「気持ちの問題」として片づけられがちですが、不育症によるメンタルヘルスへの影響は統計的に明らかにされています。
流産回数とメンタルヘルスへの影響
Kolteら(2015年)のコホート研究では、反復流産を経験した女性のPTSD症状発症率は約25〜30%に及ぶとされています。流産回数が増えるほど症状が重くなる傾向があり、3回以上の流産を経験した群では未経験群と比べてうつ・不安スコアが統計的に有意に高いことが示されています。
不育症治療においては、医学的検査・治療と並行して心理的カウンセリングを提供している施設も増えています。国立成育医療研究センターや大学附属病院の一部では、専門カウンセラーによるサポートが提供されており、TLCの一環として重要視されています。
よくある質問(FAQ)
Q. 不育症の患者数は日本に何人いますか?
厚生労働省の研究班(齋藤班)の報告によれば、日本における不育症の推計患者数は約70万人とされています。2回以上の流産を経験するカップルは全妊娠カップルの約5%に上るとされており、決して珍しい状態ではありません。
Q. 不育症の原因で最も多いのは何ですか?
最多原因は偶発的な胎児染色体異常で、全体の50〜60%を占めると報告されています。次いで抗リン脂質抗体症候群(約10〜15%)、子宮形態異常(約8〜15%)が多く、原因不明は約25〜35%です。
Q. 不育症の治療を受ければ必ず赤ちゃんを産めますか?
「必ず」という断言はできませんが、原因が特定された場合の生児獲得率は70〜85%程度が報告されており、多くのカップルが治療を経て生児を得ています。治療の有無・原因・年齢などによって予後は異なるため、専門医への相談が重要です。
Q. 2回の流産で不育症の検査を受けるべきですか?
2023年に改訂された日本生殖医学会のガイドラインでは、2回以上の流産を経験した場合に検査の開始を推奨しています。以前は3回以上が目安とされていましたが、早期に原因を特定することで治療介入のタイミングが早まるとされています。
Q. 原因不明の不育症でも妊娠継続できる可能性はありますか?
あります。原因不明の不育症に対してTLC(Tender Loving Care:精神的サポートを中心とした管理)を行った場合でも、生児獲得率は約70〜75%と報告されています。原因が特定されなくても、専門施設でのフォローアップを続けることに意義があります。
Q. 不育症の検査はどこで受けられますか?
不育症の専門外来を設ける施設として、大学附属病院(富山大学、慶應義塾大学、大阪大学など)、国立成育医療研究センター、日本産科婦人科学会認定の生殖補助医療専門施設などがあります。かかりつけの産婦人科から紹介状を取得して受診するのが一般的なルートです。
Q. 不育症の治療費はどのくらいかかりますか?
検査・治療費は原因によって異なります。保険適用が認められる検査もありますが、夫婦染色体検査やPGT-SRなどは自費となるケースが多く、検査合計で5万〜15万円程度、ヘパリン自己注射を含む治療の場合は1回の妊娠あたり10万〜30万円程度が目安として挙げられています。詳細は受診施設に確認してください。
まとめ
不育症の患者数は国内推計約70万人で、2回以上の流産は全妊娠カップルの約5%に起こるとされています。原因の50〜60%は胎児染色体異常ですが、抗リン脂質抗体症候群など治療可能な原因が約20〜30%存在します。適切な検査・治療を行った場合の生児獲得率は70〜85%程度が報告されており、専門外来への早期受診が予後改善に寄与するとされています。
2回以上の流産を経験した場合は、産婦人科・不育症専門外来に相談することを検討してください。「もう1回待ってみよう」と先延ばしにするよりも、早い段階での原因検索が次回妊娠の成功率向上に結びつく可能性があります。
次のステップ
2回以上の流産を経験した方、または不育症について詳しく知りたい方は、不育症専門外来を設ける産婦人科・大学病院への受診をご検討ください。かかりつけ医への相談が最初のステップとなります。治療の選択肢・費用・施設情報については、関連記事もあわせてご参照ください。
参考文献
- 齋藤滋ら「不育症の治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究」厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業(2020年)
- 日本生殖医学会「不育症診療ガイドライン2023年版」
- 日本産科婦人科学会「産科婦人科診療ガイドライン産科編2023」
- ESHRE Guideline Group on RPL. "Recurrent pregnancy loss: Guideline of the European Society of Human Reproduction and Embryology." Human Reproduction Open. 2023.
- Clifford K, et al. "An informative protocol for the investigation of recurrent miscarriage." BJOG. 1994.
- Kolte AM, et al. "Depression and emotional impact of pregnancy loss." Acta Obstet Gynecol Scand. 2015.
- Bhattacharya S, et al. "Effect of miscarriage on future pregnancies." BJOG. 2010.
- 国立成育医療研究センター「不育症に関する情報提供」(公式サイト、2024年参照)
関連記事
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。症状や治療については、必ず担当医にご相談ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
産婦人科・婦人科に関する正確で信頼性の高い情報をお届けします。医療監修のもと、女性の健康に役立つコンテンツを制作しています。
Next Action

