EggLink

PGT-SR(構造的異常の着床前検査)と不育症

2026/4/22

PGT-SR(構造的異常の着床前検査)と不育症

PGT-SR(Preimplantation Genetic Testing for Structural Rearrangements)は、染色体の構造異常を保有するカップルが体外受精を行う際に、胚の染色体バランスを移植前に確認する検査です。不育症(反復流産)との関連が深く、特に均衡型転座の保因者では流産リスクの低減が期待されています。

この記事のポイント

  • PGT-SRの対象となるケースと検査の流れ
  • 不育症との関連メカニズムと臨床データ
  • 検査のメリット・限界・費用感

PGT-SRとは何か|構造異常を胚移植前に見極める検査

PGT-SRは、均衡型相互転座やロバートソン転座などの染色体構造異常を保有する方を対象に、体外受精で得られた胚が染色体のバランスを保っているかどうかを着床前に判定する遺伝学的検査です。日本産科婦人科学会が2022年に臨床研究から一般診療への移行を承認し、実施施設が拡大しています。

PGT-SRの検査対象

PGT-SRは主に以下のケースで検討されます。

  • 均衡型相互転座の保因者:2本の染色体の一部が入れ替わった状態。保因者本人に症状はないが、配偶子形成時に不均衡型が生じやすい
  • ロバートソン転座の保因者:2本の端部着糸型染色体が融合した状態。ダウン症候群(21トリソミー)のリスク因子として知られる
  • 反復流産(不育症)の既往:2回以上の流産歴があり、夫婦いずれかに構造異常が確認された場合

従来の着床前検査との違い

検査名

対象

目的

PGT-A

高齢妊娠・反復着床不全

胚の染色体数の異常(異数性)を検出

PGT-SR

構造異常保因者

均衡型か不均衡型かを判定

PGT-M

単一遺伝子疾患

特定の遺伝子変異の有無を検出

PGT-Aが染色体の「数」の問題を扱うのに対し、PGT-SRは「構造」の問題に特化しています。検査技術としてはNGS(次世代シーケンサー)やaCGH(アレイCGH)が用いられます。

不育症と染色体構造異常の関係|なぜ流産が繰り返されるのか

不育症の原因の約5〜10%は、夫婦いずれかの染色体構造異常と報告されています。均衡型転座の保因者は、自身の健康には問題がなくても、卵子や精子が作られる減数分裂の過程で不均衡型の配偶子が生じやすく、それが受精卵の染色体異常につながります。

均衡型転座保因者の流産リスク

均衡型相互転座を持つカップルでは、理論上の不均衡型配偶子の割合は転座の種類により異なりますが、自然妊娠での流産率は50〜70%とされています。厚生労働省の不育症研究班の報告では、反復流産カップルの約4.5%に均衡型転座が検出されています。

転座の種類別リスク

転座の種類

流産リスク

生児獲得率(自然妊娠)

相互転座

50〜70%

約30〜50%

ロバートソン転座

20〜30%

約60〜70%

ロバートソン転座は相互転座に比べて流産リスクが低い傾向にありますが、特定のトリソミー(21番など)を伴う生児出産のリスクがあるため、遺伝カウンセリングが不可欠です。

PGT-SRの検査の流れ|採卵から結果判定まで

PGT-SRは体外受精の過程に組み込まれる検査であり、通常の採卵から胚培養、生検、遺伝学的解析、胚移植までの一連のプロセスで行われます。検査単体では完結せず、体外受精プログラムの一部として実施されます。

ステップ1:卵巣刺激と採卵

通常の体外受精と同じく、排卵誘発剤で複数の卵胞を育て、採卵を行います。PGT-SRでは十分な数の検査対象胚を確保するため、可能な限り多くの成熟卵の採取が望まれます。

ステップ2:胚盤胞培養と生検

受精卵を5〜6日目の胚盤胞まで培養し、栄養外胚葉(TE)から5〜10個の細胞を採取(生検)します。この細胞を遺伝学的解析に提出し、胚本体はガラス化法で凍結保存します。

ステップ3:遺伝学的解析と結果

採取した細胞のDNAをNGSで解析し、染色体の構造が均衡型か不均衡型かを判定します。結果は通常2〜4週間で得られ、以下の3分類で報告されます。

  • 移植可能(均衡型/正常):染色体バランスが保たれており移植の候補となる
  • 移植不可(不均衡型):部分的なトリソミーやモノソミーが検出された
  • 判定不能:解析データが不十分で再検査または追加解析が必要

PGT-SRの有効性|臨床エビデンスと治療成績

PGT-SRの有効性については、複数の後方視的研究が報告されています。転座保因者における流産率の低減と、移植あたりの妊娠継続率の向上が主な指標となっています。

主要な臨床データ

指標

PGT-SR実施群

未実施群(自然妊娠)

流産率

約10〜15%

約50〜70%

移植あたり妊娠率

約50〜60%

生児獲得までの期間

約1〜2年

約2〜5年

2023年のHuman Reproductionに掲載されたメタアナリシスでは、PGT-SRにより均衡型転座保因者の流産率が有意に低下したことが示されています。ただし、ランダム化比較試験(RCT)は少なく、エビデンスレベルは中程度と位置づけられています。

PGT-SRの限界

  • 胚の損失リスク:生検操作により一部の胚が発育停止する可能性がある(約1〜2%)
  • モザイク胚の判定困難:正常細胞と異常細胞が混在するモザイク胚の場合、正確な判定が難しい
  • 保因者の判別不可:均衡型転座の保因状態と完全正常を区別できないケースがある

PGT-SRの費用と保険適用|経済的負担と支援制度

PGT-SRは2024年時点で保険適用外の検査であり、体外受精の費用に加えて遺伝学的解析の費用が発生します。先進医療としての申請が進められている段階で、保険適用の体外受精と併用する場合は混合診療に該当しないよう注意が必要です。

費用の目安

項目

費用目安

体外受精(採卵〜移植)

約30〜50万円(保険適用後の自己負担)

PGT-SR検査費用

約10〜30万円/回(胚数による)

凍結保存費用

約3〜5万円/年

遺伝カウンセリング

約5,000〜1万円/回

利用できる支援制度

  • 高額療養費制度:保険適用分の体外受精費用に適用可能
  • 自治体の不妊治療助成:一部自治体ではPGT関連費用も助成対象に含む場合あり
  • 民間医療保険:不妊治療特約がある保険商品で給付対象となる場合がある

PGT-SRの費用は施設により差が大きいため、複数施設への問い合わせが推奨されます。

遺伝カウンセリングの重要性|PGT-SR前後に受けるべき理由

PGT-SRは遺伝情報に直結する検査であるため、日本産科婦人科学会のガイドラインでは検査前後の遺伝カウンセリングが必須とされています。カウンセリングでは検査の意義・限界・結果の解釈について専門家から説明を受けることができます。

カウンセリングで確認すべきポイント

  • 自身の転座の種類と、子どもへの遺伝リスクの具体的な数値
  • PGT-SRで判別できること・できないことの正確な範囲
  • 移植可能胚が得られなかった場合の選択肢(再採卵、自然妊娠の試行、第三者の意見聴取)
  • 出生前診断(羊水検査・絨毛検査)との関係

心理的サポートの活用

反復流産と遺伝子検査という二重の心理的負担を抱えるカップルは少なくありません。日本遺伝カウンセリング学会の認定遺伝カウンセラーや、臨床心理士によるカウンセリングを並行して利用することが推奨されます。不育症患者会やオンラインコミュニティも心の支えとなるでしょう。

PGT-SRに関するよくある質問

Q. PGT-SRはどの施設でも受けられますか?

A. いいえ。日本産科婦人科学会に登録された実施施設でのみ受けることができます。2024年時点で全国約100施設が登録されています。お住まいの地域の登録施設は学会のウェブサイトで確認可能です。

Q. PGT-SRの結果が出るまでどのくらいかかりますか?

A. 通常、生検から結果報告まで2〜4週間です。NGS解析のバッチ処理のタイミングによって前後する場合があります。

Q. PGT-SRで正常と判定された胚を移植すれば、必ず妊娠・出産できますか?

A. 染色体の構造バランスが正常でも、着床や妊娠継続には胚の質、子宮内膜の状態、免疫因子など複数の要因が関わります。PGT-SRは流産リスクを低減しますが、妊娠を保証するものではありません。

Q. 自然妊娠でも生児を得ることは可能ですか?

A. 可能です。均衡型転座保因者でも、自然妊娠で健康な子どもを出産している方は多くいます。相互転座の場合、自然妊娠での生児獲得率は約30〜50%と報告されています。ただし流産を繰り返すリスクがあるため、年齢や精神的負担を考慮してPGT-SRの実施を検討するのが現実的です。

Q. PGT-SRとPGT-Aを同時に受けることはできますか?

A. 技術的には可能で、実際に両方を同時に実施する施設もあります。構造異常と数的異常の両方を評価できるため、高齢の転座保因者では併用が検討されることがあります。

Q. 男性が転座保因者の場合と女性の場合で違いはありますか?

A. 転座の影響は男女で異なる場合があります。一般に男性保因者のほうが精子形成への影響が大きく、乏精子症を伴うケースが報告されています。一方、流産率は女性保因者のほうが高い傾向にあるとの報告もあり、個別の遺伝カウンセリングが重要です。

まとめ

PGT-SRは、染色体構造異常を持つカップルが体外受精で健康な胚を選択するための遺伝学的検査です。不育症(反復流産)の原因が均衡型転座にある場合、PGT-SRの活用により流産率の大幅な低減が期待できます。ただし保険適用外であること、エビデンスがまだ発展途上であること、そして遺伝情報を扱う倫理的配慮が必要であることを理解した上で、遺伝カウンセリングを通じて十分な情報を得てから判断することが大切です。

まずはかかりつけの産婦人科医や不育症専門外来に相談し、染色体検査の必要性について確認することが最初のステップとなります。

※本記事の内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。個別の症状や治療方針については、必ず担当医にご相談ください。情報は2024年時点のものであり、最新のガイドラインや保険制度と異なる場合があります。

E

この記事を書いた人

EggLink編集部

医療・婦人科専門メディア

産婦人科・婦人科に関する正確で信頼性の高い情報をお届けします。医療監修のもと、女性の健康に役立つコンテンツを制作しています。

公開:2026/4/22更新:2026/5/2