
不妊治療薬の費用は、2022年4月の保険適用拡大で大きく変わりました。以前は全額自費だったクロミフェンやHMG製剤が保険処方できるようになり、自己負担が3割に抑えられるケースが増えています。一方で、保険適用外のまま残る薬剤も多く、「どの薬が保険で使えるのか」「実際いくらかかるのか」がわかりにくい状況です。
この記事では、不妊治療薬の保険適用の範囲・各薬剤の自己負担額・保険外薬剤との違いを2024年時点の情報で整理します。
この記事でわかること
- 保険適用になった主な不妊治療薬の種類と自己負担額の目安
- 保険適用外のまま残る薬剤と混合診療の制限
- 薬剤費以外の診察・処置費用との合計負担のシミュレーション
- 高額療養費制度・医療費控除との組み合わせ方
2022年改正で保険適用になった不妊治療薬の全体像
2022年4月の診療報酬改定により、体外受精・顕微授精・人工授精などの不妊治療と同時に使用する薬剤が保険適用の対象となりました。「治療行為」と「そこで使われる薬剤」はセットで保険適用になる仕組みです。
薬剤の種類 | 主な薬品名 | 保険適用 |
|---|---|---|
排卵誘発剤(経口) | クロミフェン(クロミッド) | ○(2022年〜) |
排卵誘発剤(注射) | HMG製剤・FSH製剤 | ○(2022年〜) |
黄体補充薬 | プロゲステロン膣錠・注射 | ○(一部) |
GnRHアゴニスト | スプレキュア点鼻薬 | ○(2022年〜) |
GnRHアンタゴニスト | セトロタイド・ガニレスト | ○(2022年〜) |
卵成熟誘起薬 | HCG製剤・オビドレル | ○(一部) |
ただし、保険適用は「保険適用の治療行為と一体で使用する場合」が原則です。保険外の治療(先進医療・自費の採卵プロトコル等)に使用する薬剤は、原則として保険処方できません。
薬剤別の自己負担額:具体的な金額シミュレーション
3割負担の場合の薬剤費の目安を示します。薬価は年度改定があるため、正確な金額は処方時に医療機関で確認してください。
薬剤名 | 用途 | 薬価の目安(1周期) | 3割負担の目安 |
|---|---|---|---|
クロミフェン(50mg×5錠) | 排卵誘発(経口) | 約500〜800円 | 約150〜250円 |
HMG製剤(75単位×複数本) | 排卵誘発(注射) | 約1.5万〜4万円 | 約4,500〜1.2万円 |
GnRHアゴニスト(点鼻) | 卵巣抑制 | 約3,000〜6,000円 | 約900〜1,800円 |
GnRHアンタゴニスト(注射) | 早期排卵防止 | 約1.5万〜3万円 | 約4,500〜9,000円 |
プロゲステロン膣錠 | 黄体補充 | 約3,000〜8,000円 | 約900〜2,400円 |
体外受精1周期あたりの薬剤費合計は、使用するプロトコルによって3,000円〜2万円程度(3割負担)が目安です。注射製剤を多用する刺激周期では薬剤費が高くなります。
保険適用外の薬剤:何が自費になるのか
不妊治療でよく使われる薬剤のうち、保険適用外のまま残るものがあります。主な例を確認しておきましょう。
- DHEA(デヒドロエピアンドロステロン):卵巣予備能改善目的で処方されることがありますが、不妊治療の保険適用外。1周期あたり3,000〜8,000円程度の自費となるケースが多い
- メラトニン:卵子の質改善目的のサプリメントは保険対象外
- 成長ホルモン(rGH):卵巣低反応症例への添加は先進医療または自費扱い
- 一部の漢方薬:不妊治療目的での漢方処方は保険適用のものと自費のものが混在
保険適用外の薬剤を使用する場合、同じ周期で保険適用の治療も受けているなら「混合診療の禁止」に抵触しないかを医療機関に確認することが重要です。先進医療として承認された治療を受ける場合は、保険診療と先進医療の併用が認められています。
薬剤費込みの1周期トータルコスト
実際の負担は薬剤費だけでなく、診察料・超音波検査・採卵・培養・移植等の費用が加わります。3割負担を前提にした1周期の目安を示します。
治療ステップ | 保険点数(参考) | 3割負担の目安 | 薬剤費込み合計(目安) |
|---|---|---|---|
タイミング法(1周期) | 2,000〜5,000点 | 600〜1,500円 | 1,000〜3,000円 |
人工授精(1周期) | 1万〜2万点 | 3,000〜6,000円 | 5,000〜1.5万円 |
体外受精(採卵周期) | 10万〜20万点 | 3万〜6万円 | 5万〜9万円 |
凍結融解胚移植 | 3万〜6万点 | 9,000〜1.8万円 | 1.5万〜3万円 |
1カ月の合計が自己負担限度額(一般的な年収では月8万〜9万円程度)を超えた場合は、高額療養費制度の申請で超過分が払い戻されます。
高額療養費制度・医療費控除との組み合わせ方
薬剤費は処方された医療機関で支払う医療費のため、診察・処置費用と合算して高額療養費制度の対象になります。
高額療養費制度の活用ポイント:
- 同月内に同一の保険者内で自己負担が限度額を超えた分が払い戻される
- 複数の医療機関・薬局の費用を「世帯合算」できる(70歳未満は1カ所あたり2万1,000円以上が合算対象)
- 年収によって限度額が異なる(年収〜370万円:5.7万円/370〜770万円:8万円/770万円超:16.7万円 等)
医療費控除の活用ポイント:
- 年間の医療費合計(薬剤費含む)が10万円を超えた部分が所得から控除される
- 通院交通費(公共交通機関)も医療費に合算可能
- 妊娠検査薬・市販の排卵検査薬は医療費控除の対象外
処方の流れ:どこで何を受け取るか
保険適用の不妊治療薬は、不妊治療を行う婦人科・生殖医療専門機関で処方されます。院内処方と院外処方の両方があり、施設によって異なります。
- 院内処方:クリニック内で薬を受け取る。処方から受け取りまで1か所で完結。自己負担額は診察・薬代が一括請求される
- 院外処方:処方箋を受け取り、薬局で調剤してもらう。薬局での調剤基本料・薬剤料が別途かかる
注射製剤の自己注射(HMG・GnRHアンタゴニスト等)を行う場合は、クリニックで注射の指導を受けてから自宅で実施します。注射製剤は医療機関から処方・供給されるケースが一般的です。
よくある質問
Q. 薬だけ保険処方してもらうことはできますか?
不妊治療薬は、保険適用の治療行為と一体で処方されるため、治療を受けずに薬だけを保険で処方することは原則できません。
Q. 処方薬と市販薬(排卵検査薬等)の違いは?
市販の排卵検査薬やサプリメントは保険対象外です。医師の処方による排卵誘発剤・黄体補充薬が保険適用の対象です。
Q. 転院した場合、前の病院の薬剤費も高額療養費に合算できますか?
同月内であれば、複数の医療機関・薬局の費用を世帯合算できます(1カ所2万1,000円以上の要件を満たす場合)。
Q. 自己注射の練習・指導料は保険適用ですか?
自己注射指導に関する管理指導料は保険診療の範囲に含まれ、3割負担の対象です。
Q. 保険適用の薬剤を選ぶか、自費の薬剤を使うかは誰が決めますか?
治療方針は担当医師と相談して決めます。保険診療の範囲で対応できる場合は保険処方が優先されますが、成績向上のために自費薬剤を追加するかは患者と医師の合意で判断します。
まとめ:保険適用薬剤を正確に把握して費用を最適化する
不妊治療薬の保険適用は、2022年4月以降に大きく拡張されました。クロミフェン・HMG製剤・GnRHアゴニスト/アンタゴニスト・黄体補充薬が3割負担で使えるようになり、1周期あたりの薬剤費自己負担は以前の数分の一に下がっています。
一方でDHEA・成長ホルモン・一部漢方薬は保険適用外のまま残るため、自費負担が生じます。どの薬剤が保険適用かを事前に確認し、高額療養費制度・医療費控除を組み合わせることで実質負担を抑えることが可能です。
薬剤の選択や費用の見通しについては、担当医師と具体的に相談することをお勧めします。
※本記事は医療情報の提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。治療の選択は必ず担当医師と相談の上、ご判断ください。薬価・保険点数は改定により変更される場合があります。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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