
PRP療法(多血小板血漿療法)は、自己血液から採取した血小板を濃縮した血漿(PRP)を患部に注入し、組織の再生・修復を促す治療法です。不妊治療では主に「薄い子宮内膜の改善」と「卵巣機能低下」の2つの領域で応用されています。
この記事のポイント
- PRP療法が不妊治療で使われる場面と対象となる患者
- 子宮内膜・卵巣への効果と現在のエビデンスレベル
- 費用・リスク・日本での実施状況
PRP療法とは?──血小板の成長因子で組織修復を促す
PRPとは「Platelet-Rich Plasma(多血小板血漿)」の略で、患者自身の静脈血を遠心分離して血小板を約3〜5倍に濃縮したものです。血小板には複数の成長因子(PDGF・VEGF・EGF・TGF-β等)が含まれており、組織の修復・血管新生・細胞増殖を促します。整形外科や皮膚科での実績を踏まえ、不妊治療にも応用が試みられています。
不妊治療でPRPが使われる主な適応
日本国内でPRPを不妊治療に応用しているクリニックでは、主に以下の2つの目的で使用されています。
① 薄い子宮内膜の改善
体外受精の胚移植において、子宮内膜の厚さが7mm未満の「薄い内膜」は着床率が低下することが知られています。PRPを子宮腔内に注入することで内膜の血流改善・増殖を図ります。
② 卵巣機能低下(低AMH・POI)への卵巣内注入
早発卵巣不全(POI)や低AMHに対して、PRPを卵巣に直接注入(卵巣PRP)することで卵胞発育の改善を狙う治療です。子宮内PRP以上に研究段階の色が強く、エビデンスは限定的です。
子宮内PRP療法のエビデンス
子宮内PRPについては複数のパイロット試験・RCTが報告されています。全体的な傾向として内膜増厚・着床率・妊娠継続率の改善が示されている研究がある一方、効果なしとする研究も存在します。
主な研究結果(公開データ要約)
著者・年 | 対象 | 結果 | 限界 |
|---|---|---|---|
Chang et al. 2015 | 薄い内膜の反復着床不全(n=5) | 全例で内膜増厚・妊娠成立 | 症例数が少ない・対照群なし |
Eftekhar et al. 2018 | 凍結融解移植RCT(n=83) | 内膜厚・妊娠率に有意差なし | 対象の重症度差 |
Colombo et al. 2020 | 反復着床不全(n=68) | 妊娠率改善を報告 | 施設単一・バイアスリスク |
2024年の系統的レビュー(Fertil Steril)では「薄い内膜に対するPRPの効果は有望だが、大規模RCTでの確認が必要」とされています。
卵巣PRP療法のエビデンスと限界
卵巣PRP(卵巣内注入)は子宮内PRPよりさらにエビデンスが限られています。一部の試験ではAMH上昇・卵胞数増加が報告されていますが、症例数が少なく・追跡期間が短いものが多く、現時点では研究的治療の位置づけです。
PRP療法の実施手順と費用
治療の流れと費用の目安を整理します。
子宮内PRP療法の流れ
- 採血(20〜40mL程度)
- 遠心分離でPRPを分離・調製(30〜60分)
- 子宮鏡または細いカテーテルで子宮腔内に注入
- 処置時間:15〜30分(外来日帰り)
- 移植サイクルに合わせて1〜3回実施することが多い
費用の目安(保険外)
処置 | 費用目安(1回) |
|---|---|
子宮内PRP注入 | 3〜10万円 |
卵巣PRP注入 | 15〜30万円(手術室・麻酔込み) |
※費用はクリニックにより大きく異なります。事前に見積もりと説明書を取得してください。
副作用・リスク
PRP療法は自己血液由来のため感染リスク・免疫反応は原則ありませんが、以下の点に注意が必要です。
- 注入時の軽い腹痛・出血:一時的なことがほとんど
- 子宮内感染:まれだが無菌的操作が不可欠
- 卵巣注入:採卵と同様の手術リスク(出血・感染)
- 効果の不確実性:効果が得られない場合でも費用は返金されない
日本での実施状況と制度的位置づけ
日本ではPRP療法は再生医療等安全性確保法に基づき、第二種再生医療等計画を提出した医療機関でのみ実施が許可されています。厚生労働省の「再生医療等提供機関届出状況」データベースで届出の有無を確認できます。未届出のクリニックでの実施は違法になるため注意してください。
よくある質問(FAQ)
Q. PRP療法を受ければ必ず内膜が厚くなりますか?
必ずとは言えません。効果には個人差があり、改善が見られない例も報告されています。他の内膜改善策(エストロゲン増量・シルデナフィル・低出力レーザー等)との組み合わせを検討することもあります。
Q. PRP療法は何回受ければ効果が出ますか?
研究によって1〜3回の注入が行われています。効果の持続期間は個人差があります。移植サイクルごとに行うクリニックと、一定期間後に再評価するクリニックがあります。
Q. 保険は使えますか?
不妊治療目的のPRP療法は現時点で公的医療保険の適用外です。全額自己負担となります。
Q. 子宮内PRP療法と卵巣PRP療法はどちらが効果的ですか?
目的が異なります。内膜が薄い場合は子宮内PRP、卵巣機能低下が主な問題なら卵巣PRP(またはMSCなどの再生医療)が検討対象です。ただし卵巣PRPのエビデンスは子宮内PRPより限られています。
Q. PRP療法の前後に注意すべきことはありますか?
処置当日の激しい運動・性交渉は避けることが多いです。抗炎症薬(NSAIDs)は血小板機能を抑制するため、処置前後に服用する場合は担当医に確認してください。
まとめ
PRP療法は薄い子宮内膜や卵巣機能低下に対する選択肢の一つとして注目されていますが、大規模なランダム化比較試験での確立したエビデンスはまだ不十分です。再生医療等安全性確保法に基づく届出済みの施設で、インフォームドコンセントを十分に受けたうえで受けることが重要です。費用対効果について担当医と十分に話し合ってから判断しましょう。
※本記事は医療情報の提供を目的としており、特定の治療を推奨するものではありません。治療方針は必ず担当医と相談のうえ決定してください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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