
子宮内膜スクラッチとは、胚移植の前周期に子宮内膜を細いカテーテルや小型鉗子で軽く引っかき(スクラッチ)、局所的な炎症反応と修復反応を引き起こすことで着床率の改善を狙う処置です。侵襲が小さく外来で完結しますが、有効性については研究によって結果が分かれています。
この記事のポイント
- 子宮内膜スクラッチの仕組みと着床率への影響
- どのような患者に有効か・推奨されるか
- 最新エビデンス(大規模RCT)の結果と現在の位置づけ
子宮内膜スクラッチとは?──処置の目的とメカニズム
子宮内膜スクラッチ(endometrial scratching)は移植前の周期(通常は移植の1か月前の黄体期)に行われます。処置によって局所の免疫応答が活性化され、着床に有利な子宮内膜環境が整うという仮説に基づいています。具体的には、炎症性サイトカインの上昇・樹状細胞の活性化・コーディシン(HOXA10等)の発現増加が報告されています。
処置の流れ
- 月経20〜25日目(黄体期中期)に外来受診
- 腟鏡で子宮頸部を露出
- 子宮内膜生検カテーテル(コレット・エンドサンプラー等)を子宮腔内に挿入
- 内膜を軽く1〜2回引っかく(時間:1〜3分)
- 出血・痛みは少量・軽度が多い。翌日から通常生活可
期待される効果──どのような患者に有益か
子宮内膜スクラッチが特に有益と考えられていたのは「反復着床不全(RIF)」の患者です。RIFとは良好な胚を2〜3回以上移植しても妊娠が成立しない状態を指します。
子宮内膜スクラッチの主な適応候補
- 良好胚(グレードAA/ABの胚盤胞)を2回以上移植して妊娠に至らない
- 形態的異常のない子宮で内膜の受容性が疑われる
- ERA検査でノンレセプティブ(着床の窓がずれている)ではない
- 子宮内膜ポリープや癒着がすでに除去済み
最新エビデンス──大規模RCTの結果
子宮内膜スクラッチの有効性については2019年に英国で実施された大規模RCT(SCRATCHスタディ、Lancet 2019)が重要な転機となりました。
主要研究の結果
研究 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
Lancet 2019(SCRATCHスタディ) | RIFなし・初回IVF(n=1,364) | 出産率に有意差なし(スクラッチ群 26.1% vs 対照 26.1%) |
NEJM 2019(E-Scratching試験) | 初回凍結融解移植(n=1,000超) | 継続妊娠率・出産率に有意差なし |
Nastri et al. メタアナリシス 2022 | RIF患者サブグループ | RIF患者で妊娠率改善の傾向あり(エビデンスの質は中等度) |
以上の結果を踏まえ、ESHREガイドライン(2023年)では「RIF以外の患者への日常的なスクラッチは推奨しない(Grade A)」とされています。RIF患者への使用は「患者個別に検討可能(Grade C)」の位置づけです。
子宮内膜スクラッチを行うタイミング
タイミングが処置の効果に影響すると考えられています。
最適なタイミングの目安
- 推奨:移植を予定している周期の前周期・黄体期中期(月経20〜26日目)
- 同一周期での実施:効果が低い可能性があり、多くの研究で前周期の実施が採用されている
- 卵胞期・移植当日:推奨されない
副作用・注意事項
子宮内膜スクラッチは侵襲が低い処置ですが、以下の点を把握しておきましょう。
- 処置時の不快感・軽い痛み:月経痛程度が多い。強い痛みの場合は術者に伝える。
- 少量の出血・おりもの増加:処置後数日間は自然な反応。
- 感染リスク:まれ。子宮内炎症がある場合は慎重に。
- 偽陰性の子宮内膜炎への注意:慢性子宮内膜炎(CE)が未診断のままスクラッチを行っても効果は低い。
費用と保険適用
日本では子宮内膜スクラッチ(子宮内膜生検として実施)は一部保険適用になる場合がありますが、不妊治療の文脈でのスクラッチ目的実施は多くの施設で自費扱いとなります。費用は1〜3万円程度が目安です(施設により異なります)。
よくある質問(FAQ)
Q. 子宮内膜スクラッチは痛いですか?
個人差がありますが、多くの方は月経痛程度の不快感とされています。痛みが強い場合は処置前に鎮痛剤を内服することがあります。
Q. 初回移植でもスクラッチを受ける意味がありますか?
大規模RCTでは初回移植(RIFなし)での有効性は示されていません。ESHREガイドラインも日常的な使用は推奨していないため、担当医とメリット・デメリットを十分に話し合ってください。
Q. 反復着床不全(RIF)の場合は必ず行うべきですか?
「必ず」とは言えませんが、他の原因(慢性子宮内膜炎・ポリープ・ERAずれ等)を除外した後に試みる選択肢の一つです。
Q. スクラッチをした周期は移植を避けるべきですか?
多くの研究では前周期にスクラッチを行い、次周期に移植するプロトコルが採用されています。同一周期での実施は担当医の判断に従ってください。
Q. 子宮内膜スクラッチと子宮内膜生検は同じですか?
器具や手技はほぼ同じですが、目的が異なります。子宮内膜生検は病理診断(慢性子宮内膜炎・ERA検査等)のため、スクラッチは着床率改善目的です。
まとめ
子宮内膜スクラッチは反復着床不全に対する補助的な選択肢ですが、大規模RCTで初回IVFや一般的な凍結融解移植への有効性は示されていません。ESHREガイドラインでは日常的な実施は推奨されておらず、RIF患者への適用も個別判断とされています。慢性子宮内膜炎や着床の窓のずれなど、他の着床障害の原因を先に検索・排除したうえで検討することが大切です。
※本記事は医療情報の提供を目的としており、特定の治療を推奨するものではありません。治療方針は必ず担当医と相談のうえ決定してください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
産婦人科・婦人科に関する正確で信頼性の高い情報をお届けします。医療監修のもと、女性の健康に役立つコンテンツを制作しています。
Next Action

