
子宮内感染(絨毛膜羊膜炎・CAM)は、妊娠中に細菌が子宮内へ侵入して卵膜や羊水に炎症を起こす疾患です。早産や新生児感染症の主要な原因の一つであり、妊娠中期以降に注意が必要とされています。本記事では、絨毛膜羊膜炎の原因・リスク因子・臨床的CAMと組織学的CAMの違い・症状・診断・治療法・早産との関連について、産婦人科の専門的知見に基づいて解説します。気になる症状がある方は、早めに主治医へ相談してください。
この記事のポイント
- 絨毛膜羊膜炎(CAM)は腟からの上行性感染が主な原因で、早産の約25〜40%に関与するとされる
- 臨床的CAMは発熱・頻脈などの症状で診断し、組織学的CAMは分娩後の病理検査で確定する
- 治療の基本は抗菌薬投与と分娩誘発であり、母児の重篤な合併症を防ぐために迅速な対応が求められる
絨毛膜羊膜炎(CAM)とは|卵膜に細菌感染が起こる子宮内感染症
絨毛膜羊膜炎(Chorioamnionitis: CAM)とは、絨毛膜と羊膜に細菌が感染して炎症が生じた状態を指します。羊水や胎盤にも炎症が波及し、母体と胎児の双方にリスクをもたらす疾患です。
卵膜は胎児を包む膜で、外側の絨毛膜と内側の羊膜から構成されています。通常、子宮頸管の粘液栓や羊膜がバリアとなり、腟内の細菌が子宮内に侵入するのを防いでいます。しかし、何らかの原因でこのバリアが破綻すると、細菌が上行して子宮内感染が成立します。
日本産科婦人科学会の報告によると、全分娩の約1〜4%に臨床的絨毛膜羊膜炎が認められ、早産例ではその頻度がさらに高くなるとされています。
子宮内感染と絨毛膜羊膜炎の関係
「子宮内感染」は子宮内に細菌感染が生じた状態を広く指す用語で、絨毛膜羊膜炎はその代表的な病態です。近年では、国際的に「Intraamniotic Infection(羊膜腔内感染)」という名称が使われる場面も増えています。臨床現場では、発熱を伴う子宮内感染全般を「CAM疑い」として初期対応を行うことが一般的です。
原因とメカニズム|腟からの上行性感染が全体の約8割を占める
絨毛膜羊膜炎の最も多い原因は、腟や子宮頸管に存在する細菌が子宮内へ上行する「上行性感染」で、全症例の約80%を占めるとされています。
上行性感染の経路
腟内には多様な常在菌が存在し、通常は乳酸桿菌(ラクトバチルス属)が優勢を保つことで病原菌の増殖を抑えています。しかし、腟内細菌叢のバランスが崩れたり、子宮頸管が短縮・開大したりすると、以下の経路で感染が進行します。
- 腟内の細菌が子宮頸管を通過
- 卵膜(絨毛膜・羊膜)の外面に到達・定着
- 卵膜を貫通して羊水腔内に侵入
- 羊水を介して胎児にも感染が波及する場合がある
主な起因菌
絨毛膜羊膜炎の原因菌は多岐にわたり、単一菌ではなく複数菌の混合感染であることが多いと報告されています。
菌種 | 特徴 |
|---|---|
Ureaplasma urealyticum | 最も高頻度で検出される。無症状でも子宮内に存在する場合がある |
Mycoplasma hominis | Ureaplasmaと並び検出頻度が高い |
GBS(B群溶血性連鎖球菌) | 新生児感染症の主要な原因菌。妊婦の約15〜30%が保菌 |
大腸菌(E. coli) | グラム陰性桿菌の中で最も多い |
嫌気性菌(バクテロイデス属など) | 混合感染で高頻度に検出 |
上行性感染以外の経路
頻度は低いものの、血行性感染(母体の血流を介した感染)や、羊水穿刺などの侵襲的処置に伴う感染経路も報告されています。
リスク因子|前期破水・腟内細菌叢の異常・頸管無力症が三大リスク
絨毛膜羊膜炎のリスクを高める主な因子は、前期破水(PROM)、細菌性腟症、頸管無力症の3つです。これらが重なるほど発症リスクは上昇するとされています。
- 前期破水(PROM/pPROM):卵膜が破れることでバリア機能が消失し、細菌の上行が容易になる。破水から分娩までの時間が長いほどリスクが高まり、破水後24時間以上経過すると発症率が有意に上昇
- 細菌性腟症:腟内の乳酸桿菌が減少し、嫌気性菌やGardnerella属が増殖した状態。子宮内感染の独立したリスク因子
- 頸管無力症・子宮頸管の短縮:物理的なバリアが弱いため、細菌が子宮内に到達しやすい
- 頻回の内診・経腟操作:分娩中の頻回な内診は子宮内への細菌侵入リスクを高めるとされる
- 長時間の分娩:分娩時間が延長するほど感染の機会が増加
- GBS保菌:抗菌薬の予防投与が行われない場合にリスクが上昇
- 若年・喫煙・栄養不良:免疫機能の低下を通じて感染リスクに関与する可能性がある
これらのリスク因子が複数該当する場合は、妊婦健診時に主治医へ伝えておくことが望ましいでしょう。
臨床的CAMと組織学的CAM|診断のタイミングと基準が異なる
絨毛膜羊膜炎には「臨床的CAM」と「組織学的CAM」の2つの分類があり、臨床的CAMは分娩前に症状で判断し、組織学的CAMは分娩後の病理検査で確定診断されます。
区分 | 臨床的CAM | 組織学的CAM |
|---|---|---|
診断時期 | 分娩前・分娩中 | 分娩後(胎盤病理検査) |
診断基準 | 母体発熱(38.0℃以上)+補助所見 | 卵膜への好中球浸潤の有無と程度 |
頻度 | 全分娩の約1〜4% | 全分娩の約10〜20% |
特徴 | 症状が明確で治療介入の判断に直結 | 無症状でも病理的に炎症が存在する場合がある |
臨床的CAMの診断基準
臨床的CAMの診断は、母体の発熱を必須条件とし、以下の補助的基準のうち1つ以上を満たす場合に疑われます。
- 母体発熱:38.0℃以上(必須条件)
- 母体頻脈:100回/分以上
- 胎児頻脈:160回/分以上
- 子宮の圧痛
- 羊水の悪臭・混濁
- 血液検査での白血球増多(15,000/μL以上)やCRP上昇
組織学的CAMの重要性
組織学的CAMは臨床症状を伴わないケースが多く、「隠れた炎症」とも呼ばれます。Blanc分類(Stage 1〜3)やRedline分類によって炎症の程度が評価され、Stage 3(壊死性絨毛膜羊膜炎)は胎児への影響が大きいとされています。早産で出生した児の神経学的予後を評価する際にも、胎盤病理所見が参考にされる場合があります。
症状と診断|母体の発熱・頻脈・子宮圧痛が主な警告サイン
絨毛膜羊膜炎の典型的な症状は、38.0℃以上の発熱、母体や胎児の頻脈、子宮の圧痛であり、羊水の混濁や悪臭を伴うこともあります。
主な症状
- 発熱:最も多い初発症状。38.0℃以上の発熱が持続する場合はCAMを疑う
- 母体頻脈:心拍数100回/分以上。発熱に伴って出現することが多い
- 胎児頻脈:胎児心拍モニタリングで160回/分以上が持続。胎児の感染・ストレスを示唆する所見
- 子宮圧痛:子宮体部を触診した際の痛み。炎症が子宮筋層にまで波及している可能性を示す
- 羊水の異常:悪臭や混濁がみられる場合は感染の進行を示唆
血液検査と補助的検査
臨床症状に加え、以下の検査所見が診断の補助となります。
検査項目 | CAMを示唆する所見 | 注意点 |
|---|---|---|
白血球数(WBC) | 15,000/μL以上 | 妊娠中は生理的に増加するため単独では判断困難 |
CRP | 上昇(施設により基準値は異なる) | 炎症の程度を反映するが、上昇までに時間差がある |
プロカルシトニン | 0.5ng/mL以上 | 細菌感染の特異度が比較的高い |
羊水検査 | 白血球増多、糖低下、グラム染色で菌体検出 | 羊水穿刺が必要で侵襲的 |
臨床現場では、母体発熱と血液検査(白血球・CRP)の組み合わせで迅速に判断し、治療を開始する場合が多いとされています。確定診断を待たずに治療介入を行う「経験的治療」が重視される疾患の一つです。
治療法|抗菌薬投与と適切なタイミングでの分娩がカギ
絨毛膜羊膜炎の治療は、広域スペクトラムの抗菌薬を速やかに投与し、母児の状態に応じて分娩(多くは誘発分娩)を進めることが原則です。
抗菌薬治療
CAMが疑われた時点で、培養結果を待たずに経験的な抗菌薬投与を開始します。一般的に使用される抗菌薬の組み合わせは以下の通りです。
- アンピシリン + ゲンタマイシン:最も標準的なレジメン。グラム陽性菌と陰性菌の双方をカバー
- 嫌気性菌のカバーが必要な場合:メトロニダゾールやクリンダマイシンを追加
- 帝王切開を行う場合:術後感染予防のため、嫌気性菌までカバーする広域抗菌薬が選択されることが多い
抗菌薬の投与は分娩前に開始することで、新生児の感染症や敗血症のリスクが低減するとの報告があります。分娩後も母体の発熱や炎症所見が持続する場合は、抗菌薬投与を継続します。
分娩の方針
絨毛膜羊膜炎と診断された場合、感染の進行を防ぐために早期の分娩が推奨されます。ただし、「CAM=即座に帝王切開」ではありません。
- 経腟分娩が可能な場合:陣痛促進剤(オキシトシン等)による分娩誘発を行い、経腟分娩を目指す
- 帝王切開の適応:胎児機能不全(重度の徐脈など)、分娩進行の停止、児頭骨盤不均衡など、産科的適応がある場合に選択
治療の遅れは母児双方の重篤な合併症につながるため、主治医の判断のもと迅速な対応が行われます。
早産との関連|絨毛膜羊膜炎は早産の最も重要な原因の一つ
子宮内感染は早産の約25〜40%に関与するとされ、特に妊娠32週未満の早期の早産では感染が原因である頻度がさらに高くなります。
感染が早産を引き起こすメカニズム
子宮内に侵入した細菌が産生する毒素や、母体の免疫反応で放出されるサイトカイン(IL-6、TNF-αなど)が、以下の連鎖反応を引き起こします。
- 炎症性サイトカインが子宮筋のプロスタグランジン産生を促進
- 子宮収縮が誘発され、陣痛が発来
- 同時に、卵膜の脆弱化が進行し前期破水が起こりやすくなる
- 子宮頸管の成熟(軟化・開大)が促進される
このように、感染と早産は「炎症」を介して密接に関連しており、感染による早産は「感染に起因する自然早産」と分類されることがあります。
母児への合併症
母体の合併症 | 新生児・胎児の合併症 |
|---|---|
子宮内膜炎(産褥感染) | 新生児敗血症 |
菌血症・敗血症 | 新生児肺炎・髄膜炎 |
帝王切開時の創部感染 | 脳室周囲白質軟化症(PVL) |
弛緩出血(子宮収縮不全) | 脳性麻痺のリスク上昇 |
DIC(播種性血管内凝固)(重症例) | 胎児炎症反応症候群(FIRS) |
特に妊娠28週未満の超早産期に絨毛膜羊膜炎を合併した場合、新生児の神経学的予後への影響が懸念されるため、NICUでの集中管理が必要となるケースが多いと報告されています。
予防と早期発見|妊婦健診での定期的なチェックが最善の対策
絨毛膜羊膜炎の予防には、腟内細菌叢の管理、GBSスクリーニング、前期破水時の適切な対応が重要であり、妊婦健診での定期的な確認が早期発見につながります。
- 妊婦健診の定期受診:腟分泌物の培養検査や子宮頸管長の測定により、リスクの早期把握が可能
- GBSスクリーニング:妊娠35〜37週頃に腟・直腸培養を行い、陽性の場合は分娩時に抗菌薬を予防投与
- 細菌性腟症の治療:症状がある場合は抗菌薬で治療し、腟内環境の改善を図る
- 前期破水時の管理:破水が疑われたら速やかに受診し、抗菌薬予防投与と胎児モニタリングを開始
- 分娩中の管理:不必要な頻回の内診を避け、感染徴候の早期発見に努める
完全に予防することは困難ですが、リスク因子の管理と早期対応により、重症化を防ぐことが期待できます。何らかの異常(発熱、腟からの異常な分泌物、破水感)を自覚した場合は、時間帯を問わず産院に連絡しましょう。
よくある質問(FAQ)
絨毛膜羊膜炎になると必ず早産になりますか?
必ずしも早産になるとは限りません。臨床的CAMの多くは妊娠後期に発症し、正期産の分娩中に診断されるケースも少なくありません。ただし、妊娠中期以前に発症した場合は早産につながるリスクが高いため、迅速な治療介入が求められます。
絨毛膜羊膜炎は赤ちゃんに後遺症を残しますか?
早期に適切な治療(抗菌薬投与と分娩)が行われれば、多くの場合、新生児への重篤な後遺症は回避できるとされています。しかし、妊娠週数が早い超早産児に重度のCAMが合併した場合は、脳室周囲白質軟化症(PVL)など神経学的合併症のリスクが報告されています。出生後のNICU管理と経過観察が重要です。
前期破水をしたら必ず絨毛膜羊膜炎になりますか?
前期破水が起きたからといって必ず絨毛膜羊膜炎を発症するわけではありません。破水後に抗菌薬の予防投与と適切なモニタリングを行うことで、感染リスクを低減できるとされています。破水から分娩までの時間管理が重要となります。
絨毛膜羊膜炎と診断されたら帝王切開になりますか?
CAMの診断だけで帝王切開が選択されるわけではありません。治療の基本は抗菌薬投与と分娩誘発であり、母児の状態が安定していれば経腟分娩を目指します。帝王切開は、胎児機能不全や分娩進行停止などの産科的適応がある場合に選択されます。
絨毛膜羊膜炎は自分で気づけますか?
発熱(38.0℃以上)は自覚しやすい症状です。それ以外にも、悪寒、下腹部の痛み、腟からの異臭のある分泌物などがあれば、CAMを含む感染の可能性があります。妊娠中に発熱した場合は、自己判断で解熱剤のみで対処せず、産院へ連絡することが推奨されます。
絨毛膜羊膜炎は次の妊娠にも影響しますか?
前回の妊娠で絨毛膜羊膜炎を発症した場合、次の妊娠でも再発するリスクがやや高いとの報告があります。細菌性腟症などの基礎的なリスク因子が持続している場合は、次回妊娠前から腟内環境の管理を行うことが望ましいでしょう。主治医に既往歴を伝えたうえで管理方針を相談してください。
臨床的CAMと組織学的CAMはどちらが深刻ですか?
一概にどちらが深刻とは言えません。臨床的CAMは症状が顕在化しているため治療介入が行われますが、組織学的CAMは無症状のまま胎児に炎症が波及している場合もあります。特に組織学的CAMのStage 3(壊死性変化)は、胎児炎症反応症候群(FIRS)との関連が指摘されており、分娩後の病理検査による評価が重要です。
まとめ
絨毛膜羊膜炎(CAM)は、腟からの上行性感染を主な原因とする子宮内感染症で、早産や新生児感染症の重大なリスク因子です。前期破水、細菌性腟症、頸管無力症などのリスク因子を持つ方は特に注意が必要とされています。母体の発熱・頻脈・子宮圧痛などの症状が認められた場合は、迅速な抗菌薬投与と分娩方針の決定が母児の予後を左右します。
妊婦健診を定期的に受診し、異常を感じたら早めに産院へ連絡することが、絨毛膜羊膜炎の早期発見と重症化予防につながります。
気になる症状がある方へ
妊娠中の発熱、下腹部痛、腟からの異常な分泌物など、少しでも気になる症状がある場合は、かかりつけの産婦人科へ早めにご相談ください。MedRootでは、妊娠中のさまざまな不安に寄り添う情報を発信しています。
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※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。症状や治療については、必ず担当医にご相談ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
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