卵子凍結を選んだ後で最も気になるのは、「そもそも本当に使うのか」という不透明さではないでしょうか。海外統計では使用率は10〜38%で、多くの方が結果的に使わない道を歩みます。本記事では使用率の国内外データ、使わなかった主な理由、4つの選択肢、「使わなかった=無駄」ではない整理の考え方、使う可能性を高めるタイミング指針まで、学会指針と一次データを基にまとめました。
この記事のポイント
- 凍結卵子の実使用率は10〜38%レンジで、多くの方が結果的に使わない現実
- 「使わなかった=無駄」ではなく保険としての心理的価値を4つの効用で整理
- 使わなかった後に選べる継続・移管・寄付・廃棄の4選択肢と決断の目安
編集・監修について
編集・監修:女性ドクター編集部(産婦人科医療情報チーム)
本記事は日本産科婦人科学会・日本生殖医学会・ESHRE・ASRM・PubMed登録論文の一次情報を照合し、産婦人科医療の編集ガイドラインに沿って作成しています。個別の判断は主治医にご相談ください。
最終更新日:2026年7月1日
凍結後に使わなかった人の割合:国内外の実データ
凍結卵子の実使用率は各国の追跡データで10〜38%程度と報告されており、7割前後の方は結果として使用しないまま経過。自然妊娠成立やライフイベントの変化で「使う必要がなくなる」ケースが多数を占めます。
海外の追跡データが示す使用率レンジ
調査元 | 対象 | 使用率 | 備考 |
|---|---|---|---|
ESHRE (2020) | 欧州多施設5年追跡 | 約12〜15% | 社会的凍結中心 |
ASRM系論文 (2018) | 米国大学病院10年追跡 | 約38% | 晩期実施群を含む |
Fertility Society of Australia (2023) | 豪州選択的凍結 | 約10〜16% | 社会的凍結が中心 |
Human Reproduction (2020) | スペイン単一施設 | 約12.1% | 平均7年追跡 |
国内の使用率はまだ整備途上
日本産科婦人科学会は運用指針を示しているものの、社会的卵子凍結の中長期追跡データは公的には未整備の段階。主要クリニック公表資料では、実施者の年間使用率は5〜15%程度で推移すると説明されるケースが多く、海外の傾向と大きく乖離しない水準と考えられます。
使用率を左右する3つの変数
- 凍結時年齢:35歳未満で凍結した群は使用率が低め(自然妊娠成立率が高いため)
- 追跡年数:追跡が長いほど使用率は上昇する傾向
- 凍結目的:医学的凍結(がん治療前など)は社会的凍結より使用率が高い
時間軸のイメージは卵子凍結の保管期間と卵子凍結の体験談で補完できます。
「使わなかった」主な理由4分類:ポジティブとネガティブ
使わなかった理由は「使う必要がなくなった(ポジ)」と「使いたくても使えなかった(ネガ)」の2軸に整理可能。前者が多数派で自然妊娠成立が最頻理由。後者は年齢的タイミングを逃したケースやパートナー要因が中心となる傾向にあります。
ポジティブ側の理由
- 自然妊娠が成立した:最多パターン。凍結後2〜5年以内の報告が多い
- 心の保険として機能して十分だった:焦りが軽減し自然な流れで妊娠に至った
- キャリアの選択肢が広がった:仕事優先の期間を安心して過ごせた
ネガティブ側の理由
- パートナーが得られなかった:単身での使用に踏み切れず時間経過
- 使用年齢の上限を超えた:多くのクリニックで45〜50歳が上限
- 健康状態の変化:慢性疾患・治療歴等で妊娠が推奨されなくなった
- 採卵後の顕微授精・胚移植の費用で経済的にフェーズを進められなかった
「後悔」体験談に共通するパターン
後悔を語る体験談を横断すると、凍結時に動機が言語化されていなかったケースが目立つ傾向。「なんとなく不安だから」で踏み切ると、使わなかったときに費用と身体的負担への納得感が得にくくなります。決断前の動機の明文化は、将来の心理的整理を助ける実務的準備と言えるでしょう。詳細は卵子凍結の体験談と卵子凍結をやめた体験談で対比的に整理しました。
使わなかった場合に選べる4つの選択肢
使用しなかった場合、「継続保管」「他施設への移管」「寄付・研究提供」「廃棄」の4つの選択肢があります。日本では寄付・研究提供のハードルが高めですが、全体像を知ることで自分に合った出口を検討しやすくなるでしょう。
選択肢1:継続保管
年3〜6万円の保管料を継続支払い、使用可能性を維持する方法。使用年齢上限(多くの施設で45〜50歳)までが実質的な期限で、40歳前後で悩む方は5年更新契約を1回だけ延長するといった段階的判断も現実的です。
選択肢2:他施設への移管
転居や結婚など生活拠点の変化に伴い、別施設へ搬送する選択肢。ドライシッパー(液体窒素専用容器)による専門業者搬送で5〜15万円が相場。学会認定施設間であれば手続きは比較的円滑。詳細は卵子凍結の移管で確認できます。
選択肢3:寄付・研究提供
他者への卵子提供は2020年成立の生殖補助医療法以降、徐々に整備が進みつつあります。営利目的の提供は禁止されており、実施可能施設は現時点で限定的。研究機関への提供は倫理審査委員会の承認が前提で、受入先も限られる状況。関心があれば主治医へご相談ください。
選択肢4:廃棄(保管終了)
意思確認〜完了通知までの手続き期間は1〜2ヶ月、費用は5,000〜5万円が相場。手続き詳細と心理的負担のケア方法は卵子凍結の廃棄手続きにまとめています。
4選択肢の比較まとめ
選択肢 | 費用 | 期間 | 心理的ハードル |
|---|---|---|---|
継続保管 | 年3〜6万円 | 使用年齢まで | 低(現状維持) |
他施設移管 | 5〜15万円 | 1〜2ヶ月 | 低〜中 |
寄付・研究提供 | 原則無償 | 3〜6ヶ月 | 中〜高 |
廃棄 | 0〜5万円 | 1〜2ヶ月 | 中〜高 |
「使わなかった=無駄」ではない:保険としての価値を4視点で整理
使わなかったとしても、「保険」としての心理的・機能的な効用は確かに存在します。凍結行為そのものが焦りを軽減するとの海外報告もあり、費用対効果を「使用の可否」だけで測るのは合理的ではありません。
視点1:意思決定の余裕を確保する効用
凍結してあるという事実が、パートナー選び・キャリア判断・治療選択の場面で焦りに支配されない意思決定を可能にします。体験談でも「凍結後は結婚を焦らなくなった」「昇進のタイミングを逃さなかった」という声が多く、時間的余裕そのものの価値を評価する方が目立ちます。
視点2:後悔の非対称性を減らす効用
「やらなかった後悔」と「やって使わなかった後悔」では前者の方が心理的負担が重いと語る体験談が優勢。使用に至らなくても「試みた」という事実が納得感を支える構造で、決断前の期待値設計に活かせる視点でしょう。
視点3:家族関係の緊張を緩和する効用
親からの結婚・出産プレッシャーに対する返答として「凍結してある」と伝えられる状態が、家族関係の話題を避ける必要性を減らすケースが報告されています。会話の選択肢が増えるという副次的効用も見逃せない要素。
視点4:自分の身体と向き合う経験としての効用
採卵〜凍結の一連のプロセスで、AMH検査・月経周期の可視化・排卵誘発への身体反応など、自分の生殖機能を客観的なデータで把握する経験が得られます。将来の妊娠計画やヘルスケア判断の基礎データとして中長期的な価値を持ちうるでしょう。
使わない可能性を減らす実施タイミングと事前準備
使用率を高めたい場合、「凍結時年齢の適正化」「凍結個数の最適化」「使用時期の逆算計画」の3つが実務的に効果的です。凍結時年齢が低いほど自然妊娠で使わずに済む可能性が高い一方、必要となった時の使用成功率は高いという二面性があります。
凍結時年齢の目安と使用率の関係
凍結時年齢 | 1個あたりの生児獲得率目安 | 使用率の傾向 |
|---|---|---|
30歳未満 | 約6〜8% | 低め(自然妊娠が多い) |
30〜34歳 | 約5〜7% | 中程度 |
35〜37歳 | 約4〜5% | やや高い |
38歳以上 | 約2〜4% | 使用を検討する時期が近い |
※各種論文・学会報告の中央値を統合した目安。個別状況で変動します。
凍結個数の目安
ASRMの試算では、35歳時点で10〜15個の成熟卵凍結で生児獲得率60〜70%到達が目安と示されています。個数が少なすぎると使用時の成功率が低くなり、結果的に「使わない」判断につながりやすい傾向。卵子凍結の保管費用でコスト面と併せて整理しました。
使用時期の逆算計画と事前確認
- 「◯歳までにパートナーが見つからなければ使う」の目標年齢を凍結時に設定
- 目標年齢の1年前に主治医と使用可否のカウンセリングを実施
- 使用年齢上限(施設規約)と採卵後の顕微授精・胚移植の想定費用を把握
- 単身での使用可否は施設ごとに異なるため事前確認
判断材料は卵子凍結のデメリットと卵子凍結で妊娠できなかったケースで立体的に整理できます。
使わなかった選択への心理的整理:グリーフケアの視点
使わないという結果が確定した際、感情の揺れが生じる方も少なくありません。「割り切ろう」と急がず、感情に段階的に向き合うことが望ましいでしょう。海外では非使用や廃棄でも軽度〜中等度のグリーフ反応が観察されると報告されています。
感情の揺れが起こりやすい3つのタイミング
- 使用年齢上限の1〜2年前(意思決定のプレッシャー期)
- 廃棄手続きの意思連絡直後
- 手続き完了通知の受領後1〜2週間
心理的負担を和らげる4つの実践
- 決断の背景を紙に書き出す:言語化により納得感が高まる
- カウンセリング枠を活用:公認心理師・臨床心理士の相談を用意する施設が多い
- 信頼できる第三者と対話:評価的でない相手に絞る
- 手続き完了後の回復期間確保:1〜2週間は無理な予定を入れない
使わなかった経験を経て「自分の身体と向き合う姿勢」「意思決定の主体性」が育まれたと語る体験者も目立ちます。凍結の意思決定・保管期間中の内省・出口選択の熟慮という一連のプロセスそのものが、次のライフイベントへの準備になり得るという視点も持っておくとよいでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 凍結後、実際に使う人は何割ですか?
海外の追跡データでは10〜38%のレンジで、対象国・追跡年数・凍結目的により大きく変動します。国内の中長期追跡データは公的整備が途上ですが、主要クリニック公表資料では年間5〜15%程度が使用に至ると説明されるケースが多い状況です。
Q2. 使わなかった場合、費用は完全に無駄になりますか?
「無駄」の定義次第です。使用に至らなくても、意思決定の余裕・後悔の非対称性の緩和・家族関係の緊張軽減など、心理的・機能的な効用は確かに存在すると多くの体験談で語られています。費用対効果を使用可否だけで測るのは合理的ではないと言えるでしょう。
Q3. 使わなかった卵子はどうすればいいですか?
継続保管・他施設への移管・寄付/研究提供・廃棄の4つが主な選択肢です。日本では寄付・研究提供のハードルが高いため、実務的には「継続保管か廃棄か」の二択で検討する方が多い傾向にあります。
Q4. 使わずに廃棄する場合、後悔しませんか?
後悔の程度は個人差が大きいものの、凍結時に動機が明確に言語化されていた方ほど心理的整理がつきやすいと報告されています。決断前に「なぜ凍結したのか」を書き出しておくことが、将来の後悔軽減に有効な準備となるでしょう。
Q5. 使う可能性を高めるにはどうすればいいですか?
凍結時の目標年齢設定(◯歳までにパートナーが見つからなければ使う等)、凍結個数の最適化(35歳時点で10〜15個目安)、使用時期の逆算計画の3つが実務的です。凍結時のカウンセリングで具体的なプランを主治医と共有しておくことをおすすめします。
Q6. 独身のまま使うことはできますか?
施設ごとに規約が異なり、日本産科婦人科学会の見解では夫婦間使用を原則とする一方、単身女性への対応は施設判断に委ねられている領域も残ります。契約前に「単身での使用可否」を必ず確認してください。
Q7. 使わなかったことで身体への影響はありますか?
凍結卵子を使用しないこと自体が身体に影響を及ぼす報告はありません。ただし採卵時の身体的負担は既に生じているため、採卵の経験そのものが将来のホルモン管理や妊娠判断の参考データとして活用できる面もあります。
Q8. 使わない可能性が高いなら、そもそもやらない方がいいですか?
意思決定は個別性が高く一律の答えはありません。ただし「使わない可能性が高い=やる価値がない」ではなく、意思決定の余裕・時間的自由・後悔リスクの軽減など使用以外の効用を評価軸に含めるかどうかで判断が変わります。詳細は卵子凍結は意味ない?で対比的にまとめています。
まとめ
凍結卵子の実使用率は10〜38%で、多くの方が結果的に使わずに経過します。ただし「使わなかった=無駄」ではなく、意思決定の余裕・後悔の非対称性・家族関係の緩和・身体理解という4つの効用が確かに存在。使わなかった後の選択肢は継続保管・移管・寄付/研究提供・廃棄の4つ。決断前に動機の言語化と目標年齢の設計をしておくと心理的整理が容易になるでしょう。
次のステップ
「自分の場合はどう考えるべきか」を整理したい方は、まず現在の保管契約書と自身の凍結時動機の振り返りから始めることをおすすめします。
- お近くの卵子凍結対応クリニックのカウンセリング窓口を検索
- 使用可否・保管継続の相談予約
- 心理カウンセリング(グリーフケア対応)の情報収集
参考情報・情報源
- 日本産科婦人科学会「未受精卵子または卵巣組織の凍結・保存に関する見解」
- 日本生殖医学会「生殖医療の必修知識」
- 厚生労働省「生殖補助医療の提供等に関する法律」(2020年成立)
- ESHRE Guideline on Female Fertility Preservation (2020)
- ASRM Practice Committee (Fertility and Sterility, 2019)
- The Fertility Society of Australia and New Zealand, "Elective Egg Freezing Position Statement" (2023)
- Cobo A. et al., "Oocyte vitrification for elective fertility preservation" (Human Reproduction, 2020)
- Nachtigall RD. et al. (Human Reproduction, 2018)
免責事項
本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療方針を示すものではありません。使用率・費用・年齢上限等の数値は執筆時点の学会報告および主要施設公表資料を基にした目安で、実際の判断は主治医または担当施設へ個別にご相談ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
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