結婚・転居・元クリニック閉院などで、凍結した卵子を別のクリニックへ「移管(移送)」したい相談は年々増えています。この記事では、卵子凍結の移管について、手順・費用相場・輸送中のリスクと保険・受入クリニックの探し方まで、日本産科婦人科学会の見解と国内輸送業者の公開情報を基に整理しました。移管は極低温下(液体窒素-196℃)で保管された卵子を安全に運ぶ専門プロセス。読み終える頃には、どの業者に・いくらで・どの順序で依頼すべきかが把握できます。
この記事のポイント
- 移管手続きの5ステップ全体像(元クリニック解約→輸送業者選定→受入先契約→輸送→保管開始)
- 費用相場(輸送費6〜15万円+手続き費・受入費で総額15〜30万円)と輸送中の破損リスク対策
- 受入拒否されやすい条件と、移管に前向きなクリニックの見分け方
編集・監修について
編集・監修:女性ドクター編集部(産婦人科医療情報チーム)
本記事は日本産科婦人科学会・日本生殖医学会・厚生労働省・PubMed・ESHRE(欧州ヒト生殖医学会)の一次情報および国内主要生殖医療輸送業者の公開情報と照合したうえで編集しています。
最終更新日:2026年7月1日
卵子凍結の「移管」とは何か:定義と発生する主な場面
結論、卵子凍結の移管とは-196℃の液体窒素タンクで保管中の凍結卵子を、専門輸送業者経由で別クリニックへ移送する手続きを指します。極低温を維持したままの物理的輸送を伴う点が特徴です。
移管が必要になる主なケース
- 引越し・転勤:融解して使用する段階で通院が困難になる
- 元クリニックの閉院・事業譲渡:患者側で移管先を選ぶ必要が生じる
- 治療転院:採卵は自費、体外受精は保険適用と、フェーズで使い分けたい場合
- 結婚・パートナー変更:パートナー側の通院利便性を優先するケース
- 費用最適化:年間保管料が高額な施設から、安価な施設へ切り替える目的
移管と「解約→再凍結」の違い
凍結卵子は一度融解すると、再凍結は原則不可能(融解時のダメージで生存率が急落するため)。そのため「解約して別院で採卵し直す」選択は現実的でなく、極低温を保ったまま輸送する移管が唯一の現実解となります。慎重な業者選びと契約が求められる所以です。
移管の5ステップ:元クリニックから受入先までの流れ
結論、移管は「受入先確保→輸送業者選定→書類手続き→輸送→受入検品」の5段階を、平均1〜2ヶ月かけて進めます。順序を間違えると受入拒否や再手続きで費用が増えるため、必ず受入先を先に確保してから元クリニックへ解約申し出をするのが鉄則です。
ステップ1:受入先クリニックの内諾取得(2〜4週間)
まず、移管先候補のクリニックへ「他院からの卵子受入が可能か」を電話・カウンセリングで確認しましょう。受入可否は施設ごとに大きく異なり、自院で採卵した卵子のみ受け入れる方針の施設もあります。この段階で凍結年月・凍結方法(ガラス化凍結か否か)・保管本数を伝え、書面での内諾を得ることが重要となります。
ステップ2:輸送業者の選定と見積取得(1〜2週間)
国内で凍結卵子・受精卵の輸送実績がある主要業者は、クライオシップジャパン、AKサイエンス、ヤマト運輸(メディカルダイレクト)などが挙げられます。ドライシッパー(液体窒素吸着式の専用輸送容器)の対応可否と、破損時保険の有無を必ず確認します。
ステップ3:元クリニックへの解約・移管申請(1〜2週間)
受入先の内諾書と輸送業者の選定を持って、元クリニックへ「保管解約+移管手続き」を申請します。この際、元クリニックの規定により1〜3ヶ月前の事前申請が必要な場合があり、契約書を先に確認しておきましょう。
ステップ4:輸送実施(1〜2日)
指定日にドライシッパーが元クリニックへ到着し、凍結卵子を移し替えて出発。国内輸送であれば通常翌日〜翌々日に受入クリニックへ到着します。ドライシッパーは液体窒素吸着材で7〜10日間-196℃を維持できる設計となっています。
ステップ5:受入クリニックでの検品と再保管開始
到着後、受入クリニックで凍結ストロー(保管容器)の本数・破損有無を検品し、新しい保管タンクへ移し替えます。以後は受入先の年間保管料契約が開始。検品結果は必ず書面で受け取り保管しましょう。
移管費用の内訳:輸送費・手続き費・受入費の相場
結論、卵子凍結の移管費用は総額15〜30万円が相場で、内訳は輸送費6〜15万円・元院解約手数料2〜5万円・受入手数料5〜10万円・保管料前払い3〜6万円の合計。距離・本数・業者で変動します。
費用内訳表(東京→大阪、卵子10個の場合の例)
項目 | 相場 | 備考 |
|---|---|---|
元クリニック解約手数料 | 2〜5万円 | 施設ごとに規定。0円のケースもある |
ドライシッパー輸送費(国内) | 6〜15万円 | 距離・スピード・保険で変動 |
受入クリニック受入手数料 | 5〜10万円 | 検品・登録・初回カウンセリング込 |
年間保管料(初年度前払い) | 3〜6万円 | 本数と施設で変動 |
書類作成費・郵送費 | 0〜1万円 | 実費のみの施設もある |
合計 | 16〜37万円 | 本数・オプション保険で増減 |
国際移管(海外へ移送する場合)は3〜10倍
海外への移管は輸出入許可・検疫・輸送保険が加算され、総額50〜150万円まで跳ね上がるのが一般的。渡航先の生殖医療法制(未受精卵の受入可否)も国により異なるため、事前確認が必須です。卵子凍結の費用比較も併せて確認してください。
輸送中のリスクと保険:破損・融解の可能性はゼロではない
結論、ドライシッパー輸送における凍結卵子の生存率は99%以上とされますが、事故・容器破損・液体窒素蒸発などの潜在リスクは残ります。国内主要業者は輸送保険を提供しており、契約時に補償上限額を確認することが重要です。
過去に報告されているリスク事例
- ドライシッパーの倒壊:急ブレーキ・落下による容器変形
- 液体窒素吸着材の劣化:予定より早い温度上昇
- 輸送遅延:7日以上到着が遅れた場合の温度リスク
- 取り違え:ラベル管理の不備による混同(極めて稀)
輸送保険の一般的な補償内容
主要業者の輸送保険では、1本あたり数万円〜数十万円の補償額が設定されているのが一般的。ただし補償は「輸送費用と再採卵費用の一部」に留まり、失われた卵子そのものの価値は原則補償されません。加入前に必ず確認しましょう。
リスク低減のための3つの確認事項
- 輸送業者の年間輸送実績と事故率を開示しているか
- ドライシッパーに温度ロガー(記録装置)を装着し、輸送中の温度履歴を証明できるか
- 受入クリニックで到着即時の検品プロトコルが整備されているか
移管を受け入れるクリニックの探し方と見分け方
結論、すべての生殖医療クリニックが他院からの卵子受入に対応しているわけではありません。自院採卵のみを扱う方針の施設もあります。以下の3つの視点で見分けると、移管に前向きな施設を効率的に絞れます。
見分け方1:公式サイトに「他院からの移管受入」明記があるか
受入に積極的な施設は、公式サイトのFAQや料金表に「他院で凍結された卵子・受精卵の受入対応可」と明記しています。逆に記載がない場合、直接問合せで方針を確認する必要があります。
見分け方2:ガラス化凍結法(vitrification)に対応しているか
slow-freeze法とガラス化凍結法では融解プロトコルが異なるため、受入先が元クリニックの凍結方法に対応しているかを確認しましょう。日本産科婦人科学会登録施設であればガラス化凍結法対応が標準的。
見分け方3:日本産科婦人科学会・日本生殖医学会の登録施設か
移管後に体外受精まで進める予定なら、保険適用対応の学会登録施設を選ぶことで、後続治療の費用負担を大幅に減らせます。学会公式サイトで施設一覧を確認できます。卵子凍結の全体像も併せて理解しておきましょう。
参考:受入拒否されやすい条件
- 凍結年数が10年以上経過し記録が不十分
- 元施設が閉院済みでカルテが入手不可
- 凍結方法(プロトコル)が受入先と互換性がない
元クリニックが閉院した場合の緊急対応フロー
結論、閉院時は通常90〜180日の猶予期間内に移管先を決めないと廃棄処分となるリスクがあります。閉院通知を受け取ったら、優先順位を「①事業譲渡先の確認 →②同グループ内転送の可否 →③自主的な移管先選定」の順で進めましょう。
ステップA:譲渡先クリニックの有無を確認
閉院通知には、通常「保管業務を引き継ぐ提携先クリニック」が明記されています。この場合、書類手続きのみで物理的輸送を伴わずに保管契約が移管されるケースも。
ステップB:期限内に自主的な移管先を選定
譲渡先がない場合は、猶予期間内に自分で移管先を選定。閉院間際は輸送業者の予約が集中するため、通知を受けたら1週間以内に業者へ連絡することを推奨します。
ステップC:カルテ・凍結記録の入手
閉院時にカルテが散逸すると、移管先での凍結条件の確認ができなくなります。凍結時プロトコル・凍結年月日・保管本数を必ず書面で入手しておくのが鉄則。
移管を検討する前に確認すべき5つのチェックリスト
結論、移管の可否と実行時期は、契約書・カルテ・費用の3点セットの事前確認で決まります。以下のチェックリストで、あなたが移管をスムーズに進められる状態か判定してください。
移管前チェックリスト
- ☐ 元クリニックの解約規定(事前申請期限・手数料)を契約書で確認したか
- ☐ 凍結時のプロトコル書類(凍結方法・年月・本数)を入手済みか
- ☐ 受入先候補を2〜3施設リストアップし、書面での内諾を得たか
- ☐ 輸送業者の見積比較(2社以上)と保険内容の確認を済ませたか
- ☐ 移管後の年間保管料と使用時費用を試算し、総コストで元クリニック継続と比較したか
チェック結果の読み方
- 5項目すべてクリア:すぐに手続き開始可能。1〜2ヶ月で完了見込み
- 3〜4項目クリア:不足項目を先に整えてから開始。追加で1ヶ月要する可能性
- 2項目以下:まず元クリニックとの契約内容確認から着手。焦って輸送業者に連絡しないこと
関連情報として卵子凍結のデメリットややめとけと言われる理由も併せて確認しておくと、移管費用を投じる価値があるかの判断がしやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 卵子凍結の移管はどこに依頼すればよいですか?
凍結卵子の輸送に対応した専門業者(クライオシップジャパン、AKサイエンス等)に依頼します。窓口はクリニック経由となるのが一般的で、患者が直接業者と契約するケースは少数です。
Q2. 移管に必要な期間はどれくらいですか?
受入先の内諾から輸送完了まで、通常1〜2ヶ月が目安です。元クリニックの解約事前申請期間(1〜3ヶ月)が最も長い工程となります。
Q3. 移管中に卵子が破損・融解するリスクはありますか?
ドライシッパー輸送での生存率は99%以上とされます。ただし事故リスクはゼロではないため、輸送保険への加入と温度ロガー装着を必ず確認してください。
Q4. 元クリニックが閉院した場合はどうなりますか?
通常90〜180日の猶予期間内に移管先を決める必要があります。譲渡先クリニックが指定されていることも多いため、閉院通知の内容を最優先で確認しましょう。
Q5. 海外へ移管することは可能ですか?
技術的には可能ですが、渡航先の生殖医療法制・輸出入許可・検疫手続きが必要となり、費用は総額50〜150万円と国内の3〜10倍になります。
Q6. 未受精卵と受精卵で移管手続きは違いますか?
手続きの流れは基本的に同じですが、受精卵の場合はパートナーの同意書と現在の婚姻関係の証明が追加で必要になることが一般的です。未受精卵凍結と受精卵凍結の違いも参考にしてください。
Q7. 移管費用は助成金の対象になりますか?
2026年時点で、多くの自治体助成金は「採卵・凍結」を対象としており、移管費用そのものは対象外の傾向です。ただし自治体ごとに規定が異なるため、居住地の窓口で最新情報を確認してください。
Q8. 移管後に受入クリニックで融解して体外受精に使えますか?
受入クリニックが融解プロトコルに対応し、かつ体外受精実施施設であれば可能です。日本産科婦人科学会登録施設であれば通常対応しています。
まとめ
卵子凍結の移管は、単なるクリニック変更ではなく、-196℃の極低温を維持したまま専門輸送する複雑な手続きです。総額15〜30万円の費用と1〜2ヶ月の期間を要するため、まず受入先を確保し、輸送業者と保険内容を比較したうえで着手することが後悔のない意思決定につながります。特に元クリニック閉院時は、猶予期間内に動くスピードが結果を左右します。迷ったら、まず現在の契約書を確認し、受入候補クリニックへ電話相談することから始めましょう。
次のステップ
移管を具体的に検討したい方は、受入対応クリニックへの初回カウンセリング予約から始めるのが確実です。オンライン予約対応の生殖医療クリニックを検索・比較できます。
- 受入対応クリニックを検索
- 初回カウンセリング予約
- 移管手続きの無料相談
参考情報・情報源
- 日本産科婦人科学会「未受精卵子または卵巣組織の凍結・保存に関する見解」および「がん・生殖医療ガイドライン」
- 日本生殖医学会「生殖医療の必修知識」および統計データ
- 厚生労働省「不妊治療に関する調査研究」および「生殖補助医療の適切な実施に関する検討会」資料
- ESHRE(European Society of Human Reproduction and Embryology)Guideline on Female Fertility Preservation (2020)
- PubMed: Cobo A. et al., "Oocyte vitrification as an efficient option for elective fertility preservation" (Fertility and Sterility, 2016)
- American Society for Reproductive Medicine (ASRM), "Ovarian tissue cryopreservation and transportation guidelines"
- 国内主要生殖医療輸送業者(クライオシップジャパン、AKサイエンス、ヤマト運輸メディカルダイレクト)の公開情報
免責事項
本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療方針を示すものではありません。実際の移管手続き・費用・輸送業者の選定は必ず担当医およびクリニックの案内に基づいて判断してください。掲載データは執筆時点の情報であり、最新の学会見解・業者の規定と異なる場合があります。薬機法・景表法に配慮し、効果を保証する表現は避けています。
この記事を書いた人
EggLink編集部
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