
腟内フローラ(膣内細菌叢)検査は、ラクトバチルス属菌が腟内細菌の80%以上を占めているかどうかを確認する検査です。ラクトバチルス優位の環境(pH3.8〜4.5の酸性)は着床環境を守り、体外受精の成功率向上に関連するとされています。不妊治療中・反復着床不全・反復流産の方に特に推奨される検査です。
この記事のポイント
- 腟内フローラ検査で何がわかるか——ラクトバチルスと着床の関係
- 検査方法・費用・誰に勧められるか
- ラクトバチルス不足の原因と改善アプローチ
腟内フローラとは——ラクトバチルスが守る着床環境
健康な女性の腟内には数百億個もの細菌が生息しており、その大部分をラクトバチルス属(乳酸菌)が占めます。ラクトバチルスは乳酸を産生して腟内を酸性(pH3.8〜4.5)に保ち、病原菌の増殖を抑制します。腟内フローラが乱れると(細菌性腟炎など)、腟内pHが上昇し、病原菌が増殖しやすくなります。
主なラクトバチルス種と特徴
ラクトバチルス種 | 腟内での頻度 | 特徴 |
|---|---|---|
L. crispatus | 最も多い(理想的) | 乳酸産生量が多く、保護効果が最も高い |
L. iners | 次に多い | 乳酸産生量が少なく、細菌性腟炎への移行リスクが高い |
L. jensenii | 比較的多い | 中程度の保護効果 |
L. gasseri | 一部の女性で多い | 保護効果あり |
最も理想的なのはL. crispatusが優位な環境です。L. inersが多い腟内環境は、ラクトバチルス比率は高くても着床環境としては次善とされています。
腟内フローラ検査の方法と費用
腟内フローラ検査は、腟内から綿棒で検体を採取し、次世代シーケンシング(NGS)や定量PCRで細菌の種類と割合を解析します。
検査の概要
項目 | 内容 |
|---|---|
採取方法 | 腟壁からの綿棒採取(痛みなし・数十秒) |
採取タイミング | 月経中以外であれば基本的にいつでも可 |
結果報告 | 2〜4週間後(施設によって異なる) |
費用 | 保険外(自費):1万5,000〜3万円程度 |
主な測定内容 | ラクトバチルス比率・ラクトバチルスの種の同定・嫌気性菌・G.vaginalis・マイコプラズマ等 |
どんな方に推奨されるか
- 体外受精で2〜3回以上移植しても着床しない(反復着床不全)
- 原因不明の反復流産
- 慢性おりもの異常・細菌性腟炎の繰り返し
- 体外受精を始める前のベースライン評価(一部施設で実施)
- 子宮内フローラ検査(EMMA)と並行して検討する場合
着床・妊娠率との関係——研究エビデンス
腟内フローラと不妊・ART成功率の関係は、2016年以降に複数の研究が発表されています。
主な研究知見
- 子宮内フローラがラクトバチルス優位(90%以上)の場合、着床率・妊娠継続率が有意に高い(スペインのAlour研究グループ)
- 腟内フローラと子宮内フローラは相関するが、同一ではない(腟内正常でも子宮内に乱れがある場合あり)
- L. crispatus優位環境は、HPV感染・性感染症のリスク低下とも関連
- 腟内ディスバイオシス(細菌バランスの乱れ)は早産・前期破水のリスク因子としても研究されている
ただし、腟内フローラ改善が直接的に妊娠率を向上させるかどうかは、まだ十分なRCT(ランダム化比較試験)がなく、エビデンスの確立はこれからです。
子宮内フローラ検査(EMMA/ALICE)との違い
腟内フローラ検査と似た検査として「子宮内フローラ検査(EMMA:子宮内環境マイクロバイオーム分析)」があります。
項目 | 腟内フローラ検査 | 子宮内フローラ検査(EMMA) |
|---|---|---|
採取部位 | 腟壁 | 子宮内膜(カテーテルで採取) |
侵襲性 | 非侵襲(痛みなし) | 軽度の不快感・痛みあり |
費用目安 | 1万5,000〜3万円 | 5万〜10万円程度 |
測定内容 | 腟内細菌叢 | 子宮内細菌叢(着床環境の直接評価) |
ALICE(慢性内膜炎菌) | 別途検査が必要 | 同時測定可能 |
着床不全の精査が目的の場合は、侵襲は大きくなりますが子宮内フローラ検査の方が直接的な情報が得られます。
ラクトバチルス不足の原因
腟内フローラが乱れる(ディスバイオシス)原因は複数あります。
- 性感染症・細菌性腟炎:Gardnerella vaginalis・嫌気性菌の過剰増殖
- 抗生剤の頻繁な使用:腸内・腟内の善玉菌も一緒に減少
- ホルモン変化:閉経後はエストロゲン低下→ラクトバチルスが減少しやすい
- 免疫機能低下:過度なストレス・睡眠不足
- 食生活の乱れ:糖分の多い食事は腟内悪玉菌の増殖を促す可能性
- 腟内洗浄(膣洗浄)のやりすぎ:腟内を過剰に洗うとラクトバチルスが流れ落ちる
ラクトバチルス不足の改善アプローチ
検査でラクトバチルス比率が低値と判定された場合、以下のアプローチが検討されます。
腟内プロバイオティクス
ラクトバチルスを含む腟内坐薬・カプセルを腟内に挿入して直接補充する方法です。L. crispatus・L. rhamnosus・L. reuteriを含む製品が研究されており、腟内ラクトバチルス比率を改善する効果が報告されています(ただし保険外)。
経口プロバイオティクス(腸内→腟内経路)
乳酸菌を経口摂取することで腸内フローラを経由して腟内フローラも改善されるとする研究があります。L. rhamnosus GR-1・L. reuteri RC-14の組み合わせが特に腟内フローラに有効とする論文があります。
細菌性腟炎の治療
細菌性腟炎(Gardnerella過剰)が確認された場合は、メトロニダゾール(腟剤・内服)などの抗生剤治療が必要です。治療後にプロバイオティクスで正常フローラを補充する流れが推奨されます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 腟内フローラ検査はどこで受けられますか?
不妊専門クリニック・一部の婦人科・オンライン検査サービスで受けられます。保険適用外のため全額自費です。受診前に検査が可能かどうか確認してください。
Q2. 腟内フローラ検査の結果が悪いと体外受精を受けられませんか?
腟内フローラの状態だけで体外受精が中止されることは通常ありません。ただし、細菌性腟炎などがある場合は治療後に移植を行う施設が多いです。
Q3. ヨーグルトを食べると腟内フローラが改善しますか?
経口摂取した乳酸菌が腟内に届く経路は存在しますが、効果は個人差が大きいです。腟内ラクトバチルスの直接補充には、腟内プロバイオティクスの方が効率的です。ヨーグルトは腸内フローラ改善には有効ですが、腟内への直接効果は限定的です。
Q4. 妊娠中の腟内フローラ乱れは問題ですか?
はい、妊娠中の細菌性腟炎や腟内フローラ乱れは早産・前期破水のリスク因子とされています。特に過去に早産歴がある方や双子妊娠では、腟内細菌の管理が重要です。
Q5. 腟内フローラ検査は定期的に受けるべきですか?
反復着床不全の精査や治療効果確認のため、移植周期前・抗生剤治療後などのタイミングで受ける場合が多いです。すべての女性が定期的に受ける必要性は現時点では確立されていません。
まとめ
腟内フローラ検査は、ラクトバチルス比率と細菌叢の組成を解析して着床環境・感染リスクを評価する検査です。反復着床不全・原因不明不妊の方に特に推奨されます。子宮内フローラ検査(EMMA)とは採取部位が異なり、より着床に直接関わる情報が必要な場合は子宮内検査が選択されます。ラクトバチルス不足が判明した場合は、腟内プロバイオティクスや細菌性腟炎の治療で改善を図ります。保険外検査のため、費用対効果をクリニックと相談してから受けることを推奨します。
※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療の代替となるものではありません。気になる症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。参考:Moreno I, et al. "Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure." American Journal of Obstetrics and Gynecology (2016)、日本産科婦人科学会「生殖医療の現状と課題」
この記事を書いた人
EggLink編集部
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