
甲状腺機能異常と不妊には深い関係があります。甲状腺ホルモンは卵巣機能・排卵・黄体機能・着床すべてに関与するため、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の値が基準外であれば不妊・流産のリスクが高まります。
日本生殖医学会のガイドラインでは、不妊・不育症の女性にはTSH検査が推奨されています。甲状腺機能を正常化してから不妊治療に臨むことで、妊娠率・出産率が改善する可能性があります。
この記事のポイント
- 甲状腺機能低下症・亢進症と不妊・流産の関係
- 不妊治療に最適なTSH目標値の考え方
- 治療・管理の方法と妊活との両立
甲状腺ホルモンと妊娠の関係——なぜ不妊に影響するのか
甲状腺ホルモン(T3・T4)は全身の代謝を調節するホルモンで、卵巣機能・排卵・子宮内膜の発育・胎盤形成に必要不可欠です。甲状腺機能に異常があると、以下のような問題が起こりえます。
甲状腺機能低下症(橋本病が主な原因)
- 排卵障害・無排卵月経・月経不順
- 黄体機能不全(黄体ホルモン不足)による着床障害
- プロラクチン上昇(高プロラクチン血症)を二次的に引き起こすことも
- 流産リスクの上昇(特に抗TPO抗体陽性例)
甲状腺機能亢進症(バセドウ病が主な原因)
- 月経不順・希発月経
- 妊娠高血圧症候群・早産・低出生体重児のリスク増加
- 甲状腺クリーゼ(妊娠中の急性増悪)の危険
不妊治療で重要なTSH基準値——2.5 mIU/Lの意味
一般的なTSH基準値は0.5〜4.5 mIU/L程度ですが、不妊・妊娠中はより厳しい管理が推奨されています。米国甲状腺学会(ATA)の2017年ガイドラインでは、不妊・不育症女性のTSH目標値として2.5 mIU/L未満が推奨されています。
TSH値 | 一般的な評価 | 不妊治療における対応 |
|---|---|---|
0.5未満 | 機能亢進の可能性 | 甲状腺機能亢進症の治療優先 |
0.5〜2.5 | 理想的 | そのまま不妊治療継続可 |
2.5〜4.5 | 一般基準内だが高め | 不妊・不育症では要注意・補充を検討 |
4.5超 | 機能低下の可能性 | 甲状腺補充療法を開始してから治療 |
ただし「2.5未満に必ず下げる」かどうかは抗体価や症状によって異なり、担当医との相談が必要です。
甲状腺抗体と不育症——抗体陽性の意味
甲状腺機能が正常(TSH正常値)でも、抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体が陽性の場合(橋本病の潜在型)、流産リスクが高まることが報告されています。
- 抗TPO抗体陽性例では流産率が約2倍になるというメタ解析の報告あり(van den Boogaard E, et al. 2011)
- レボチロキシン(甲状腺ホルモン補充)投与で流産率が改善するという報告があるが、エビデンスは発展途上
- 不育症の検査として、抗体検査を含める施設が増えている
甲状腺異常の治療——妊活中の薬物療法
甲状腺機能低下症にはレボチロキシン(チラーヂンS)による補充療法が第一選択です。妊娠中はホルモン必要量が増加するため、定期的なTSH測定と用量調整が欠かせません。
甲状腺機能低下症の治療(レボチロキシン)
- TSH値に応じて用量を調整(毎朝空腹時に服用)
- 妊娠確認後は用量を約25〜30%増量するよう指示されることが多い
- 妊娠中は4〜6週ごとにTSHを測定
甲状腺機能亢進症の治療(バセドウ病)
- 抗甲状腺薬(チアマゾール・プロピルチオウラシル)で機能を正常化
- 妊娠初期はプロピルチオウラシルが推奨(チアマゾールは催奇形性リスク)
- 寛解(薬なしでTSH正常)を確認してから妊娠を目指すのが理想
甲状腺検査のタイミングと受け方
不妊治療を始める前の基本検査としてTSHを含めることが推奨されています。以下の条件に当てはまる方は特に優先して検査を受けてください。
甲状腺検査を受けるべき方
- 月経不順・無排卵月経がある
- 疲れやすい・体重増加・むくみ・寒がり(機能低下症状)
- 動悸・汗かき・体重減少・手の震え(機能亢進症状)
- 不育症(反復流産)の既往がある
- 家族に甲状腺疾患がある
検査はTSHの血液検査のみで可能で、保険適用(検査料数百円〜数千円程度)で受けられます。
甲状腺治療と不妊治療の両立——どちらを先に?
甲状腺機能異常が明らかな場合、まず甲状腺を治療して安定させてから不妊治療を開始するのが基本方針です。ただし年齢・不妊の他原因・重症度によって判断は異なります。
- TSH 2.5〜4.5で症状なし:補充療法を開始しつつ不妊治療を並行するケースも
- TSH 4.5超または症状あり:まず甲状腺を安定させてから不妊治療
- バセドウ病活動期:甲状腺機能を正常化してから妊娠を目指す
- 抗体陽性・TSH正常:経過観察またはレボチロキシン少量投与(施設・状況による)
よくある質問(FAQ)
Q. 甲状腺の薬を飲んでいると不妊治療できない?
できます。レボチロキシンは妊娠中も継続が必要な薬で、不妊治療・妊娠中も安全に使用できます。用量の調整が必要なため、内科・産婦人科の連携が重要です。
Q. TSH値が2.8だと不妊治療は難しい?
一般基準内ですが、不妊・不育症ではTSH 2.5未満を目標にする医師もいます。症状・抗体値・他の不妊因子を総合して担当医と相談することをお勧めします。
Q. 甲状腺を治せば妊娠できる?
甲状腺機能正常化で排卵障害や流産リスクが改善するケースはありますが、他の不妊因子(卵管・精子など)が重なる場合は追加の治療が必要です。
Q. どの科で診てもらえばいい?
甲状腺疾患の管理は内科(内分泌科・甲状腺専門医)が担当し、不妊治療は産婦人科・不妊専門クリニックが担当します。両科の連携が理想的です。
Q. 抗体が陽性でも普通に妊娠している人はいる?
います。抗体陽性でも流産せずに出産する方は多くいます。リスクが高まるという意味であり、必ず流産するわけではありません。
まとめ
甲状腺機能と不妊の関係は、排卵・着床・妊娠維持のすべてにわたります。不妊治療を始める前にTSH検査を受け、異常があれば治療して安定させることが妊娠率向上につながります。
- 不妊・不育症ではTSH 2.5 mIU/L未満が目標値(ATA 2017)
- 抗TPO抗体陽性はTSH正常でも流産リスクを高める可能性
- レボチロキシンは妊娠中も安全に継続でき、妊娠後は用量調整が必要
次のステップへ
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この記事を書いた人
EggLink編集部
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