
PGT-SR(Preimplantation Genetic Testing for Structural Rearrangements:着床前構造異常検査)は、染色体の構造異常(転座・逆位など)を持つカップルが体外受精を行う際に、胚の染色体バランスを移植前に検査する技術です。流産を繰り返す不育症の方に特に適応があります。
この記事のポイント
- PGT-SRの適応(対象者)と実施要件
- PGT-A・PGT-Mとの違い
- 検査の手順・費用・期待できる効果と限界
PGT-SRとは——染色体構造異常への対応
染色体の「構造異常」とは、染色体の一部が別の染色体に付着(転座)したり、逆向きになったり(逆位)する変化です。保因者自身は正常な表現型であることが多いですが、生殖細胞が作られる際に染色体が不均衡な状態で胚に受け継がれると、流産や染色体疾患を持つ子どもが生まれるリスクが高まります。PGT-SRはこの問題に対応するために開発されました。
PGT-SRの適応となる染色体構造異常
構造異常の種類 | 説明 | 流産・不均衡リスク |
|---|---|---|
相互転座(reciprocal translocation) | 2本の染色体間で断片が交換 | 高(50〜70%の胚が不均衡) |
Robertson転座 | 近端動原体染色体(13・14・15・21・22番)の融合 | 高(染色体13・21・22の不均衡に注意) |
逆位(inversion) | 染色体の一部が逆向きに再結合 | 中〜高(逆位の長さに依存) |
挿入(insertion) | 一方の染色体に別の断片が挿入 | 中〜高 |
PGT-A・PGT-Mとの違い
- PGT-A(Aneuploidies):染色体の数的異常(トリソミー・モノソミーなど)を検出。全染色体数を解析
- PGT-SR(Structural Rearrangements):特定の染色体構造異常(転座・逆位)の均衡性を評価
- PGT-M(Monogenic disease):特定の単一遺伝子疾患の有無を検査(例:嚢胞性線維症・ハンチントン病など)
日本でのPGT-SRの実施要件
日本産科婦人科学会は、PGT-SRを「PGT-SR臨床研究(特定・先進医療)」として管理しており、実施には学会への申請と承認が必要です(2024年5月時点)。下記の条件を満たすカップルが対象です。
適応要件
- 夫婦どちらかに染色体核型分析で均衡型転座・逆位などの構造異常が確認されていること
- 反復流産(2回以上の流産)または染色体不均衡の子どもが生まれた既往があること
- 体外受精・胚培養・凍結融解胚移植が実施可能な施設での実施
- 遺伝カウンセリングを受けていること
※2024年から一部条件が緩和されており、最新の要件は日本産科婦人科学会の公式情報を参照してください。
PGT-SRの検査方法と技術
PGT-SRでは、体外受精で作製した胚盤胞(5〜6日目の胚)の栄養外胚葉(将来胎盤になる部分)から数個の細胞を採取(トロフェクトダーム生検)し、染色体解析を行います。
主要な解析技術
- array CGH(比較ゲノムハイブリダイゼーション):DNA量の増減を全染色体レベルで解析。均衡型か不均衡型かを評価
- NGS(次世代シーケンシング)ベースのCNV解析:高精度かつ低コスト化が進む。数的異常と構造異常を同時評価可能
- FISH法:特定の染色体断片をプローブで標識。転座の種類に応じたプローブ設計が必要
均衡型と不均衡型の区別
PGT-SRでは「正常型」「均衡型(保因者と同じ)」「不均衡型(染色体量の過不足あり)」に分類します。通常は正常型または均衡型の胚を移植対象としますが、正常型か均衡型(保因者型)の区別はPGT-SRだけでは困難なことがあり、この点は出生前診断(羊水検査)で補完することが推奨されます。
PGT-SRの手順と流れ
- 遺伝カウンセリング:染色体異常の意味・検査の目的・限界・倫理的事項を理解
- 学会申請・承認:担当施設が日本産科婦人科学会に申請し承認を受ける
- 体外受精(採卵・受精・培養):胚盤胞まで培養(5〜6日)
- トロフェクトダーム生検:胚盤胞から細胞を数個採取し凍結保存
- 染色体解析(通常1〜2週間):外部検査機関またはART施設内で実施
- 結果確認・移植胚の選択:均衡型または正常型の胚を凍結融解で移植
- 妊娠確認後の出生前診断(推奨):羊水検査などで胎児の染色体を最終確認
費用と保険適用
項目 | 保険適用 | 費用目安 |
|---|---|---|
体外受精・胚培養(基本) | 保険適用あり(一定条件下) | 約30万〜50万円 |
胚盤胞生検(トロフェクトダーム生検) | 先進医療として一部補填 | 約5万〜15万円 |
PGT-SR遺伝子解析料 | 先進医療または自費 | 約10万〜30万円(胚数による) |
遺伝カウンセリング | 保険適用(一部) | 約500〜5,000円(3割) |
※施設・胚数・解析手法により大幅に異なります。2024年時点の参考値です。
PGT-SRの効果と限界
PGT-SRは転座保因者の流産率を低減し、生産率を改善する効果が報告されています。相互転座保因者では、PGT-SRなしの場合と比べて流産率を約50%から20〜25%程度に低下させたとの研究があります(Tan Y et al. 2018)。ただし以下の限界を理解することが重要です。
- すべての胚が均衡型とは限らない:採卵してもPGT-SRで移植できる胚がない周期もある
- 妊娠・出産を100%保証しない:着床失敗・妊娠中の自然流産は起こりえる
- 均衡型と正常型の区別が困難な場合がある:出生後に子どもが保因者になる可能性
- モザイク胚の扱い:細胞採取部位の結果が胚全体を反映しない可能性(生検バイアス)
よくある質問
Q. PGT-SRを受けるとすべての流産を防げますか?
いいえ。PGT-SRは染色体構造異常由来の不均衡胚を移植前に除外することで流産率を低下させますが、流産の原因は他にも(偶発的染色体異常・子宮因子・免疫因子など)あります。流産を完全に防ぐことはできません。
Q. 均衡型の胚が一つも得られなかった場合はどうなりますか?
移植できる胚がない周期があります。その場合は次の採卵周期を行うか、他の選択肢(精子・卵子の提供や特別養子縁組など)を遺伝カウンセラーと相談することになります。
Q. PGT-SRを行った後も出生前診断(羊水検査)は必要ですか?
推奨されています。PGT-SRで均衡型と判定されても、技術的な限界(生検バイアスなど)から完全ではないため、妊娠後の羊水検査で確認することが多くの施設で勧められています。
Q. 転座を持っていますが、PGT-SRなしで自然妊娠を試み続けることはできますか?
可能です。転座保因者でも均衡型・正常型の胚が生まれる可能性はあります。自然妊娠を継続し、妊娠後に出生前診断を受けるという選択も医学的に認められています。どちらを選ぶかは、価値観・年齢・流産歴などを考慮してご夫婦で決定してください。
Q. 保険は使えますか?
体外受精の基本工程は一定条件で保険適用されますが、PGT-SRの遺伝子解析部分は2024年現在、多くの場合「先進医療」または「自費」扱いです。施設によって対応が異なるため、受診時に確認してください。
まとめ
PGT-SRは、染色体の均衡型転座・逆位など構造異常を持つカップルの体外受精において、移植前に胚の染色体バランスを確認する検査です。流産率の低下と生産率の改善が期待できますが、全ての胚が移植可能とは限らず、妊娠を保証するものでもありません。遺伝カウンセリングをしっかり受け、メリット・デメリットを理解した上で選択することが大切です。
次のステップ:「染色体転座を指摘された」「流産を繰り返している」方は、不妊治療クリニックの専門医または遺伝専門外来に相談してください。
※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療を目的とするものではありません。症状や治療については必ず担当医にご相談ください。掲載情報は2024年時点のものです。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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