
不妊検査の中で「低温期に受ける検査」として最も重要なのが、ホルモン基礎値の測定です。月経周期の低温期前半(月経2〜5日目)は、卵巣・下垂体系のホルモン分泌が「基礎状態」にある唯一の時期であり、この時期を外すと正確な評価ができません。
この記事でわかること
- 低温期に受ける不妊検査の種類と目的
- 各ホルモンの正常値・異常値の意味
- 低温期検査の最適なタイミングと受診準備
- 低温期以外でも受けられる検査との組み合わせ方
「低温期」とは——月経周期における位置づけ
基礎体温(BBT)の観点から、月経周期は低温期と高温期の2つに分かれます。低温期とは排卵前の時期を指し、高温期とは排卵後から次の月経が来るまでの時期を指します。
時期 | 月経からの日数目安(28日周期) | ホルモンの状態 |
|---|---|---|
低温期前半(月経期) | 1〜5日目 | FSH上昇・E2低値・卵胞発育開始 |
低温期後半(卵胞期) | 6〜12日目 | E2上昇・卵胞成熟・子宮頸管粘液増加 |
排卵 | 13〜15日目 | LHサージ→排卵 |
高温期(黄体期) | 16〜28日目 | プロゲステロン上昇・子宮内膜肥厚 |
ホルモン基礎値を測定するベストタイミングは「低温期前半(月経2〜5日目)」です。この時期にFSH・LH・E2が「基礎状態」にあるため、卵巣機能と下垂体機能を最も正確に評価できます。
低温期前半(月経2〜5日目)に受ける検査と意味
月経2〜5日目に実施される主要なホルモン検査と、それぞれの測定目的・正常値の目安を解説します。
検査項目 | 測定目的 | 正常値の目安 | 異常時に疑う状態 |
|---|---|---|---|
FSH(卵胞刺激ホルモン) | 卵巣予備能・下垂体機能の評価 | 3〜10 mIU/mL | 高値:卵巣予備能低下・閉経近傍 低値:下垂体機能低下 |
LH(黄体形成ホルモン) | 排卵促進ホルモン・PCOSスクリーニング | 3〜8 mIU/mL | 高値:PCOS(LH/FSH比>2)無排卵 |
E2(エストラジオール) | 卵胞発育の状態・骨密度への影響 | 20〜60 pg/mL | 高値(月経初期に):卵巣予備能低下の早期サイン |
プロラクチン(PRL) | 高プロラクチン血症のスクリーニング | 5〜20 ng/mL(施設差あり) | 高値:排卵障害・黄体機能不全 |
TSH(甲状腺刺激ホルモン) | 甲状腺機能のスクリーニング | 0.5〜4.5 μIU/mL(不妊では2.5以下が推奨) | 高値:橋本病・甲状腺機能低下症(流産リスク増加) |
AMH(抗ミュラー管ホルモン) | 卵巣予備能・残存卵胞数の指標 | 年齢によって異なる(30代前半:2〜4 ng/mLが目安) | 低値:卵巣予備能低下 高値(+超音波):PCOS |
なお、AMHは月経周期を問わず測定可能ですが、多くのクリニックでは月経初期の採血時にまとめて測定します。
低温期後半(月経7〜10日目)に受ける検査
月経が終わり、子宮内膜が薄い時期(低温期後半)は、子宮・卵管の形態評価に最適です。
子宮卵管造影検査(HSG)
- 目的:卵管の通過性(卵管閉塞・狭窄の有無)と子宮腔の形態確認
- 最適タイミング:月経終了後〜排卵前(月経7〜10日目が標準)
- 子宮内膜が薄いため造影剤が子宮腔全体に広がりやすく、観察精度が高い
子宮頸管粘液検査
- 排卵前後には子宮頸管粘液量が増加し、精子の通過を助ける性質になる
- 排卵前(月経10〜13日目頃)の採取でヒューナー検査との組み合わせ評価が可能
低温期に超音波検査で確認できること
低温期の経腟超音波検査では、子宮内膜が薄い状態のため子宮の形態を観察しやすく、卵巣の状態も確認できます。
- 子宮形態の確認:子宮筋腫・子宮腺筋症・子宮奇形(双角子宮・弓状子宮等)の有無
- 卵巣の状態:チョコレート嚢胞(子宮内膜症性嚢胞)・卵巣嚢腫・多嚢胞性卵巣(PCOS)の形態的所見
- 卵胞数(AFC):低温期前半(月経3〜5日目)に小卵胞の数(洞卵胞数)をカウント。AMHと合わせて卵巣予備能の評価に使用
受診前の準備——低温期検査を最大限活かすために
低温期のホルモン検査を正確に受けるために、受診前に以下の点を確認・準備してください。
- 月経開始日を必ずメモする:月経2日目〜5日目に来院が必要。月経が来たら翌日(2日目)に予約を入れるのが最も安全
- 採血前の食事制限を確認する:一部のホルモン検査(プロラクチン等)は空腹時採血が推奨される施設がある。事前にクリニックに確認
- 採血当日の緊張を減らす:プロラクチンは緊張・不安で一時的に上昇することがある。受診前に深呼吸・十分な睡眠をとることが推奨
- 服薬中の薬・サプリを申告する:ピル・甲状腺薬・プロラクチン関連薬・漢方薬はホルモン値に影響する可能性がある
- 基礎体温グラフを持参する:3〜6ヶ月分の記録があると、周期パターン・排卵の有無を把握するための補助情報として有用
低温期検査の結果が示すもの——受け取り方のポイント
低温期ホルモン検査の結果を受け取る際に知っておくべき解釈のポイントをまとめます。
- FSH高値(10 mIU/mL以上)は要注意:卵巣予備能低下を示す可能性があり、治療の優先度・スピードを上げる判断材料になる。ただし1回の高値で確定せず、翌周期に再検査して確認する
- AMH低値は「妊娠できない」ではない:AMHは残存卵胞数の指標であり、卵子の質を直接示すものではない。低値でも良質な卵子が採れるケースは多い
- TSH高値(2.5以上)は甲状腺精査が必要:不妊・流産リスクとの関連が報告されており、FT4・TPO抗体の追加検査が推奨される
- プロラクチン高値は再検査で確認:1回の高値は緊張・ストレスによる一過性の上昇の可能性があるため、数日後に再検査が必要
よくある質問
Q. 低温期がはっきりしない(基礎体温が二相性でない)場合はどうすれば?
基礎体温が一相性(高温期がない)の場合、排卵が起きていない可能性があります。この場合でも月経出血があれば月経2〜5日目のホルモン検査は受けられます。基礎体温の記録がない場合は、超音波検査や血中プロゲステロン測定で排卵の有無を確認します。
Q. 月経5日目を過ぎてしまいました。ホルモン検査は受けられますか?
月経5日目以降になると卵胞発育が進み始め、E2が上昇し始めるため基礎値としての精度が下がります。6〜7日目であれば参考値として測定できる場合がありますが、8日目以降は次の月経を待つことを推奨する施設が多いです。担当医に確認してください。
Q. AMHは低温期にしか測れませんか?
AMHは月経周期の影響を受けにくいホルモンで、周期のいつでも測定可能です。ただし、ピル服用中はAMHが20〜30%程度低下する報告があるため、より正確な値を求める場合はピル休薬後に測定することが推奨されます。
Q. 結果に「要再検」と書いてありました。どうすれば?
1回の検査で異常値が出た場合でも、変動要因(緊張・体調・ピルの影響等)により翌周期の再検査で正常値に戻るケースも多くあります。担当医の指示に従い、指定されたタイミングで再検査を受けてください。
Q. 感染症検査(クラミジア等)も低温期に受けますか?
感染症検査(クラミジア抗体・HIV・梅毒・B型・C型肝炎・風疹抗体)は月経周期を問わずいつでも実施できます。低温期の来院日にまとめて実施することで来院回数を減らせます。
まとめ
低温期の不妊検査は、月経2〜5日目のホルモン基礎値測定(FSH・LH・E2・プロラクチン・TSH・AMH)と超音波検査(子宮形態・AFC)が中心です。この時期を逃すと翌周期まで待つ必要があるため、月経開始翌日にすぐ予約を入れることが最も重要なアクションです。ホルモン値の解釈は1回の結果で確定せず、複数回の測定と臨床所見を合わせて担当医が総合的に判断します。
免責事項:本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療の代替となるものではありません。検査値の正常範囲は施設・測定法によって異なります。結果の解釈は必ず担当の医師にご確認ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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