
エンドメトリアルスクラッチング(子宮内膜スクラッチング)は、不妊治療において着床率の改善を目的として行われる処置です。細いカニューレで子宮内膜を軽くひっかき、意図的に微小な損傷を加えることで着床環境を整えることを期待するものです。この記事では、その根拠・適応・効果・最新エビデンスを詳しく解説します。
この記事でわかること
- エンドメトリアルスクラッチングの仕組みとメカニズム
- 着床率改善の理論的根拠
- 適応となるケースと向かないケース
- 最新の大規模RCTの結果と現在の見解
- 費用と安全性
エンドメトリアルスクラッチングとは
子宮内膜スクラッチングとは、胚移植周期の前の月経周期に、細いプラスチック製のカニューレ(パイプライ型)を子宮腔内に挿入し、子宮内膜を軽く掻爬(スクラッチ)する処置です。
処置の特徴
- 所要時間:5〜10分程度(外来で実施)
- 麻酔:通常不要(局所麻酔を使用するクリニックもある)
- 痛み:月経痛に似た軽度〜中程度の不快感
- 実施タイミング:胚移植予定周期の前月・月経2〜26日目の間(施設により異なる)
メカニズムの仮説
スクラッチングによる着床改善の機序については、複数の仮説があります。
仮説 | 内容 |
|---|---|
炎症反応説 | 微小損傷→炎症反応→サイトカイン分泌増加→着床促進シグナルの活性化 |
内膜再生説 | スクラッチ後の内膜再生過程で着床受容性が高まる |
マクロファージ活性化説 | 損傷部位にマクロファージが集まり免疫寛容環境が形成される |
適応となるケース
以前は広く推奨されていたが現在は限定的
2010年代には多くのクリニックで広く実施されていましたが、2019年の大規模RCT(SCRATCHトライアル)の結果を受けて、現在は適応の見直しが進んでいます。
現在の適応
- 反復着床不全(RIF):良好な胚盤胞を2〜3回以上移植しても着床に至らないケース
- その他の方法(ERA・SEET法等)を試みた後の追加オプションとして
最新エビデンス:SCRATCHトライアルの結果
SCRATCHトライアル(2019年、NEJM掲載)
1,364人の体外受精患者を対象とした大規模RCTで、以下の結果が示されました。
- エンドメトリアルスクラッチング施行群:生産率 26.1%
- 対照群(処置なし):生産率 26.1%
- 結論:通常の体外受精患者において着床率・生産率の有意な改善は認められなかった
現在の国際的見解
ESHRE(欧州生殖医学会)・ASRM(米国生殖医学会)のガイドラインでは、「反復着床不全例以外へのルーチン実施は推奨されない」とされています。
反復着床不全への有効性
SCRATCHトライアルの事後解析や他の研究では、反復着床不全例においてスクラッチングが有効な可能性を示すデータもあります。ただし質の高いRCTが不足しており、決定的な結論は出ていません。
処置の流れ
- 月経2〜26日目の間に外来受診
- 内診台に乗り、膣鏡を挿入して子宮口を確認
- 子宮頸管からカニューレを子宮腔内に挿入
- 上下に動かして内膜を軽くスクラッチ(数回)
- 処置完了。当日は安静が推奨される場合あり
処置後の注意
- 少量の出血・不正出血:1〜2日程度で自然軽快
- 軽い腹痛:翌日まで続くことがある(市販の鎮痛剤で対応可)
- 感染リスク:低いが発熱・異常な分泌物がある場合はクリニックに連絡
費用と安全性
項目 | 詳細 |
|---|---|
費用の目安 | 1万〜3万円程度(自費診療) |
保険適用 | 多くの場合自費 |
処置時間 | 5〜10分 |
重篤な合併症 | 極めてまれ(子宮穿孔:0.1%未満) |
よくある質問
Q. エンドメトリアルスクラッチングは痛いですか?
月経痛に似た軽度〜中程度の不快感を感じる方が多いです。処置時間は数分と短く、事前にNSAIDs(鎮痛剤)を服用することで対応できます。
Q. 毎回の移植前にスクラッチングが必要ですか?
現在のエビデンスでは毎回のルーチン実施は推奨されていません。反復着床不全の場合に検討される選択肢の一つです。
Q. スクラッチングと子宮内膜生検は同じものですか?
目的が異なります。子宮内膜生検は組織を採取して病理検査・ERA検査に用います。スクラッチングは組織採取が目的ではなく、内膜への刺激が目的です。ただし使用器具は類似しています。
Q. スクラッチングをしたら次の月経は遅れますか?
処置が直接月経周期に大きく影響することはほとんどありません。軽い出血(スポッティング)が出ることはありますが、次の月経は通常通り来ることが多いです。
Q. スクラッチングは何回まで受けられますか?
回数に明確な上限はありませんが、反復して行う効果のエビデンスは限られています。担当医の判断に従ってください。
まとめ
エンドメトリアルスクラッチングは、子宮内膜への意図的な微小損傷により着床環境を整えることを目的とした処置です。2019年の大規模RCTにより「通常の体外受精患者へのルーチン実施は効果が限定的」という結果が示され、現在は反復着床不全例への限定的な適用が主流になっています。費用は1万〜3万円程度、処置時間は5〜10分と短く、重篤な合併症は極めてまれです。担当医に適応を相談した上で判断しましょう。
免責事項
本記事は医療情報の提供を目的としており、特定の治療・処置を推奨するものではありません。エンドメトリアルスクラッチングの適応・効果は個々の状態により異なります。必ず担当医にご相談ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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