
子宮内マイクロバイオームという言葉を聞いたことはありますか?近年、不妊治療の分野で急速に注目されている検査で、着床不全や反復流産の原因解明に役立てられています。この記事では、子宮内マイクロバイオーム検査の最新知見について、仕組み・対象となる方・費用・結果の読み方まで、医療情報に基づいて解説します。
この記事のポイント
- 子宮内マイクロバイオームとは何か、なぜ不妊治療で重要なのか
- 検査の流れ・費用・結果の見方
- Lactobacillus優位環境が着床率に与える影響と最新エビデンス
子宮内マイクロバイオームとは何か
子宮内マイクロバイオームとは、子宮腔内に存在する微生物(主に細菌)の集合体のことです。従来、子宮内は「無菌」と考えられていましたが、2016年以降の研究で少量の細菌叢が存在することが明らかになりました。
Lactobacillus(乳酸菌)優位が着床のカギ
健康な子宮内環境では、Lactobacillus属が90%以上を占めることが理想とされています。スペインのIVI Valenciaが2019年に発表した研究では、Lactobacillus優位の子宮内環境を持つ女性は非優位群と比べて着床率が約2.7倍高いことが示されました。反対に、G. vaginalis、Prevotella、Streptococcusなどが優勢になると着床不全のリスクが上昇します。
- Lactobacillus 90%以上:着床に適した環境(EMMA陽性)
- Lactobacillus 10〜90%:バランス改善が必要な可能性あり
- Lactobacillus 10%未満:子宮内菌交替(EMMA陰性)の状態
子宮内膜症・慢性子宮内膜炎との関係
慢性子宮内膜炎(CE)は形質細胞(CD138陽性細胞)の増加を特徴とし、EMMA/ALICE検査のALICE(Analysis of Infectious Chronic Endometritis)で評価されます。CEは反復着床失敗(RIF)の10〜60%に存在するとされ、抗菌薬治療後の着床率改善が報告されています(Cicinelli et al., 2015)。
子宮内マイクロバイオーム検査の種類
現在、臨床で使用される主な検査は3種類あります。それぞれ目的・費用・情報量が異なります。
検査名 | 評価項目 | 費用(自由診療) |
|---|---|---|
EMMA(子宮内マイクロバイオーム分析) | 細菌叢全体のバランス・Lactobacillus比率 | 3〜6万円 |
ALICE(慢性子宮内膜炎分析) | 病原菌(CE起因菌)の有無 | 3〜6万円 |
EMMA+ALICE(セット) | 上記両方 | 5〜9万円 |
費用はクリニックや検査機関によって異なります。保険適用外(自由診療)のため、全額自己負担となります。
検査の流れと所要時間
検査の採取自体は5〜10分程度で終わります。月経周期のタイミングに合わせて受診する必要があります。
- 受診・相談:医師と検査の目的・適応を確認
- 採取タイミング:月経終了後から排卵前(周期7〜10日目が目安)
- 子宮内腔の細胞採取:細いカテーテルを子宮内に挿入し検体を採取(痛みは軽度〜中程度)
- 検査機関への送付:専用保存液に入れて送付
- 結果通知:採取から2〜4週間後
採取時の痛みについて
内診に似た感覚で、多くの方は「軽い生理痛程度」と表現します。子宮頸管が狭い方やこれまで経腟分娩経験のない方は、やや強い痛みを感じることもあります。痛みが心配な場合は、事前に医師に相談してください。
結果の見方と次のステップ
結果はLactobacillus比率と検出された菌種によって4つのカテゴリに分類されます。
EMMAの結果分類
- EMMA陽性(Optimal):Lactobacillus ≥ 90%。特別な介入は不要
- EMMA中間(Near Optimal):Lactobacillus 70〜90%。乳酸菌サプリの使用を検討
- EMMA陰性(Suboptimal):Lactobacillus < 70%。Lactobacillus crispatus配合プロバイオティクスを処方
- ALICE陽性:CE起因菌が検出。抗菌薬(ドキシサイクリン等)による治療が必要
結果に基づく治療例
ALICE陽性の場合、抗菌薬(ドキシサイクリン100mg×14日間、またはシプロフロキサシン等)を使用し、治療終了後に再検査を実施するのが標準的な流れです。再検査でALICE陰性を確認してから胚移植を行います。
どんな方に検査が勧められるか
全ての不妊治療患者に必須というわけではありませんが、以下に該当する方は検討に値します。
- 体外受精・胚移植を2回以上繰り返しても着床しない(反復着床失敗:RIF)
- 原因不明の反復流産(2回以上の流産)
- 過去に慢性子宮内膜炎の診断を受けたことがある
- 子宮内膜ポリープ・子宮腔内異常を指摘されている
逆に初回の不妊検査段階では、まずAMH・精液検査・子宮卵管造影などの基本検査を優先するのが一般的です。
検査の限界と注意点
子宮内マイクロバイオーム検査は比較的新しい分野であり、いくつかの限界も知っておく必要があります。
- 採取量が少なく、検出感度に限界がある(偽陰性の可能性)
- 検査タイミング(周期の時期)によって結果が変わることがある
- 介入(プロバイオティクス・抗菌薬)が着床率を確実に上げるかは、まだRCTレベルのエビデンスが限られている
- 日本では自由診療であり、費用は全額自己負担
2023年時点では、欧米のガイドラインでも「RIFには考慮してよい」というレベルであり、スクリーニング的に全員へ推奨されているわけではありません。
よくある質問(FAQ)
Q. 子宮内マイクロバイオーム検査は痛いですか?
多くの方は「生理痛に似た軽い痛み」と表現します。採取時間は1〜2分程度です。ただし子宮頸管が狭い方は強い痛みを感じる場合があります。
Q. 費用はどのくらいかかりますか?
EMMA+ALICEのセットで5〜9万円程度が目安です(クリニックによって異なります)。保険適用外のため全額自己負担となります。
Q. 検査結果が陰性(ALICE陽性)の場合、すぐに胚移植できますか?
ALICE陽性の場合は抗菌薬治療が必要です。治療終了後に再検査を行い、陰性を確認してから胚移植を計画します。通常、治療から再検査まで1〜2ヶ月かかります。
Q. 何度も繰り返し受ける必要がありますか?
ALICE陽性で治療した場合、治療効果確認のため再検査が必要です。EMMAのみ陰性だった場合も、プロバイオティクス使用後に再評価することがあります。
Q. 日本でこの検査を受けられるクリニックはありますか?
大都市圏を中心に不妊治療専門クリニックで実施されています。igenomix(スペインの検査機関)や国内の検査機関と提携しているクリニックが対応しています。受診前に検査実施可否を確認してください。
まとめ
子宮内マイクロバイオーム検査(EMMA/ALICE)は、反復着床失敗や原因不明流産の方に有用な選択肢です。Lactobacillus比率の評価と慢性子宮内膜炎の有無を確認することで、胚移植前の子宮内環境を最適化できる可能性があります。ただし、全ての不妊患者に必須の検査ではなく、医師との相談のうえで判断することが大切です。
費用や受診先については、かかりつけの不妊治療クリニックへご相談ください。
免責事項:本記事は医療情報の提供を目的としており、特定の診断・治療を推奨するものではありません。実際の診断・治療方針については、必ず担当医師にご相談ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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