
CASA(Computer-Aided Sperm Analysis:コンピュータ支援精液分析)は、精子の運動性・速度・軌跡などを自動的かつ客観的に解析するシステムです。従来の顕微鏡下での目視検査に比べて測定精度と再現性が高く、男性不妊の精密診断に活用されています。
この記事のポイント
- CASAシステムが通常の精液検査と何が違うのか
- CASAで測定される精子運動パラメータの意味
- 男性不妊診断・不妊治療においてCASAが果たす役割
CASAとは——コンピュータによる精子の客観的分析
CASAは精液サンプルをデジタルカメラで撮影し、コンピュータアルゴリズムで各精子の軌跡を追跡・解析するシステムです。世界保健機関(WHO)の精液検査マニュアル(第6版、2021年)においても、精子運動パラメータの客観的評価にCASAの使用が推奨されています。
通常の精液検査との違い
評価方法 | 精子数 | 運動率 | 前進運動 | 速度・軌跡 | 客観性 |
|---|---|---|---|---|---|
従来の目視検査 | 可能 | 可能(大まかな分類) | 可能(主観的) | 不可 | 低(検者間誤差あり) |
CASAシステム | 可能(高精度) | 可能(0.1%単位) | 可能(詳細な軌跡解析) | 可能(複数パラメータ) | 高(再現性あり) |
CASAが特に有用な場面
- 精子運動性の精密評価:精子数は正常でも運動性に問題がある場合の詳細診断
- 治療効果のモニタリング:ホルモン療法・サプリメント介入前後の客観的な比較
- ART(人工授精・体外受精)に使用する精子の選別:最適な精子の選択に活用
- 研究・臨床試験:精子機能に関する研究での標準化された測定
CASAで測定される主な精子運動パラメータ
CASAはWHOが定義する複数のパラメータを自動測定します。各パラメータの意味を理解することで、検査結果のより深い解釈が可能になります。
主要パラメータ一覧
パラメータ | 意味 | WHO参考値(2021年) |
|---|---|---|
VCL(曲線速度) | 精子が実際に移動した曲線の軌跡速度(μm/秒) | 参考値:25μm/秒以上 |
VSL(直線速度) | 始点から終点への直線距離に基づく速度 | 参考値:5μm/秒以上 |
VAP(平均経路速度) | 精子の平均的な移動経路の速度 | 参考値:— |
LIN(線形性) | VSL/VCL。直線的な動きの割合(値が高いほど直進性が高い) | 参考値:— |
STR(真直進性) | VSL/VAP。前進運動の真直ぐさ | 参考値:— |
ALH(頭部側方振幅) | 鞭毛の横振幅。精子の活発さの指標 | 参考値:— |
BCF(鞭毛打頻度) | 鞭毛が1秒間に振動する回数(Hz) | 参考値:— |
「超活性化精子(hyperactivated sperm)」の検出
CASAの重要な応用の一つが超活性化精子の検出です。超活性化精子は受精直前に起こる精子の運動パターンの変化で、頭部の大きな側方振動と高いVCL・低いSTRが特徴です。この運動パターンは卵管内での推進力増加や透明帯通過に必要とされており、体外受精の成績と関連するという研究があります。
WHO精液検査基準値との関係
WHOの精液検査参考値(2021年第6版)は、過去の研究で自然妊娠した男性の下位5パーセンタイルに基づいており、「正常と異常の絶対的基準」ではありません。CASAによる精密評価はこの参考値をより詳細に補完します。
精液パラメータ | WHO下限参考値(2021年版) |
|---|---|
精液量 | 1.4mL |
精子濃度 | 1,600万/mL |
総精子数 | 3,900万/射精 |
総運動率(前進+非前進) | 42% |
前進運動率 | 30% |
正常形態率(Kruger法) | 4% |
※CASAは主に運動性の詳細解析に使用され、形態評価(精子の頭・中間部・尾の形)は別途行われます。
検査の流れと受診方法
CASAを用いた精液検査は、男性不妊専門の泌尿器科や生殖医療クリニック(ART施設)で受けられます。通常の精液検査と同様の手順で採取し、CASAシステムで解析します。
検査当日の準備
- 禁欲期間:2〜7日間(禁欲が短すぎると精子数が少なく、長すぎると運動率が低下する)
- 採取場所:施設内の採取室か、自宅採取後1時間以内に持参(体温保持が重要)
- 容器:施設から指定されたプラスチック容器を使用(コンドームは精子毒性成分を含む場合があり不可)
- 服薬:精子に影響する薬(一部の抗生剤・降圧薬・精神科薬など)があれば事前に申告
費用と保険適用
検査 | 保険適用 | 費用目安 |
|---|---|---|
精液検査(基本) | 保険適用あり(2022年〜) | 約1,000〜3,000円(3割負担) |
CASA(精子運動解析) | 施設・条件により異なる | 約3,000〜1万円(自費の場合) |
精子形態検査(Kruger法) | 状況により保険適用 | 約1,000〜5,000円 |
CASAの結果を不妊治療に活かす
CASA結果は治療方針の決定に直接影響します。精子の運動性・速度パターンを把握することで、最適な治療法の選択が可能になります。
CASA結果別の治療選択肢
- 軽〜中等度の運動性低下(弱精子症):生活習慣改善・抗酸化サプリメント療法・人工授精(IUI)
- 高度弱精子症:体外受精(IVF)または顕微授精(ICSI)
- 超活性化精子の著しい低下:ICSI適応の可能性。受精補助技術の検討
- 精子数正常だが運動性に問題:CASA詳細解析→精索静脈瘤など外科的原因の精査
精子機能検査との組み合わせ
CASAは精子の運動解析に特化していますが、男性不妊の全体評価には他の検査との組み合わせが重要です。
- 精子DNA断片化率(DFI):精子DNAの損傷度。流産率・着床率と関連
- 精子形態検査(Kruger厳格法):正常形態精子の割合。ICSI成績と関連
- 酸化ストレス測定:活性酸素種(ROS)の精子毒性を評価
- 精子先体反応の評価:受精能力の直接的指標
よくある質問
Q. CASA検査は一般のクリニックでも受けられますか?
CASAシステムは主にART施設(体外受精実施クリニック)や男性不妊専門の泌尿器科に導入されています。かかりつけの産婦人科・泌尿器科で相談し、必要であれば専門施設への紹介を受けてください。
Q. 精液検査で「正常」と言われましたが、CASA検査は必要ですか?
通常の精液検査が参考値内でも、精子の詳細な運動パターン(超活性化・DNA断片化など)に問題がある場合があります。不妊治療の成績が伸び悩む場合は、精密検査として担当医に相談する価値があります。
Q. 精子の運動性は改善できますか?
原因によりますが、一部は改善できます。禁煙・禁酒・生活リズムの改善・抗酸化サプリメント(コエンザイムQ10・亜鉛・葉酸など)の摂取が精子運動性に好影響を与えるとの研究があります。また、精索静脈瘤(精子の産生を妨げる静脈の拡張)がある場合、手術によって精液所見が改善する例があります。
Q. 日によって検査結果が変わるのはなぜですか?
精子は精巣で常に新たに作られており(約74日サイクル)、健康状態・禁欲期間・ストレス・発熱の有無などで結果が変動します。1回の検査だけで判断せず、少なくとも2〜3か月の間隔をあけて複数回検査することが推奨されています。
Q. CASAで精子の形は分かりますか?
一部のCASAシステムは形態の自動評価機能を持ちますが、精度が低く、臨床では専門家による顕微鏡目視(Kruger厳格法など)で形態評価を行うことが標準です。CASAは主に運動性・速度解析に強みがあります。
まとめ
CASA(コンピュータ精液分析)は、精子の運動速度・軌跡・超活性化パターンを客観的・定量的に評価する精密検査です。従来の目視検査より高精度で再現性が高く、男性不妊の詳細診断や治療効果のモニタリングに活用されています。精液検査の結果に疑問がある方、不妊治療の成績を改善したい方は、CASAを含む精密検査について専門医に相談してください。
次のステップ:「精液検査で異常を指摘された」「不妊治療の成績が伸び悩んでいる」男性は、男性不妊専門の泌尿器科または生殖医療クリニックへの受診をお勧めします。
※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療を目的とするものではありません。症状や治療については必ず担当医にご相談ください。掲載情報は2024年時点のものです。
この記事を書いた人
EggLink編集部
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