
シーハン症候群は、分娩時の大量出血により下垂体が壊死・機能低下する産後に起こる疾患です。産後の「体調不良・授乳できない・月経が再開しない」が続く場合に疑う必要があります。早期発見・ホルモン補充で症状は大幅に改善できます。
この記事のポイント
- シーハン症候群が起こる原因(分娩時大量出血→下垂体壊死)のメカニズム
- 診断に必要な症状の見分け方と受診のタイミング
- ホルモン補充療法の種類と妊娠の可能性
こんな産後症状が続いたらシーハン症候群を疑う
シーハン症候群の特徴的な3症状は「産後に母乳が出ない(プロラクチン欠乏)」「産後の月経が再開しない(ゴナドトロピン欠乏)」「強い疲労・脱力感(コルチゾール欠乏)」です。これらが産後数週〜数ヶ月以内に現れ、分娩時に大量出血があった場合は特に疑います。
産後症状チェックリスト
- 出産後に母乳がほとんど・まったく出ない
- 産後3〜6ヶ月以上経っても月経が再開しない
- 産後に極端な疲労感・倦怠感が続く
- 冷え・むくみ・体重増加が顕著(甲状腺ホルモン欠乏の可能性)
- 陰毛・腋毛が抜けた、または生えなくなった
- 低血糖・低血圧が繰り返す
- 産後うつに見えるが抗うつ薬で改善しない
- 分娩時に輸血が必要な大量出血があった
原因——分娩時の大量出血が下垂体を壊死させるメカニズム
妊娠中、下垂体は通常の2〜3倍に肥大化します。この状態で分娩時大量出血(産後出血:出産後500mL以上)が起こると、下垂体への血流が急激に低下し、血行不全による下垂体壊死(梗塞)が生じます。壊死した下垂体は複数のホルモン産生機能を失います(汎下垂体機能低下症)。
欠乏するホルモンと症状の対応
欠乏ホルモン | 欠乏の影響 | 症状 |
|---|---|---|
プロラクチン(PRL) | 授乳不能 | 母乳分泌消失(最初に出現) |
ゴナドトロピン(LH/FSH) | 排卵・月経停止 | 無月経・不妊・性欲低下 |
コルチコトロピン(ACTH) | コルチゾール低下 | 疲労・低血糖・ストレス対応不能 |
サイロトロピン(TSH) | 甲状腺ホルモン低下 | 冷え・むくみ・体重増加・認知低下 |
成長ホルモン(GH) | 代謝異常 | 体組成変化・体力低下(成人では軽微なことも) |
診断——複数のホルモン検査とMRIで確定
シーハン症候群の診断は「分娩時大量出血の病歴」+「複数のホルモン低値」+「下垂体MRIの萎縮所見」で確定します。産後の遅発性発症(数年後に診断されることも)があるため、見落とされやすい疾患です。
診断の流れ
- 病歴聴取:分娩時出血量・輸血の有無・産後症状の詳細確認
- 血液検査:PRL・LH・FSH・ACTH・コルチゾール・TSH・T4・E2・GH・IGF-1の一括測定
- 負荷試験:低血糖負荷試験(GH・コルチゾール分泌能の評価)・TRH試験・LH-RH試験
- 下垂体MRI:下垂体の萎縮・空洞化(empty sella)の確認
治療——不足ホルモンの補充で症状は大幅改善
シーハン症候群の治療は欠乏しているホルモンの補充が基本です。治療を開始すると疲労感・むくみ・月経不順などは数週間以内に改善することが多いです。ホルモン補充は基本的に終身で継続します。
補充療法の内容
欠乏ホルモン | 補充薬剤 | 特記事項 |
|---|---|---|
コルチゾール(ACTH欠乏) | ヒドロコルチゾン | シックデイルール必須。最優先で開始 |
甲状腺ホルモン(TSH欠乏) | レボチロキシン | コルチゾール補充後に開始(順序重要) |
性ホルモン(LH/FSH欠乏) | HRT(エストロゲン+プロゲステロン) | 骨粗鬆症予防・QOL改善 |
成長ホルモン(GH欠乏) | GH注射 | 症状・年齢に応じて検討 |
妊娠の可能性——排卵誘発で妊娠が可能なケースも
シーハン症候群では自然排卵が困難ですが、ゴナドトロピン注射(FSH・LH製剤)による排卵誘発で妊娠が可能なケースがあります。治療の安定が確認できたら産婦人科・内分泌内科と不妊治療の相談を進めることができます。妊娠中はコルチゾール需要が増加するため、緊密な管理が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q. シーハン症候群はどれくらいの割合で起こりますか?
発症率は産後出血1,000件あたり1〜3件程度とされていますが、軽症例や遅発性発症は見落とされることがあります。特に産後出血・輸血歴がある方は注意が必要です。
Q. 産後うつと症状が似ていますが、区別できますか?
共通する症状(疲労感・気分の落ち込み)がありますが、シーハン症候群では「母乳が出ない」「月経再開しない」「陰毛・腋毛の脱毛」が加わります。産後うつ治療で改善しない場合は内分泌内科での精査を検討してください。
Q. 長期間気づかない場合はありますか?
はい。症状が緩徐に進行し、分娩から数年〜数十年後に初めて診断されるケースもあります(遅発性シーハン症候群)。分娩時大量出血の病歴がある方は、疲労・月経異常が続く場合に内分泌内科への受診をお勧めします。
Q. どの科を受診すればいいですか?
症状によって産婦人科(月経異常・不妊)または内分泌内科が窓口となります。シーハン症候群を疑う場合は「分娩時に大量出血があった」という情報を医師に伝えることが診断の鍵になります。
まとめ
シーハン症候群は分娩時大量出血による下垂体壊死が原因で、産後の授乳不能・月経再開なし・疲労感が主症状です。複数のホルモン欠乏が生じるため、早期の診断と補充療法が重要です。ホルモン補充を開始すれば多くの症状は改善し、排卵誘発による妊娠が可能なケースもあります。産後に上記の症状が続く場合は内分泌内科または産婦人科を受診してください。
※本記事は医療情報の提供を目的としています。参考:日本内分泌学会「下垂体機能低下症診療ガイドライン」、日本産科婦人科学会
この記事を書いた人
EggLink編集部
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