
卵巣多孔術(LOD)とは
卵巣多孔術(LOD: Laparoscopic Ovarian Drilling)は、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の排卵障害に対して行われる腹腔鏡下手術で、卵巣表面に小さな穴を開けることで排卵を促す治療法です。クロミフェン(排卵誘発剤)に反応しないPCOS患者の第二選択治療として位置づけられています。
1984年にGjonaessが電気焼灼法によるLODを報告して以来、世界中で広く実施されてきた手術ですが、近年はレトロゾールの台頭により適応は狭まりつつあります。
基本情報
項目 | 内容 |
|---|---|
正式名称 | 腹腔鏡下卵巣多孔術(LOD) |
別名 | 卵巣ドリリング、卵巣焼灼術 |
手術方法 | 腹腔鏡下で電気焼灼またはレーザーで卵巣表面に穴を開ける |
入院期間 | 通常1〜2日 |
保険適用 | あり(PCOS診断下) |
手術のメカニズムと効果
LODは卵巣のアンドロゲン産生組織を物理的に破壊することで、テストステロン濃度を低下させ、LH/FSH比を正常化し、排卵を回復させると考えられています。
推定メカニズム
- 卵巣間質の破壊→アンドロゲン産生の減少
- テストステロン低下→エストロゲンへの転換率変化→LHフィードバック正常化
- 卵巣局所の血流変化→卵胞発育環境の改善
- インヒビン低下→FSH上昇→卵胞発育の促進
期待される治療効果
項目 | 改善率 |
|---|---|
排卵回復率 | 約50〜80% |
自然妊娠率(術後12か月) | 約40〜60% |
月経周期の正常化 | 約60〜80% |
テストステロン値の低下 | 約40〜60% |
効果の持続期間は個人差がありますが、多くの場合1〜3年程度で、一部の患者では長期的な効果が持続します。
手術の適応と条件
LODは、クロミフェン(またはレトロゾール)による排卵誘発で妊娠に至らなかったPCOS患者で、ゴナドトロピン療法やIVFの前に検討される選択肢です。
適応となるケース
- クロミフェン耐性PCOS(150mgでも排卵しない)
- レトロゾールでも排卵が不十分
- ゴナドトロピン療法のリスク(多胎妊娠・OHSS)を避けたい
- IVFを希望しない、または費用面の制約がある
- 腹腔内の観察(子宮内膜症・卵管癒着等の除外)も同時に行いたい
推奨されないケース
- BMI 35以上の高度肥満(手術リスクが上昇、減量が優先)
- 両側卵巣のAMHが著明に低い(卵巣予備能への懸念)
- 卵管因子や男性因子など他の不妊原因が主体
手術の実際
LODは全身麻酔下の腹腔鏡手術で行われ、手術時間は約30〜60分、臍部と下腹部に3〜4か所の小切開(5〜10mm)を加えて実施します。
手術の流れ
- 全身麻酔導入
- 臍部からカメラ(腹腔鏡)を挿入
- 下腹部から操作用トロッカーを挿入
- 骨盤内の観察(卵管・子宮・腹膜の状態を確認)
- 電気焼灼またはレーザーで卵巣表面に4〜10か所の穴を開ける
- 止血確認後、創部を閉鎖
術後の経過
- 翌日〜翌々日に退院
- 術後1〜2週間で日常生活に復帰
- 術後2〜4週間で月経または排卵が回復するケースが多い
- 術後3〜6か月が妊娠率のゴールデンタイム
リスクと合併症
LODは低侵襲手術ですが、卵巣組織を焼灼するため、過度な処理は卵巣予備能の低下や卵巣周囲癒着のリスクがあります。
主なリスク
リスク | 頻度 | 対策 |
|---|---|---|
卵巣周囲癒着 | 約20〜40% | 癒着防止材の使用、片側のみの処理 |
卵巣予備能低下 | 過度の焼灼で発生 | 焼灼点を4〜6か所に限定 |
一般的な腹腔鏡リスク | 約1%未満 | 出血、感染、腸管損傷 |
全身麻酔リスク | 極低頻度 | 術前評価で管理 |
ゴナドトロピン療法・IVFとの比較
クロミフェン耐性PCOSに対する治療選択肢として、LODとゴナドトロピン療法の妊娠率はほぼ同等とのメタアナリシスがありますが、多胎妊娠率とOHSSリスクはLODの方が低いことが示されています。
治療法の比較
項目 | LOD | ゴナドトロピン療法 | IVF |
|---|---|---|---|
妊娠率(12か月) | 約40〜60% | 約40〜60% | 約50〜60%/周期 |
多胎リスク | 低い | 高い(約10〜20%) | SET(単一胚移植)で低減可能 |
OHSSリスク | なし | あり | あり(対策あり) |
費用 | 1回の手術費用 | 複数周期の薬剤費+モニタリング | 高額 |
侵襲性 | 手術(全身麻酔) | 注射+通院 | 採卵手術+複数回通院 |
よくある質問
Q. LODの効果はどのくらい持続しますか?
個人差がありますが、排卵回復効果は1〜3年程度持続するケースが多いです。長期的に月経が正常化し続ける方もいれば、数年後に元の無排卵状態に戻る方もいます。
Q. 両方の卵巣を処理しますか?
従来は両側卵巣に施行されていましたが、癒着リスクと卵巣予備能保護の観点から、片側のみの処理(unilateral LOD)でも同等の効果が得られるとの報告があり、片側LODを選択する施設も増えています。
Q. 手術後すぐに妊活できますか?
術後2〜4週間で排卵が回復することが多く、翌月経周期からタイミング法を開始できます。術後3〜6か月が最も妊娠しやすい期間とされるため、この間は積極的な妊活が推奨されます。
Q. AMHは下がりますか?
LOD後にAMHが一時的に低下することが報告されていますが、多くの場合数か月で回復します。ただし、過度の焼灼は永続的なAMH低下を招く恐れがあるため、焼灼点数の制限が重要です。
Q. LODの費用はどのくらいですか?
保険適用の場合、3割負担で約5〜10万円程度(入院費含む)です。高額療養費制度の対象にもなります。
まとめ
卵巣多孔術(LOD)はクロミフェン耐性PCOSに対する腹腔鏡手術で、排卵回復率50〜80%、術後12か月の自然妊娠率40〜60%と良好な成績が報告されています。多胎妊娠やOHSSのリスクがゴナドトロピン療法より低い点がメリットですが、卵巣癒着と予備能低下に注意が必要です。治療選択については生殖医療専門医と相談しましょう。
次のステップへ
PCOSの排卵障害で妊娠を目指している方は、LODを含む治療選択肢について専門医にご相談ください。Women's Doctorでは個々の状況に合わせた治療計画を提案しています。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
産婦人科・婦人科に関する正確で信頼性の高い情報をお届けします。医療監修のもと、女性の健康に役立つコンテンツを制作しています。
Next Action

