PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)で排卵が起こりにくい場合、クロミフェン(クロミッド)やレトロゾール(フェマーラ)が治療の選択肢になります。薬を選ぶ前に、排卵の状態と、ほかの不妊原因がないかを確認します。
2023年の国際ガイドラインは、無排卵による不妊があり、ほかの不妊因子がないPCOSでは、薬による排卵誘発の第一選択としてレトロゾールを推奨しています。PCOSと診断された人全員が、同じ薬を必要とするわけではありません。
この記事のポイント
- 薬の選択は、排卵・検査結果・これまでの反応を踏まえて決める
- 試験の排卵率と出産率は、分母と期間を分けて読む
- 用量や周期を自分で変えず、症状と治療効果を処方元に伝える
クロミフェンの作用と確認したいこと
クロミフェンは、エストロゲンの受容体に作用し、排卵に関わるホルモンの分泌を促す薬です。日本では、排卵障害に基づく不妊症の排卵誘発などに承認されています。
反応と副作用を確認しながら使う
処方量を増やせば必ず排卵・妊娠につながるわけではありません。卵胞の発育、子宮内膜の状態、排卵の有無などを確認し、続けるか、別の治療へ変えるかを医師と相談します。
日本の添付文書では、排卵障害への使用は通常1日50mgを5日間から開始し、無効の場合の用量・期間は1日100mg、5日間が限度です。海外試験の用量を、そのまま日本での服用方法として使うことはできません。
レトロゾールの作用と位置づけ
レトロゾールは、アロマターゼという酵素を阻害してエストロゲンの産生を抑え、排卵に関わるホルモンの分泌を促します。日本でもPCOSなどにおける排卵誘発が承認されています。
日本の用法は、通常1日1回2.5mgを月経周期3日目から5日間。効果が不十分な場合、次周期以降に5mgへ増量できるとされています。開始日や量は処方時の指示に従い、自分で増やしたり延長したりしないでください。
第一選択でも、確認と経過観察は必要
国際ガイドラインの推奨は、対象となるPCOSの人の治療成績を踏まえたものです。すべての人に効く、双胎妊娠や副作用が起こらない、という意味ではありません。妊娠の可能性を確認してから使用することも大切です。
比較試験の結果を、分母を分けて読む
PPCOS II試験は、18〜40歳のPCOSによる不妊女性750人を、2つの薬へ無作為に割り付け、最大5周期治療した2014年の試験です。以下はこの試験の結果で、個人の妊娠確率の予測値ではありません。
| 指標・分母 | レトロゾール | クロミフェン |
|---|---|---|
| 排卵した治療周期 | 834 / 1,352周期 61.7% | 688 / 1,425周期 48.3% |
| 生児を得た女性 | 103 / 374人 27.5% | 72 / 376人 19.1% |
| 臨床妊娠のうち双胎妊娠 | 4 / 117妊娠 3.4% | 6 / 81妊娠 7.4% |
| 受胎例のうち妊娠喪失 | 49 / 154例 31.8% | 30 / 103例 29.1% |
結果の読み方
- 排卵と生児の割合はレトロゾール群で高く、それぞれP < 0.001、P = 0.007でした。
- 双胎妊娠と妊娠喪失は、有意差が確認されませんでした。「同じリスク」と証明した意味ではありません。
排卵率は「周期」、生児の割合は「女性」、双胎妊娠の割合は「臨床妊娠」が分母です。これらを同じ成功率として並べたり、1周期の出産率に読み替えたりしないようにしましょう。
効果が不十分なときの治療の選び方
治療を変える前に、何が起きているかを確認する
排卵しないのか、排卵はするが妊娠しないのかで、次に確認する点は異なります。年齢、卵管や精液の検査結果、治療歴、通院の負担なども踏まえて方針を相談します。
内服薬だけでは難しい場合、ゴナドトロピンによる治療や体外受精などが検討されます。全員に同じ回数・順番が当てはまるわけではなく、最初から体外受精を考える別の要因がある場合もあります。
クロミフェンに反応しない場合
反応が乏しいときは、別の薬、併用、注射による治療などを医師が検討します。クロミフェンの添付文書では、一般に3クール反復しても排卵性月経が全くみられない場合は中止するとされています。自己判断で同じ薬を長く続けないでください。
副作用とOHSSで相談したい症状
どちらの薬にも、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や多胎妊娠の可能性があります。服用が終わったあとも、その治療期間中は体調の変化に注意し、予定された診察を受けてください。
薬の名前と、症状が出た時期を伝える
- 下腹部の痛み・張り、吐き気、急な体重増加:処方元へすぐに相談する
- 目のかすみなどの視覚症状:クロミフェンの服用を中止し、直ちに処方元へ連絡して眼科的な検査を受ける
- 飲み忘れ、飲み過ぎ、妊娠の可能性:自分で追加服用せず、処方元や薬剤師へ対応を確認する
クロミフェンの服用中は、視覚症状の有無にかかわらず、自動車の運転等の危険を伴う機械の操作を避けてください。
卵胞がいくつ育っているかなどを確認して、医師が次の投与や治療継続の可否を判断します。検査値や卵胞の個数だけを見て、自分で増減・中止の基準を決めないでください。
よくある質問
レトロゾールは日本でも不妊治療に使えますか?
PCOSや原因不明不妊での排卵誘発、生殖補助医療での調節卵巣刺激が承認されています。「排卵誘発はすべて適応外」という説明は現在の承認内容と異なります。自分の治療が保険の対象になるか、薬以外も含めた費用は、受診先で確認してください。
2つの薬を交互に使ってもよいですか?
自己判断で交互に飲んだり、同じ周期に併用したりしないでください。処方を変更する場合は、これまでの反応と検査結果をもとに医師が方法を決めます。
卵巣がんのリスクが心配です
リスクが心配な場合は、使用した薬と周期数、本人や家族の病歴を主治医に伝えて相談してください。「長く使っても影響はない」と決めつけたり、不安から必要な治療を自分で変更したりせず、効果と継続の理由を確認しましょう。
体重が増えたら、薬で太ったのでしょうか?
体重の変化だけでは原因を判断できません。特に、急な体重増加に下腹部の痛みや張りなどを伴う場合は、単なる体重の問題として様子を見ず、処方元へすぐ相談してください。
何周期で妊娠できますか?
個人ごとの周期数を保証することはできません。比較試験の最大5周期での成績は、全員が5周期で妊娠するという意味ではありません。いつ効果を見直すか、次に何を確認するかを診察時に相談しておきましょう。
診察で確認したいこと
- 今回の薬を選ぶ理由と、どの検査結果を判断に使ったか
- 服用する量・日数・次回の診察日
- 症状が出たときの連絡先と、効果を見直す時期
処方についての相談は、治療を担当する医療機関へ。受診先を探す場合は、地域から婦人科・不妊治療の受診先を探せます。
確認に使った資料
- 2023年国際PCOSガイドライン:排卵誘発の対象と治療選択
- Legroら:PPCOS II試験(NEJM、2014年):治療周期・生児・双胎・妊娠喪失の結果
- PMDA:クロミッド添付文書:国内の用法と注意点
- PMDA:フェマーラの医薬品情報、厚労省:フェマーラの効能・用法(令和8年5月時点)
クロミッドについては、2026年10月30日に現掲載の電子添文(2026年10月改訂・第3版)の適応・用法、投与前の確認、OHSS・視覚症状と服用中の運転に関する注意を改めて確認しました。このほかの資料の確認日は、既存の記載のとおりです。個別の服用は処方医・薬剤師へ確認してください。

この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
公的機関や医学会などの情報をもとに、女性の健康と医療の選択に役立つ情報を整理しています。