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RED-S(相対的エネルギー不足)とホルモン異常

2026/4/19

RED-S(相対的エネルギー不足)とホルモン異常

RED-S(相対的エネルギー不足)とは

RED-S(Relative Energy Deficiency in Sport)とは、運動量に対してエネルギー摂取が不足した状態が続くことで、内分泌系をはじめとする全身の生理機能に障害が生じる症候群です。2014年にIOC(国際オリンピック委員会)が提唱した概念で、以前の「女性アスリートの三主徴(FAT)」を拡張したものとして位置づけられています。

RED-Sはアスリートに限らず、過度なダイエットや食事制限を行う一般女性にも起こり得るため、幅広い年代で注意が必要です。

RED-Sの定義と背景

RED-Sの根本にあるのは「エネルギー可用性(Energy Availability: EA)」の低下です。EAは以下の式で算出されます。

EA = (エネルギー摂取量 − 運動によるエネルギー消費量) ÷ 除脂肪体重

健康維持に必要なEAは45kcal/kg FFM/日とされ、30kcal/kg FFM/日を下回ると様々なホルモン異常が顕在化します。

女性アスリートの三主徴との違い

項目

FAT(三主徴)

RED-S

対象

女性のみ

男女両方

主な要素

摂食障害・無月経・骨粗鬆症

10以上の身体システムへの影響

提唱年

1992年

2014年(2018年改訂)

根本原因

エネルギー不足

エネルギー可用性低下(EA↓)

RED-Sが引き起こすホルモン異常

エネルギー不足が続くと、身体は生殖機能よりも生存に必要な機能を優先し、視床下部からのGnRH分泌を抑制することで月経を停止させます。これは「機能性視床下部性無月経(FHA)」と呼ばれ、RED-Sの最も代表的なホルモン異常です。

影響を受けるホルモン系

  • HPG軸(性腺軸):GnRH↓→LH/FSH↓→エストロゲン/プロゲステロン↓→無月経
  • 甲状腺軸:T3(活性型甲状腺ホルモン)の低下。代謝率を下げてエネルギーを節約する適応反応
  • IGF-1:インスリン様成長因子の低下→骨形成の抑制
  • コルチゾール:HPA軸の過活動により持続的に高値
  • レプチン:脂肪組織由来のホルモンが低下→食欲調節とGnRH分泌に影響
  • インスリン:低下→筋グリコーゲン貯蔵の減少とパフォーマンス低下

ホルモン異常の連鎖

RED-Sでは1つのホルモン異常が他のシステムに波及する連鎖反応が特徴です。たとえば、エストロゲン低下は骨密度減少を招き、コルチゾール高値はさらに骨吸収を促進します。低T3状態は基礎代謝を低下させ、体重増加を恐れてさらに食事制限を強化する悪循環に陥るケースも少なくありません。

RED-Sの全身への影響

RED-Sはホルモン系だけでなく、骨・心血管・消化器・免疫・精神など10以上の身体システムに悪影響を及ぼすことがIOCの2018年コンセンサスステートメントで明示されています。

主な身体システムへの影響

システム

RED-Sによる影響

骨格

骨密度低下、疲労骨折リスク上昇(エストロゲン↓×IGF-1↓×コルチゾール↑)

心血管

内皮機能障害、脂質異常、徐脈

消化器

胃腸機能低下、便秘

免疫

上気道感染の頻度増加

メンタルヘルス

抑うつ、集中力低下、イライラ

パフォーマンス

持久力低下、回復遅延、怪我リスク増大

リスクの高い対象者

  • 審美系スポーツ選手(体操・フィギュアスケート・バレエ)
  • 持久系スポーツ選手(長距離走・トライアスロン)
  • 体重階級制スポーツ選手(柔道・レスリング)
  • 過度なダイエットを行う10〜20代女性
  • ヴィーガン・菜食主義で栄養管理が不十分な方

RED-Sの診断と評価

RED-Sの診断には単一の検査で確定できるものはなく、問診・身体計測・血液検査・骨密度検査を組み合わせた包括的評価が必要です。IOCが開発した「RED-S CAT(Clinical Assessment Tool)」がスクリーニングに活用されています。

主な評価項目

  • 問診:月経歴、食事内容、運動量、体重変動、ストレス
  • 血液検査:LH, FSH, エストラジオール, T3/fT4, IGF-1, コルチゾール, フェリチン, ビタミンD
  • 骨密度検査(DXA):Zスコアが-1.0以下で「骨の健康に問題あり」と判定
  • EA計算:食事記録と運動記録から算出

RED-S CATによるリスク分類

RED-S CATでは赤・黄・緑の3段階でスポーツ参加の可否を判定します。「赤」は競技中止と治療開始、「黄」は制限付き参加と経過観察、「緑」は問題なしとしてフル参加可能を意味します。

RED-Sからの回復と治療

RED-Sの治療の根本はエネルギー可用性(EA)を45kcal/kg FFM/日以上に回復させることであり、食事量の増加と運動量の適正化が治療の両輪です。

栄養回復のステップ

  1. 現在のEAを食事・運動記録から算出
  2. スポーツ栄養士と連携して段階的に摂取カロリーを増加
  3. 炭水化物・たんぱく質・脂質のバランスを最適化
  4. カルシウム(1,000〜1,500mg/日)とビタミンD(1,000〜2,000IU/日)の補充

月経回復の目安

EA回復後、月経が戻るまでの期間は個人差がありますが、多くの場合3〜6か月程度とされています。12か月以上無月経が続く場合は、エストロゲン補充を検討する場合もあります。ただし、ピルによる消退出血は「本当の月経回復」ではない点に注意が必要です。

チーム医療の重要性

RED-Sの回復には、婦人科医・スポーツドクター・栄養士・心理士の多職種連携が効果的です。摂食障害が背景にある場合は、認知行動療法(CBT)が有用との報告があります。

RED-Sの予防と早期発見

RED-Sの予防には、「体重=パフォーマンス」という誤った信念の修正と、適切な栄養教育が最も重要です。指導者・保護者・チームスタッフへの啓発も不可欠と言えるでしょう。

予防の具体策

  • 定期的なスクリーニング(年1〜2回のRED-S CAT実施)
  • 月経状態のモニタリング(月経が3か月以上停止したら受診)
  • 体重の急激な変動(1か月で5%以上)への注意
  • 「痩せれば速くなる」という文化的圧力への対抗教育

よくある質問

Q. 一般的なダイエットでもRED-Sになりますか?

アスリートでなくても、極端な食事制限と運動の組み合わせでRED-Sは起こり得ます。特に1日の摂取カロリーが1,200kcalを下回る状態が続く場合はリスクが高まります。

Q. 生理が来ていればRED-Sではないですか?

必ずしもそうとは限りません。月経周期が維持されていても、黄体期の短縮や無排卵性月経が潜在しているケースがあります。血液検査やEA計算による総合的な評価が必要です。

Q. RED-Sによる骨密度低下は回復しますか?

EA回復と月経再開により骨密度は改善傾向を示しますが、思春期に獲得すべきピークボーンマスを逃した場合、完全な回復が難しいケースもあります。早期発見・早期介入が非常に重要です。

Q. RED-Sの相談はどの科を受診すればよいですか?

婦人科(月経異常)、スポーツ外来(パフォーマンス低下)、内分泌内科(ホルモン異常)が主な受診先です。「スポーツ婦人科」を標榜するクリニックでは包括的に対応可能な場合が多いでしょう。

Q. 男性もRED-Sになりますか?

はい。男性でもEA低下によりテストステロン減少・骨密度低下・パフォーマンス低下が生じます。IOCの2018年コンセンサスステートメントでもRED-Sは男女共通の概念として位置づけられています。

まとめ

RED-Sは運動量に対するエネルギー不足が全身のホルモンシステムを狂わせる症候群で、無月経・骨粗鬆症・パフォーマンス低下など深刻な影響を及ぼします。EA 45kcal/kg FFM/日以上の確保が予防・治療の基本であり、月経が3か月以上停止した場合は速やかに専門医を受診しましょう。

次のステップへ

「運動量を増やしたら生理が止まった」「疲労骨折を繰り返している」といった症状に心当たりがある方は、放置せず早めにご相談ください。Women's Doctorではホルモン検査・骨密度検査を含めた総合評価を行っています。Web予約からお気軽にどうぞ。

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この記事を書いた人

EggLink編集部

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公開:2026/4/19更新:2026/5/4