
先天性精管欠損症(CBAVD: Congenital Bilateral Absence of the Vas Deferens)は、精子を運ぶ管「精管」が生まれつき両側とも存在しない状態です。精巣での精子産生は正常に行われているにもかかわらず、精管がないために精液中に精子が出てこない「閉塞性無精子症」の一形態です。適切な診断と治療により、多くのケースで生物学的な父親になることが可能です。
【この記事のポイント】
- CBVADの原因・診断・CFTR遺伝子との関係
- 精子回収(PESA/TESE)と顕微授精(ICSI)の成功率
- 遺伝リスクと治療前に確認すべき検査項目
先天性精管欠損症(CBAVD)とは
CBVADは男性不妊の原因のうち閉塞性無精子症の約25〜40%を占め、精管の先天性欠如によって精液中に精子が含まれない状態です。精液量が少なく(通常の1/3〜1/2以下)、フルクトースが陰性であることが診断の手がかりになります。
CBVADとCFTR遺伝子の関係
CBVADの約80%は嚢胞性線維症(CF)の原因遺伝子であるCFTR遺伝子の変異と関連しています。日本人ではCFTRの変異パターンが欧米と異なりますが、CBVADが確認された場合はパートナー(妻)も含めたCFTR遺伝子検査が推奨されます。
特徴 | 内容 |
|---|---|
発症頻度 | 男性不妊全体の約1〜2%、閉塞性無精子症の25〜40% |
精巣機能 | 正常(精子産生は維持されている) |
精液所見 | 精液量少量・無精子・フルクトース陰性 |
遺伝的背景 | CFTR遺伝子変異(約80%) |
副精巣・精嚢 | 副精巣や精嚢も欠損している場合あり |
診断の流れ
CBVADの診断は、精液検査・触診・画像検査・遺伝子検査の組み合わせで行います。触診では精管が触れないことが最初の手がかりとなります。
診断に使われる検査
- 精液検査:無精子症または極少精子症、精液量1mL以下、フルクトース陰性
- 触診:陰嚢内の精管が触れない(経験ある泌尿器科医による診察)
- 経直腸超音波(TRUS):精嚢の欠損・低形成を確認
- ホルモン検査:FSH・LHは通常正常範囲(精巣機能は維持)
- CFTR遺伝子検査:本人・パートナー双方を推奨
重要: CBVADと診断されたら、パートナーのCFTR遺伝子検査も行ってください。双方がCFTR変異キャリアの場合、生まれた子が嚢胞性線維症(CF)を発症するリスクがあります。日本人のCF発症は稀ですが、治療前の確認が不可欠です。
治療の選択肢
CBVADでは精管が存在しないため、精管再建術(精管吻合術)は適応外です。治療の主軸は精巣上体(副精巣)から精子を採取してICSI(顕微授精)に使用することです。
PESA・MESAによる精子採取
- PESA(経皮的精巣上体精子採取):針で精巣上体を穿刺し精子を採取。局所麻酔で外来でも可能。低侵襲だが採取量・精子質にばらつきあり
- MESA(顕微鏡下精巣上体精子採取):手術顕微鏡で精巣上体を切開し、精子豊富な管を選んで採取。精子の質・量が安定しやすい
- TESE(精巣内精子採取):PESAで採取できない場合の代替。精巣組織を採取して精子を探す
ICSIの妊娠率
CBVADは精巣・精巣上体の機能が正常であるため、精子回収率は90%以上と高く、閉塞性無精子症の中でも予後の良いカテゴリーです。ICSIの妊娠率は妻の年齢に依存しますが、40歳未満では移植あたり35〜45%が目安(日本生殖医学会データ参照)です。
遺伝リスクと子への影響
CBAVD自体は常染色体劣性遺伝のCFTR変異と関連するため、遺伝リスクの評価が重要です。
子への遺伝リスクの計算
- 父親(CBAVD患者)がCFTR変異保因者の場合:子はCFTR変異を50%の確率で受け継ぐ
- 母親もCFTR変異保因者の場合:子がCFを発症する確率は25%
- 日本人のCF発症は欧米より低頻度だが、着床前遺伝子検査(PGT-M)の適応になりうる
診断後の心理的サポート
「生まれつき精管がない」という診断は、男性にとって大きな精神的ショックをもたらすことがあります。しかしCBVADは治療で生物学的な父親になれる可能性が高い疾患です。不妊専門クリニックの心理士や遺伝カウンセラーへの相談も積極的に活用してください。
よくある質問(FAQ)
Q. CBVADは手術で精管を作ることはできますか?
精管が先天性に存在しないため、新たに作ることは現時点の医療では不可能です。治療はPESA/MESAによる精子採取+ICSIが標準です。
Q. CFTRの変異があると嚢胞性線維症になりますか?
1コピーのCFTR変異だけでは通常CF発症しません(保因者)。CBVADはCF発症ではなく、CF関連障害の軽症型と位置づけられています。
Q. CBVADで自然妊娠は可能ですか?
精管がないため射精精液に精子が含まれず、自然妊娠は不可能です。PESA/MESAで採取した精子を用いたICSIが必要です。
Q. 精子の凍結保存はできますか?
可能です。PESA/MESA時に採取した精子を凍結保存しておくことで、複数回のICSI周期に使用できます。凍結精子を使用したICSIの妊娠率は新鮮精子とほぼ同等です。
Q. CBVADは片側だけの場合(CUAVD)と両側でどう違いますか?
片側性精管欠損(CUAVD)は精液中に少数の精子が含まれる場合があり、自然妊娠の可能性もあります。ただし対側に腎臓形成異常を合併することが多く、泌尿器科による詳細な評価が必要です。
まとめ
先天性精管欠損症(CBAVD)は、精子産生が正常であるため精子採取(PESA/MESA)+顕微授精(ICSI)によって妊娠が十分期待できる疾患です。最初のステップはCFTR遺伝子検査を含む精密検査を男性不妊専門の泌尿器科で受けることです。パートナーとともに遺伝カウンセリングを受けながら、最適な治療計画を立てましょう。
次のステップ
精液検査で無精子症と診断された方は、男性不妊専門の泌尿器科を受診してCBVAD・Y染色体検査・CFTR遺伝子検査の適応を確認してください。早期の精密検査が最善の治療への近道です。
【免責事項】本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。症状や治療については必ず担当医にご相談ください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の医学知見と異なる場合があります。
この記事を書いた人
EggLink編集部
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