
精液検査で「精子が動いていない」「運動率が低い」と言われた——不動精子症は男性不妊の原因の中でも特に対策が難しいとされてきましたが、現在では原因究明と治療の選択肢が大幅に広がっています。完全な不動精子症でも顕微授精(ICSI)による妊娠例が報告されており、諦めないことが大切です。この記事では、精子が動かない原因・治療法・妊娠への道筋をわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 不動精子症の原因(先天性〜後天性まで)
- 「動かない精子」でも使える治療法(HOS試験・顕微授精)
- 運動率を改善できる生活習慣・医療介入
- 妊娠の可能性を最大化するための受診の流れ
情報取得日:2026年5月2日|参考:日本生殖医学会ガイドライン
不動精子症とは|定義と基準値
WHO(2021年第6版)の基準では、精子の総運動率が42%未満、前進運動率が30%未満の場合を運動率低下(弱精子症)と定義します。精子が全く動かない状態(運動率ほぼ0%)は「完全不動精子症」と呼ばれます。
分類 | 基準(WHO 2021) | 自然妊娠の可能性 |
|---|---|---|
正常 | 総運動率42%以上 | 高い |
弱精子症(軽度〜中等度) | 総運動率10〜41% | 低下 |
高度弱精子症 | 総運動率10%未満 | 困難 |
完全不動精子症 | 運動精子ほぼ0% | 自然妊娠はほぼ不可(ICSI対象) |
精子が動かない原因の分類
1. 一時的・可逆的な原因(生活習慣・環境)
精子の生産サイクルは約74日(2.5カ月)です。以下の要因があった場合、2〜3カ月後の再検査で改善することがあります。
- 高温への曝露:熱いお風呂・サウナ・タイトな下着(陰嚢温度上昇で精子障害)
- 喫煙:一酸化炭素・タールが精子DNA・ミトコンドリア機能を障害
- 大量飲酒:テストステロン産生を抑制し精子運動に影響
- 活性酸素の増加:肥満・感染症・環境毒素による酸化ストレス
- 発熱・感染症:高熱後1〜3カ月は精子質が低下することがある
2. 構造的・先天的原因
- カルタゲナー症候群(一次線毛機能不全):精子の鞭毛(尻尾)の構造異常で全く動けない。気管支炎・慢性副鼻腔炎・内臓逆位を合併することが多い
- 精子鞭毛多形性異常(MMAF):鞭毛の形態異常により運動できない。遺伝子変異(DNAI1、CCDC39等)が関与
3. 精索静脈瘤
精索静脈瘤(陰嚢内の静脈拡張)は男性不妊の最多原因のひとつ(不妊男性の約40%に認める)。精巣温度の上昇と酸化ストレスを引き起こし、精子の運動率低下を招きます。手術(顕微鏡下精索静脈瘤結紮術)で50〜60%の症例で精子質が改善します。
4. ホルモン異常
テストステロン・FSH・LHの産生異常(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症など)は精子産生・運動に影響します。血液検査でホルモン値を確認し、ホルモン補充療法で改善できるケースがあります。
5. 感染症(精巣上体炎など)
クラミジア・淋菌などの性感染症や細菌性精巣上体炎は、精管の癒着・閉塞や精子へのダメージを引き起こします。治療後も精子運動率が回復しない場合があります。
不動精子症の診断:HOS試験とは
不動精子症の中でも「死んでいる精子(死精子症)」と「生きているが動けない精子(生不動精子症)」の区別が重要です。なぜなら、生きている精子は顕微授精(ICSI)に使用できるからです。
この判別に使われるのがHOS試験(低張膨化試験)です。低張液に入れると、生きている精子の鞭毛が膨れ上がります(コイル状に変形)。膨れる精子が多ければ「生不動精子症」と診断され、ICSIでの受精が期待できます。
治療の選択肢
生活習慣の改善(まず2〜3カ月試みる)
- 禁煙・節酒
- 抗酸化サプリメント:亜鉛(15〜30mg/日)、CoQ10(200〜400mg/日)、ビタミンE・C、L-カルニチン
- 陰嚢の冷却(熱いお風呂・サウナを控える)
- 適正体重の維持(BMI 20〜25)
医療的介入
治療法 | 適応 | 効果の目安 |
|---|---|---|
精索静脈瘤手術 | 精索静脈瘤を認める場合 | 約50〜60%で精子質改善 |
ホルモン療法(hCG/FSH注射) | ホルモン異常がある場合 | 6〜12カ月で改善することも |
顕微授精(ICSI) | 生不動精子が確認できる場合 | 施設・年齢によるが高い受精率 |
精巣内精子採取(TESE)+ICSI | 精巣内に生存精子がある場合 | 閉塞性でTESE成功率高い |
よくある質問
Q1. 精子が動いていなくても子どもはできる?
HOS試験で「生きているが動けない精子」が確認できれば、顕微授精(ICSI)での妊娠が期待できます。完全不動精子症でも精巣内に生存精子があればICSIが可能です。諦める前に専門医に相談してください。
Q2. 精子の運動率は改善できる?
原因によります。生活習慣・精索静脈瘤・ホルモン異常が原因の場合は改善の余地があります。先天的な鞭毛構造異常(カルタゲナー症候群など)は運動率自体の改善は困難ですが、ICSIで妊娠は可能です。
Q3. 精液検査は1回で判断してよい?
精子の質は日によって変動します。初回検査で異常があっても、2〜4週後に再検査を行うのが一般的です。2回以上異常が続く場合に初めて精密検査へ進みます。
Q4. カルタゲナー症候群とはどんな病気?
一次線毛機能不全(PCD)の一型で、精子の鞭毛・気管支の線毛・内臓の位置を決める線毛が全て機能しない先天性疾患です。慢性的な呼吸器症状がある場合は精子不動の原因として疑います。遺伝子検査で診断します。
Q5. 費用の目安は?
精液検査は保険適用で2,000〜5,000円程度。精索静脈瘤手術は保険適用で自己負担3万〜5万円程度。ICSIは2022年から保険適用(自己負担3割)で、1周期あたり採卵〜移植の総費用は12万〜25万円程度が目安です(年齢・施設により異なる)。
まとめ
精子が動かない原因は「一時的な生活習慣」から「先天性の鞭毛構造異常」まで幅広く、原因によって改善できるケースとできないケースがあります。大切なのは、まず精液検査→HOS試験で「生きているか」を確認し、原因を特定してから治療方針を決めることです。顕微授精(ICSI)の技術により、完全不動精子症でも妊娠は実現できます。一人で抱え込まず、男性不妊専門外来に相談することが最初の一歩です。
【免責事項】本記事は医療情報の提供を目的とした一般的な情報であり、個別の医学的アドバイスを代替するものではありません。症状・治療方針については必ず医師にご相談ください。情報は2026年5月時点のものです。
この記事を書いた人
EggLink編集部
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