
男性ホルモン検査(血液検査)は、男性不妊の原因をホルモンの観点から評価する基本的な精査です。特に無精子症・重度乏精子症では原発性か続発性かを区別するために必須であり、治療方針を大きく左右します。
この記事のポイント
- 男性不妊で調べる主要なホルモン項目
- 各ホルモンが示す異常のパターン
- 検査の受け方・費用・保険適用
- 結果別の治療アプローチ
なぜホルモン検査が必要か
精子の生産は「視床下部→下垂体→精巣」という軸(HPG軸)で制御されています。この軸のどこかに異常があると精子形成が障害されます。血液検査でホルモン値を測定することで、問題が精巣自体にあるのか(原発性)、それとも上位中枢(視床下部・下垂体)の指令の問題か(続発性・低ゴナドトロピン性)を区別できます。この区別が治療薬の選択に直結します。
主要検査項目と基準値
FSH(卵胞刺激ホルモン)
下垂体から分泌され、精細管でのセルトリ細胞を介した精子形成を促します。基準値は施設によりますが、一般的に1.5〜12.4 mIU/mL程度です。
- 高値:精巣の精子形成能の低下(原発性障害)を示す。FSHが10 mIU/mL超では精巣機能の予備能低下が疑われる
- 低値:下垂体・視床下部の機能低下(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)を示し、ホルモン補充療法で精子形成が回復する可能性がある
LH(黄体形成ホルモン)
ライディッヒ細胞を刺激してテストステロン産生を促します。基準値は1.8〜8.2 mIU/mL程度です。FSHと組み合わせることで、精巣性か中枢性かの判別精度が上がります。
テストステロン(総テストステロン)
男性の主要な性ホルモンで、精子形成・性欲・筋肉量・骨密度に関与します。基準値は270〜1,070 ng/dL(施設差あり)。低値では性腺機能低下症を疑い、アナボリックステロイド使用歴がある場合は内因性テストステロンが著しく低下することがあります。
プロラクチン
通常は授乳期の女性で高くなるホルモンですが、男性でも下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)や薬剤(SSRI・抗精神病薬等)で上昇します。高プロラクチン血症はLH・FSHの分泌を抑制し、テストステロン低下→性欲減退・勃起障害を引き起こします。基準値は2.5〜17 ng/mL程度。
エストラジオール(E2)
男性でも微量産生され、骨代謝・性機能に関与します。高値(肥満・肝疾患・エストロゲン産生腫瘍等)ではネガティブフィードバックによりゴナドトロピン分泌が抑制されます。
インヒビンB(オプション)
セルトリ細胞から分泌され、精子形成の活性度を反映します。FSHより精巣予備能を鋭敏に反映するとされ、TESE成功率の予測に有用なことがあります。ただし自費検査の場合が多く費用は5,000〜1万円程度です。
検査の受け方
- 採血時間:テストステロンは午前7〜10時が最も高値(日内変動あり)。午前中の採血を推奨
- 食事制限:基本的に空腹不要。ただしプロラクチンは直前の性行為・乳頭刺激で上昇するため注意
- 結果までの時間:当日〜3日後(外注検査の場合は1週間程度)
費用と保険適用
男性不妊の精査目的であれば保険適用となるケースが多く(2022年不妊治療保険適用拡大以降)、3割負担の場合の目安は以下の通りです。
- FSH・LH・テストステロン各1項目:約200〜400円
- プロラクチン:約200〜300円
- 初診・再診料・採血手技料:別途
- セット検査(4〜5項目):自己負担3,000〜6,000円程度
異常パターン別の対応方針
- FSH高値・LH高値・テストステロン低値:原発性性腺機能低下症。精巣自体の障害が原因。TESEや精子提供を検討
- FSH低値・LH低値・テストステロン低値:低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(カルマン症候群等)。hCG・FSH製剤のホルモン療法で精子形成が回復する可能性がある
- プロラクチン高値:薬剤性・下垂体腫瘍を疑い頭部MRI検査へ。カベルゴリン等での薬物療法が有効な場合が多い
- 全項目正常・無精子症:閉塞性無精子症(精管閉塞等)の可能性があり、精巣生検・造精機能検査を追加
よくある質問
Q. テストステロン補充(TRT)を行えば精子が増えますか?
いいえ。外からテストステロンを補充すると下垂体へのネガティブフィードバックが強まり、内因性の精子形成がむしろ抑制されます。妊活中の男性にTRTは原則禁忌です。hCG療法が選択されます。
Q. 筋トレやサウナでホルモン値は変わりますか?
激しい運動直後のテストステロンは一時的に上昇します。検査前日は激しい運動を控えると結果が安定します。
まとめ
男性ホルモン検査は採血だけで行えるシンプルな検査ですが、得られる情報は「精巣性か中枢性か」という重要な鑑別を可能にします。特に低ゴナドトロピン性性腺機能低下症はホルモン療法で精子形成が回復する可能性があり、見逃しが致命的です。精液検査で異常が見つかったら、必ずホルモン精査を組み合わせて受診してください。
※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療を行うものではありません。症状や治療方針については必ず専門の医師にご相談ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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