
授乳中に体調を崩した時、「薬を飲んだら母乳に影響するのでは」と心配して薬を我慢する方が多くいます。しかし実際には、多くの薬は授乳中でも安全に使用できます。問題は「飲んではいけない薬」が一部あることを正しく知らないまま、すべての薬を避けてしまうことです。
この記事のポイント
- 授乳中でも安全に使える薬は多い。必要な治療を我慢しないことが大切
- アセトアミノフェン・イブプロフェンは授乳中の鎮痛・解熱に使用可能
- 抗がん剤・放射性医薬品・一部の抗てんかん薬など禁忌の薬は限られている
- 判断に迷ったら「国立成育医療研究センター」の情報を参考に、医師・薬剤師に相談
授乳中の薬が赤ちゃんに届くメカニズム
母親が服用した薬は血液中に移行し、一部が母乳中に分泌されますが、多くの薬は母乳への移行量が極めて少なく、赤ちゃんが受ける用量は母親の服用量の1%未満であることがほとんどです。
- RID(相対的乳児用量):赤ちゃんが母乳から摂取する薬の量を母体用量に対する割合で示す指標。RID 10%未満は一般的に安全
- 母乳移行に影響する因子:薬の分子量、脂溶性、タンパク質結合率、母体の血中濃度
- 赤ちゃん側の因子:月齢(新生児は代謝能が未熟)、哺乳量、消化管からの吸収率
多くの薬はRIDが1〜2%程度であり、赤ちゃんへの影響は臨床的にほぼ無視できるレベルです。
授乳中に安全に使える薬の一覧
以下は授乳中に比較的安全に使用できるとされている薬の代表例です。ただし個別の状況により判断が異なるため、必ず医師・薬剤師に確認してください。
症状 | 使用可能な薬 | 備考 |
|---|---|---|
頭痛・発熱 | アセトアミノフェン(カロナール等) | 授乳中の第一選択薬 |
頭痛・生理痛 | イブプロフェン(イブ等) | 母乳移行量が極めて少ない |
花粉症・アレルギー | ロラタジン(クラリチン)、セチリジン(ジルテック) | 第二世代抗ヒスタミン薬が安全 |
細菌感染 | ペニシリン系・セフェム系抗生物質 | 最も安全な抗生物質群 |
便秘 | 酸化マグネシウム、ラクツロース | 全身吸収が少なく安全 |
胃痛・胸焼け | ファモチジン(ガスター) | RIDが低く安全性が高い |
咳 | デキストロメトルファン | 一般的な咳止め成分 |
授乳中に避けるべき薬・注意が必要な薬
授乳中に禁忌とされる薬は実際には限られていますが、抗がん剤・放射性医薬品・一部の特殊な薬剤は赤ちゃんへのリスクが明確なため使用できません。
分類 | 具体例 | 理由 |
|---|---|---|
抗がん剤 | 各種抗がん剤 | 母乳を通じて赤ちゃんの細胞に障害 |
放射性医薬品 | 放射性ヨウ素等 | 放射線による被曝リスク |
一部の抗てんかん薬 | エトスクシミド等 | 高い母乳移行率 |
エルゴタミン製剤 | エルゴタミン(片頭痛薬) | 嘔吐・下痢・けいれんのリスク |
注意が必要な薬(要相談):
- アスピリン(高用量):低用量は問題ないが、高用量はライ症候群のリスク
- コデイン含有薬:遺伝的に代謝が速い母親の場合、モルヒネが過剰に移行するリスク
- 一部の抗うつ薬:薬剤によりRIDが異なる。セルトラリン(ジェイゾロフト)は比較的安全
- テトラサイクリン系抗生物質:短期間なら可能だが、長期使用は歯の着色リスク
市販薬(OTC)の選び方と注意点
授乳中に市販薬を選ぶ際は、成分を確認して単一成分の製品を選ぶことがポイントです。総合感冒薬のような多成分配合薬は不要な成分まで摂取してしまうリスクがあります。
- 風邪・頭痛:アセトアミノフェン単剤(タイレノールA等)を選ぶ。総合感冒薬は避ける方が安心
- 鼻炎・花粉症:ロラタジン(クラリチンEX)やフェキソフェナジン(アレグラFX)が安全。第一世代抗ヒスタミン薬は眠気や乳汁分泌抑制のリスク
- 胃腸薬:制酸剤(水酸化マグネシウム等)は安全。H2ブロッカー(ファモチジン)も使用可
- 外用薬:湿布・塗り薬・点眼薬は全身への吸収が少なく、ほとんどが使用可能
市販薬を購入する際は、薬局の薬剤師に「授乳中である」ことを必ず伝えてください。
薬を飲む場合の授乳タイミングの工夫
薬の血中濃度が最も高くなる時間帯(通常は服用後1〜3時間)を避けて授乳することで、赤ちゃんへの移行量をさらに減らすことが可能です。
- 基本戦略:授乳直後に薬を服用し、次の授乳までに間隔をあける
- 速放性の薬:服用後2〜3時間がピーク。授乳後に服用し、4時間以上あけると安心
- 1日1回の薬:赤ちゃんの最も長い睡眠の前に服用
- 短期間の使用:必要な期間だけ使用し、不要になったら中止
ただし、多くの薬でこうした工夫は不要なほど移行量が少ないことも事実です。タイミングを気にしすぎて必要な治療を遅らせることの方がリスクが高い場合もあります。
授乳中の薬について相談できる情報源
授乳中の薬の安全性について信頼できる情報源を知っておくことで、必要な時に適切な判断ができます。以下は医療者も参照する信頼性の高い情報源です。
- 国立成育医療研究センター「授乳中の薬」:日本語で最も信頼性の高い情報。薬ごとの安全性評価を掲載
- LactMed(米国NIH):英語だが世界的に最も包括的なデータベース。無料で閲覧可能
- かかりつけの産婦人科医:個別の状況を踏まえた判断が可能
- 薬局の薬剤師:市販薬の相談窓口として気軽に利用できる
- 妊娠と薬情報センター(成育医療研究センター内):電話相談が可能
インターネット上には不正確な情報も多いため、上記の信頼できる情報源を優先して参考にしてください。
授乳中の薬に関するよくある質問
Q. 歯科治療の麻酔は授乳に影響する?
歯科で使用する局所麻酔(リドカイン等)は授乳への影響がほとんどありません。麻酔後すぐに授乳しても問題ないとされています。歯科治療を先延ばしにする必要はありません。
Q. インフルエンザの薬(タミフル等)は飲める?
オセルタミビル(タミフル)は授乳中も使用可能です。母乳への移行量は極めて少なく、赤ちゃんへの影響はほぼないとされています。母親がインフルエンザにかかった場合、適切な治療を受けることが重要です。
Q. 薬を飲んだ後の母乳は搾乳して捨てるべき?
安全な薬であれば搾乳して捨てる必要はありません。禁忌の薬を服用した場合や、医師の指示がある場合のみ一時的に授乳を中断し搾乳破棄してください。不必要な搾乳破棄は母乳育児の継続を妨げます。
Q. 漢方薬は授乳中でも安全?
多くの漢方薬は授乳中も使用できるとされていますが、大黄(だいおう)を含む処方は赤ちゃんの下痢を引き起こす可能性があります。漢方薬も成分によりリスクが異なるため、医師や薬剤師に確認してください。
Q. 授乳中にワクチン接種は受けられる?
インフルエンザワクチン、新型コロナワクチン、各種不活化ワクチンは授乳中でも接種可能です。ワクチン成分が母乳を通じて赤ちゃんに有害な影響を与えることはありません。
まとめ
- 授乳中でも安全に使える薬は多い。必要な治療を我慢しないことが重要
- アセトアミノフェン・イブプロフェンは授乳中の鎮痛・解熱の第一選択
- 禁忌の薬は抗がん剤・放射性医薬品など限定的
- 市販薬は単一成分の製品を選び、薬剤師に授乳中であることを伝える
- 国立成育医療研究センターの情報が日本語で最も信頼性が高い
授乳中の体調不良でお困りの方へ
当院では授乳中の方の診察・処方を行っています。薬の安全性について丁寧に説明しますので、体調不良を我慢せずお気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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