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流産に遺伝的要因はある?

2026/4/19

流産に遺伝的要因はある?

流産と遺伝的要因の関係:全体像

流産の約50〜60%は、胎児側の染色体異常が原因とされています。つまり「遺伝的要因」は流産の最大の原因であり、多くの場合は親の遺伝子に問題があるのではなく、受精・分裂の過程で偶然生じた異常です。ただし、親側に均衡型転座などの染色体変異がある場合は再発リスクが高まるため、繰り返す流産(反復流産・習慣流産)では遺伝学的評価が重要です。

「また流産してしまった。自分や夫の遺伝が原因なのかもしれない」——そう感じて検索されている方へ。流産の遺伝的背景には、胎児側の偶発的な染色体異常と、親側の染色体変異という2種類がある点が重要です。この違いを正しく理解することで、次の妊娠への適切なアプローチが見えてきます。

この記事でわかること(要約)

  • 流産の50〜60%は胎児の染色体異常が原因で、多くは偶発的
  • 染色体異常の種類(トリソミー・モノソミー・転座・モザイク)ごとの流産への影響
  • 親側の均衡型転座保因者の場合、再発リスクは25〜50%に上がる
  • PGT-A(着床前遺伝学的検査)の適応・限界・費用(1回あたり約5〜7万円/胚)
  • 遺伝カウンセリングをどう活用するか、具体的なフロー
  • 遺伝的要因が判明した後の妊娠計画の立て方

流産の原因における染色体異常の位置づけ

流産全体の50〜60%は胎児の染色体異常によるもので、特に初期流産(妊娠12週未満)に限ると70〜80%に達するとされています。これは「自然の選択」として胎児が生存できない状態を早期に終了させる仕組みであり、母体の問題ではありません。年齢とともに染色体異常の割合は上昇し、35歳を境に卵子の染色体異常率が急上昇することが複数の研究で示されています。

流産の主な原因を割合とともに整理すると、次のとおりです。

原因カテゴリ

割合(概算)

特徴

胎児の染色体異常(偶発的)

50〜60%

再発リスクは通常低い

親側の染色体変異(均衡型転座等)

2〜5%

反復流産に多い、再発リスク高

子宮形態異常

10〜15%

中隔子宮・双角子宮等

内分泌・代謝異常

10〜15%

甲状腺機能・黄体機能不全等

抗リン脂質抗体症候群

5〜10%

血栓形成による胎盤機能障害

不明(原因不明)

約30%

現行検査では特定できない

胎児側の染色体異常:種類と流産リスク

染色体異常にはいくつかの種類があり、流産への影響やリスクの性質が大きく違います。最も多いのは「数的異常」で、特定の染色体が1本多い(トリソミー)または1本少ない(モノソミー)状態を指します。次いで「構造異常」があり、転座・欠失・逆位といったカテゴリが含まれる点も覚えておきましょう。

数的異常(トリソミー・モノソミー)

トリソミーは染色体が3本ある状態で、流産組織の染色体検査で最も頻繁に見つかる異常です。16番トリソミーは流産における染色体異常の中で最多(約20%)とされています。21番トリソミー(ダウン症)は生産児として誕生できる場合もある一方、妊娠初期の多数は継続できません。モノソミーX(ターナー症候群:45,X)も流産組織で頻繁に検出される異常であり、受精卵の約1〜2%で生じると推定されるものの、ほぼ全例が自然流産に終わるという特徴があります。

染色体異常の種類

流産組織での頻度

主な特徴

16番トリソミー

流産染色体異常の約20%

生存できないため全例流産

モノソミーX(45,X)

流産染色体異常の約15〜20%

ターナー症候群、ほぼ全例流産

21番トリソミー

流産染色体異常の約5%

一部が生産児として誕生

18番トリソミー

流産染色体異常の約5%

エドワーズ症候群、大多数が流産

三倍体(69本)

流産染色体異常の約10〜15%

胞状奇胎との鑑別が必要

構造異常(転座・逆位)

転座は染色体の一部が別の染色体に付着した状態です。胎児自身に転座がある場合、遺伝情報の過不足が生じて流産につながることがあります。「均衡型転座」は遺伝情報の総量が変わらないため保因者自身は健康ですが、次世代に不均衡型転座を持つ胚を形成しやすくなります(後述)。

モザイク型

モザイク型は、正常な細胞と異常な細胞が混在した状態です。異常の割合や部位によって表現型が異なり、全例が流産するわけではありません。PGT-Aでモザイク胚と判定された場合の取り扱いは、現在も世界的に議論が続いています(PGDIS 2021ガイドラインでは低度モザイクの移植を条件付きで許可)。

親側の遺伝的要因:均衡型転座保因者とは

両親のいずれかが「均衡型転座」の保因者である場合、反復流産のリスクが有意に高まります。均衡型転座保因者の頻度は一般人口の約0.2%ですが、反復流産のカップルでは約2〜5%に達することが報告されています。保因者自身は健康に生活できるものの、形成される配偶子(卵子・精子)の中に不均衡型転座を持つものが生まれやすい点が問題です。

均衡型転座保因者の再発リスク

転座の種類と染色体によって再発リスクは異なります。相互転座(reciprocal translocation)の保因者では妊娠の25〜50%が流産または胎児染色体異常になると報告されており、理論値どおり高い頻度を示すケースも少なくありません。ロバートソン型転座(13番・14番・15番・21番・22番染色体関与)の保因者は、転座する染色体の組み合わせによってリスクが大きく異なるため、遺伝専門医による個別評価が必要です。

転座の種類

再発流産リスク(概算)

遺伝カウンセリングの必要性

相互転座(reciprocal)

25〜50%(理論値)

必須。PGT-T(PGT-SR)の適応

ロバートソン転座(21番関与)

10〜15%(ダウン症出生リスク)

必須。出生前診断の検討

逆位(inversion)

逆位の大きさによる

強く推奨

親側染色体検査が勧められるケース

日本産科婦人科学会の「反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアル」では、2回以上の流産歴がある場合に両親の染色体検査(G分染法)を考慮することが記載されています。検査は血液採取で行われ、結果判明まで通常2〜4週間かかります。費用は保険適用で3,000〜5,000円程度(2024年時点)です。

遺伝学的検査の種類と適応

流産に関連する遺伝学的検査には、両親の染色体を調べる「夫婦染色体検査」と、流産組織そのものを調べる「流産絨毛染色体検査」、そして胚を子宮に移植する前に調べる「PGT-A(着床前遺伝学的検査)」の大きく3種類があります。それぞれの目的・適応・費用が異なります。

検査名

検査対象

目的

費用(目安)

保険

夫婦染色体検査(G分染法)

両親の血液

均衡型転座等の同定

3,000〜5,000円

保険適用

流産絨毛染色体検査

流産組織

今回の流産原因の確認

3〜5万円程度

自費が多い

PGT-A(着床前遺伝学的検査)

体外受精胚の細胞

移植前の染色体正常胚選択

5〜7万円/胚

自費(研究的位置づけ)

PGT-SR(構造異常)

体外受精胚の細胞

転座保因者の胚選択

7〜10万円/胚

自費

流産絨毛染色体検査の実際

流産時に組織を採取して染色体を調べる検査です。「なぜ流産したか」を明らかにすることで、次回の妊娠計画や精神的な整理に役立てられます。ただし組織の採取タイミングや保存状態によって検査できないケースもあり、また結果が「染色体正常」であっても別の原因(免疫・形態異常等)が残ります。日本では2022年から保険適用検討が進んでいますが、2024年時点では多くが自費診療です。

PGT-A(着床前遺伝学的検査):最新情報と適応・限界

PGT-A(Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidies)は、体外受精で得た胚の染色体本数を移植前に調べ、染色体数が正常な胚を優先的に移植する検査です。日本では日本産科婦人科学会の管理下で条件付き実施が認められており、反復流産(2回以上の臨床的流産)が主な適応基準の一つです。

PGT-Aの適応基準(日本産科婦人科学会 2023年版)

  • 直近の胚移植での2回以上の反復流産(臨床的妊娠後の流産)
  • 反復着床不全(良好胚を3回以上移植しても妊娠しない)
  • いずれかの親が染色体均衡型転座の保因者(この場合はPGT-SRが優先)
  • 女性年齢36歳以上(一部施設)

PGT-Aの実際の流れ

①体外受精で胚盤胞(受精5〜6日目の胚)を作成 → ②栄養外胚葉(将来の胎盤になる部分)から数個の細胞を生検(バイオプシー) → ③染色体全体をNGS(次世代シーケンサー)で解析 → ④染色体正常胚(euploidy)を凍結保存 → ⑤後日、凍結融解胚移植。全体の所要期間は採卵から移植まで最短2〜3か月です。

PGT-Aの費用

費用は施設によって異なりますが、生検・解析費用として胚1個あたり約5〜7万円が目安です。採卵・体外受精・培養の費用(30〜50万円程度)は別途かかります。2024年時点では全額自費診療です。1回の採卵で複数の胚を検査した場合でも、胚ごとに費用が発生します。

PGT-Aの限界と注意点

PGT-Aには重要な限界があります。第一に、染色体正常胚を移植しても必ず妊娠・出産できるわけではなく、臨床妊娠率は40〜50%程度(年齢依存)です。第二に、モザイク胚の扱いが難しく、「モザイク」と判定された胚を廃棄すべきか移植すべきかは施設によって方針が異なります。第三に、細胞を採取する生検操作が胚にダメージを与えるリスクがゼロではありません。第四に、PGT-Aで染色体正常と判定されても、単一遺伝子疾患や微小欠失(マイクロアレイ以下のスケール)は検出できません。

遺伝カウンセリングの活用と具体的フロー

遺伝カウンセリングは、遺伝学的検査の結果を解釈し、将来の妊娠計画に生かすための専門的なサポートです。認定遺伝カウンセラー(CGC: Certified Genetic Counselor)や臨床遺伝専門医が対応する体制が整っています。反復流産で遺伝的要因が疑われる場合、早期に遺伝カウンセリングへアクセスすることで、不必要な不安の解消と適切な検査・治療計画の立案が可能になります。

遺伝カウンセリングの標準的フロー

  1. 初回カウンセリング(60〜90分):流産歴・家族歴の聴取、検査の説明、心理的サポート
  2. 夫婦染色体検査:採血・G分染法で結果まで2〜4週間
  3. 結果説明カウンセリング:正常の場合/異常が見つかった場合の両方を丁寧に説明
  4. 今後の方針決定:自然妊娠での経過観察、PGT-SR/PGT-A、養子縁組など選択肢を提示
  5. 継続サポート:妊娠・検査結果ごとに継続的なカウンセリング

遺伝カウンセリングを受けられる場所

日本遺伝カウンセリング学会のウェブサイトで全国の認定施設を検索できます。大学病院の遺伝科・産婦人科、不育症専門外来のある施設が主な受診先です。初診料のほか、カウンセリング費用として5,000〜1万5,000円程度が目安です(施設差あり)。

遺伝的要因が判明した後の妊娠計画

遺伝的要因が明らかになった場合でも、妊娠・出産の可能性がなくなるわけではありません。均衡型転座保因者でも、PGT-SRを活用することで染色体バランスが正常な胚を選択して移植することができます。また偶発的な染色体異常が原因だった場合、次回の流産リスクは必ずしも高くなく、自然妊娠での経過観察も選択肢となります。

均衡型転座保因者の選択肢

選択肢

メリット

デメリット・注意点

自然妊娠+出生前診断

体外受精不要、費用が低い

流産リスクは下がらない

体外受精+PGT-SR

流産リスクを大幅に低減できる

体外受精の身体的・経済的負担

着床前診断(PGT-M)

単一遺伝子疾患も同時検査可能

適応が限られる、費用高い

偶発的染色体異常が原因だった場合の次回妊娠

1回の流産で胎児染色体異常が確認された場合、それが次回の妊娠に直接影響するわけではありません。ただし年齢とともに染色体異常の発生率は上昇するため、35歳以上では妊娠計画を急ぎすぎず産婦人科と相談しながら進めることが大切です。流産後の次回妊娠への「準備期間」として、葉酸(1日400μgが推奨)の服用開始、甲状腺機能・血糖値の確認、抗リン脂質抗体のスクリーニングも検討します。

よくある質問

Q1. 一度の流産でも遺伝学的検査を受けるべきですか?

一度の流産では必須ではありませんが、希望すれば流産組織の染色体検査を受けることができます(多くは自費)。流産の原因を知ることで心理的な整理がつく場合があるため、強く希望するなら主治医に相談してください。両親の染色体検査は2回以上の流産後に考慮されるのが一般的です。

Q2. 均衡型転座保因者と診断されたら、次は必ず体外受精が必要ですか?

必ずしも体外受精が必要というわけではありません。自然妊娠を試みながら経過を観察する選択肢もあります。ただし転座の種類によっては流産・染色体異常児出生のリスクが高く、PGT-SR(着床前染色体構造検査)を組み合わせた体外受精が推奨される場合があります。遺伝カウンセリングで個別のリスク評価を受けることが重要です。

Q3. PGT-Aで「正常胚」と判定された胚を移植しても流産することはありますか?

あります。PGT-Aは染色体数的異常を検査するものであり、着床に関わる子宮側の問題(内膜環境・免疫・子宮形態等)や、微小な染色体構造異常・単一遺伝子疾患は検出できません。PGT-A実施後の流産率は通常より低下しますが、ゼロにはなりません。

Q4. 流産組織の染色体検査はいつ・どこでできますか?

流産時に手術(子宮内容除去術)を行った場合は、そのタイミングで組織を採取してもらうよう事前に主治医に相談してください。自然排出の場合は採取が難しいことがあります。検査を行う施設は婦人科・不育症専門外来のある病院が中心で、結果まで2〜4週間が目安です。

Q5. 流産の遺伝的原因は父親側から来ることもありますか?

あります。染色体の数的異常は卵子側の問題が多いと考えられていますが、精子の染色体異常が関与するケースも報告されています。また均衡型転座は父親が保因者の場合でも再発リスクは変わりません。夫婦染色体検査では両親双方を同時に調べるため、どちら側に変異があるかを正確に把握できます。

Q6. 染色体異常のない流産は繰り返しやすいですか?

染色体正常の流産は、むしろ子宮形態・免疫・血液凝固・内分泌等の母体側の原因を精査するサインと考えられます。流産組織が染色体正常だった場合は、抗リン脂質抗体、子宮形態(MRI・子宮鏡)、甲状腺機能などの不育症スクリーニングを積極的に行うことが推奨されます。

Q7. 遺伝カウンセリングは健康保険が使えますか?

遺伝カウンセリング料は2022年度診療報酬改定から保険適用となりました(カウンセリング料:250点、施設基準あり)。ただし自費診療で行う施設も多く、受診前に保険適用の有無を確認することを勧めます。検査費用(染色体検査等)は検査の種類によって保険・自費が異なります。

Q8. モザイク胚は移植を断られますか?

施設の方針によって異なります。日本産科婦人科学会の現行指針ではモザイク胚の移植について明確な禁止規定はありませんが、施設によっては移植を行わないところもあります。モザイク胚を移植した場合でも、正常な赤ちゃんが生まれる事例が報告されています(Capalbo et al., 2021)。主治医と十分に話し合って判断することが重要です。

まとめ

流産における遺伝的要因は「胎児側の偶発的な染色体異常(大多数)」と「親側の染色体変異(少数だが再発リスク高)」の2種類に大別されます。1〜2回の流産では多くが偶発的な染色体異常であり、次回妊娠のリスクが必ずしも高いわけではありません。一方、3回以上の反復流産や夫婦染色体検査で均衡型転座が見つかった場合は、PGT-SRや遺伝カウンセリングを組み合わせた専門的なアプローチが有効です。PGT-Aは流産リスクを下げる手段として有望ですが、費用・適応・限界を理解した上で選択することが大切です。一人で抱え込まず、まずは不育症専門外来や遺伝カウンセリングを活用してください。

次のステップ:専門医への相談

流産を繰り返していてご不安な方、遺伝的要因について詳しく知りたい方は、不育症専門外来や遺伝外来を設けた産婦人科へご相談ください。染色体検査・遺伝カウンセリングは、次の妊娠への第一歩となります。

参考文献

  • 日本産科婦人科学会「反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアル」2021年版
  • 日本産科婦人科学会「着床前遺伝学的検査(PGT-A・PGT-SR)に関する見解」2023年
  • Goddijn M, Leschot NJ. "Genetic aspects of miscarriage." Baillieres Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 2000;14(5):855-865.
  • Philipp T, et al. "Embryoscopy and cytogenetic analysis of 233 missed abortions: factors involved in the pathogenesis of developmental defects of early failed pregnancies." Hum Reprod. 2003;18(8):1724-1732.
  • Capalbo A, et al. "Mosaic human preimplantation embryos and their developmental potential in a prospective, non-selection clinical trial." Am J Hum Genet. 2021;108(12):2238-2247.
  • PGDIS Position Statement on Chromosome Mosaicism and Preimplantation Aneuploidy Testing at the Blastocyst Stage. 2021.
  • Munné S, et al. "Preimplantation genetic testing for aneuploidy versus morphology as selection criteria for single frozen-thawed embryo transfer." Fertil Steril. 2019;111(4):727-737.

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※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。症状や治療については、必ず担当医にご相談ください。

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この記事を書いた人

EggLink編集部

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公開:2026/4/19更新:2026/4/28