
LH/FSH比とは、血液検査で測定した黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の比率のことです。この比率が2以上(一般的に2〜3以上)になると多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断基準の一つとなります。ただしLH/FSH比だけで診断が確定するわけではなく、超音波所見・臨床症状・AMH値などと組み合わせた総合診断が必要です。
この記事のポイント
- LH/FSH比の正常値と「高い場合」の意味
- LH優位がPCOSの排卵障害を引き起こすメカニズム
- LH/FSH比検査のタイミングと注意点
LH・FSHとは——女性の月経を動かす2つのホルモン
LH(黄体形成ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)は、脳下垂体から分泌される「ゴナドトロピン」と呼ばれるホルモンです。この2つは月経周期を通じて卵胞の成熟・排卵・黄体形成を制御する中心的な役割を担います。
LH・FSHの役割比較
ホルモン | 略称 | 主な役割 | 排卵時の動き |
|---|---|---|---|
卵胞刺激ホルモン | FSH | 卵胞の発育を促進 | 排卵前に軽度上昇 |
黄体形成ホルモン | LH | 排卵を引き起こす・黄体形成 | 排卵直前にサージ(急上昇) |
月経3日目前後では、正常ならLHとFSHはほぼ同値(比率1:1前後)かFSHがわずかに高い状態です。この時期にLHがFSHより著しく高い場合(比率2以上)はPCOSが疑われます。
LH/FSH比の正常値と判定基準
LH/FSH比は月経3〜5日目(卵胞早期)に採血して評価します。
LH/FSH比 | 解釈 |
|---|---|
0.5〜1.5 | 正常範囲(FSHとLHがバランスよく分泌されている) |
2以上 | PCOSを疑う所見(日本生殖医学会の参考基準) |
3以上 | PCOSの可能性が高い(他の所見との組み合わせで診断) |
ただし、LH値は日内変動・ストレス・測定タイミングによって大きく変動します。1回の採血だけで確定診断するのではなく、超音波(多嚢胞卵巣の確認)・臨床症状(月経不順・高アンドロゲン症状)・AMH値を合わせて総合的に判断します。
LH優位がPCOSの排卵障害を引き起こすメカニズム
PCOSにおけるLH/FSH比の上昇は「卵巣内での男性ホルモン過剰産生」につながります。このメカニズムを理解することで、なぜPCOSで排卵しにくいのかが分かります。
PCOSの排卵障害カスケード
- LH高値 → 卵巣莢膜細胞(theca cell)を過剰刺激
- 卵巣アンドロゲン(テストステロン等)の産生が過剰に増加
- FSHが低い・相対的に不足 → 顆粒膜細胞でのエストロゲン変換が不十分
- 卵胞が成熟できず、小さな卵胞が多数停滞(多嚢胞卵巣)
- 排卵障害・無排卵・月経不順へ
つまりLH/FSH比が高いことは、「FSHが足りず卵胞がちゃんと育たない状態をLHが一人で頑張っている」という状況を反映しています。この状態では排卵誘発剤(クロミフェン・レトロゾール)を使ってFSH分泌を助けるか、FSH製剤を直接投与することが治療の軸となります。
PCOSの診断基準——LH/FSH比は1要素に過ぎない
日本では日本産科婦人科学会が定めたPCOS診断基準(2007年)が使用されます。以下の3項目のうち2つ以上が当てはまり、アンドロゲン産生腫瘍・クッシング症候群などの除外診断が行われた場合にPCOSと診断されます。
- 月経異常(稀発月経・無月経・無排卵)
- 高アンドロゲン症(多毛・ニキビ・血中テストステロン高値)またはLH基礎値高値かつFSH正常
- 超音波で多嚢胞卵巣所見(卵巣に小卵胞が多数)
LH/FSH比が2以上でも、月経が規則的で超音波所見も正常であれば、PCOSと診断されないケースもあります。
LH/FSH比検査のタイミングと注意点
LH/FSH比検査は月経3〜5日目の採血が基本ですが、月経不順で月経がなかなか来ない場合は「プロゲスチン(黄体ホルモン)投与で消退出血を起こして月経とみなし、その3〜5日後に採血」という方法が使われます。
- 検査時刻:LHは朝に高い日内変動があるため、同一時刻(午前中)の採血が推奨される場合がある
- ストレス・睡眠不足:LH値に影響する可能性があるため、検査前日は過労・徹夜を避ける
- 経口避妊薬・ホルモン剤服用中:ゴナドトロピンが抑制されるため、服用終了後一定期間を経てから検査を行う(担当医の指示による)
LH/FSH比が高い場合の治療アプローチ
PCOSと診断された後、妊活・不妊治療における治療方針は以下のように段階的に進みます。
- 生活習慣改善:肥満型PCOSでは5〜10%の体重減少で排卵回復率が改善
- クロミフェン(排卵誘発):FSH分泌を促してLH/FSH比を正常化する第一選択薬
- レトロゾール:クロミフェン抵抗性PCOSで有効(2023年ガイドラインでも推奨)
- メトホルミン:インスリン抵抗性を伴うPCOSで補助薬として使用
- ゴナドトロピン注射(FSH/hMG製剤):クロミフェン・レトロゾール無効例へ
- 腹腔鏡下卵巣多孔術(LOD):注射無効例での外科的治療オプション
よくある質問
Q. LH/FSH比が3でも自然妊娠できますか?
A. 可能です。LH/FSH比が高くても、月経が定期的にきており排卵が確認されている場合は自然妊娠の可能性があります。タイミング法でも妊娠する方はいます。ただし排卵障害がある場合は排卵誘発剤の使用を検討します。
Q. LH/FSH比は生活習慣で改善できますか?
A. 肥満型PCOSでは体重減少がLH値の低下につながるという報告があります(約5〜10%の体重減少でLH正常化のケースあり)。食事改善・運動・体重管理は薬物療法の補助として有効です。
Q. LH/FSH比が低い(0.5未満)場合は何が問題ですか?
A. FSHが相対的に高い状態は、卵巣予備能の低下(低AMH・卵巣機能低下)を示す可能性があります。FSH値が単独で高い場合(10 mIU/mL以上)は卵巣機能低下の指標となるため、AMH値と合わせて評価することが重要です。
Q. LH/FSH比の検査は保険適用ですか?
A. 月経不順・排卵障害などの病名があれば、LH・FSHの血液検査は保険適用となります。1回の採血で両ホルモンを同時測定でき、費用は保険適用で数千円程度です。
Q. 排卵検査薬でLHサージを検出できればLH/FSH比は問題ないですか?
A. 必ずしも連動しません。排卵検査薬は「LHが急上昇したか」を検出しますが、LH/FSH比は「月経早期のLHとFSHのバランス」を評価するものです。PCOSではLHが慢性的に高いため、排卵検査薬が常に「陽性に近い値」を示すことがあり、偽陽性として判断しにくくなるケースもあります。
まとめ
LH/FSH比は、PCOS診断の補助的な指標として重要ですが、単独での確定診断にはなりません。月経不順・排卵障害のある方では超音波・AMH・アンドロゲン値と合わせた総合評価が必要です。
- LH/FSH比2以上はPCOSを疑う所見。月経3〜5日目の採血が必要
- LH優位→卵巣アンドロゲン過剰→排卵障害というメカニズムを理解することが治療選択の助けになる
- 治療は生活習慣改善→クロミフェン/レトロゾール→ゴナドトロピン注射と段階的に進む
月経不順・排卵障害でお悩みの方は、まず婦人科でLH・FSH・AMH・超音波を含む基本的な検査を受けることをお勧めします。
※本記事は医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を推奨するものではありません。治療方針については必ず担当医にご相談ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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