
卵巣組織凍結保存は、がん治療(化学療法・放射線療法)の前に卵巣組織の一部を摘出・凍結し、がん治療後に再移植することで妊孕性(妊娠する力)を回復させる技術です。卵子凍結と異なり、排卵誘発が不要で緊急的に実施できるため、時間的制約のある若年がん患者に特に有用です。
この記事のポイント
- 卵巣組織凍結は排卵誘発不要で月経周期に関係なく実施可能(緊急対応向き)
- 再移植後の自然妊娠が可能で、ホルモン分泌の回復も期待できる
- 2024年時点で世界で200例以上の出産実績があり、技術は確立されつつある
卵巣組織凍結保存とは?卵子凍結との違い
卵巣組織凍結保存は、卵巣の皮質組織(多数の未成熟卵胞を含む部分)を腹腔鏡手術で摘出し、小片にしてガラス化法または緩慢凍結法で保存する技術です。がん治療後に体内に再移植すると、卵胞の発育が再開し、自然排卵と自然妊娠が可能になります。
項目 | 卵巣組織凍結 | 卵子凍結 |
|---|---|---|
排卵誘発 | 不要 | 2〜3週間必要 |
月経周期の影響 | なし(いつでも実施可能) | 月経開始を待つ必要あり |
対象年齢 | 思春期前の女児にも可能 | 排卵が起こる年齢のみ |
保存される卵子数 | 数百〜数千個の未成熟卵胞 | 1回の採卵で数〜20個程度 |
妊娠方法 | 自然妊娠が可能 | 体外受精が必要 |
卵巣組織凍結の適応|どのような患者に推奨されるか
卵巣組織凍結は主にがん治療前の妊孕性温存(オンコフェティリティ)で適応となります。特に排卵誘発の時間がない場合や、思春期前の患者に有用です。
主な適応
- 思春期前の女児のがん:排卵誘発ができないため唯一の妊孕性温存手段
- がん治療開始まで2週間未満:卵子凍結に必要な期間が確保できない
- ホルモン感受性がん:排卵誘発に使うエストロゲン上昇がリスクとなる場合
- 両側卵巣摘出が予定される疾患:良性疾患でも卵巣機能喪失のリスクがある場合
卵巣組織の摘出と凍結の流れ|腹腔鏡手術から保存まで
卵巣組織の摘出は全身麻酔下の腹腔鏡手術で行われ、手術時間は30分〜1時間程度です。
手術から凍結までの手順
- 腹腔鏡手術:卵巣の皮質部分を片側の1/3〜全体、または両側から採取
- 組織の処理:摘出した組織を1〜2mm厚の小片にトリミング
- 凍結:ガラス化法または緩慢凍結法で-196℃の液体窒素中に保存
- 保管:がん治療が完了し、再移植の時期が来るまで保存
再移植の方法と成功率|自然妊娠の可能性
がん治療後の寛解を確認した上で、凍結保存していた卵巣組織を体内に再移植(自家移植)します。再移植後3〜6ヶ月でホルモン分泌と排卵が回復することが多いです。
再移植の成績データ
- ホルモン機能回復率:約90%以上
- 自然妊娠率:再移植を受けた女性の約30〜50%が妊娠
- 世界の出産実績:200例以上(2024年時点)
- 移植組織の機能持続期間:平均3〜5年(個人差が大きい)
リスクと課題|がん細胞の再導入リスクと対策
卵巣組織凍結の最大の懸念は、凍結組織内にがん細胞が含まれている場合、再移植時にがんを再導入するリスクです。特に白血病や卵巣がんではこのリスクが高くなります。
がん種別のリスク
がん種 | 卵巣転移のリスク | 再移植の可否 |
|---|---|---|
乳がん | 低い | 通常可能 |
リンパ腫 | 中程度 | PCR検査で確認後に判断 |
白血病 | 高い | 慎重な判断が必要(IVM併用も検討) |
卵巣がん | 極めて高い | 再移植は通常不可 |
日本での実施状況と費用|相談先と費用の目安
日本では日本がん・生殖医療学会に登録された施設で卵巣組織凍結が実施されています。費用は自費診療で、助成金の対象となる自治体も増えています。
費用の目安
- 手術・凍結費用:約30〜60万円
- 年間保管料:約3〜10万円
- 再移植手術費用:約20〜40万円
- 助成金:自治体により妊孕性温存治療費の助成あり(最大30万円程度)
よくある質問(FAQ)
Q. 何歳まで卵巣組織凍結は有効ですか?
卵巣予備能が十分にある年齢(概ね36歳未満)が最も効果的です。年齢が高いと卵胞数が少なく、再移植後の機能回復が限定的になります。
Q. 卵巣組織と卵子の両方を凍結することはできますか?
時間的に余裕がある場合は、卵巣組織凍結と卵子凍結を併用することで妊孕性温存の選択肢を広げることが可能です。
Q. 再移植後、いつから妊活を始められますか?
再移植後3〜6ヶ月でホルモン分泌が回復した後に妊活を開始できます。排卵の確認は基礎体温やホルモン検査で行います。
Q. 再移植しなくても凍結組織から卵子を取り出せますか?
凍結組織からIVM(体外成熟培養)で卵子を成熟させる研究が進んでいますが、まだ実験段階です。
Q. 子供を産み終わった後、残りの組織でホルモン補充はできますか?
卵巣組織の再移植はホルモン分泌の回復にも有効で、更年期症状の緩和目的での使用も研究されています。
まとめ
卵巣組織凍結保存は、がん治療前の妊孕性温存として確立されつつある技術です。排卵誘発不要で緊急対応が可能なこと、再移植後に自然妊娠が期待できることが大きな利点です。がん診断を受けた方は、治療開始前にがん・生殖医療の専門施設に相談してください。
次のステップへ
がん治療前に妊孕性温存を検討されている方は、がん主治医に「卵巣組織凍結について相談したい」と伝えてください。日本がん・生殖医療学会のウェブサイトで相談可能な施設を検索できます。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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