
不妊治療と仕事の両立を目指す方にとって、職場でのハラスメント(マタハラ・不妊ハラ)は深刻な問題です。厚生労働省の調査では、不妊治療経験者の約25%が「職場で不快な言動を受けた」と回答しています。この記事では、不妊治療に関するハラスメントの実態と、自分を守るための具体的な対策をまとめました。
この記事のポイント
- 不妊治療に関するハラスメントの定義と法的位置づけ
- よくあるハラスメント事例と対処法
- 2022年施行の改正育児・介護休業法による保護範囲
不妊治療に関するハラスメントとは——定義と法的な位置づけ
不妊治療に関するハラスメントとは、不妊治療を理由とする不利益取扱い・嫌がらせ・プライバシー侵害の総称です。いわゆる「マタハラ(マタニティ・ハラスメント)」の一形態として位置づけられます。
マタハラと不妊ハラの違い
マタハラが妊娠・出産を理由とした嫌がらせを指すのに対し、不妊ハラ(不妊ハラスメント)は治療中の段階で受ける不快な言動を指します。「まだ子どもはできないの?」「治療より仕事を優先して」といった発言が典型例です。
法律による保護の範囲
2022年4月施行の改正育児・介護休業法では、不妊治療と仕事の両立支援が企業の努力義務に含まれました。また、男女雇用機会均等法第9条では、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止しています。不妊治療のための通院を理由とした降格・解雇は、法的に問題となる可能性があります。
職場で起きやすいハラスメント事例5選
不妊治療中の方が実際に経験しやすいハラスメントには、以下のパターンがあります。具体例を知っておくことで、問題が起きた際に「これはハラスメントだ」と認識できるようになります。
1. プライバシーの暴露・詮索
上司や同僚に治療のことを相談したところ、本人の同意なく他の社員に広められるケースです。「○○さん、不妊治療してるんだって」と噂されることは、プライバシー権の侵害にあたります。
2. 通院に対する嫌味・圧力
「また休むの?」「治療のために周りが迷惑している」という発言は、治療と仕事の両立を困難にする典型的なハラスメントです。不妊治療は排卵日に合わせた急な通院が必要な場合もあり、スケジュールの柔軟性が欠かせません。
3. 不利益な人事処遇
治療のための休暇取得を理由に、昇進・昇給の対象から外す、担当業務を一方的に変更するといった対応は不利益取扱いにあたる可能性があります。
4. 無神経な言葉
「自然に任せれば?」「考えすぎじゃない?」「子どもがいなくても幸せでしょ」といった発言は、善意であっても当事者を深く傷つけます。不妊治療の精神的負担は「がん患者と同等レベル」と報告する研究もあり、軽視できるものではありません。
5. 治療の中止・断念を暗に促す言動
「いつまで続けるの?」「仕事に集中したほうがいいのでは」など、治療の継続判断に介入する発言も問題です。治療の方針は本人と医師が決めるものであり、職場が口を出すべき領域ではありません。
ハラスメントが心身に与える影響
職場でのハラスメントは、不妊治療の成績にも悪影響を及ぼす可能性があります。ストレスホルモン(コルチゾール)の慢性的な上昇は、排卵障害や着床率の低下と関連するとの報告があります。
メンタルヘルスへの影響
- 抑うつ・不安症状:治療ストレスに職場ストレスが加わり、うつ病リスクが上昇
- 自己肯定感の低下:「迷惑をかけている」という罪悪感が増幅される
- 治療中断:精神的に耐えられず、治療を諦める方も少なくない
身体面への影響
NPO法人Fineの調査(2022年)によると、不妊治療と仕事の両立に悩んだ結果、約16%が退職、約8%が転職を選んでいます。ハラスメントは治療だけでなく、キャリア全体に影響を及ぼす問題といえます。
自分を守るための具体的な対処法
ハラスメントに遭った場合、感情的に対応せず、記録と相談を軸に動くことが重要です。以下の4ステップで対処しましょう。
ステップ1:記録を残す
いつ・誰が・どんな言動をしたかを、日時とともにメモやメールに記録します。録音が可能な環境であれば、証拠として有効です。後から「言った・言わない」の水掛け論を避けるために、早い段階から記録を取る習慣をつけましょう。
ステップ2:社内相談窓口を利用する
多くの企業では、ハラスメント相談窓口や人事部が対応しています。2020年6月施行のパワハラ防止法により、すべての企業にハラスメント相談窓口の設置が義務づけられました(中小企業は2022年4月から)。
ステップ3:外部機関に相談する
相談先 | 内容 | 費用 |
|---|---|---|
都道府県労働局 雇用環境・均等部 | ハラスメント全般の相談・指導 | 無料 |
NPO法人Fine | 不妊治療と仕事の両立に関する相談 | 無料 |
法テラス | 法的トラブルの解決に関する相談 | 無料(条件あり) |
弁護士(労働問題専門) | 損害賠償請求・労働審判 | 有料 |
ステップ4:不妊治療連絡カードを活用する
厚生労働省が発行する「不妊治療連絡カード」は、医師が記入した治療スケジュールを職場に提示するための公的な書式です。口頭で説明しにくい場合に活用でき、事業主に対して配慮を求める根拠となります。
企業に求められる両立支援制度
2022年の法改正を受け、不妊治療と仕事の両立を支援する企業制度が広がりつつあります。自社にどのような制度があるか確認し、利用できるものは積極的に活用しましょう。
代表的な支援制度
制度 | 内容 | 導入企業の例 |
|---|---|---|
不妊治療休暇 | 治療のための特別休暇(有給・無給) | 大手メーカー・IT企業を中心に拡大 |
時差出勤・フレックス | 通院に合わせた勤務時間の調整 | 金融・サービス業で導入進む |
テレワーク | 在宅勤務による通院との両立 | コロナ以降、多くの企業で制度化 |
治療費補助 | 保険適用外の治療費を一部補助 | 一部の大企業・自治体 |
くるみんプラス認定
厚生労働省の「くるみんプラス」認定制度は、不妊治療と仕事の両立支援に取り組む企業を認定する仕組みです。2024年時点で認定企業は増加傾向にあり、就職・転職時の企業選びの参考にもなります。
治療と仕事を両立するためのセルフケア
ハラスメント対策と並行して、自分自身のメンタルヘルスを守ることも大切です。治療期間は長期に及ぶことも多く、心身のバランスを保つ工夫が必要になります。
信頼できる人に相談する
すべてを一人で抱え込まないでください。パートナー、友人、カウンセラーなど、安心して話せる相手を見つけることが第一歩です。NPO法人Fineや不妊カウンセラーへの相談も選択肢の一つです。
治療と仕事の境界線を引く
「仕事中は治療のことを考えない」「通院日は仕事のメール対応をしない」など、意識的に切り替えるルールを設けると、精神的な消耗を抑えやすくなります。
完璧を目指さない
治療も仕事も100%をこなそうとすると、どちらも続かなくなります。「今は70%でいい」と自分に許可を出すことで、長期間の両立が可能になるでしょう。
よくある質問
Q. 不妊治療のことを職場に言わなければなりませんか?
法律上、不妊治療を職場に報告する義務はありません。ただし、頻繁な通院が必要な場合は、上司や人事に「定期的な通院が必要な治療を受けている」と伝えるだけでも配慮を得やすくなります。治療の詳細まで話す必要はなく、伝える範囲は自分で決めて問題ありません。
Q. ハラスメントの証拠がない場合でも相談できますか?
証拠がなくても、労働局やハラスメント相談窓口に相談することは可能です。ただし、対処を進める上で記録があると有利になるため、今後の言動については日時・内容をメモしておくことをおすすめします。
Q. 不妊治療休暇がない会社ではどうすればいいですか?
有給休暇や半日休暇、時間単位有給を活用するのが現実的な方法です。また、人事部に不妊治療休暇の制度化を提案することも一つの手段です。厚生労働省の「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」を参考資料として提示すると、説得力が増します。
Q. 上司からのハラスメントに対処できない場合、退職するしかないですか?
退職は最終手段です。まずは社内相談窓口や外部機関(労働局・弁護士)に相談してください。異動や部署変更で解決するケースもあります。それでも改善しない場合は、労働審判やあっせんといった法的手段も検討できます。
Q. 不妊治療連絡カードはどこで入手できますか?
厚生労働省のウェブサイトからPDFをダウンロードできます。主治医に記入を依頼し、職場に提出する流れです。費用は基本的にかかりませんが、医師の記入に文書料が発生する場合があります。
Q. パートナーが職場でハラスメントを受けています。何ができますか?
まずはパートナーの話を否定せずに聞くことが大切です。具体的な対処としては、記録を残すことのサポート、外部相談窓口の情報提供、必要に応じて弁護士への同行などが考えられます。
まとめ
- 不妊治療に関するハラスメントは法律で保護される権利侵害であり、我慢する必要はない
- 記録を残し、社内外の相談窓口を活用することが対処の基本
- 不妊治療連絡カードや企業の両立支援制度を積極的に利用する
- 一人で抱え込まず、信頼できる人や専門家に相談することが大切
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を行うものではありません。個別の事案については、弁護士や労働局など専門家にご相談ください。
※治療方針や通院スケジュールについては、主治医の指示に従ってください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
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