
不妊治療は通院回数が多く、特に体外受精に進むと月5〜10回の受診が必要になる場合もあります。時短勤務やフレックスタイム制度を活用できれば、毎回有給を使い切る不安なく通院を続けられます。2022年の育児・介護休業法改正により、不妊治療と仕事の両立支援は企業の努力義務となりました。この記事では、制度の実態と上司・人事への交渉方法を具体的に解説します。
この記事のポイント
- 不妊治療に使える時短・フレックス制度の種類と適用条件
- 上司・人事への具体的な交渉フレーズ
- 制度がない職場での代替手段と交渉のコツ
不妊治療に活用できる勤務制度の全体像
不妊治療専用の時短勤務制度を設けている企業はまだ少数ですが、既存の制度を組み合わせることで柔軟な働き方が実現できます。以下に代表的な制度をまとめました。
制度名 | 内容 | 不妊治療での活用例 |
|---|---|---|
フレックスタイム制 | コアタイム以外の出退勤時間を自由に設定 | 朝の通院後に出社、夕方早めに退社して注射 |
時差出勤 | 始業・終業時刻を前後にずらす | 8時出社→15時退社でクリニックへ |
時間単位有給 | 1時間単位で有給休暇を取得 | 午前中2時間だけ休んで通院 |
半日休暇 | 午前または午後を休暇にする | 午前通院→午後出社 |
不妊治療休暇(特別休暇) | 治療目的の特別有給・無給休暇 | 採卵日・移植日に利用 |
テレワーク | 在宅勤務 | 通院日に自宅から業務 |
法律上の位置づけ
2022年4月施行の改正育児・介護休業法では、不妊治療と仕事の両立に関する相談体制の整備が企業の努力義務に加わりました。ただし、不妊治療のための時短勤務を義務づける法律は現時点ではありません。企業の制度設計に依存する部分が大きいのが実情です。
自社の制度を確認する3つのステップ
交渉を始める前に、まず自社にどのような制度があるかを正確に把握することが重要です。
ステップ1:就業規則・テレワーク規程を確認
社内ポータルや人事部で、就業規則・テレワーク規程・特別休暇の一覧を入手しましょう。「不妊治療」の文言がなくても、「通院」「治療」「私傷病」に関する制度が使えるケースがあります。
ステップ2:人事部に匿名で相談
制度の有無や利用実績について、人事部に問い合わせましょう。「利用を検討している社員がいるのですが」と第三者的に聞くことで、匿名性を保ちながら情報を得られます。
ステップ3:労働組合や相談窓口を活用
労働組合がある企業では、組合を通じて制度新設を要望できる場合があります。ハラスメント相談窓口も、両立支援に関する情報提供を行っていることがあります。
上司・人事への具体的な交渉方法
制度の利用や新設を交渉する際は、「感情に訴える」のではなく「業務への影響を最小化する提案」として話すと、理解を得やすくなります。
交渉のフレーズ例
フレックス利用を申し出る場合:
「通院の関係で、月に数回、朝の出社時間を10時にずらしたいと考えています。コアタイムの業務には影響が出ないよう、前日までにタスクの引き継ぎを済ませます。まずは1か月間試させていただけませんか。」
時短勤務を相談する場合:
「治療の通院が集中する週に、1〜2日だけ6時間勤務にさせていただきたいのですが、可能でしょうか。通常の週はフルタイムで勤務します。業務量の調整案も考えてきましたので、ご相談させてください。」
交渉を成功させる4つのポイント
- 具体的な期間・頻度を示す:「しばらく」ではなく「月○回、○か月間」と数字で伝える
- 業務のフォロー体制を先に考えておく:誰に何を引き継ぐか、連絡方法はどうするかを事前に整理
- 試行期間を提案する:「まず1か月」と区切ると、上司も判断しやすい
- 不妊治療連絡カードを活用する:厚労省の公的書式を提出することで、客観性と信頼性が増す
制度がない職場での対処法
時短勤務やフレックスの制度がない職場でも、いくつかの代替手段があります。
有給休暇の戦略的な使い方
時間単位有給が使える場合は、丸1日休まなくても通院が可能です。年間の有給残日数を計算し、治療の「山場」(採卵周期・移植周期)に集中的に使う計画を立てましょう。
制度新設の提案
厚生労働省の「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」を参考資料として人事部に提出する方法があります。「くるみんプラス」認定の取得を目指す企業にとって、不妊治療休暇の新設はインセンティブになります。
転職も選択肢に
交渉しても制度の導入が見込めない場合、不妊治療に理解のある企業への転職を検討するのも一つの手段です。「くるみんプラス」認定企業や、不妊治療休暇を公表している企業を調べると、候補が見つかりやすくなります。
時短勤務利用時の給与・評価への影響
時短勤務を選ぶ上で気になるのが、給与や評価への影響です。事前に確認しておきたいポイントを整理しました。
給与への影響
制度 | 給与への影響 |
|---|---|
フレックスタイム | 月の総労働時間が変わらなければ影響なし |
時短勤務(1日6時間) | 勤務時間に比例して減額されるのが一般的(ノーワーク・ノーペイ) |
時間単位有給 | 有給のため減額なし |
不妊治療休暇(有給) | 影響なし |
不妊治療休暇(無給) | 取得日数分が減額 |
評価への影響
不妊治療を理由とした不利益な評価は、男女雇用機会均等法に抵触する可能性があります。ただし、勤務時間が短くなった分、成果の量が減ること自体は評価に影響しうるため、「限られた時間で質の高い成果を出す」ことを意識しましょう。
両立を続けるためのセルフマネジメント
制度を活用しつつ治療と仕事を両立するには、自分自身の体調管理とメンタルケアも欠かせません。
通院スケジュールの「見える化」
治療の大まかなスケジュール(排卵日の予測、採卵予定日、判定日)をカレンダーに記入し、仕事のスケジュールと重ね合わせて確認する習慣をつけましょう。先の見通しが立つだけで、精神的な負担が軽くなります。
完璧を目指さない
治療と仕事の両方で100%を出し続けるのは、現実的に不可能です。「今月は治療に集中する週がある。仕事は80%でいい」と自分に許可を出すことが、長期的な両立の秘訣です。
パートナーとの役割分担
通院や家事の負担がどちらか一方に偏ると、心身の消耗が加速します。「通院の送り迎え」「薬の管理」「家事の一部」など、できる範囲でパートナーと分担しましょう。
よくある質問
Q. 育児のための時短勤務制度を不妊治療に使うことはできますか?
育児・介護休業法に基づく時短勤務制度は、3歳未満の子を養育する労働者が対象です。不妊治療への転用は制度の趣旨と異なるため、別の制度(フレックス・時間単位有給・特別休暇等)の利用を検討してください。
Q. 時短勤務にすると社会保険料は変わりますか?
勤務時間が短くなり給与が下がった場合、社会保険料(健康保険・厚生年金)の標準報酬月額が見直される可能性があります。具体的な金額は人事部に確認してください。
Q. パートやアルバイトでも時短勤務は利用できますか?
パート・アルバイトの場合、もともとシフト制で勤務時間を調整しやすいケースが多いです。シフトの希望提出時に通院予定を反映させるのが現実的な方法です。不妊治療連絡カードは雇用形態に関係なく使用できます。
Q. 時短勤務を使っていることを同僚にどう説明すればいいですか?
「通院のため」とだけ伝えれば十分です。不妊治療であることまで開示する必要はありません。詮索された場合は「プライベートなことなので」と断って問題ありません。
Q. フレックスのコアタイムに通院が重なる場合はどうすればいいですか?
コアタイム中の離席が必要な場合は、時間単位有給を組み合わせるか、上司に個別相談しましょう。不妊治療の通院は日時の指定が難しいため、コアタイムの免除を認めている企業もあります。
まとめ
- フレックス・時差出勤・時間単位有給など、既存制度の組み合わせで通院時間を確保できる
- 交渉は「業務への影響と対策」をセットで提案し、試行期間を設けるとスムーズ
- 不妊治療連絡カードや厚労省マニュアルを活用して客観的な根拠を示す
- 制度のない職場では、制度新設の提案や転職も選択肢になる
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の労務問題に関する法的助言を行うものではありません。勤務制度の詳細については、所属先の人事部・社会保険労務士等にご確認ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
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