
「採卵って痛いの?」「全身麻酔?局所麻酔?」「何本くらい針を刺すの?」――体外受精・顕微授精のステップの中で、採卵は多くの方が最も不安を感じる場面です。注射の痛み、手術への恐怖、結果への期待と不安。複数の感情が絡み合い、採卵日が近づくほどソワソワする方も珍しくありません。
この記事では、採卵の実際の流れと痛みの実態、そして不安との向き合い方について、できるだけ具体的にお伝えします。「知る」ことが、不安をやわらげる一番の方法です。
この記事のポイント
- 採卵の痛みは麻酔法や卵胞数によって異なるが、「耐えられない痛み」ではないケースが多い
- 採卵当日の流れを事前に知っておくことで、漠然とした恐怖を軽減できる
- 不安を感じること自体は自然であり、対処法を持っておくことが大切
採卵とは何をするのか――手術の基本を知る
採卵は、卵巣刺激(排卵誘発)で育てた卵胞から卵子を回収する処置です。経腟超音波ガイド下で、腟壁から卵巣に細い針を刺し、卵胞液とともに卵子を吸引します。所要時間は通常10〜20分程度で、回収する卵胞の数や卵巣の位置によって変わります。
採卵の流れ(標準的なスケジュール)
- 卵巣刺激:月経3日目頃から排卵誘発剤(注射または内服)を開始。約10〜14日間
- トリガー注射:卵胞が十分に育ったら、HCGまたはGnRHアゴニスト注射で排卵を促す(採卵の34〜36時間前)
- 採卵当日:来院→準備→麻酔→採卵→安静→帰宅
- 結果報告:採れた卵子の数、成熟度を当日または翌日に報告
採卵の痛みの実際――経験者はどう感じたか
採卵の痛みは、多くの方が最も知りたいポイントでしょう。結論から言えば、痛みの感じ方には大きな個人差があり、麻酔の方法によっても異なります。
麻酔の種類と痛みの比較
麻酔法 | 意識 | 痛みの感じ方 | 適するケース |
|---|---|---|---|
無麻酔 | 完全にあり | チクッとした痛み〜生理痛程度(個人差大) | 卵胞数が少ない場合(1〜3個) |
局所麻酔 | あり | 針を刺す瞬間の痛みは軽減されるが、圧迫感はある | 卵胞数が少〜中程度 |
静脈麻酔(軽い全身麻酔) | なし(眠る) | 処置中の痛みはほぼなし。覚醒後に軽い下腹部痛 | 卵胞数が多い場合、不安が強い方 |
全身麻酔 | 完全になし | 処置中の痛みはゼロ | 特殊なケース |
経験者の声から見る「痛みの実態」
- 「想像していたほどではなかった。生理痛くらい」(30代・局所麻酔)
- 「静脈麻酔で眠っている間に終わった。目覚めた後少しお腹が痛かったけど鎮痛剤で収まった」(30代・静脈麻酔)
- 「無麻酔で3個採卵。チクッとしたけど我慢できるレベル」(20代・無麻酔)
- 「卵胞が多くて20個以上採卵。静脈麻酔でもお腹の張りがきつかった」(30代・静脈麻酔)
痛みが怖い場合は、遠慮なく主治医に相談してください。麻酔法の選択について希望を伝えることは、患者の権利です。
採卵当日のタイムライン
当日の流れを事前に把握しておくと、「何が起こるかわからない」という不安が軽減されます。施設によって多少異なりますが、一般的な流れは以下の通りです。
時間 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
来院(指定時間) | 受付、体調確認 | 前夜から絶食の場合あり(麻酔による) |
準備(30分〜1時間前) | 着替え、点滴ルート確保、バイタル測定 | アクセサリー・コンタクトレンズは外す |
採卵(10〜20分) | 経腟超音波ガイド下で卵胞穿刺・吸引 | 静脈麻酔の場合は眠っている間に終了 |
安静(30分〜2時間) | リカバリールームで休憩、出血・痛みの確認 | 麻酔の種類によって安静時間は異なる |
結果説明 | 採れた卵子の数を報告 | 受精結果は翌日以降 |
帰宅 | 付き添いの方と帰宅を推奨(麻酔使用時) | 当日の車の運転は避ける |
採卵前の不安を和らげる実践的な方法
「不安を感じるな」というのは無理な話です。不安を感じながらも、少しでも楽に採卵日を迎えるための具体的な方法をお伝えします。
情報面のケア
- 主治医・看護師に質問をぶつける:「麻酔はどの方法ですか」「何個くらい採れそうですか」「痛みが怖いのですが」――遠慮せず聞いてください。疑問が残ったまま採卵日を迎えると、不安が増幅します
- 施設の実績を確認する:採卵件数の多い施設は手技が安定しており、合併症のリスクも低い傾向があります
- 体験談は「参考」程度に:ネット上の体験談は極端なケース(すごく痛かった/まったく痛くなかった)が目立ちがち。自分とは条件が異なることを理解しておく
身体面のケア
- 前日は十分な睡眠を取る:眠れない場合は、「横になっているだけでも身体は休まる」と考える
- リラックス法を練習しておく:腹式呼吸やプログレッシブ筋弛緩法を事前に練習しておくと、当日使えます
- 温かい服装で来院する:身体が冷えると緊張しやすくなるため、温かくして来院を
心理面のケア
- 「最悪のシナリオ」を具体化する:漠然とした「怖い」を具体的にすると対処しやすくなる。「痛かったらどうしよう→麻酔を追加してもらえる」「卵が採れなかったら→次の周期で再チャレンジできる」
- 当日のご褒美を決めておく:採卵後に食べたいもの、買いたいもの、やりたいことを事前に決めておく。「これが終わったら〇〇する」という楽しみがあると、気持ちが前向きになる
採卵後の身体の変化と注意点
採卵後に起こりうる身体の変化を事前に知っておくと、「これは正常なのか」と不安にならずに済みます。
正常な範囲の症状
- 下腹部痛:生理痛程度の痛みが1〜3日続くことがある。鎮痛剤で対応可能
- 少量の出血:腟からの少量の出血は穿刺によるもので、通常1〜2日で止まる
- お腹の張り:採卵数が多い場合、卵巣の腫れによる張り感が数日〜1週間続くことがある
すぐに受診すべきサイン
- 激しい腹痛:動けないレベルの痛み
- 大量の出血:ナプキンが1時間で満杯になるレベル
- 発熱(38度以上):感染の可能性
- 嘔吐・強い腹部膨満:OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の可能性
これらの症状がある場合は、時間外でもクリニックに連絡してください。
OHSS(卵巣過剰刺激症候群)への不安
採卵に伴うリスクとして最も気になるのがOHSSです。卵巣が過剰に刺激されることで腫れ、腹水がたまるなどの症状が出ます。
OHSSのリスク因子
- 若年(35歳未満)
- やせ型(BMI低値)
- PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)
- 採卵数が多い(15個以上)
- 過去にOHSSの既往がある
予防策
現在の不妊治療では、OHSSの予防策が進歩しています。GnRHアゴニストトリガー、全胚凍結(新鮮胚移植をしない)、卵巣刺激量の調整などにより、重症OHSSの発症率は大幅に低下しています。リスクが高いと判断された場合は、主治医が適切な予防措置を講じます。
採卵への不安が強すぎるときは
「どうしても怖くて採卵に臨めない」という場合は、以下の選択肢を検討してください。
- 主治医に率直に伝える:麻酔法の変更や、カウンセラーの紹介を受けられることがあります
- 不妊カウンセラーに相談する:医療行為への恐怖に対する心理的サポートを受けられます
- 採卵日を延期する:心の準備ができていないまま臨むよりも、1周期待つ選択もあります(主治医と相談を)
- 低刺激法・自然周期法を検討する:採卵数は少なくなりますが、身体的な負担や痛みが軽減される方法もあります
あなたの身体のことです。「怖い」と言うことは恥ずかしいことではありません。医療チームはあなたの不安を軽減するためにいます。
よくある質問(FAQ)
Q. 採卵は何回も行うものですか?
治療の結果や方針によります。1回の採卵で十分な数の卵子が得られ、凍結胚を複数確保できれば、追加の採卵は不要な場合もあります。一方、卵巣機能が低い場合は複数回の採卵が必要になることもあります。
Q. 採卵の翌日から仕事はできますか?
採卵数が少なく体調が良ければ可能ですが、採卵数が多い場合やOHSSのリスクがある場合は1〜2日の休養を推奨します。可能であれば翌日に休みを取っておくと安心です。
Q. 採卵後の性交渉はいつからOKですか?
一般的には、出血が止まり、腹痛がなくなってからとされています。通常1週間程度。主治医の指示に従ってください。
Q. 麻酔なしの採卵は本当に可能ですか?
卵胞数が1〜3個程度の場合は、無麻酔で行う施設もあります。痛みの感じ方には個人差がありますので、不安な場合は局所麻酔以上を希望する旨を伝えてください。
Q. 採卵で卵巣に傷がつきませんか?
穿刺による卵巣への損傷はごく軽微で、通常は自然に回復します。複数回の採卵による卵巣機能への長期的な影響は、現時点では明確なエビデンスがありません。
免責事項
本記事は採卵前の不安に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療の指示に代わるものではありません。麻酔法の選択や治療方針については、主治医にご相談ください。
この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
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