日本の男性不妊の状況を知るには、「何人の男性が不妊か」「夫婦で検査・治療を経験したか」「治療が何周期行われたか」を分ける必要があります。国内の夫婦調査やART登録の数字を、そのまま日本人男性全体の不妊率にはできません。この記事では、確認できる国内原典の対象と単位から整理します。
国内の主な数字と、表していないこと
| 資料と対象時期 | 確認できる数字 | 意味・限界 |
|---|---|---|
| 第17回出生動向基本調査・2025年 | 不妊の検査・治療経験がある夫婦22.8% | 対象の夫婦の経験であり、男性不妊の有病率ではない |
| 日本産科婦人科学会・2024年ART登録 | 総治療周期数550,265周期 | 治療の周期数であり、患者数・男性不妊の人数ではない |
| 同じ2024年ART登録 | 出生児数86,473人 | 登録された治療の出生結果であり、個人の成功率ではない |
夫婦の22.8%は、男性不妊の割合ではありません
2026年9月公表の第17回出生動向基本調査は、2025年6月の状況を調べています。不妊に関する図表8-6の対象は、妻が調査時50歳未満の初婚どうしの夫婦で、2025年の総数の客体数は3,183です。回答者は妻であり、医師が男性不妊と診断した人数の調査ではありません。
22.8%は、「現在検査・治療中」と「過去に検査・治療経験あり」を合わせた割合です。現在男性不妊の人が22.8%いる、男性の専門受診率が22.8%、という意味にはなりません。
過去の経験も含むため、調査時点で治療中の割合とも異なります。国立社会保障・人口問題研究所:第17回出生動向基本調査、図表8-6(印刷92ページ)
ARTの周期数から、男性不妊の人数は計算できません
日本産科婦人科学会の2024年ARTデータブックでは、IVF(GIFT・その他を含む)、ICSI(SPLITを含む)、凍結融解胚(卵)の治療周期数を合計すると550,265周期です。
出生児数は同じ3区分の合計で86,473人となります。日本産科婦人科学会:2024年ARTデータブック(年別周期数、4枚目)
同じ人が複数の周期の治療を受ける場合があるため、周期は患者の人数ではありません。また、ICSIの周期やその割合だけから、日本全体の男性不妊の割合や、その原因が増えた程度は算出できません。治療の種類、登録の範囲、凍結融解胚の区分などを確認する必要があります。
出生児数を治療周期数で割るだけでも、本人の「1回で子どもを授かる確率」にはなりません。採卵、全胚凍結、移植などの段階と、妊娠・出生のどの結果を分母・分子にするかで意味が変わるためです。
「男性因子が関与」と「男性だけが原因」も別です
不妊には男性側、女性側、双方の要因が関わる場合や、通常の評価で原因が分からない場合があります。海外指針が引用する男性因子の割合や、不妊外来の患者を対象とする研究を、日本人男性全体の有病率として扱うことはできません。
日本の受診率や原因の割合を見るときは、全国調査か一施設か、一般住民か不妊治療中の人か、精液検査だけか専門医の受診かを確認しましょう。異なる質問の割合を一つの表に並べても、合計100%になる同じ母集団とは限りません。
WHOの精液下限参考値は、日本人の平均ではありません
EAUの現行指針が掲載するWHO2021年版の下限参考値の主な項目は次のとおりです。パートナーが12か月以内に自然妊娠に至った男性の分布に基づく、下から5%に当たる値であり、一般の日本人男性の平均値や、妊娠できる最低ラインではありません。
| 項目 | WHO2021年版の下限参考値 |
|---|---|
| 精液量 | 1.4mL |
| 精子濃度 | 1,600万/mL |
| 1回の射精の総精子数 | 3,900万 |
| 総運動率 | 42% |
| 前進運動率 | 30% |
| 正常形態率 | 4% |
出典:EAU:精液検査と下限参考値(11.3.2、表11.2)。濃度と総数、総運動率と前進運動率は異なります。どれか一つで妊娠可能・不可能を決めず、採取条件、病歴、複数の所見、パートナーの状況を合わせて評価します。
また、精子濃度の平均と中央値も別の指標です。特定の地域のボランティアや不妊外来の研究から、すべての日本人男性の平均や、全国での長期的な低下率をそのまま断定することはできません。
統計を個人の受診につなげるとき
自分の状態は、集団の割合からは分かりません。不妊の評価では男性の病歴と精液の評価も並行して考えます。結果が気になる、無精子症などを疑われた、痛みやしこりなどがある場合は、男性不妊を診る泌尿器科や治療先へ相談してください。精液の数値だけで原因や治療を決めず、必要な診察・検査を選びます。
費用や保険の扱いは、検査・治療の目的と条件、診察や追加項目により異なります。統計記事の一律の金額を、すべての人が支払う額とはしません。予約時に提供範囲と費用の内訳を確認しましょう。
出典と確認日
2026年10月26日に第17回出生動向基本調査、2024年ARTデータブック、EAUの採用箇所を確認しました。調査年と公表年、夫婦・人・周期、検査経験と有病率を区別しています。医師による本記事の個別監修はありません。

この記事を書いた人
EggLink編集部
医療・婦人科専門メディア
公的機関や医学会などの情報をもとに、女性の健康と医療の選択に役立つ情報を整理しています。