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男性不妊の統計データ|日本の現状

2026/4/19

男性不妊の統計データ|日本の現状

不妊の原因はどちらにあるのか――日本産科婦人科学会のデータでは、不妊カップルの約半数に男性因子が関与しています。にもかかわらず、男性側の受診率は女性の3分の1以下にとどまるのが現状です。本記事では、日本国内の疫学データ・精液検査の基準値・年代別の傾向・受診行動の実態まで、国内統計に絞って解説します。

この記事のポイント

  • 不妊原因の約48%に男性因子が関与(WHO調査・日本の臨床報告とも整合)
  • WHO 2021年版の精液検査基準値が従来より引き下げられた背景と注意点
  • 日本人男性の精子濃度は20年間で有意に低下している(聖マリアンナ医大報告)
  • 男性不妊の専門受診率は約18%と推定され、早期検査が課題

不妊原因の約半数に男性因子|日本のカップルにおける内訳データ

WHOの多施設共同研究では不妊原因の約48%に男性因子が単独または複合的に関与しており、日本の不妊治療施設の臨床報告でも同様の傾向が確認されています。

原因分類

割合(WHO調査)

日本での臨床傾向

男性因子のみ

約24%

20〜30%

男女双方の因子

約24%

15〜25%

女性因子のみ

約41%

30〜40%

原因不明

約11%

10〜15%

「不妊=女性の問題」という認識は医学的に誤りです。日本生殖医学会も「不妊の検査は夫婦同時に開始すべき」との見解を示しており、男性側の検査を後回しにすると治療の最適なタイミングを逃すリスクがあります。

精液検査の基準値|WHO 2021年版(第6版)で何が変わったか

2021年に改訂されたWHOマニュアル第6版では、精液所見の基準下限値が第5版より引き下げられました。これは「基準を満たしていても安心できない」ことを意味します。

検査項目

第6版(2021年)

第5版(2010年)

変更

精液量

1.4ml以上

1.5ml以上

引き下げ

精子濃度

1,600万/ml以上

1,500万/ml以上

微増

総精子数

3,900万以上

3,900万以上

変更なし

前進運動率

30%以上

32%以上

引き下げ

総運動率

42%以上

40%以上

引き上げ

正常形態率

4%以上

4%以上

変更なし

基準値はあくまで「一般集団の下位5パーセンタイル」であり、妊娠可能な最低ラインではありません。基準を満たしていても妊孕力が低い場合もあれば、下回っていても自然妊娠に至る例もあります。日本の泌尿器科専門医は、基準値だけでなく精子DNA断片化率や酸化ストレスマーカーなど追加検査の重要性を指摘しています。

日本人男性の精液所見|20年間で精子濃度が有意に低下

聖マリアンナ医科大学の研究チームは、1999年から2019年までの20年間に受診した男性の精子濃度が統計的に有意な低下傾向を示したと2022年に報告しました。

調査・報告

対象

主な知見

聖マリアンナ医大(2022年)

不妊外来受診男性・20年間

精子濃度が有意に低下傾向

日本人一般男性(複数施設統合)

約1万5,000人

精子濃度の中央値 約4,600万/ml

慶應義塾大学(2017年)

首都圏ボランティア男性

若年層でも精液所見にばらつきあり

日本人男性の精子濃度中央値は約4,600万/mlで、WHO基準の1,600万/mlは上回っているものの、欧州やオセアニアの平均値と比較するとやや低い傾向にあります。WHO基準をクリアしている男性でも、精子の運動率や形態に問題があるケースは珍しくありません。

年代別の傾向|30代後半から精液パラメータは変化する

男性の精子も加齢の影響を受けます。日本の臨床データでは35歳を境に運動率の低下やDNA断片化率の上昇が報告されており、40代以降はさらに顕著になります。

年代

精子濃度

運動率

DNA断片化

臨床的な注意点

20代

比較的良好

良好

低い

生活習慣の影響が出やすい時期

30代前半

安定

安定

やや上昇

妊活開始に最適な時期

30代後半

緩やかに低下

低下傾向

上昇

検査を受けておくことが望ましい

40代以降

個人差が拡大

有意に低下

さらに上昇

精密検査と早期治療介入を検討

日本の男性平均初婚年齢は31.1歳、第一子出産時の父親平均年齢は33.7歳(2023年厚労省統計)です。晩婚化が進む日本では、30代後半〜40代で妊活を始めるカップルが増加しています。「男性は年齢に関係なく大丈夫」という認識は、現在の医学的エビデンスとは一致しません。

受診率の低さ|男性不妊の専門受診は約18%にとどまる

不妊治療に通う女性の約8割がパートナーの検査を希望する一方、実際に泌尿器科の男性不妊外来を受診する男性は約18%にとどまるとの推計があります。

  • 心理的障壁:「自分に問題があるとは思いたくない」「精液を採取することへの抵抗感」が受診を遅らせる主因
  • 情報不足:男性不妊外来の存在自体を知らない男性が多い。精液検査が保険適用であることも十分に周知されていない
  • 診療体制の偏り:日本生殖医学会認定の男性不妊専門医は全国で約70名(2025年時点)。都市部に集中しており地方ではアクセスが限られる

受診行動

推定割合

女性パートナーと同時に検査を開始

約30%

女性の治療開始後に検査を受けた

約25%

精液検査のみ実施(専門受診なし)

約27%

一度も検査を受けていない

約18%

男性が検査を先送りした結果、女性側だけで何年も治療を続けてしまう「男性不妊の見逃し」が日本では深刻な問題になっています。日本生殖医学会は、不妊の初回受診時にカップル双方の基本検査を行うことを強く推奨しています。

保険適用と費用|2022年4月の制度改正で何が変わったか

2022年4月の保険適用拡大により、精液検査・ホルモン検査・精索静脈瘤手術など主要な男性不妊の検査・治療が保険診療の対象となりました。経済的な障壁は以前より大幅に下がっています。

検査・治療

保険適用前(自費目安)

保険適用後(3割負担目安)

精液検査

3,000〜5,000円

1,000〜1,500円

ホルモン検査(血液)

5,000〜8,000円

2,000〜3,000円

精索静脈瘤手術

15万〜30万円

5万〜10万円

顕微授精(ICSI)

30万〜50万円/回

10万〜15万円/回

高額療養費制度を利用すれば自己負担額にはさらに上限が設けられます。自治体独自の助成金を上乗せしている地域もあるため、居住地の制度を確認しておくとよいでしょう。

ART統計にみる男性不妊治療の実態|顕微授精が増加傾向

日本産科婦人科学会のARTデータブック(2022年実績)によると、体外受精・顕微授精の総治療周期数は年間約49.8万周期に達し、そのうち顕微授精(ICSI)の割合は約40%を占めています。

総ART周期数

ICSI割合

出生児数

2010年

約24万周期

約30%

約2.9万人

2015年

約42万周期

約35%

約5.1万人

2020年

約45万周期

約38%

約6.0万人

2022年

約49.8万周期

約40%

約6.9万人

ICSI割合の増加は、重度の男性不妊に対する治療ニーズの高まりを反映した数値です。2022年の保険適用拡大以降、治療へのアクセスが改善されたことでART件数はさらに伸びており、日本で生まれる赤ちゃんの約11人に1人が生殖補助医療によって誕生しました。

よくある質問

精液検査は1回で十分ですか?

精液所見は体調やストレス、禁欲期間によって大きく変動します。日本生殖医学会のガイドラインでは、1回目の結果が基準値を下回った場合は2〜4週間の間隔をあけて再検査を行うことが推奨されています。1回の結果だけで診断を確定することは通常ありません。

精索静脈瘤は男性不妊の何割に見つかりますか?

男性不妊患者の約35〜40%に精索静脈瘤が認められるとされています。一般男性でも約15%に存在しますが、精液所見が不良な場合は手術による改善が期待できるケースがあります。

男性不妊は自覚症状がありますか?

多くの場合、自覚症状はありません。精子の数や質が低下していても日常生活で気づくことは困難です。そのため精液検査を受けなければ発見できないケースがほとんどであり、早期の検査が重要とされています。

生活習慣の改善で精液所見は良くなりますか?

精子の形成には約74日を要するため、効果が出るまでに時間がかかります。禁煙・適正体重の維持・適度な運動・十分な睡眠を3〜6カ月継続することで精液パラメータが改善したとする報告は複数あります。ただし改善の程度には個人差があり、基礎疾患がある場合は生活習慣の見直しだけでは不十分なことも少なくありません。

男性不妊の検査はどこで受けられますか?

泌尿器科の男性不妊外来、または不妊治療専門クリニックで受けられます。精液検査だけであれば婦人科で対応できる施設もあります。日本生殖医学会のウェブサイトから認定施設を検索可能です。

無精子症と診断された場合、子どもを持つことは不可能ですか?

閉塞性無精子症の場合、精巣内精子採取術(TESE)で精子を回収し顕微授精を行うことで妊娠が可能なケースがあります。非閉塞性無精子症でもmicro-TESEで精子が見つかる確率は約30〜50%とされており、専門施設での精密検査が重要です。

まとめ

不妊原因の約半数に男性因子が関与しているにもかかわらず、日本では男性の受診率が低い状態が続いています。WHO 2021年版の基準値は「最低ライン」であり、基準を満たしていても妊孕力が十分とは限りません。精液所見は年齢や生活習慣の影響を受けるため、30代後半以降の男性は特に早めの検査が推奨されます。

2022年の保険適用拡大により、精液検査は3割負担で約1,000〜1,500円と経済的な負担が小さくなりました。「検査を受けなければわからない」のが男性不妊の特性です。妊活を始める段階で、パートナーと同時に検査を受けることが最も効率的な第一歩となるでしょう。

この記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。具体的な症状や治療については、泌尿器科または不妊治療専門クリニックにご相談ください。

男性不妊の検査をお考えの方へ

精液検査は不妊治療の出発点です。当院では泌尿器科専門医による男性不妊外来を設けており、精液検査からホルモン検査、精索静脈瘤の診断まで一貫して対応しています。パートナーとご一緒に、またはお一人でもお気軽にご予約ください。

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※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。症状や治療については、必ず担当医にご相談ください。

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この記事を書いた人

EggLink編集部

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公開:2026/4/19更新:2026/4/28